Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2013年09月30日

ヨットっておもしろい!

「ヨットっておもしろい!」なんて言われても、何のお話だろう? と思われる方も多いでしょう。

つい先週までは、わたしだってそうでした。だって、ヨットには一度も乗ったことがありませんので。

でも、そのわたしが、ヨットの虜(とりこ)になってしまったのです!

つい先日までサンフランシスコで開かれていた、「アメリカスカップ(America’s Cup)」というヨットレースに夢中になってしまったのでした。

「カップ(Cup)」というのは優勝杯のことですので、「アメリカス杯」とも呼べる世界最高峰のヨットレースです。

ま、ヨットレースと申しましても、普通のヨットを思い浮かべてはいけません。

こんな風に、白い帆を広げて海に繰り出すヨットのことではありません。

「アメリカスカップ」で使われるのは、まったく異次元(!)のヨットなのです。

第一、とってもでかい。

長さは72フィート(船体22メートル)、幅は48フィート(15メートル)で、11人乗りなんです。

基本的に「カタマラン(双胴船、catamaran)」なので船体がふたつくっついた形をしているのですが、船体も大きいなら、セイル(帆、sail)もでっかい。

飛行機の翼みたいなウィングセイルは、40メートルもあって、13階建てのビルほど高いらしいです。

ですから、クレーンで持ち上げて取り付けるのです(写真は、イタリアとニュージーランドのチームが使用したクレーン)。

そして、びっくりなんですが、船体(ハル、hull)は、海から浮き上がって走るんです!

そうなんです、風に乗って最高速で走るときには、船腹は海面にタッチしないんです。

なんでも、重い船体が水の中にあると、水の抵抗で遅くなってしまうので、「ハイドロフォイル(hydrofoil)」という水中翼を付けて、船体を浮かせて走るんだとか!
(Photo of Oracle Team USA by Dan Honda, the San Jose Mercury News, September 27, 2013)

まあ、そんなヨットって、見たことないでしょ?

この巨大なヨットが、サンフランシスコ湾を練習航行しているところを遠くから眺めたことがあるんですが、驚くほど大きいし、とっても速いんです。「あ、写真を撮ろうかな」と思ったら、瞬く間のうちに視界から消えてしまいました。

だって、トップスピードは時速50マイル(80キロ)。車ほど速いのですから。


で、どうしてこのヨットレースに夢中になったのかというと、ひとつに、地元のサンフランシスコ湾で開かれていたから、ということもあるんです。

1851年から続いている「アメリカスカップ」は、なんでも、世界最古のスポーツトロフィーだそうですが、サンフランシスコで開かれたのは、今回の第34回大会が初めて。ですから、こんな伝統のある国際レースを身近に感じられるのは、光栄なことなのです。

でも、それだけではなくて、ドラマチックなレース展開となり、連日繰り広げられる攻防から目を離せなくなってしまったのでした。


優勝を決める本戦は、予選を勝ち抜いた「エミレーツ・チーム・ニュージーランド(Emirates Team New Zealand)」と、前回大会(3年前にスペインで開催)の覇者「オラクル・チームUSA(Oracle Team USA)」との間で行われました。

そう、ニュージーランドとアメリカの一騎打ちです。

アメリカ側の「オラクル」というのは、シリコンバレーにある企業向けソフトウェアの大御所で、創設者のラリー・エリソン氏は、自他ともに認める「ヨットフリーク」。

自分の財をバンバンとつぎ込んで、「最高のヨット」を目指します。
(Photo of Race 11 by D. Ross Cameron, the San Jose Mercury News, September 19, 2013)

が、いきなりオラクルは、本戦が始まる前から「マイナス2ポイント」でスタートです。昨年の予選競技で、ヨットに違反の錘(おもり)を付けたペナルティーが課せられたのです。

実際にレースが始まっても、文字通り、なかなか波に乗れないオラクル・チーム。

初日(9月7日)から一週間半、11レースが終わってみると、なんと、8ポイント対1ポイント(3勝に2ポイント減点)で崖っぷちに立たされます。

そう、あと1ポイント(1勝)取られると、優勝杯は即ニュージーランドへと持って行かれるのです。

ニュースでオラクルの「背水の陣」を耳にしたわたしは、だったら、ニュージーランドが優勝する瞬間を見てみましょうかと、そこからテレビでレース観戦を始めたのでした。


よく晴れた木曜日(9月19日)、第12レースが開かれ、ここではオラクルが快勝します。
(Photo by Karl Mondon, the San Jose Mercury News, September 20, 2013)

ああ、やっと一勝して8対2ポイントになったけれど、明日はもうダメかな?

でも、ここからドラマが始まるのです!

翌日(9月20日)、風のない、どんよりとしたお天気。たれ込める雲が水面にくっつきそうな、すっきりしないコンディション。

この第13レースでは、ニュージーランドが勝者となるのですが、なんと、制限時間の40分を越えてしまったので、レースが無効となってしまうのです!

そう、風がないのでスピードが出ずに、タイムオーバー。

その後、風が出てきて再度トライした第13レースでは、オラクルが快勝。ここで8対3ポイントと、ちょっとだけ盛り返します。

その翌日の土曜日(9月21日)、午前中の大雨はあがったのに、レースは中止となりました。ちゃんと風はあったのですが、なんでも、吹く方向が悪かったとか!

