Essay エッセイ
2022年04月18日

ハミングバードの巣立ち

<エッセイ その191>

先日、「春のいぶき」と題しまして、早春の風景をお伝えいたしました。


一年前まで住んでいたカリフォルニア州でも、いっせいに花が開き、小鳥のさえずりが聞こえています。


親友の家では、庭のレモンの木にハミングバード(hummingbird、和名ハチドリ)が巣を作り、小さな2つの卵からヒナがかえった、ともお伝えしました。


ハミングバードの多いカリフォルニアでも、卵やヒナなんて、なかなか見られるものではありません。


親友に「あなたのハミングバードをエッセイで紹介したのよ」と伝えると、彼女はひどく喜んで、もう一枚写真を送ってくれました。


こちらの写真ですが、あい変わらず小さな巣の中には、二羽のヒナがぎゅうぎゅうにくっついて暮らしています。


毎日ヒナがちゃんと育っているかと心配な彼女。彼女がそっと巣に近づくと、ヒナたちは頭をくるりと向けて、クチバシをパッと開けるそう。どうやら、彼女のことを親鳥と勘違いしたのでしょう。あまり目が見えていないので、何かが近づいた気配で、親鳥だと思ったのかもしれません。


レモンの木の奥深く、しっかりと守られた小さな巣。安全な場所なので、まだまだ警戒心というものが芽生えていないのかもしれません。


外敵を心配することもなく、平和に育ったヒナたち。親鳥が運んでくれる蜜は、とても栄養価が高いのでしょう。


順調に育ったヒナは、ほどなく巣からいなくなりました。


親友は、逐一このように報告してくれました。「ヒナたちが巣立ってしまったわ! 寂しい!(I miss them!) これから先、わたしの庭にたくさん来てくれたらいいのに」と。


巣立つ直前の写真を見ると、目鼻立ちもしっかり整ってきて、だいぶ精悍な感じもします。


卵からかえったヒナに彼女が気づいたのが3月5日。巣立ちに気づいたのが3月25日。20日間、ずっと観察してきた彼女にとって、ハミングバードの「子育て」は自身の体験にもなっていたのでしょう。


通常、卵からヒナがかえるのに2週間ほど、ヒナが巣立つのに3週間ほどかかるそうですので、まわりの人々の理解も必要なのです。


花いっぱいの彼女のお庭ですから、美しく成人したヒナたちは、きっと「こんにちは」と挨拶をしに来てくれることでしょう。 


そう、人懐っこいハミングバードのこと。草木を愛で、お花を植えてくれる人の庭には、毎日のように訪ねてくれるのです。



こういった春の話題を耳にする時、一番カリフォルニアが懐かしく感じられます。


冬の雨季も明け、緑の絨毯が敷きつめられたようなこの季節。小鳥が巣を作ったり、辺りにさえずりが響いたりと、いっそう賑やかになります。


鳴き声から察すると、我が家のあったサンノゼ市の郊外には、大小さまざまな鳥が数十種は住んでいたと思うのです。


小さなものはハミングバードのような小型の鳥から、ウズラ(quail)やナゲキバト(mourning dove)のような中型の鳥、はたまたハヤブサ(kestrel)やフクロウ(owl)、七面鳥(turkey)といった大型な鳥まで、それこそ飽きないくらい、たくさんの鳥がいました。


上の写真は、珍しく裏庭の木にとまっていたハヤブサの仲間、チョウゲンボウ(kestrel)。近くのアルマデンの谷では頻繁に見かける、小型の猛禽類です。


そんな数々の鳥たちは、一種ごとにバラエティーにとんだ鳴き声を持っています。姿が見えなくても、ただ聞いているだけで楽しくなってきて、その鳴き方を聞き分けるのも、なかば趣味にもなっていました。


春になってチチチという声が聞こえてきたら、それは、ウズラの仲間のカリフォルニア・クウェール(California quail)。ほぼカリフォルニアにしか生息していないので、「カリフォルニア」の名がついています。頭の飾りが珍しく、州の鳥(state bird)にも任命されています。


春は子育てのシーズンで、子供たちを連れて夫婦で仲良くお散歩しているのをよく見かけます。屋根くらいなら飛んで行けますが、基本的には歩く方が得意な鳥で、逃げ足も速いです。


ギャーッという恐竜を思わせる鳴き声が聞こえたら、それは、美しい青い鳥がやって来たところ。名前はよくわからないので、「幸せの青い鳥」と呼んでいました。


鮮やかなブルーの羽を持つ、スレンダーなお姿です。見かけはオシャレなわりに、鳴き声が興醒めなので、通称「ギャオス」。



そして、ハミングバードは、裏庭の常連でした。鳴き声はチチチチと地味ですが、そのすばしこい動きと、日光に輝くツヤのある羽は、いつまで見ていても飽きません。


以前『ハミングバードはサルヴィアさんがお好き』というお話で、我が家の裏庭に金魚のような赤いサルヴィアを植えたら、毎日足繁く(?)やって来るようになった、とご紹介したことがありました。


いつも我が家の庭に飛んで来るのは、緑色に輝くハミングバード。日の光に照らされると、玉虫色に輝く羽を持ちます。


けれども、不思議なことに、道を隔ててお向かいさんの並びには、お腹が赤いハミングバードが暮らしていました。鮮やかな赤のお腹は、バード・オヴ・パラダイス(極楽鳥花)のようなカラフルな花にも負けません。


そして、親友宅のハミングバードは、グレーの地味な色合いです。ハミングバードには、320種ほどの違った種類がいるそうですが、ご近所さんを見回しただけでも、いろんな種類が飛んでいて楽しい気分になったものです。


花から花へと蜜を求めて、蜜蜂のように低く飛び回るハミングバードですが、ときに、何十メートルも高く舞い上がって、急降下することがあります。


こちらは、そんなハミングバード。日が傾いた時刻、大木のはるか上まで飛び上がっては、空中ダイビングを繰り返すハミングバード。


その小さな体のわりに、ハミングバードは200メートルほど上空に飛べるそう。たぶん、近くに「レディー」がいて、自分の飛行の技を見てもらおうと頑張っている、オスのハミングバードくんだったのでしょう。



長年住み慣れたサンノゼ市郊外では、残念なことに、年々鳥のさえずりが減ってきたように感じていました。


それは、周辺の宅地開発で鳥の生息地が減ってきたこともあるでしょう。が、たとえば害虫駆除のスプレー(pest control spray)やネズミ捕りの毒(rat poison)など、人々が利用する化学薬品が悪さをしていることもあります。


人間にとって便利な道具ではありますが、体内に毒が入った虫や小動物を食べた鳥たちは、同じように毒にやられてしまうのです。ネズミなどの小動物を捕獲するフクロウは、近年かなり減っていると言われています。


動物愛護団体は、ネズミ捕りの毒は使わないようにと警鐘を鳴らしていますが、自然と共存する感覚に欠ける人が多いのも事実です。


ハミングバードのような小さな鳥から、フクロウのような大きな鳥まで、みんなが平和に生きていける環境が守られればいいのに・・・。


親友宅のハミングバードの成長に触れて、自然界の生命がいとおしくも感じられる春なのでした。



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