Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2008年07月09日

ナパの小さなワイナリー

一昨年の10月、ナパのふたつのワイナリーと題し、ワインの名産地ナパ(Napa)にある、新旧ふたつのワイナリーをご紹介いたしました。

そして、つい先日、久方ぶりにまたナパに行って来ました。そこで、今日は、そのときに訪れた、小さなワイナリーふたつをご紹介することにいたしましょう。

今回の小旅行は、アメリカの独立記念日(7月4日)を目前に控えた一泊旅行だったのですが、3連休を控えた週にしては、道路もあまり混むこともなく、シリコンバレーの我が家からは、2時間ほどで到着です。

そんなドライブにはちょうど良い距離ですので、カリフォルニアきってのワインの産地、ナパやソノマ(Sonoma)方面へは、もう何回も足を運んでいます。けれども、その度に何かしら新しい出会いがある、そういった魅力に尽きない土地柄なのです。

この旅で訪ねたワイナリーはふたつ。観光旅行で来ると、精力的に5つも6つもワイナリー巡りをしようと思ったりするものですが、この旅は、あくまでも骨休めのバケーション。訪ねるワイナリーも最小限にいたしました。

まず、ひとつ目に訪ねたワイナリーは、カサ・ヌエストラ(Casa Nuestra)。スペイン語で「わたしたちの家」という意味です。

このワイナリーは、一般のワイン小売店には流通していないので、今まで見たことも聞いたこともありませんでした。レストランでも、ワインリストでその名を見かけた記憶はありません。
 なのに、なぜここを訪れたかというと、ナパの幹線道路のひとつであるシルヴェラード・トレイル(Silverado Trail)を北上していて、ふと、ヒマワリ畑が眼に入ったから。

ちょうど、チェックアウトしたホテルの人とヒマワリの話をしていて、ヒマワリ畑に遭遇する前、わたしの頭の中では「ヒマワリ、ヒマワリ」とヒマワリ連呼が響いていたので、これは寄らない手はないと、わざわざ車をUターンさせ、満開のヒマワリ畑に立ち寄ったのでした。
 ヒマワリなんて久しぶりだなぁと一面の黄色を愛(め)でつつ、ふと子供の頃を思い出したりするのです。だって、夏休みとヒマワリは、切っても切れない関係ですものね。

すると、土ぼこりの道の突き当たりに、「ワイン・テイスティング」の看板がチラリと見えるではありませんか。なんだか農家みたいな、変わった雰囲気のワイナリーですが、「どんなワイナリーなんだろう?」と興味が勝って、寄ってみることにしました。

敷地に入ると、なんと、テントの下でテイスティングをやっています。どうやら、農家風の黄色い木造の家は、内部を改装中で、仮のテントでお客様の応対をやっているようです。

普段は、電話をかけて予約しないと、テイスティングの客を受け付けないそうですが、まさか帰れとも言えないのでしょう、「今度からは電話してね」と言いながら、ちゃんと応対してくれました。

テイスティングで紹介しているのは、5種類のワイン。白のリースリング(Riesling)とシェニン・ブラン(Chenin Blanc)、メルローとカベルネ・フランで作ったロゼ、そして、赤のカベルネ・ソーヴィニョン(Cabernet Sauvignon)とブレンドボトル。

白の2種もロゼも、いずれもかなりドライな味で、甘味はほとんどありません。一般的なカリフォルニアワインと比べると、かなり違った印象のワインです。実にストレートな、淡白なお味となっています。

赤のカベルネ・ソーヴィニョンは、珍しく、他に何もブレンドしていない100%もの。一方、ブレンドボトルの方は、ワイナリーの目の前のブドウ畑で採れた、9種のブドウをブレンドしているそうです。そのせいか、なんとなくつかみどころのない、不思議なお味。

ふ~ん、わざわざテイスティングをしていただいたのに、何も買わないのは気がひけます。それに、テイスティング担当の女性(オーナー?)を手伝って、夏休み中のティーンエージャーの娘さんも助っ人となっていることでもありますし。

