Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2006年10月11日

ナパのふたつのワイナリー

フォトギャラリーのセクションで、ワインの産地である、ナパバレーに行ったお話をいたしました。

そのときはあんまりワインのお話ができなかったので、ここでは、ちょっとワインについて語ってみたいと思います。


フォトギャラリーの欄では、こう書いてみました。何の計画もなく、目に付いた所に入ってみるのが、我が家のワイナリーツアーだと。

でも、これは、ちょっとだけ違っていたのです。

前夜、結婚記念日のお祝いをしたホテルのレストラン。ここでは、コース料理とワインのペアリングをしてみたのですが、わたしが頼んだふたつ目のお料理、これが、衝撃的な体験だったのです。

帆立をこんがり焼いて、コーンをソテーした上にのっけただけのシンプルなお料理でしたが、その焼き加減が絶妙!

外がカリッとしていて、中はふんわり。こんなにうまく焼いた帆立は、初めて食べました。

そして、この帆立とペアリングしてあったのが、White Rock Vineyards (ホワイト・ロック・ヴィニヤード)の
2003年の Chardonnay (シャルドネ)。

これが、なんとも、今まで味わったことのないようなシャルドネだったんです!


ワインをお好きな方ならよくおわかりだと思いますが、フランスとカリフォルニアのワインを比べると、それぞれに特徴があるのですね。

たとえば、シャルドネの場合だと、カリフォルニア産は、“buttery”といった表現がよく使われます。「バターみたい」というか、濃厚で、しっかりとした味がついているという意味です。

で、そういった「バタリーな」シャルドネは、繊細な料理にはあんまり合わないんですね。ワインの味が勝ち過ぎてしまって。
 だから、日本風な料理の多い我が家では、最近はシャルドネを避け、Sauvignon Blanc (ソーヴィニョン・ブラン)とか、 Pinot Grigio (ピノ・グリージョ)とか、軽めのワインを選んでいました。

ところが、このホワイト・ロックのシャルドネは、帆立みたいな淡白なお料理にも、ぴったりと合うのです。不思議なくらいに。

すっきりしていて、ほのかにナッツ系の香りがする。ベタベタとした、嫌な甘味もない。


ということで、ホワイト・ロックのシャルドネに感動したわたしたちは、翌日、さっそくワイナリーに向かいました。

カーナビに案内してもらったので、ちょいと山奥ではありますが、迷うことはありませんでした。でも、門構えが小さいし、何の看板もありません。門を行き過ぎると、その奥は行き止まり。

いや、実は、ナパのワイナリーは、大きな場所はいつでも一般公開していますが、小さなワイナリーだと、完全予約制になっているのですね。そして、ホワイト・ロックもこのタイプ。

あ~、やっぱりダメかぁとあきらめかけていると、古~い車が一台近づいてきます。車の天井には、何やら大きなビニール袋が乗っかっていて、なんだか、とってものどかだなぁ。
 と、感心していると、お兄さんが車の窓から顔を突き出し、「どこに行きたいの?」と聞いています。ホワイト・ロックに行きたいと言うと、「あぁ、あそこは普段は公開してないんだけどね。でも、ちょっと付いておいで」と言いながら、先に門の中に入って行きます。

車を停め、携帯電話で誰かとお話しているかと思えば、間もなく、背の高~いおじさんが、古い石造りの家から出てきました。
 実は、彼こそが、ここのオーナー、ヘンリーさん。そして、声をかけてくれたお兄さんが、ヘンリーさんの次男のマイケルさん。ワイナリーのマネージャをしています。ここは、家族で経営しているワイナリーだったんですね。

そこで、昨晩、お宅のシャルドネに感心したんだという話をすると、ヘンリーさんも気をよくしたご様子。今は、お客様が来ていて、ランチをお出ししている最中だから、1時半頃にもう一度いらっしゃいと、ご招待してくれました。


さて、それまで1時間半。どうしましょう。

そこで、目に付いたワイナリーが、シルヴェラード・トレイル沿いの Darioush (ダリウーシュ)。

5年前に、イラン系のオーナーが土地を購入し、2年半前に一般公開したばかりの、新手のワイナリーです。道理で、前回ここを通ったときは、こんなワイナリーはなかったはず。

このワイナリーはおもしろくって、勿論、美しいペルシャ風建築も目を引くのですが、赤ワインが専門という特徴があるのです(白も造ってはいるようですが、ごくわずかのようです)。

Cabernet Sauvignon (カベルネ・ソーヴィニョン)、Shiraz (シラーズ)、Merlot (メルロー)などをお得意としていて、そのお味は、フランスのボルドー系の伝統を重んじる印象でした。

