Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2009年09月06日

エメラルドシティ

Emerald City(エメラルドシティ)」といえば、『オズの魔法使い』に出てくる、エメラルド色の美しい街を思い浮かべるでしょうか。
 そう、故郷のカンザスに戻りたい一心のドロシーが、仲間たちと一緒に願い事を叶えに行った魔法使いの街。

いったいどこにあるのかしらと、イエローブリック・ロード(黄色いレンガの道)を歩きながら、冒険の末に、ようやくたどり着いた魔法使い「オズ」の街。

でも、アメリカには、架空のエメラルドシティではなくて、実在のエメラルドシティがあるんですよ。

正式な名前ではないけれど、「エメラルドシティ」というニックネームを持つ都市。

それは、ワシントン州で一番大きな街、シアトル(Seattle)。太平洋岸の湾に面しているので、昔から港街として栄えた所ですが、今となっては、マイクロソフトにアマゾンにボーイング、はたまたスターバックスにバイオテック業と、テクノロジーや新規事業のハブ(中枢)としても有名になりました。

港に面して近代的な高層ビルが立ち並び、それでいて、ダウンタウンからちょっと離れれば、海を臨む緑豊かで閑静な住宅地となる。そんな豊かな自然を生かした街並に、海が大好きな人にとっては、憧れのおしゃれな街となっています。

(今となっては、野球のイチロー選手のいる場所と言った方が、すぐにおわかりになるでしょうか。そう、シアトル・マリナーズの本拠地のある所ですね。)


どうして突然「エメラルドシティ」の話をしているかというと、「エメラルドシティはシアトルのニックネーム」と耳にしたときに、まず、こう思ったからなのでした。
 カナダのすぐお隣でもあることだし、この街には、有名なエメラルド湖(Emerald Lake)のような、神秘の湖があるのだろうかと。

8月初頭、カナディアンロッキーの山々に隠れるエメラルド湖を訪れてみたのですが、その宝石のエメラルドにも負けない水の色が、あまりにも現実からかけ離れていて、まさに夢現(ゆめうつつ)といった印象を受けたのでした。

だから、そんな不思議の湖がシアトルにもあるのだろうか?と思ったのです。

調べてみると、シアトルの「エメラルド」は、エメラルド湖のエメラルドとは無関係のようでした。こちらのエメラルドは、街に緑が多いところに由来しているということでした。

けれども、おもしろいことに、「エメラルドシティ」とは、シアトル市が定めた正式なニックネームなんだそうです。だから、単なる誰かの思いつきとか、商売を狙ったどこかの会社のスローガンというわけではないのですね。

そして、その前の公式ニックネームは、「Queen City(女王の街)」。これは、シアトルという街ができた1869年から1982年まで使われていたニックネームだそうですが、こちらは街に人が移り住んでくれるようにと、地元の不動産屋さんが宣伝用に付けた名前なんだそうです。

その頃は、イギリスとの深いつながりを彷彿とさせる Queen City は、洗練された名として全米各地で好まれていたようですが、当時のシアトルは、まだまだ土ぼこりだらけで、「洗練」からはかけ離れた存在。でも、「名前が美しければ人が来るかも」と、不動産屋さんは踏んでいたようですね。

もちろん、シアトル界隈は、昔は林業でとても栄えた場所なので、仕事を求めて全米各地から男たちが集まって来たという歴史的背景はあるのです。でも、今はこんなに大きくなったシアトルを見てみると、案外、「クイーンシティ」という洗練されたイメージにつられて、人が集まって来たところもあるのかもしれません。

とすると、街のニックネームとは、人に憧れを抱かせるような、結構大事な存在なのかもしれませんね。


そして、アメリカには、エメラルドシティのような都市のニックネームがゴロゴロしているのです。

一部は、シアトルのように公式ニックネームだったりするわけですが、その多くは、現地人の愛称あり、商工会議所のスローガンあり、市役所観光課のキャッチフレーズありと、いろんなルーツがあるのです。

たとえば、有名なものに、ニューヨーク市の「The Big Apple(ビッグアップル)」、ネヴァダ州ラスヴェガスの「Sin City(罪な街)」、そして、4年前にハリケーン・カトリーナで大打撃を受けたルイジアナ州ニューオーリンズの「The Big Easy(リラックスした街)」などがあるでしょうか。