そこで、白のシェニン・ブランと、赤のカベルネ・ソーヴィニョンを一本ずつ購入することにいたしました。それでも、赤は一本55ドルだったので、思ったよりも高価なお買い物となりました。

このカサ・ヌエストラは、ほんとに、ナパとは思えない印象のワインを造るワイナリーではありますが、使っているブドウは、すべて自分たちで手塩にかけて育てたもの。そして、もちろん、自然にも体にも優しいオーガニック(有機栽培)なのです。

敷地からは青々としたブドウ畑や黄色いヒマワリ畑が望めたり、庭の柵の中には、ヤギさんが放し飼いになっていたりと、なんとも豊かな自然を感じる、のんびりとしたワイナリーなのでした。


カサ・ヌエストラを後にして、シルヴェラード・トレイルを少しだけ北上すると、そこはもう、カリストーガ(Calistoga)の街。一昨年のナパ旅行では、このカリストーガの森の中に宿泊いたしました。いわゆる「ナパバレー(Napa Valley)」と呼ばれる地域の中では、最北の街となります。

この街は温泉や間欠泉でも有名なんですが、よく知られているわりに、ダウンタウンはほんの数ブロックしかありません。
 目抜き通りでは、独立記念日のパレードがあると聞いていたのですが、それは、どうやら明日の記念日当日。この日は、訪れる人もまばらで、警官ふたりが暇そうに街を巡回していました。
 そこで、気になっていたワイナリーに電話をかけてみます。「今から行ってもいいでしょうか」と。

そう、気になるワイナリーとは、前夜ディナーを食べたレストランで勧められたワインを造っているところ。
 カサ・ヌエストラと同じく、それまで見たことも聞いたこともないワイナリーでしたが、レストランで飲んだ白のソーヴィニョン・ブラン(Sauvignon Blanc)がとても気に入り、ぜひ行ってみたいと思ったのでした。

すると、電話に出た女性が、「明日じゃダメかしら」と言うのです。そこで、「今日はもう帰るから、今日じゃないとダメ」と食い下がると、「それじゃあ、いらっしゃいな」ということになりました。
 ワイナリーなのに、テイスティングを渋っていた理由は、間もなくわかりました。ここは、まだワイナリーの建物すらなく、あるのは、数人のスタッフが働く小さな事務所だけ。新しく、小ぎれいな事務所ではありますが、ここで細々とワインの受注やら発送手続きをやっています。ワインは、どこか別の場所で造っているのでしょう。

この小さなワイナリーの名は、ソース・ナパ(Source Napa)。

ソース(source)というのは、お料理のソースではなくって、原点とか、起源という意味ですね。つまり、原点に帰って、少しずつ大事に育てたブドウだけを使い、自分の合点がいくように、こだわりを持ってワインを造る。そういったワイン造り(winemaking)の哲学に則った名前なのです。

その名が示す通り、ブドウはナパバレーやごく近郊の地域で採れたものだけを使い、各々の変種(varietals)が持つ特性に、気象条件や土壌や収穫日といった細かい要素を加味しながら、ブドウの味を最大限に生かすことを念頭に置いているのです。
 一年に何百万本も大量生産する大きなワイナリーとは、ひと味も、ふた味も違っているのですね。


まあ、そんなワイン哲学は置いておいて、ソース・ナパの事務所にたどり着くと、スタッフの方がドアの外に出て来て、「よく来たねぇ」と歓迎してくれます。

そして、奥の小さな会議室に通されると、スタッフに呼ばれて出てきたおじさんが、「やあ、やあ、こんにちは。僕は、トム・ギャンブルです」と、名刺を差し出します。実は、この方こそがオーナーのひとり、昨晩レストランで飲んだ「Sauvignon Blanc “Gamble”」の Gamble さんなのです。
 わたしたちは、このギャンブル(賭博)という名に惹かれて、ワインを選んだというのもあったのですが(「これを選ぶのは賭け?」みたいな感じ)、何のことはない、ギャンブルというのは、苗字だったんですね。1916年の昔から、ナパの地で作物を育て酪農を営む、農業一家の名前。

