Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2019年04月25日

こういうハンバーガーはいかが?:お肉じゃありませんよ

Vol. 223

日本は、いつもより長いゴールデンウィークの到来で、お出かけされる方も多いことでしょう。そんな4月号は、ハンバーガーのお話をいたしましょうか。



<バーガーキングの挑戦!>

バーガーキング(Burger King)といえば、世界じゅうでハンバーガーチェーンを展開し、バーガー界の王様マクドナルド(McDonald’s)に次ぐ規模を誇ります。

わたし自身も学生時代には大変お世話になったファストフードレストランで、まだ日本に店舗がない頃には、米軍基地内にバーガーキングがあるのを知ってひどくうらやましかったです。あの平べったい「Whopper(ワッパー)」は、こんがりと焼いたハンバーグとマヨネーズのコンビネーションが、なぜかクセになるお味でした。



その「Whopper」が、お肉ではなく、植物由来のハンバーグで登場するそうです。シリコンバレーのスタートアップ企業、インポシブル・フーズ(Impossible Foods:本社レッドウッドシティー)が提供するベジタリアンパティーを使っていて、その名も「Impossible Whopper(インポシブル・ワッパー)」。

4月からミズーリ州セントルイス市内のバーガーキング59店舗で提供する、とのこと。



実際に試した方々(お客さんと従業員)によると、「言われなければわからない」くらいに味も歯ごたえも通常のハンバーガーと区別がつかない、とのこと(4月15日ワシントンポスト紙 “Burger King’s Impossible Whopper tastes even better than the real thing” by Tim Carmen)

栄養の面では、たんぱく質はお肉と変わらず、脂質は15%、コレステロールは90%カットできるとか(4月1日ニューヨークタイムズ紙 “Behold the Beefless ‘Impossible Whopper’” by Nathaniel Popper)



現在、植物由来のベジタリアンバーガー(plant-based veggie burger)に取り組む企業は、豆をおもな材料としますが、インポシブル・フーズの場合は、レバーや赤身肉に含まれるヘム鉄にこだわりを持っています。ヘム鉄は「血の赤味」や「肉っぽさ」をつくる成分ですが、大豆のような植物にも含まれます。けれども、大豆を大量生産して抽出するのは現実的には難しいので、大豆のヘム鉄生成遺伝子をイースト菌に挿入し、イースト菌が発酵することで大量生成されたヘム鉄を野菜の材料と混ぜてパティーとするとか(2016年6月21日 NPRニュース “Silicon Valley’s Bloody Plant Burger Smells, Tastes and Sizzles like Meat” by Lindsey Hoshaw)

これによって、材料は野菜であっても、グリルしたときの肉の香りやジューシーさ、歯ごたえなどが驚くほど忠実に再現できているとのことです(写真はバーガーキング用の薄型パティーを計量するインポシブル・フーズ社の開発研究員、Photo by Jane Lanhee Lee / Reuters)



インポシブル・フーズを選択したバーガーキングは、1950年代の創設以来、ハンバーガーで名を揚げた企業です。が、実は「ベジタリアンバーガー」とは無縁ではなく、1990年代初頭には、ニューヨーク州の店舗でメニューとして提供していたそうです。

ニューヨーク州でファームサンクチュアリ(Farm Sanctuary)という畜産動物保護団体を運営していたジーン・バウアー氏がバーガーキングのフランチャイズに働きかけて、イギリスから輸入したベジバーガーを販売開始。その反響が大きかったので、全米の店舗でベジバーガーをメニューに載せるに至った経緯があるとか。



2月号でもご紹介したように、近年は「地球にやさしい(サステナブルな)生き方」を模索する上で、動物を飼育して食肉にする畜産業に対して風当たりが強くなり、動物の細胞を培養・増殖させる培養肉(クリーンミート)や、植物由来の食品を考案する動きが活発化しています。

ハンバーガーを提供するレストランチェーンの中では、すでに西海岸のレッド・ロビン(Red Robin)と中西部のホワイト・キャッスル(White Castle)が、合わせて900を超える店舗でインポシブル・フーズのベジバーガーを正式にメニューとして採用しています。

同じくベジタリアンパティーを製造するロスアンジェルスのビヨンド・ミート(Beyond Meat)は、カールスジュニア(Carl’s Jr.)と提携し、今年1月から同チェーンの1000店舗でベジバーガーを提供しています。一方、ハンバーガー最大手のマクドナルドは遅れを取っていて、スウェーデンとフィンランドのみでベジバーガーを展開するとのこと。



そんなわけで、地球を考える社会の大きなうねりから生まれたハンバーガー屋さんのベジバーガーですが、何が一番ビックリかって、バーガーキングがテストマーケットに選んだのが、ミズーリ州セントルイスということ。

なんでも、中西部のミズーリは、全米で初めて「肉に似せた商品をmeat(肉)と呼ぶことを禁ずる」との厳しい法律を布いた州だそうな! そんなガチガチの「お肉を愛する場所」で、肉を使わないハンバーガーを出すなんて・・・。

察するに、この難しい市場をクリアしたら、全米どこでもオッケーよ! ということでしょうか。



<テイスト(試食)テスト>

4月初頭にバーガーキングの「Impossible Whopper」のニュースが流れたとき、わたし自身はベジタリアンバーガーにはまったく無縁でした。

そこで、サンフランシスコの埠頭に近いレストランで、「ホームメイドのベジバーガー」というご自慢のメニューを注文してみると、まあなんとも、歯触りのべちゃべちゃとした(mushy)香りも何もないパティーがパンにはさまって出てきました。お味は、「豆がおもな材料だろう」と思わせる無味な感じ。



まさか、「言われなければ肉と勘違いする」と評されるハンバーガーが、これほど疑問を感じる味だとは思えませんが、そんなわたしにチャンスが到来!