ヨットにとっては、風が命。強過ぎても危なくてダメだし、弱過ぎても制限時間を越えるからダメだし、方向が悪くてもレースにならないからダメだし、同じ場所でやっていても、毎日コンディションが違うんです。


翌日の日曜日(9月22日)は、晴れ上がったグッドコンディション。

ここでオラクルは2勝して、8対5ポイントと盛り返します。

そして、翌日(9月23日)の第16レース。風を待って30分遅れのスタートとなりましたが、またオラクルが快勝するのです。
(Photo by Jim Gensheimers, the San Jose Mercury News, September 24, 2013)

おっと、ここで8対6ポイントと、じりじり追い上げています。

波に乗るオラクルは、もう一レースしたかったのですが、ニュージーランドはさっさと岸に向かって帰って行きます。

現地ルールの「遅くとも午後2時40分スタート」を守るためには、30分の休憩が20分になってしまうので、「それはイヤだ!」とつっぱねたのでした。


仕方がないので、翌日の火曜日(9月24日)に持ち込まれた第17、18レースは、オラクルが快勝します。

17レースでは、スタート前に2艇が接触するハプニングがあり、この場で2つペナルティーが課せられたニュージーランドは、数秒間「停止」させられました。

ひとたび「エントリー」ラインを越えたら、「スタート」を切る前に熾烈な駆け引きが始まっているのです。

18レースでは、ニュージーランドが大きくリードしていたのに、向かい潮の第3レッグ(湾を東から西に走る向かいの海流)で、オラクルがグイッと追い抜き、そのまま逃げ切ったのでした。

アルカトラズ島に向かってハイドロフォイル(水中翼)で猛突進したオラクルが、島近くのターンで、うまく相手をかわしたのでした(写真は、テレビ中継のCG解説)。

一週間前には、8対1ポイントでニュージーランドの「王手」がかかっていたのに、いつの間にやら、8対8の同点になっています。

そして、迎える最終日(9月25日)。天下分け目の決戦です。

よく晴れ渡り、風もあるグッドコンディション。

いいスタートを切ったニュージーランドがリードしたあと、追い付いたオラクルと何回も交差しながら、抜きつ抜かれつの攻防戦。
 でも、やっぱり第3レッグの後半で、水面を飛んで行くオラクルに引き離されてしまいます(写真は、第3ゲートを回り、追い風の第4レッグに臨むオラクル・チーム)

そのままリードを広げていったオラクルが先にゴールを切り、その場で、優勝を決めるのです。

そう、崖っぷちから8連勝(!)して、大逆転を遂げたのでした。


そんなわけで、この第34回大会は、「アメリカスカップ」史上、一番長く(19レース)、一番スリリングな本戦となったのではないでしょうか。

だって、ヨットについて何も知らないわたしが夢中になったくらいですから、世界中で何百万の人たちが「にわかヨットファン」になったと思うんですよ。

それで、どうしてかなと考えてみると、これほど自然と技術と人の力が融合されたスポーツは珍しいからではないでしょうか。

だって、どんなにコンピュータ技術を使って精密にセイルを動かそうと、風がなければ前に進まないし、前に進んで風の向きやスピードが刻一刻と変わっていくと、その変化を「読み」セイルや船のバランスを調整しているのは人間の力なんですからね。

最終戦でオラクルがゴールを切ったときには、パチパチとテレビに向かって拍手を送っていたわたしですが、破れたニュージーランドの操舵手が涙を流しながら舵を取っているのを見て、ハッとしたのでした。

レースですから勝敗はつくものの、両チームが繰り広げたスリリングなドラマには、みんなが感謝しないといけないんだなと。
(Photo of Race 19 by Karl Mondon, the San Jose Mercury News, September 26, 2013)

付記:「地元」とも言えるサンフランシスコ湾で開かれたレースなのに、現地に行かずにテレビ観戦していたのには、わけがあるのです。ヨットレースって、テレビで観ていないとわからないんですよ。

第一、陸上競技みたいにトラックが敷かれているわけではなくて、「ゲート」を何回かターンするざっくりとしたレースコースなので、とくに向かい風になると、風を探して(向かい潮を避けて)領域内をジグザグに(タックしながら)走るんです。すると、ちょっと見ただけでは、広い海原でどっちが先頭を走っているのかわからないんですよ。
 ときどき2艇が交差して違った方向に走って行くので、「ちょっとあなたたち、いったい何に向かって走ってるのよ!」と叫びたくなることもあるのです。

だから、そんな「素人さん」のために、今回のテレビ中継では、各ヨットに4台ずつ小型カメラが取り付けられ、横からは並走の船、上空からはヘリコプターが撮影しています。
 航空映像になると、バーチュアル(仮想)の線がピッと出てきて、どっちが何メートル先を行っているのか、懇切丁寧に解説してくれるのです(ちなみに、こちらの写真では、右側のオラクル・チームのスピードは41.7ノット。時速77キロです!)

そして、ヨット上の映像になると、ビヨッと水中翼が伸びて、船体が上がる様子もわかるし、「よし、これからジャイブするぞ! 3、2、1、行くぞ!」という指示に従って、みなさんがこまめに動く様子もよくわかるのです(え~っと「ジャイブ(jibe)」というのは、追い風(downwind)で進んでいるときに、船尾を動かしてセイルが風を受ける方向を(たとえば右から左にと)シャキッと変える技だそうです・・・いえ、間違っていなければの話ですが)

ま、それにしても、船は苦手なわたしが、喜々としてヨットを語るなんて、夢にも思わなかったです!

チームのみなさん、裏方のみなさん、ご家族や大会関係者のみなさん、どうもありがとう!


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