カリフォルニアで有名なものは、サンフランシスコの「The City by the Bay(湾沿いの街)」や「Fog City(霧の街)」、ロスアンジェルスの「City of Angels(天使の街)」や「The Entertainment Capital of the World(世界のエンターテイメントの首都)」があるでしょうか。

(ちなみに、ロスアンジェルスの「天使の街」というのは、Los Angeles、つまりスペイン語の「天使たち」という街の名から来ているもので、べつに「天使たちの住む街」という意味ではありません。この名の由来については、こちらの最後に出てくる後日補記でご説明しております。)

一方、シリコンバレーでは、たとえば、サンノゼ市の「The Capital of Silicon Valley(シリコンバレーの首都)」がありますでしょうか。

こちらは、正式に市側が採用しているもので、市のロゴの入った書類だとか、市の名前の入った標識だとかにヒョッコリと顔を出すニックネームなのです。

(まあ、サンノゼという街は、北カリフォルニアで一番人口が多くて、面積も一番大きいわりに、知名度はサンフランシスコよりもいまいち低いのです。だから、どこかで「首都」だといばってみたいのでしょうね。)

そして、こんな珍しいものもあります。ソルヴァングの「Danish Capital of America(アメリカのデンマークの首都)」。

このソルヴァング(Solvang)という街は、南カリフォルニアのサンタバーバラ郡の真ん中にある小さな市で、街全体がデンマーク風の建築物でおおわれ、まるでヨーロッパにいるような錯覚におそわれる、かわいらしい街なのです。

なんでも、その昔、アメリカの中西部からデンマーク系移民たちが移り住み、ここにリトルデンマークを築こうじゃないかと、街づくりに取り組んだのだそうです。


そして、ニックネームに関しては、カリフォルニアにはおもしろい現象があるのです。それは、「何とかの首都」というのが非常に多いということです。しかも、その「何とか」というのが、圧倒的に農作物の場合が多いのです。

農作物をニックネームにしている街は、カリフォルニアには30ほどあるようですが、以下に、代表的なものをいくつかリストしてみましょうか。
(いずれも、北カリフォルニアの街で、州都サクラメント以外は、シリコンバレー界隈にあります。)

Half Moon Bay(ハーフムーン・ベイ): Pumpkin Capital(かぼちゃの首都)
 Gilroy(ギルロイ): Garlic Capital of the World(世界のニンニクの首都)
 Sacramento(サクラメント): Almond Capital of the World(世界のアーモンドの首都)
 Salinas(サリナス): Lettuce Capital of the World(世界のレタスの首都)
 Watsonville(ワトソンヴィル): Strawberry Capital of the World(世界のイチゴの首都)

まあ、カリフォルニアという州は、シリコンバレーやサンディエゴ周辺のようなIT業界の中心地が存在するとともに、立派な「農業国」でもあるのですね。ですから、あちらこちらで特産品を栽培していて、広い土地を活かして生産量が多いものだから、「世界の首都である」といばることになるのです。

けれども、いずれの農作物も長い歴史を誇り、たとえばサリナスのレタスなどは、現地で生まれた有名な小説家ジョン・スタインベックが、若い頃に牧場で働きながら、付近のレタス生産に従事する移民たちをつぶさに描いたこともあるという、曰く付きの特産品なのです。

(彼の代表作のひとつである『エデンの東(East of Eden)』は、サリナスの谷を中心に展開するお話ですが、ジェームス・ディーンの主演で映画にもなり、ヒット作となりました。)

このサリナスという街は、レタスやアーティチョークの生産地なので、別名「サラダボール(salad bowl)」とも呼ばれていますが、レタスの中で一番有名な品種「アイスバーグ(Iceberg)」は、生産地サリナスから東海岸に向けて輸送するときに、氷(ice)をかけて新鮮味を保つようにしていたことに由来する、と耳にしたことがあります。