そして、ワインの正式名称は、「Gamble Vineyard Sauvignon Blanc」。そう、ギャンブルさんのブドウ畑で採れたブドウを使った、ソーヴィニョン・ブランという意味。

(写真では、前面に座っていらっしゃる方がトム・ギャンブルさん。そして、後ろのふたりはスタッフの方です。)

このトムさんは、相棒のビル・デイヴィースさんと共に、2000年からワイン造りに挑戦するようになりました。相方のビルさんとは、まさに「一緒に育った」とも言える間柄。出会ったのは、近所の保育園なのです。
ワインのラベルにも使われている写真は、出会った頃の子供のふたり。トムさん一家の農場で遊んでいるスナップショットです。

相棒のビルさんの家族は、昔からワインを作っていたそうですが、トムさんにとっては、ワイン造りなんてまったく初めての経験です。
 「僕は、シリコンバレーのハイテク産業で成功し、ワイン造りに転向したような今どきのオーナーじゃなくって、根っからの農民なんだよ」とおっしゃいます。

けれども、そのトムさんだって、農業技術研究で有名な、カリフォルニア大学デイヴィス校を卒業し、ちゃんとブドウ栽培(viticulture)を勉強したお方。彼のワインの説明には、そういった基礎が、しっかりと表れています。


そんなトムさんは、まず、わたしたちが一目ぼれ(?)したソーヴィニョン・ブランのコルクを開けます。
 わたしたちが惹かれた理由は、よくありがちな淡白なソーヴィニョン・ブランとは違った、奥深い味わいにあったのですが、トムさんご自身も、「この複雑な(complex)味わいが自慢なんだよ」とおっしゃいます。

なんでも、これを造るには、プレストン・ソーヴィニョン(Preston Sauvignon)とマスケー(vrais Sauvignon Musque de Loire)というふたつの亜種を混ぜているそうで、そのブレンド加減が、とても奥行きのある、舌の上で変化するような、おもしろい味を出しているのですね。
(プレストン・ソーヴィニョンは、フランス・ボルドー地方から伝わったブドウの亜種で、マスケーは、パイナップルやメロンみたいな香りを持つ、トロピカルな風味のブドウです。後者は、大変デリケートなブドウなので、育てるのが難しいようですが、ワインに特徴を出すためには、ブレンドに持って来いのブドウのようです。)

もちろん、ブドウをしぼったジュースを発酵させるには、自然のイースト菌を使っています。合成のものなど使いません。その方が、優しいお味を引き出せるのだとか。

それから、秘密がもうひとつ。このソーヴィニョン・ブランの発酵には、シャルドネ(Chardonnay)を造るのに使ったオーク樽を使用しているそうです。だから、より複雑さが増しているのですね。
(細かく言うと、すべてをオーク樽で発酵させているわけではなくって、スチールタンクで発酵させたソーヴィニョン・ブランを3割ほど混ぜているのです。一般的に、ソーヴィニョン・ブランにはオーク樽をまったく使わないワイナリーもあるようですが、オーク樽とスチールタンクのワインを混ぜることによって、スッキリ味も出せるようになるのですね。)


さて、白のソーヴィニョン・ブランのお次は、赤4種の出番です。メルロー(Merlot)のブレンド、100パーセントのカベルネ・ソーヴィニョン(Cabernet Sauvignon)、高級ブレンド、そして、シラー(Syrah、または Shiraz)の4種類です。

ここで、トムさんのこだわりが言葉の端々に表れてくるのです。

たとえば、赤の代表選手とも言えるカベルネ・ソーヴィニョン。これは、トムさん一家のオークヴィルにある農園で作っているそうですが、東向きに植えたブドウと、西向きに植えたブドウは、性質が異なるのです。
 ナパでは、西向きに植えた方が日照時間は長く、早く成熟する。だから、いち早く収穫することになる。そして、西向きを採り終えた頃に、ようやく東向きが収穫の時期を迎える。だから、すっかり収穫するには、何度もブドウ畑に足を運ばなければいけないのですね。
(ゆえに、収穫の担当者がブーブーと文句を言うらしいです。ちなみに、上でご紹介した白のソーヴィニョン・ブランだけで、18日間に渡り、8回も収穫に出かけたそうな。赤も入れたら、全部で何十回?)

