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2009年03月10日

オクトマム現象

「オクトマム」って何だろう? と思われたことでしょう。

「オクトマム」は「Ocotomom」と書きます。
「オクタプレット・マム(Octuplet Mom)」の略語となります。

日本でも、かなり有名なお話となったとは思いますが、1月26日にロスアンジェルスで生まれた、8つ子ちゃんたち(octuplets)のお母さん(Mom)のことですね。

今では、アメリカでは、「オクトマム」といえば誰もが知っている流行語になっています。しかも、あまりありがたくない流行語・・・

いえ、最初の2、3日はよかったんですよ。世界的にも珍しい8つ子ちゃんが生まれて、なおかつ全員元気そうでよかったと、みなさんが喜んだお話だったのです。なにせ、アメリカでは、たった2例目の8つ子ちゃんのケースでしたからね。

ところが、何日かたってくると、8つ子ちゃんのお母さんの方が脚光を浴びるようになりました。なになに、このお母さんには他に6人の子供がいて、しかも、ダンナもいない、収入もない学生だって? じゃあ、どうやって14人の子供たちを食べさせていくのよ? と、非難の声が全米で巻き起こったのでした。

それだけではありません。8つ子ちゃんを産んだ病院での費用が莫大なもので、もしお母さんが払えなければ、カリフォルニア州民の税金から払うことになるのだそうです。未熟児の出産や集中治療室の代金は高く、なんでも、全部で2億円を超えるのではないかともいわれています・・・

そこで、非難の声は、さらに強くなったのでした。どうして個人の勝手で産んだ子供たちに州民の税金を使わなければならないの? と。
(カリフォルニアには、患者の収入が極端に少ないと、州が税金で医療費を肩代わりするMedi-Calという制度があって、これが適用されるのではないかということです。)

そんな非難ごうごうの嵐の中、いつしか「オクトマム」というあだ名は、世の批判の標的となったのでした。


そして、このオクトマムがNBCテレビの独占インタビュー番組に出演すると、彼女の素性はだんだんと白日の下にさらされ、世の中の不評をさらに買うことになるのです。

彼女は、33歳のシングルマザー。離婚後に生まれた先の6人の子供は、5回の体外受精で誕生し、5回目は双子になったので、合わせて6人。そして、6人のうち下の3人は障害を持っていて、オクトマムのお母さんが面倒を看ている。
 精子のドナーは、元ダンナではなく、昔つきあっていた「友人」。8つ子となった6回目も合わせて、すべてドナーは同一人物。

現在のオクトマムの収入源は、月に5万円の生活保護(フードスタンプと呼ばれる食料品購入券)と、障害を持つ3人の子供に支払われる国の補助。そして、学生としてのわずかな奨学金。

8つ子ちゃんたちが退院して落ち着いたら、また州立大学の大学院生に戻って、専攻のカウンセリングのお勉強を続ける意思でいるようです。それから、仕事を探すのだと・・・

こんな風なオクトマムの正体に、アメリカの庶民は、「う~ん、なんとも無責任な親! 子供はいったいどうなるの?」と、怒りをあらわにしたのでした。


それにしても、オクトマムは、定職のない休学中の学生のはず。いったいどうやって合計6回もの不妊治療を支払ったのでしょうね? だって、アメリカでも、不妊治療には一回100万円から150万円はかかるでしょ。

オクトマムの地元となるロスアンジェルス・タイムズ紙の新聞記者がいろいろと調べた結果、どうも、彼女自身、かなりの傷害保険金を州からもらっているようなのです。以前、勤めていた病院の精神科で事故に遭い、そのときの怪我がもとで今も仕事には復帰できていない。だから、賠償金として過去8年間に1700万円くらいもらっているとのこと。

賠償金の支払いは、昨年の8月には終わっているけれども、もしオクトマムがまったく仕事に復帰できない状態であることが確認されれば、生涯支払いが続く可能性もあると。

それに加えて、先に生まれた3人の子供が障害を持っているので、国の給付金や生活保護を合わせると、月に30万円くらいは国と州からもらっているのではないか、とのことでした。

だとすると、そんなお金をかき集めて、せっせと不妊治療を行っていたのでしょうか。


そんなお金の問題に輪をかけて、まだ33歳と若いのに、どうして一度にたくさんの受精卵を体内に戻したのか、という医学的な問題もわき起こりました。

なんでも、オクトマムの場合、過去5回の体外受精(in-vitro fertilization)も8つ子となった今回も、それぞれ6つの受精卵をいっぺんに子宮に戻したということなのです。これは、何がなんでも多過ぎる!