ここの建物や施設は、超近代的。スチールタンクなんかも、うまく品質管理できるように、技術の粋を集めているようです。

それが、なんとなく、ボルドーの伝統的な味とミスマッチ。これも、カリフォルニアならでは、といったところでしょうか。


ここで、ちょっとだけ赤ワインのお話をどうぞ。

まあ、カベルネ・ソーヴィニョンなどとひとくちに言っても、近頃は、いろんなぶどうをブレンドするのが流行っているようですね。

ダリウーシュの2003年ものは、カベルネ・ソーヴィニョン85%、メルロー10%、カベルネ・フラン2%、メルベック2%、プチ・ヴェルドー1%と、まるで、化学の実験みたいに、いろいろ入ってます(この5種類のぶどうのブレンドは、有名なワイナリー Beringer なんかも出しています)。

どうしてそうやって混ぜているかというと、ぶどうの味というのは、たとえ同じ種類のものであっても、毎年、気候や土壌の影響で変わるものだそうです。ところが、「このワイナリーのこのワインは、こんな味だった」と覚えている人にとっては、毎年、同じ味であってほしいわけです。
 だから、いろんな種類のぶどうを違った割合で混ぜてみて、年々同じ味を保つようにしているのだそうです。


このダリウーシュは、醸造する量も少なめで、毎年8千ケースくらいしか出荷しないそうです。だから、すぐに売り切れるみたいですね。
 おまけに、残念ながら、カリフォルニアでも一般には流通していなくって、直接購入するか、レストランで飲むくらいしかご縁がないようです。

テイスティングをさせてもらいましたが、わたしたちは、カベルネ・ソーヴィニョンよりも、シラーズの方が好きでした。100%シラーズで、羊肉とか野生の禽(とり)だとか、スパイスの効いた料理に合うそうです。

ちょっと無理して、一本64ドルのシラーズを買ったら、20ドルのテイスティングはタダにしてくれました。いい人でした。


さて、お昼を食べたら、もう1時半。そろそろホワイト・ロックに戻らなくっちゃ。

予定をちょっと遅れて到着すると、ヘンリーさんがすぐに家から出てきて、「さあ、ぶどう畑に行こう!」と車に乗り込みます。そして、向こうの丘にあるぶどう畑と、白い岩をくり貫いたワイン倉に連れて行ってくれました(白い岩だから、ホワイト・ロックというネーミングです)。

途中、ヘンリーさんちの犬が、先頭になって走っていきます。あれ、道が違うよ!と思っていると、賢い犬くんは、ちゃっかりと先回り。お客様を現地でお出迎えです。


ホワイト・ロックは、歴史のあるワイナリーで、ぶどう栽培を始めたのは、1870年。今のオーナーであるヘンリーさんが30年前にここを購入するまで、持ち主が何代か替わっているそうです。
 いろんな資料を調べてみたけれど、1900年までしか歴史をさかのぼれなかったんだとか。(現在、ワインのラベルに使っている絵は、ヘンリーさんの奥方クレアさんが見つけてきた、1900年当時のワイナリーの様子だそうです。)

ここは、いわゆる「エステート・ワイナリー(estate winery)」と呼ばれるワイナリーで、自分の敷地内で作ったぶどうの実しか使いません。
 36エーカー(15ヘクタール)の畑は、手前に赤ワイン用のぶどう、ふたつ向こうの丘に白ワイン用のぶどうを植えています。収穫は、赤よりも白の方が早く、ナパではとくに、西向きの丘は日当たりがいいので、育ちが早いそうです。

まあ、今でこそ、オーガニック(有機栽培)だの自然に優しいだのと騒がれていますが、もう25年前から、除草剤や殺虫剤は一切使っていないそうです。肥料も、自然の堆肥だけ。除草剤を使わないので、ぶどうの根元に生えた雑草は、全部手で取り除きます。
 でも、とりたてて、「オーガニック」とはうたっていない。だって、当たり前のことでしょうと。

造るワインは、赤と白一種類ずつ。白はシャルドネ。赤はクラレット( Claret )と呼ばれるブレンド。こちらは、カベルネ・ソーヴィニョンに、カベルネ・フランなど3つを少しずつ混ぜています(クラレットというのは、フランス・ボルドー風の赤ワインという意味です)。

やっぱり、ここの赤も、毎年混ぜる割合が違うので、みんなで何回もテイスティングをして、合議制でブレンドを決定するのだそうです。

赤も白も、出荷は各々1200ケースのみ。どこまでも、小さいワイナリーにこだわりを持っているのですね。


収穫したぶどうは、まず、このように、ステマー(stemmer)と呼ばれる機械でガラガラと回し、茎を乗り除きます。
 ワイナリーによっては、赤のピノ・ノアールを造るとき、茎を混ぜるところもあるそうですが、これは、ごく一部のようです。