そして、ブレンドにも使われているメルロー。自分たちで育てているメルローには、日照条件に加え、土壌という厳しい条件もあります。
 そう、東向きと西向きに囲まれた真ん中の畑は、日当たりはいいけれど、サーパンティン(Serpentine soil)と呼ばれる土壌となっていて、植物にとっては過酷な土。なぜって、この蛇文石(じゃもんせき)を含んだ土は、マグネシウムの含有量が高く、窒素・ポタシウム・リンといった植物が必要とする栄養素を欠いているからです。

なんでも、マグネシウムは、植物の中に入ると、人間の血管中の悪玉コレステロールみたいな働きをし、植物の生命維持に悪さをするんだそうです。けれども、もともとカリフォルニア北部の土壌は、このサーパンティン系が多い。
 だから、カリフォルニア大学デイヴィス校での研究の結果、サーパンティンに適合する根を持つ、画期的なブドウの新種を開発するに至ったんだそうです。

そんなメルローを使った、赤のブレンド。「女性がお好み」と言うだけあって、そのまろやかなお味は、まさに、わたしの好みでした。

このお味からは、土がどうのこうのというのは、まったく関係のないことですね。


いやはや、5種類のワインをテイスティングして、顔がちょっと赤らんできたトムさんでしたが、さすがに、ワインのことを話し始めると、とめどがないことをよく自覚していらっしゃるようでした。
 「あ、いけない、ついオタクになっちゃった」と言いながら、わたしたちが退屈しないようにと、独立記念日の花火や、現在建築中のワイナリーの方に話題をすっとそらします。

そう、2010年には、ナパバレーのオークヴィルに、新しいワイナリーが完成する予定だそうです。きっと、小さいながらも、快適なワイナリーとなることでしょう。

このオークヴィルの地には、90年を経た、トムさん一族の家があるそうですが、今度ナパに来るときには、ぜひ家の方にいらっしゃいと誘っていただきました。そこでテイスティングをした後、ぶどう畑を案内してあげるからと。
 今回は立ち寄る余裕はありませんでしたが、きっと趣のある家なんだろうなぁと想像してみたのでした。

そして、後日トムさんから送られてきたお手紙にも、「またいらっしゃい」と書き添えてあったのでした。

追記:言うまでもなく、ソース・ナパ(Source Napa)で使っているブドウは、すべてオーガニックです。けれども、以前「ナパのふたつのワイナリー」で登場したホワイト・ロックWhite Rock Vineyards)と同様、わざわざ「オーガニック」であるとはうたっていません。だって、それは、ワインを造る上では当たり前のことでしょうという前提があるのですね。

それから、ワインというものは、まったく人の好みによりますので、今回ご紹介したワインは好きではないという方もいらっしゃると思います。わたし自身は、たとえばニュージーランド産のソーヴィニョン・ブランなどは苦手としているのですが、そういったワインを口にして、「こんなにおいしいワインは初めてだわぁ」とおっしゃる方もいらっしゃいますしね。

究極的には、ワインには、たった2種類しかないのです。そう、好きなワインと、好きじゃないワイン。いろんな人が、まったく違った意見を持っているので、だから、ワインはおもしろいのですね。

補記: ここでご紹介したソース・ナパは、2009年5月に Gamble Family Vineyards と改名しております。「ギャンブルさん一家のワイナリー」といった呼び名ですね。ラベルのデザインやウェブサイトもリニューアルしておりますが、中身は今まで通り「こだわりのワイン」となっています。


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