だって、アメリカの生殖医療協会(the American Society for Reproductive Medicine)は、「35歳未満の女性には、受精卵は2つまで、そして、40歳以上の女性には5つまで」と、ガイドラインを出しているくらいですから。

オクトマムの場合は、もともと妊娠しにくい体質だったことや、受精した卵子を廃棄したくないという宗教的な考えから、「手元にある受精卵は全部使うのよ」と決めたんだそうです。そして、それが、今回の8つ子に結びついた!(6つの受精卵のうち、2つが双子になった!)

けれども、「どうしてそんな無茶を止めなかったのか?」と、不妊治療にあたった医師にも非難が向けられています。(そう、ハリウッドで開業している、有名なお医者さんみたいですね。)


そして、3月に入ったある日、なんとなく恐れていたことが実際に起きてしまいました。

「オクトマムみたいな、そんな無責任な親が続出しないように、体外受精の際、子宮に戻す受精卵の数を法律で取り締まろう!」という議案が提出されたのです。

幸いなことに、これは、国の法律を司る連邦議会で提出されたわけではありません。南部の州で、どちらかというと保守的なジョージア州の州議会で出された案です。

(オバマ大統領の所属する民主党とは敵対する)共和党のおじさん議員が、「40歳未満の女性には2つまで、40歳以上の女性には3つまでと、体内に戻す受精卵の数を規制しようではないか」と、法案を提出したのです。

相前後して、似たようなことは、ミズーリ州でも起きました。こちらでは、米生殖医療協会のガイドラインに沿うようにと、新たに法律を設ける動きが出てきています。


もちろん、こういった動きは、単に「無責任なオクトマム現象」をストップするためだけに起こったわけではないと思います。

やはり、双子などの多胎妊娠(multiple pregnancy)や複数児出産(multiple birth)となると、赤ちゃん、お母さんともに危険が伴ってくるわけです。そして、3つ子、4つ子と、数の多い複数児(high-order multiple birth)になればなるほど、危険は高まります。
 ですから、そういった見地からすると、いっぺんにたくさんの受精卵を使うのは慎むべきことなのかもしれません。

けれども、その一方で、実際に不妊治療を受けている側からすると、「法律で勝手に数を制限されても困る!」というのが正直な意見なのだと思います。

わたしのすぐそばにも、現在、不妊治療中のお友達がいて、彼女の体験談を聞いていると、とても受精卵の数を制限することがいい方策だとは思えないのです。なぜなら、状況はひとりひとり大きく違うものであって、単に年齢だけでガイドラインを設けていいという性格のものではないから。

お友達の場合は、過去に2回ほどトライしているのですが、最後の挑戦と考えている今回は、受精卵を10個使う計画なんだそうです。それでも、そのうちひとつが成長すればいいとのこと・・・

日本にいい水があると聞くと、さっそく取り寄せて毎日せっせと飲んでいる彼女ですが、その水の仲介役をしているわたしにとっても、彼女の挑戦は、なんとなく他人事とは思えないのですね。

それにしても、お騒がせなオクトマム!

重罪を犯したというならいざ知らず、単に子供を産んだだけでこれだけ嫌われ者となって、しかも、国を動かす生殖医療の潮流まで巻き起こすとは! まったく、彼女も大それた事をしでかしたものです。

追記: 生殖医療については、わたしはまったくの門外漢ではありますが、調べてみると、ヨーロッパでも国によって制度はまちまちみたいですね。
 たとえば、ドイツには、「体外受精に使える卵子は3つまで。受精卵の冷凍保存は禁止なので、全部体内に戻すこと」という規則があります。イタリアとスイスも、類似の法律があるようです。
 ハンガリーでは、「原則として体内に戻すのは受精卵3つまで。例外として、特別なケースに限り4つまで」といった規則のようです。
 イギリスでは、個人の規制ではなく、生殖に携わる医療機関にターゲットが設けられていて、たとえば、2009年は現行の複数児出産の全国平均から24パーセント下回ること、という規則となっているようです。(体外受精によって、複数児が増えるという観点からできあがった規則のようです。)
 北欧では、法律で禁止するよりも、自主的に「胚はひとつだけ戻す(single embryo transfer)」という習慣があるようです。

一方、フランスとスペインでは、何の規制もないようですね。それから、ギリシャとポルトガルは、今は規制がありませんが、現在、法律を検討中のようです。

参考ウェブサイト:www.oneatatime.org.uk 。こちらは、不妊治療による複数児出産を減らそうと働きかけている「One at a time」という名のイギリスのサイトです。「Research and evidence」という欄で、他の国はどうやっているのだろうかと、国ごとに説明しています。


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