Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2020年08月30日

カリフォルニアの山火事群:自然の悲痛な叫び?

Vol. 238



日本は今、コロナ禍での首相の辞任表明が話題だと思いますが、こちらカリフォルニアでは、コロナ禍に加えて、史上最悪規模の山火事と懸命に闘っている状況です。

<前代未聞の山火事が!>

日本よりも面積が広い、カリフォルニア州。日本と同じく、都市部は海際と一部の内陸部に限られ、その他は険しい山々に囲まれます。

山があるということは、森林があり、木々という「燃料」が豊富だということ。とくに乾季の夏は降雨量ゼロのカリフォルニアでは、ひとたび何らかの理由で火が起きると、手がつけられないほどに延焼します。

そんな状態が起きているのが、今のカリフォルニア。とくに北部カリフォルニアのサンフランシスコ市やサンノゼ市の都市部のまわりでは、巨大な山火事が3つも燃え盛り、2週間たっても火の帯が広がっている状況です。(Photo from abc7news.com)



事の発端は、日本のお盆の週末にカリフォルニアを襲った猛暑。各地で猛暑の記録を塗り替えたとともに、サンフランシスコ市のように夏は霧で「寒い」街でも、気温が35度まで上がり、小雨が降るという異常気象。

その後襲ってきたのが、稲妻の嵐。カリフォルニア州で稲妻を見ることはまずないのですが、72時間のうちに州全体で 11,000の落雷を記録。(Photo by Wesley Lee)

落雷は 6,000箇所に着火して 370件の山火事を生み、うち 22件が大規模に炎上して「山火事群(fire complex)」を形成。

一週間のうちに州全体の山火事は 560件に増えていたところ、次の週末にも落雷による新たな山火事が起き、二週間たった今は 730件に増加。

ひとたび山火事が起きると、それが新たな火種となって山火事が発生することもあるし、一箇所で起きた山火事が猛スピードで移動し、どんどん合わさって、手がつけられないほどに大規模な火災となることもあります。火のありようは風向きや湿度によって刻々と変わるし、山火事はまさに、動きの予測できない、暴れん坊の「怪物」のよう。(Photo from abc7news.com)



現在、サンフランシスコ周辺では、ナパやソノマのワイン産地で燃え盛る火事群(LNU Lightning Complex)、「シリコンバレーの首都」と自負するサンノゼ市の東側で燃え続ける火事群(SCU Lightning Complex)、そしてシリコンバレーから海際のサンタクルーズに向かう山中で燃える火事群(CZU Lightning Complex)と、大きなものだけで3つの山火事群と闘っています。

Lightning Complex」という呼び名は、落雷(Lightning)で起きた山火事ということですが、「Complex」というのは、複数の山脈で個別に起きていた山火事が合わさって、巨大な「火の群」を形成するという意味。

毎年、山火事とは縁の切れないカリフォルニア州ではありますが、「山火事群」という言葉は聞いたことがありません。それほど尋常ではない規模の炎上なのでしょう。

実際、ナパ・ソノマのワイン産地とシリコンバレーの東南部で起きている山火事群は、カリフォルニア史上2番目と3番目に大きな山火事とか(それぞれの場所で四国の香川県が燃えている感じでしょうか)。(Map: Cal Fire Incidents map)



人々の生活にも大きな影響を与えていて、サンフランシスコ・ベイエリアだけで、一時は30万人ほどが避難していました。静かなコミュニティが広がるサンタクルーズ周辺では、今でも2万人ほどが避難したままだと聞きますが、知人も山火事が起きた時点から、サンノゼ市内のホテルでの避難生活が続いているようです。(Photo from abc7news.com)

我が家が5月下旬まで住んでいたサンノゼ市の住宅地では、連日のように警戒警報が発令され、いつでも避難できるように準備だけはしていると聞きます。少し南の住宅地では、突然「今から避難しろ」と警察官がやって来て、あわててバックパックに荷物を詰めて車で逃げた、という話も聞きます。

避難命令は出なくとも、大気汚染がひどく避難を考える方も多いですが、その実、ベイエリアのどこに逃げても同じ悩みを抱えることになります。サンフランシスコ市にいるわたしも、風向きによっては PM2.5指数 180のスモッグに悩まされます。

そして、家に戻れるようになっても、無事に家が残っていたケースは幸運です。ナパやソノマの周辺では、すべてが焼かれたコミュニティもあります。これから逃げるのは危ないと、地下室で火をしのごうとしたところ、助からなかった家族もいらっしゃいます。



<空と地上の消火活動>

「山火事(wildfire)」と聞くと、裏山の雑木林の火事を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、アメリカの山火事はなまやさしいものではありません。とくにカリフォルニアは、人が分け入ることのできない険しい山々が多いので、消防士が火元に近づけず、空から消火剤を撒くしかない場合も多々あります。

