Essay エッセイ
2006年05月27日

エーゲ海のサントリーニ島

今までいろんな場所に行ってみて、忘れられない風景というのがあります。ノルウェーのフィヨルドもそうですし、スイスのマッターホルンもそうです。ニューカレドニアの真っ白い砂浜や、カウアイ島の切り立った山や滝も。

けれども、エーゲ海のサントリーニ島は、その筆頭に挙げられるものかもしれません。


船がサントリーニ島に近づくと、まず目を疑います。何やら赤茶けた断層が窓一面に広がるのですが、まさか、この荒涼とした風景が、人の住むと聞くサントリーニかと。いったいどこに人が住むのかと。

そして、よく見ると、島のてっぺんには、何やら家らしきものがびっしりと張り付いています。あれが、街?観光写真に出てくる?


港のあるのは、島の西側。こちらは断崖絶壁です。港からは、街ははるか頭上に見えます。そしてここから、急な坂道をジグザグ登り、絶壁の上の集落まで連れて行かれます。

車を降ろされると、ホテルへは細い道をテクテク歩きます。そこは、まさに絶壁の上。真下の海に転げ落ちていくような感覚におそわれます。「どうしてこんな所に好んで住むの?」心の中でそう叫ぶのです。

でも、ひとたび、転げ落ちる恐怖がおさまると、これほど景色のいいものはありません。目の前の海をさえぎるものは何もないのですから。

サントリーニのまわりには、小さな島が点在し、これがまたいい具合に並んでいるのです。

そして、ホテルの部屋には、歓迎の印の白ワイン。ちょうどよく冷えています。ワインが特産品のサントリーニならではの温かい歓迎なのです。

さっそくコルクを抜き、部屋のバルコニーから景色を眺めます。そして、思うのです。世の中に、こんな風景ってあるんだなあと。


実は、この島で一番好きだったのが、自分の部屋のバルコニー。

一晩めは、島一番の繁華街フィラへ向かう途中で晩御飯。道すがら夕日も楽しめましたが、この地区は家が建て込んでいて、必ずしもベストの夕日ではありません。

だから、二晩めは、自分の部屋で軽い晩御飯。街で調達したギロスのテイクアウトと、昼間訪ねたサント・ワイナリー(Santo Wines)の赤ワイン。

ギロス(Gyros)は、串刺しに重ねた薄切り豚肉を長時間バーベキューし、それを外側から削って食する料理。シンプルな料理法に、素材のよさが光ります。

そして、ワインは、ヴードマート(Voudomato)という古代のぶどうから作った、色の薄めの赤ワイン。多少の渋みと、独特の香りがありますが、ドライで軽めな飲みやすいワインです。ギロスのような肉料理には最適です。

自分の部屋からの夕日を逃したら、一生後悔する。そう思ってのプランでしたが、実は、これが大ヒット。

夕日を余すことなく満喫できるし、それにおいしいワインと料理が付いている。バルコニーの脇を上り下りするアメリカ人の泊り客たちに、それはうらやましがられたものでした。

そして、思ったのです。これさえあれば、他には何もいらないって。


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