我が家の近くで、ビヨンド・ミートのベジバーガーやソーセージを発見したのです。そう、インポシブル・フーズの競合企業の商品が、オーガニックスーパーのホールフーズ(Whole Foods:現在はオンラインショップAmazon傘下)で売られるようになったのです。



さっそく「Beyond Burger(ビヨンド・バーガー)」を購入。主原料はエンドウ豆ですが、「肉汁」のリアリティ感を出すために、野菜のビーツの赤いジュースが加えられています。表面はひき肉を思わせるような「そぼろ感」があって、見た目はなかなかリアルです。

実際にフライパンで焼いて食してみると、外はこんがり、中はふわふわとした食感でした。味は、明らかに肉とは違いますが、大根おろしとしょう油で食べると、それなりに美味しかったです。たっぷりとケチャップをかけてパンにはさむと、「お肉かな?」と思ってしまうかもしれません。



ここ数週間のうちに、近所のホールフーズの「植物由来の食品コーナー」は、目を見張るほど充実するようになりました。インポシブル・フーズと肩を並べるビヨンド・ミートといった新手の注目株だけではなく、1978年からベジタリアン食品に取り組むスウィート・アース(Sweet Earth)など老舗ブランドも並んでいます。



その中で目を引いたのが、南東部ノースキャロライナ州のノーイーヴィル・フーズ(No Evil Foods)。

バーベキューポークを模した商品ですが、パッケージもおしゃれです。

ノースキャロライナといえば、豚を丸一匹こんがりと焼いて、バーベキューソースで食べるのが名物ですが、こちらの会社は、その食文化に真っ向から対峙します。2014年の設立以来、「植物肉(plant meat)」を提唱し、バーベキューポークやソーセージといった肉製品に野菜の具材で挑戦します。会社名の「ノーイーヴィル(No Evil)」は、悪を行わないという気負ったネーミングではあります。



購入したのは、バーベキューソースをからめた「プルドポーク(pulled pork)」。プルドポークというのは南部の名物で、バーベキューにした豚肉をフォークで引っ張って(pulled)細長く裂き、肉の繊維感を楽しむ食べ方。パンにはさんで食べるのが一般的です。

なるほど、彼らがポークの繊維質にこだわっているのはわかります。が、かたまりの部分は「かまぼこ」のような食感でもあります。バーベキューソースが濃いので「肉」そのものは味わいにくいですが、小麦粉やヒヨコ豆の材料は、あんまり味がしないのかもしれません。(指示通りにフライパンで温めましたが、かえってバーベキューソースの酢に苦味が出て人工的な香りを感じたので、袋ごと熱湯で加熱した方が良かったのかもしれません)

ノースキャロライナという場所柄、同社はバーベキューソースやソーセージのスパイスに重きを置く方針かと察しますが、残念ながら「肉」にもソースにも改良の余地がある、というのが正直な感想です。



そんなわけで、ビヨンド・ミートとノーイーヴィル・フーズと二社の商品を試してみましたが、個人的には、次回ホールフーズに行っても「植物由来の肉」には手を伸ばさないかもしれません。なぜなら、肉の良さは、たんぱく質とか鉄分といった成分分析以前に、甘い脂身との「うまみ」のバランスにあると思うから。

そこで、根本的な疑問が湧いてきませんか。「植物肉」は、いったい誰のためにあるのだろう? と。

おそらく、肉をまったく食べないベジタリアンの方々は、「擬似肉」を食べる必要はないでしょう。そう、わざわざ肉に似せた食べ物は、肉を食べたいのに食べられない人が求めるものであって、肉に縁のない人には必要ありません。だとすると、健康上の理由で肉を減らさないといけない人か、信条として動物を殺して食べるのがしのびない人でしょうか。



そう仮定すると、ハンバーガー屋さんでベジバーガーを出しても、あまり売れないのではないかと思えるのですが、現にバーガーキングは、一枚のハンバーグのコストが1ドル高くたってベジバーガーを提供しようとしているのです・・・。

もしかすると、バーガーキングは危機感を抱いているのかもしれません。ひとつに、人々の意識が変化する中、消費者に対する企業イメージを保ちたいという焦り。もうひとつは、年々地球環境が劣化する中、農業や畜産業が大転機を迎え、食肉調達に支障をきたすのではないか、という恐れ。



と、いろいろと考えさせられますが、あと数年たったら、もっと美味しい「植物肉製品」に出会えるかな? と期待しているところです。



まずは、バーガーキングの「Impossible Whopper」にミズーリ州で成功してもらわなければ!



夏来 潤(なつき じゅん)



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