小型機やヘリコプターは小回りが効きますが、一回に撒く量が限られます。ですから、合わせてジャンボジェット機も出動します。こちらは、ボーイング747型スーパータンカー。一回に大量の消火剤を撒き、火の行く手を効果的に遮ります。(Photo by Ray Chavez / Bay Area News Group)

空からの消火活動には、州森林保護防火局(Cal Fire)の消火機も出動しますが、それだけでは足りないので、民間会社の消火ヘリコプターや小型機の助けを借ります。ヘリコプターなどはタンクが小さいので、頻繁に消火剤を補充する必要がありますが、いちいち地面に着陸はしません。空中に浮上したまま、長いノズルで消火剤を補充します。

こちらは、民間機が利用するサンノゼ市の小型飛行場(Reid-Hillview Airport)で、消火剤を補充するビリングス社のチヌックヘリコプター。この飛行場には急遽消火剤タンクが設置され、消火活動が最優先となっていますが、短時間で現場との往復ができるヘリコプターは十分に力を発揮します。消防士2人が尾根で火に囲まれ取り残された時も、ヘリコプターによって命を救われました(この飛行場の存続は危ぶまれますが、例年の大規模山火事の現状では欠かせない存在のようです)。(Photo from County of Santa Clara Website)



けれども、煙で視界がさえぎられると、地上の消火活動に頼るしかありません。消火活動といっても、単に水で火を消し止めるだけではなく、火の行く手にある木々をなぎ倒したり、地面に溝を掘ったりと延焼を防ぐ労力も多大なものです。重機を使って、火の周りに「堀」を張り巡らせることもあります。

また、直感に反するようですが、火をつけて火事を制する方法もあります。消防士が自ら火をつけるのは、先に「餌食」となる木々を焼き切っておいて、迫り来る火の勢いを削ぎ、やがて鎮火させる(火を餓えさせる)ためです。

「火は火で制する」といった感じですが、その場でどんな手段を選ぶのかは、消防団の豊かな経験に裏打ちされています。(Photo from NBC Bay Area broadcast)



こういった自然災害の中では、ありがたく感じることもあります。それは、相互援助(mutual aid)の取り決め。

同じカリフォルニア州内でも、北部のサンフランシスコ周辺と南部のロスアンジェルス周辺では災害の状況が異なりますので、北部が山火事で苦しんでいる時には、南部から援助隊が送り込まれます。今回も、700台の消防車と 2,800人の消防士が助っ人として駆けつけました。普段は、北と南は仲良しとは言えませんが、災害時には肩を並べて「敵」に立ち向かいます。

意外なことですが、カリフォルニア州は、刑務所の入所者を訓練して消防士を補佐する制度でも定評があります。

そして、州外からは、オレゴンやワシントンと西海岸だけではなく、ユタ、モンタナ、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス、遠くはインディアナからも消防隊や消火機が派遣されています。カンザス、インディアナ、ユタ、アリゾナからは州兵が派遣され、地上の消火活動にあたっています。間もなくワシントン州からは、消火訓練を受けた陸軍の新兵が派遣されます。アメリカの西側は、どの州も山火事の猛威を熟知しているので、大規模な災害が起きると、お互いに援助の手を差し伸べるのが取り決めとなっています。

また、ギャヴィン・ニューサム州知事は、カナダとオーストラリアにも援助要請をしたと述べていました。このコロナ禍ではアメリカに飛んで来ることすらはばかられますが、両国とも、大規模火災の際は真っ先に駆けつけてくれる心強い仲間です。

今年は、カリフォルニア史上初めて、はるばるイスラエルからも消防士が助けに来てくれました。

現在、州全体には 15,000人の消防士が動員され、気まぐれな「怪物」を倒そうと、寝る間も惜しんで闘ってくれています。(Photos of LNU Lightning Complex by Carlos Avila Gonzalez / The Chronicle; Scott Strazzante / The Chronicle)



もともとカリフォルニアの自生種には、山火事に対する自衛能力があります。年老いて見える大木でも、火に焼き尽くされることなく凛として立ち、翌年には力強く芽吹くものもあります。焦土の中から初めて芽を出すという、不思議な灌木もあります。

そんな何百万年もの悠久の自然の営みが、たった何世紀かの人間の生活様式で、すっかりとバランスを崩しているように見受けられます。

毎年のように規模が大きくなっていく山火事は、自然の悲痛な叫びであり、人間への最後の警告なのかもしれません。(Photo of Big Basin Redwoods State Park by Ethan Baron and Randy Vazquez / Bay Area News Group)

サンフランシスコ周辺の3つの山火事群は、3割から4割ほど鎮火したとのことですが、一日も早く消し止められて、この大気汚染から開放されたい! と願う、今日この頃なのでした。



夏来 潤(なつき じゅん)



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