で、ここで、あれっ、そうか!と思い当たるです。

何かと言うと、赤ワインも白ワインも、それを造るぶどうの実自体は、色がない。つまり、赤ワインの赤い色は、ぶどうの皮から来ているのですね。
 ピノ・ノアール入りのスパーリングワインだって、皮を入れなければ、まったく赤くはならないのです。

ということは、ここで、赤と白の製法が分かれるわけですね。白は、先にプレスし、ジュースだけを取り出し、そして、発酵させる。赤は、皮も一緒に先に発酵させ、あとでプレスする。

こちらの写真は、プレス機です。これをガラガラと回して、ジュースだけを分離させるそうです。このときは、シャルドネのようなぶどうをプレスしていました。

機械のすぐ横に立っているのが、ヘンリーさんの長男のクリストファーさんです。彼は、ここのワインメーカーなのです(ワインメーカーとは、日本酒の杜氏さんみたいなもので、自らぶどう作りも担当する要職なのです)。

こちらは、ぶどうのジュースです。なんだか、あんまりおいしそうに見えませんが、これがいいワインになるんですね。


さて、白の場合、ここから発酵・精製となるわけですが、この先は、ワイナリーによってさまざまな方式が採られるようです。

皮はまったく残さない?いったい何度で何日くらい発酵させる?発酵に使うのはスチールタンク、それともオーク樽?オーク材はどこのもの?オーク樽でどのくらい寝かす?その後、ボトルで寝かす?などなど、いろんな要素が影響するのですね。

もともと化学の実験みたいな、微妙でデリケートなワイン造り。人によって、いろいろとこだわりがあるのですね。


ホワイト・ロックのこだわりは、まず、すっきりとした味を出すこと。カリフォルニアのシャルドネにありがちな濃厚さではなく、すっきりとキリリとしたお味。

ヘンリーさん曰く、“crisp and lean” なワイン。

シャルドネは、酸味が弱いと濃厚な印象となり、強いと、キリリとした味になる。けれども、カリフォルニアのシャルドネのぶどうは、もともと糖分が高く、酸味が弱い。だから、ホワイト・ロックでは、ぶどうの生育・収穫から醸造の過程で、酸味を保つように工夫しているそうです。

そして、シャルドネを二種類造り、濃厚な方をちょっとだけ加える。

ちょっと細かい話になりますが、ワインの発酵には、ぶどうジュースに加えたイースト菌が働き、糖分をエチルアルコールと二酸化炭素に変える「一次発酵」と、その後、リンゴ酸が乳酸に変化する「二次発酵(malolactic fermentation)」があります。
 この二次発酵がしっかり行われると、クリーミーな、濃厚なお味になるのですね。だから、ホワイト・ロックでは、クリーミーな方を15パーセントだけ混ぜているそうです。

酸味のあるシャルドネと、クリーミーなシャルドネ。このふたつをうまくブレンドしたとき、わたしたちが感心してしまったような、絶妙なワインができるのですね。


1時間以上も、わたしたちを案内してくれたヘンリーさん。ワインの話をしたら止まらなくなって、商売はそっちのけ、という印象でした。
 それほど、ワインを愛しているということなのでしょうね。

それにしても、聞けば聞くほど、ワインとは奥が深いものです。深すぎて、よくわからない。だから、あんまり深く考えないほうがいいかもしれませんね。

おまけのお話(ワイン好きの方へ):本文中では、あまりにも長くなるので省いてしまいましたが、実は、とっても感心したことがあったのです。
 それは、ホワイト・ロックのシャルドネの発酵期間中のお話です。イースト菌が働いている間、イースト菌の残骸だとか、たんぱく質だとか、樽の底にだんだんと「おり」が溜まってきます。で、ホワイト・ロックでは、樽からワインを抜いて、樽の中をきれいに洗い、ワインをもう一度樽に入れなおす、という方式を採っているそうです。これを、期間中、8回、9回と繰り返す。
 普通は、大きなスチールタンクの底に溜まったものを、最後にガバっとかき出す、と別のワイナリーで聞いた事があります。このとき、おりが完全に沈殿するように、卵の白身やゼラチンを加えるとか。今は、専用の合成物質もあるそうで、それを使っているワイナリーもあるそうです。
 だから、律儀に樽の中を洗っているという話を聞いたとき、その丁寧さに、ちょっとたまげてしまったわけなのです。

ついでに、この「おり」は、必ずしもワインの敵ではないようです。それが証拠に、フランスのブルゴーニュ地方などでは、おりを取り除かず、定期的に発酵中のワインをかき回す、といった方式を採るワイナリーもあるそうです。
 より複雑なお味になるそうですが、失敗も多いようです。ですから、カリフォルニアでは、あまり行われていないようです。


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