Life in California ライフ in カリフォルニア
2019年04月11日

「スーパーブルーム」とカリフォルニアの花

先日、『スーパーブルーム(Super Bloom)!』というエッセイで、カリフォルニア州の花が満開を迎えているというお話をいたしました。



今年の雨季はいつもより雨が多いので、州の花「カリフォルニアポピー(California poppy)」が一気に花を開かせ、野原がオレンジ色の絨毯みたいになっているのでした。



そんな様子を「スーパーブルーム(超満開)」と呼び、みんなで大騒ぎしているのですが、残念ながら、この喜びを享受できるのは、おもに南カリフォルニアの人たちなんです。



なぜなら、北カリフォルニアでは、南のようにカリフォルニアポピーがたくさん群生しないから。



北カリフォルニアは南ほどには乾燥していないので、カリフォルニアポピーをはじめとする在来種(native plants)が、よそから来た外来種(non-native, invasive plants)に負けてしまうことが多々あるのです。そう、外来の植物に先を越されて、在来種が芽吹く間もなく、日の目を見られないという状況におちいるのです。



乾燥した気候のカリフォルニアでは、もともと自生する植物は、たとえ何年も「干ばつ」が続いても地中でじっと生き残ります。ですから、ここ何年か雨の少ないシーズンが続いて外来種がすっかり弱りきったあとでも、ひとたびたっぷりと雨が降ると、在来種は一気に芽吹いて開花することができるのです。



在来種の中には、山火事が起きて初めて、その灰の中から芽吹くものもいるくらいですので、厳しい環境から自分の身を守ることにかけては、なかなか長けているのです。



ところが、南が砂漠に近いくらいに乾燥しているのに比べて、北はそこまで乾燥していない。ですから、干ばつが何年か続いても、外来種はすっかり弱りきることはなく、在来種より先に芽吹いて、邪魔をしてしまうことがあるのです。



そんなわけで、南カリフォルニアがポピーの「超満開」を楽しんでいるときでも、北の人たちは、あちらこちらに点在したポピーを見つけようと、遊歩道やハイキングロードを探しまわることになるのです。



そして、「あ〜、やっぱりここには一株しかなかったぁ」と落胆することもしばしば。




そこで、北カリフォルニアでポピーを見つけるには、こんなコツがあるんです。



それは、緑っぽい 蛇紋岩(じゃもんがん)のある丘を探してみること。



蛇紋岩(serpentine)は、火山のマグマが冷えて固まった火成岩の一種で、鉄分、マグネシウム、朱色の水銀鉱石などを含んだ青緑の岩石。1965年には「カリフォルニア州の石」にも指定されたくらいに、州内でたくさん見かける石です。



こちらは、丘の斜面に露出した蛇紋岩ですが、こういった丘があったら、必ずと言っていいほどにカリフォルニアポピーが咲いています。



それは、蛇紋岩のある土壌(serpentine soils)はマグネシウムを多く含むので、外来の植物が育ちにくい環境になっているから。植物に入りこんだマグネシウムは、まるで血中の「悪玉コレステロール」みたいに悪さをして、成長を妨げるのです。



けれども、なぜかカリフォルニアポピーは、そんな土壌でも良く育つ。何世紀もそうやって生きてきたのですから、相性はバツグンなんでしょう。



「ここは、わたしの縄張りよ!」とばかりに、お日様の光を受けて、あちらに一株、こちらに一株と鮮やかなオレンジの花を咲かせます。




カリフォルニアの在来種といえば、オレンジ色のポピーばかりではありません。



我が家の近くで見かけるものでは、ブルーの花をつけるセアノサス(Ceanothus)があります。



カリフォルニアライラック(California lilac)とも呼ばれていて、ちょうど今ごろ満開を迎える低木です。冬でも緑を失わないので、歩道の脇に植える樹木としても好まれています。



花にはいろんな青みがあるようですが、紫がかったものや、水色に近いブルーをよく見かけます。花の形もコロッとしていて、密集して花をつける様がとってもかわいいのです。



今ごろ満開となる在来種には、ルピナス(lupine)もあります。こちらも、我が家のまわりの野原では必ず見かける花です。



カリフォルニアでは、とくにシルバールピナス(Lupinus albifrons)と呼ばれる種類が自生するようですが、こちらは、カリフォルニアとオレゴンにしか見られないそうです。



我が家の近くでは、ブルーっぽい青紫の花を見かけますが、赤みを帯びた紫の花をつけることもあるようです。ツンツンと緑の野に顔を覗かせる様子がかわいらしいです。



そして、この鮮やかな黄色い花をつける木。こちらも、在来種のようです。



その名は、カリフォルニア フランネルブッシュ(California flannelbush)。フランネルブッシュは、オーストラリアなどにも自生するようですが、あちらが紫色の花をつけるのに対して、こちらは山吹色に近い黄色。カリフォルニアの仲間は、黄色がほとんどのようです。



人の背丈よりちょっと高く枝を広げますが、その体いっぱいに一斉に花を咲かせるので、遠くにいてもパッと視界に入ってきます。ひとつひとつの花も直径5〜6センチはあるので、存在感があります。



