Essay エッセイ
2011年07月02日

サケ缶の思い出

いつの間にやら、もう7月。

ご存じのように、アメリカは7月4日が独立記念日(Independence Day)なので、その前の週は、なんだかウキウキした雰囲気が漂っていました。

アメリカは国民の休日がいたって少ない方なのだと思いますが、さすがに「国の誕生日」は、大部分の人がお休み。

今年は記念日が月曜日になって3連休! 嬉しさも倍増なのです。


そんな独立記念日を控えた木曜日、お買い物に出かけました。

連れ合いが出張して仕事ばっかりしていると、つい冷蔵庫に食べ物がなくなって、お料理もままならなくなるのです。そこで、そろそろ休憩しようかなと近くのオーガニックスーパーへ向かいました。

野菜や果物をかごに入れ、棚の並木道をあちらこちらフラフラしていると、ふと缶詰のセクションが目につきます。

久しぶりにツナ缶でも買おうかと思ったのですが、担当者が棚の前にドカッと座り込んで、商品を積んでいます。あんなに大きな背中じゃ、なんにも見えないではありませんか。

と、ツナをあきらめ視線を上げると、あ、サケ缶がある!

わたしには、サケ缶を見つけると吸い寄せられるように買う習性があるのです。なぜなら、子供の頃のあこがれの品だったから。


わたしが小さい頃、我が家には学生さんがたくさん来ていました。父が大学で教えていたので、ゼミの学生さんが頻繁に訪問していたのです。

まあ、父の話もためになると思って来ていたのでしょうが、きっと彼らのお目当ては母の手料理。

母が料理上手なのは、学生さんだけではなくて、一緒に勉強会をしていた大人たちや父の同僚にも知られていたのでしょう。なんだかいつもお客さんが来ていたような記憶があります。

おいしい手料理をつまみに、ビールでほろ酔い気分になると、さらにおもしろく話も進んでいくのです。

そんなご招待の日には、決まってサケ缶が登場していたのでした。ごく簡単な一品で、サケの身をほぐして、マヨネーズであえサラダ風にしたもの。

なまぐささを消すために、オニオンのスライスだとか、キュウリの薄切りだとか、そんなものが入っていたと思います。手の込んだおもてなし料理の簡単な一品として、母も重宝していたのでしょう。

けれども、悲しいかな、なぜだかこの料理はお客さまにしか出してくれない。昔はサケ缶が高価だったのかもしれません。手に入りにくいものだったのかもしれません。ですから、普段の家族の食卓には登場しないのです。

ときどきお客さまのおこぼれをあずかることがあったのですが、そんなときは、もう嬉しくて、嬉しくて。量が少ないので、大事に食べさせてもらったような気がします。

それは、いつも決まったおいしいお味でした。

なんとなく「背伸び」したお味でもありました。


そこで、この日は母にチャレンジして、サケ缶サラダをつくってみました。

この日使ったのは、Red Sockeye(レッドサーモン)という種類。一度 Pink salmon(ピンクサーモン)を使ったら、いまいち「サーモン性」に欠けていたので、こちらにトライしてみます。

わたしは自分風にエストラゴンやバジルのハーブも加えてみました。もちろん、オニオンスライスは欠かせませんが、キュウリがなかったのがちょっと残念。

でも、やっぱり違うんですよね。

どうしても母の味にはならないんです。

きっと日本の缶詰とは、味が違うのかもしれません。母はお手製のマヨネーズを愛用していたので、それも違うのかもしれません。

単にハーブとかオニオンとかキュウリじゃなくって、何かが根本的に違うんですよ。

しょうがないので、今度母に会ったら、サケ缶サラダをつくってもらおうと思います。

何が違うのか、自分の舌で確かめてみようと思います。

いつの間にやら、サケ缶サラダが「こだわりメニュー」になっていたのでした。


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