今でこそ、冷蔵輸送なんてお手のものでしょうけれども、昔は貨物列車で運ぶときには氷で冷やすしか方法がなかったのでしょうね。


さて、カリフォルニアといえば、やっぱり海。海といえば、サーフィン。

だから、サーファーたちを呼び込もうと、「サーフシティ(Surf City)」というニックネームだってあるのです。
 だって海があって、波があって、みんながサーフィンをしに集まったら、それは自然の成り行きではありませんか。

ところがどっこい、カリフォルニアには、その「サーフシティ」がふたつあるところに問題が生じてしまったのです。

こちらは、北カリフォルニアのサンタクルーズ(Santa Cruz)。あちらは、南カリフォルニアのハンティントンビーチ(Huntington Beach)。
 それまでは何十年も、なんとか「大人のつきあい」をしてきた二都市でしたが、今から3年ほど前に、ニックネームをめぐって争い事が起きたのでした。

2006年の夏、サンタクルーズのサーフショップが「サーフ・サンタクルーズ・カリフォルニア USA (Surf Santa Cruz California USA)」とプリントしたTシャツを売り出したところ、ハンティントンビーチの観光協会が、弁護士のしたためた手紙を店に送りつけてきたのです。
 我々はすでに、街のトレードマークとして「サーフシティUSA」という名を特許庁に登録してある。だから、似通った名をTシャツに使うのは、トレードマークの侵害であると。

もちろん、サーフショップのオーナーだって黙ってはいません。「だいたい、そんなどこにでもありそうな名をトレードマークに登録したって、法的拘束力はないのさ。だから、そんな無意味な登録なんかやめさせてよ」と、正式に裁判所に訴えたのでした。

そして、ほぼ2年にわたる法廷での争いの末、ハンティントンビーチの「サーフシティUSA」はトレードマークとして正式に認められ、南カリフォルニアに持って行かれることになりました。

なんでも、歴史的に見ると、アメリカのあちらこちらの街が「サーフシティ」と名乗っていたことは事実なのですが、最後に「USA」と付けたところにトレードマークとしての独自性があるのだそうです。

まあ、結果的には、サーフショップはハンティントンビーチと示談を成立させ、Tシャツは売ってもいいことになったということではありますが、何となく後味の悪いお話ではありますよね。

だって、海は誰のものでもないし、ニックネームだって誰もが好きなように使ったっていいではありませんか。

人間なんて、どこにいたって、同じようなことを考え付くものですからね。

後日談: ちょっと蛇足ではありますが、新聞記事を整理していたら、こんなものが出てきました。サンタクルーズ・センティネル紙の記者が書いた今年6月6日付けの記事なのですが、「サンタクルーズは“サーフシティ”とは名乗れないけれど、ここがアメリカで一番のサーフスポットに選ばれた」と。

なんでも、『サーファー・マガジン(Surfer Magazine)』6月号では、他でもないサンタクルーズが、栄えあるサーフスポット全米第一位に輝いたそうです。ライバルのハンティントンビーチは、なぜだかトップ10からもれているので、これで、サンタクルーズのサーファーたちの溜飲も下がったことでしょう。

現在は南カリフォルニアに住むものの、北カリフォルニア生まれのあるサーファーの談話として、こんなものが載っていました。
 「ここ(サンタクルーズ)には、バラエティに富んだサーフスポットがたくさんあるんだよ。それに、ここは、(サーファーの生みの親である)デューク・カハナモクが、アメリカ本土で初めてサーフィンを広めた所なんだよね。だから、こここそが“サーフシティ”なのさ。」

ちなみに、このトップ10リストのうち、4カ所はカリフォルニア州内でして、一位のサンタクルーズ以下、3番手のエンシニータス(Encinitas、ずっと南のサンディエゴ郡)、5番手のサンクレメンテ(San Clemente、ロスアンジェルス界隈のオレンジ郡)、7番手のマリブ(Malibu、ロスアンジェルス郡)となっております。
 地理的には、マリブとサンクレメンテの間にハンティントンビーチがあるような感じでしょうか。

もしサーフィンをなさる方がいらっしゃいましたら、ぜひ北カリフォルニアと南カリフォルニアを比べてみてくださいませ。北の水は冷たいので、それだけは心して準備していただければと思います。


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