4月ごろに満開を迎えるので、「そろそろ咲いているかな?」と、近くの遊歩道を行くのが楽しみな花なのです。




ところで、春先にカリフォルニアを訪問なさって、「一面の葉の花」を記憶されている方もいらっしゃることでしょう。



こちらは、我が家からちょっと南に下ったところにある畑。3月初めの夕方に撮ったもので、一面の黄色い花は、マスタードの花(mustard、和名アメリカカラシナ)です。



日本で見かける「菜の花」も、マスタードと同じアブラナ科の仲間なので、とってもよく似ています。菜の花に比べて、マスタードの方は、ちょっと黄緑色を帯びているような感じもするでしょうか。



マスタードの花は、ワインの産地ナパバレーなどあちらこちらで見かけるので、カリフォルニアの在来種かと思ってしまうのですが、実は、16世紀にスペイン人が足を踏み入れたあとに生え始めた外来種。



まあ、歴史は古いので、カリフォルニアの風景にすっかり溶け込んだ植物ともいえるのですが、美しいわりに、カリフォルニアポピーにとっては大敵! マスタードとポピーは共存できないのです。



我が家のまわりでも、マスタードの花が幅を利かせているところには、カリフォルニアポピーは生えません。黄色の丘には目を奪われますが、ポピーを探すには、他をあたった方が良いようです。




そして、野原で見かける野生の麦(wild oats)。数多くの仲間がいて、野原ごとに違った形の穂を見かけますが、こちらも、カリフォルニア自生の植物ではありません。



やはり、ヨーロッパからカリフォルニアに入ってきたと思われますが、麦の仲間は強いので、どんどん在来種を駆逐していったのでしょう。言うまでもなく、カリフォルニアポピーにとっては大敵ですね。



ついでに、麦の真ん中に顔を出しているのは、リス。この辺りには、木に住むリス(tree squirrel)と地面に住むリス(ground squirrel)がいて、こちらは後者のリスだと思います。



遊歩道を行くと、地面のあちらこちらにポコポコと穴が開いているのを見かけますが、それが彼らの住処(すみか)。学校のグラウンドでも、遠慮なく穴をつくっては、ひょっこりと姿を現して人間を観察しています。




そして、野生の麦といえば、こちら。いかにも「麦」といった穂先ですが、もしかするとライ麦(rye)なのかもしれません。



風になびく立派な穂は、なんだか収穫できそうな感じがするでしょう。



そこで思いついたんです!



この写真を撮ったのは、サンノゼ市の中心を流れるグアダルーペ川沿いの公園(Guadalupe River Park)。グアダルーペ川といえば、カリフォルニア州で最初にスペイン人が集落を置いた場所。



ですから、この麦は、そのときの名残ではないか? と。



統治下のメキシコを足がかりに、スペイン人がサンノゼに集落(プエブロ、村)を置いたのは、1777年のこと。先住民族が住むカリフォルニアにヨーロッパ人が腰を据える先駆けとなりましたが、彼らがこの地を選んだ理由は、川沿いの肥沃な土壌にありました。



大雨が降ると氾濫する川の周辺は、土が肥え、穀物を栽培するには最適だったはずです。「侵入」した先で自給自足をしなければならなかったスペイン人は、狩猟採集で暮らす先住民を連行しては、プエブロで畑を開墾してライ麦のような作物をつくらせていたのではないでしょうか。



当時スペイン人は、カリフォルニア南端のサンディエゴから北上する探検を続け、海沿いのモントレーにはプレシディオ(要塞)を、サンフランシスコにはプレシディオとミッション(教会)を置くことにしました(写真は、1776年サンフランシスコに置かれた「ミッションドロレス(Mission Dolores)」)。



その中間にある肥沃の土地サンノゼにもミッションとプエブロを置き、数多くの先住民(オローニ族)が半強制的に住まわされ、厳しい使役を負わされたのでした。



カトリック教国であるスペインにとって、南北アメリカ大陸のキリスト教化は最大の使命。先住の「野生の子どもたち(children of the wilderness)」を自分たちの教えに導くことは、神と自国王に課せられた使命であり、同時に相手にとっては自由を奪われた足かせであり、不幸でもあったのでしょう。



そんな風に、グアダルーペ川のライ麦を眺めていると、この地の歴史に思いをめぐらせてしまうのでした・・・。



風にたゆたう麦の穂も、鮮やかなマスタードの花も、「征服・統治」時代の遺産のようなもの。ヨーロッパからもたらされた疫病で先住の方々が激減していった現実とはうらはらに、カリフォルニアじゅうの野原で元気に繁殖しているのでした。



付記:

サンノゼの歴史については、今まで何度かご紹介しておりますが、こちらの『サンノゼって、どんなとこ?〜歴史編』という記事がまとまっているのではないかと思います。



「スーパーブルーム」については、以下の記事を参考にいたしました。

“Why don’t we get super blooms in Northern California?” by Amy Graff, SFGATE, March 25, 2019




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