Life in California
ライフ in カリフォルニア/日常生活
Life in California ライフ in カリフォルニア
2006年08月31日

住宅地が狙われている

今朝、カーテンを開けると、妙なものが目に飛び込んできました。

向かいの丘で建築中の建物に、ニョキッと巨大なクレーンが!

これって、ビルなんかではありませんよ。誰かさんの木造建築のお屋敷なんです。

勿論、普通のお家よりは2倍は大きなものですが、「へぇ、家を建てるのに、こんなに大きなクレーンを使うんだぁ」と、さっそくカメラに収めてみました。


まあ、アメリカという国は、お金持ちとそうでもない人の差がとっても大きいものでして、金持ちさんは、お金をどうやって使おうかなぁと苦労するみたいですね。

まず、使い道として一番手っ取り早いのが、大きな家。そして、高い車。それから、高級リゾートへのバケーションや別荘、そして、学費の高い私立学校。
 アメリカ社会では、こういうのって、一種のステータスシンボルなんですね。「自分たちは成功者だ」というシンボル。

で、それが終わったら、また家の改築をして、庭をきれいにして、ヨットを買って・・・きりがないですね。


当然のことですが、金持ちさんとは対照的に、ちょっと寂れた地区に住んでる人たちもいるわけですね。
 比較的、社会保障制度が整っているアメリカでも、そういう人たちって、国や地方自治体から見放されることもあるんですよ。

たとえば、こういう法律があるんです。「公共のためなら、誰かさんの私有地や家を買い取って、新しく街を再生することができる」。悪く言えば、行政による土地の乗っ取りでしょうか。

正式には、「エミネント・ドメイン(eminent domain)、土地収用権」という法律なんですが、最近、この法律が脚光を浴びてきているのです。なぜって、経済活動の変化によって空洞化する街が増えているので、「町おこし」をしなければいけないから。

だから、古い住宅地を買い取って、ビジネス街や研究都市やショッピングモールを作って、どんどん人を呼びましょうと。

でも、あなたがもし、こういう場所に昔っから住んでいたとしたら、家を絶対に手放したくないですよね。だって、どんなにオンボロでも、我が家は城ですもの。どんなに寂れていたって、住み慣れた都ですもの。


この法律、アメリカ人でもあまり聞いたことがなかったんですが、昨年6月に、全米に名を広めることとなりました。連邦最高裁判所が、ある判決を下したからなんです。

事の発端は、コネチカット州ニュー・ロンドン。昔は栄えた街ですが、今は、1920年当時よりも、人口が少ない。街も荒廃し、このままでは、もっと寂れてしまう。
 そこで、街は考えました。なんだか薄汚れた住宅地を、研究・開発パークにして、川沿いにホテルや公園を備えた、きれいな街にしようじゃないか。

ところが、現地の住人は、勝手に家を取り上げられたら、行くところがないと猛反対。しかも、腹が立つことに、開発は、民間の業者が行うというではありませんか。苦しむ住民の影に、大儲けする人間がいるなんて、どう考えても公平じゃない。

さっそく、住民側は法的な措置に出たのですが、いつまでも平行線のまま、熾烈な争いは、連邦最高裁判所まで行っていたのです。


そして、下された判決は、5対4で「街の決定を尊重しよう」でした。

街に仕事や収入をもたらすような「公共の目的」であれば、自治体は荒廃した私有地を適切な市場価格で買い上げてもよろしいと。

この論法で行くと、古くて見苦しい家は、ショッピングモールにしてもいいし、薄汚れた安モーテルは、高級ホテルに建て替えてもよいということになるんですね。そして、それを決めるのは、地方自治体。

自分たちが定めた「荒廃した私有地」を、ショッピングモールや高級ホテルに建て替えれば、税金だってもっとたくさん入ってくるのです。


ここで問題となるのが、「公共の目的」とはいったい何でしょう?ということなんですね。

米国憲法修正第5条の最後の文章に、「相応の補償がなければ、私有地を公共の目的のために押収できない」とあります。でも、これは、相応の補償があれば、公共の目的に使用できる、と解釈されているのです。ここで、「公共の目的」とは、いったい何?

まあ、今までも、法廷ではかなり意見が分かれていたんですが、この最高裁の判決では、「街にもっと収益をもたらす」ことが公共の目的とされています。

でも、残る4人の判事は、「ハイウェイのような道路や、電気や水道といった公益事業のみ、公共の目的に該当する」と、強い反対意見を述べています。


実は、歴史的に観ても、こういうケースは結構あるんですね。

たとえば、カリフォルニア州ロスアンジェルスのドジャー・スタジアム(Dodger Stadium)。

1962年、ブルックリンから引っ越してきた野球チーム・ドジャーズのために、新たにスタジアムが建てられました。

しかし、もともと、ここには、ラテン系の家族が300世帯ほど住んでいました。ある日、彼らは、市当局から、安い家賃の市営住宅を造るから、立ち退いてくれと頼まれました。
 まあ、みんなのためだったらいいだろうと、住人は納得し、一件あたり1万ドルで手打ちとなりました。

けれども、新しい家を探してみると、ロスアンジェルスでは1万ドルでは家は買えません。しかも、できあがったのは、スタジアム。
 悔しい思いをしながらも、それぞれにがんばって、新しい生活を模索するしかなかったのでした。

今でも、ドジャー・スタジアムの下には、このラテン系家族の子供たちが通っていた学校が埋まっているのですね。


過去の話ばかりではありません。昨日も、こんなニュースが報道されていました。

サンフランシスコ市のキャンドルスティック球場のまわり。ここをどうしましょうかと、ホットな議論が起こっているのです。
(キャンドルスティックは、過去35年間、アメリカンフットボールのサンフランシスコ49ersのホームグラウンドとなっています。)

市側は、「荒廃した地区」として再開発したいそうですが、やっぱり住人としては、動きたくない。さあ、困った。


考えてみると、自分の私有地が没収されることなんて、いつでも起こる可能性はあるんですね。自治体が、「ここ欲しい!」って思ったら、「公共のため」という名目で取り上げられちゃう。

でも、金持ちさんが住む郊外よりも、そうじゃない人が住む街中なんかの方が、そういう可能性がずっと大きいということなんでしょうね。

追記:こちらの写真は、昨年11月の写真です。ちょっと見にくいですが、今日クレーンが立っていた家の敷地では、ブルドーザーを使って地ならしをしているところです。結構、斜面に建てようとしているんですね。

写真の真ん中のグレーの家ですが、この家には、こういう経歴がありました。最初は、家の前面のみの広さだったのですが、2番目の子供ができたのを契機に、敷地の後ろに、同じくらいの広さの家を増築したんです。

そんな話をしたら、わたしのピアノの調律師が、こんなことを言っていました。
「ふっ、そんなに広かったら、家の中で子供を捜すのに、2週間かかっちまうよ。」


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