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Life in California ライフ in カリフォルニア
2013年11月03日

大学か、学部か? それが問題だ

一年ほど前、日本の青年の進学相談にのったことがありました。

青年は「このまま日本の大学に入らずに、アメリカに留学した方がいいのかなぁ?」と迷いがあったのですが、結局は今春、地元の国立大学に入学し、充実した日々を送っています。

今は「勉学の秋」でもありますし、この青年のエピソードを書いたりして「学校」のことを考えていたのですが、するとちょうど、新聞にこんな記事が載ったのでした。

年収や失業率は、出身大学ではなく、専攻学部(college majors)に左右される」と。

(”How much is this diploma worth?: Major Calculations” by Katy Murphy;photos by Lipo Ching, the San Jose Mercury News, October 23, 2013)

アメリカの国勢調査のデータをもとに、ジョージタウン大学(首都ワシントンD.C.)の教育・就業センターが分析した結果、「年収や就業率に影響するのは、どこの大学に行ったかではなく、何を専攻したかである」という結論に達したそうです。

ですから、たとえば名門私立ハーヴァード(マサチューセッツ州)で文学を学んだ人よりも、サンノゼ州立大学(シリコンバレー・サンノゼ市)でエンジニアリングを学んだ人の方が失業しにくいし、年収は高くなる、ということだそうです。


まあ、「エンジニアリング専攻は給料が高い」とは、なんとなく納得できる話ではありますが、この調査では、大学を卒業したばかりの「22歳から26歳の専攻分野ごとの失業率と平均年収」、それから「30歳から54歳の専攻分野ごとの平均年収」を緻密にリストアップしているところが、なんともシビアな分析となっています。

たとえば、30歳から54歳層では、薬科学や各種エンジニアリング(化学、電気、コンピュータ、機械)専攻の人々は、平均年収の高いトップ5となっています。

一方、ビジュアルアート、芸術、幼児教育、人材・コミュニティー組織、宗教といった専攻分野では、いまいち年収が伸び悩む、という結果でした。

ちょっとびっくりですが、トップの薬科学(平均年収10万ドル強)と最下位のビジュアルアート・芸術(4万ドル弱)の間には、実に6万ドル(約6百万円)の開きがあるそうです。

ですから、いかに若いときの決断とはいえ、進学する大学を選んだり、入学後に正式に学部を選んだりするときには、就職後のサラリーのこともちゃんと考えておいた方がいい、という結論でした。

(多くのアメリカの大学では、1~2年通ったあとに正式に学部を選ぶ(declare majors)ことも可能です。ですから、「専攻未定(undeclared)」で大学に入学して、人気学部にあとで滑り込むというトリックが可能な場合もあります)


そんなわけで、どうやらアメリカの場合、卒業後のお給料は、大学の名前よりも、専攻分野で左右されるもののようではあります。

が、記事の中でも指摘されていましたが、専攻を選ぶのは、単に「給料が高そうだから」という理由ばかりではありません。

「やっていて楽しいから」「興味をそそられるから」「好きだから」といった目に見えない要因も大いに影響します。

実際、専攻を選んだあとに「あ~、こんなはずじゃなかった」と後悔する人も多いようで、たとえば、全米で4割のエンジニアリング専攻学生が、結局は専攻を変更してしまうんだそうです。


そして、新聞の投書欄にも、記事への反論が投稿されました。

僕も妻も、公立高校で舞台芸術を教えています。僕らは金銭面では安定しているし、娘と3人で恵まれた環境に暮らしていますが、金銭的な報酬のためにこの職業を選んだわけではありません。ふたりとも、芸術を通して、若い人たちの人生に影響を与えられると思ったから選んだのです、と。

続いて、この方は、学校で芸術を教えるメリットも挙げられています。

芸術教育は、進度の遅い生徒たちのテストの点数を上げたり、論理的思考能力を高めたり、人とのコミュニケーションスキルを高めたりと、テストばっかりの伝統的な教育では達成できないような結果をもたらしてくれます。それが、生徒たちの自信や成長にもつながっていくのです、と。

(Excerpted and translated from “Some college students not in it for the money”, by Jeff Bengford, Teacher, Drama Department, Westmont High School, San Jose, published in the San Jose Mercury News, October 28, 2013)

これは、サンノゼ市の高校の先生が書かれたもので、芸術教育の価値を熱く説いていらっしゃったのでした。

近頃、アメリカでは、STEM(ステム)と呼ばれる科学教育が取り沙汰されています(STEMは、サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学の頭文字)。

「中国を始めとする諸外国にテクノロジーで負けるな!」と、オバマ大統領もさかんに音頭取りをしています。

こちらの写真は、10月25日ニューヨーク州ブルックリンの P-TECH(ピーテック)高校を訪れたオバマ大統領。

P-TECHは、IBM(本社:ニューヨーク)とニューヨーク市立大学のパートナーシップで生まれた、アメリカ初の公立高校・短期工科大学の6年一貫教育の場で、大統領ご自慢の科学教育のテストケースとなっています。

もともとアメリカ人は科学に苦手意識を持つ人が多いので、そんな「恐怖心」を克服しよう! と頑張るのは、立派なことだと思います。

けれども、残念ながら、昨今の財政難やSTEM重視の風潮の中、芸術教育は軽視されがちになり、先生たちが解雇されたり、授業が減ったりしているのも事実のようです。

ですから、こちらの先生のように、「人間を育てる芸術教育」に危機感を持たれる方も大勢いらっしゃることでしょう。


個人的な感触では、「成功を遂げた」と言われる方でも、若い頃から「就職後」のことを考えていた人は少数派ではないかと思うんです。

人は、そんなに打算で生きられる生き物ではないと申しましょうか、気分が乗らなければ、うまくできない気分屋のところがあると申しましょうか、まあ、理屈通りに人が動けるとすれば、それはもう人間ではない、と言った方がいいのかもしれません。

わたしの大好きな小説家ジョン・グリッシャム氏は、もともとは南部のミシシッピー州で弁護士をなさっていました。

一時期、ミシシッピー州の下院議員も務めていらっしゃいましたが、この議員生活のときに最初の小説を書き上げ、二作目の『The Firm(ザ・ファーム)』がベストセラーとなって、作家に専念するようになりました。

今では、アメリカの「法廷ものサスペンス」の第一人者です。

そのグリッシャム氏は、学生に講義をなさる機会もあるようですが、「どうやったら作家になれますか?」という質問には、こう答えているそうです。

「まず、仕事に就きなさい(Get a job first)。社会で経験を積まなければ、書くことなんてできませんよ」と。

人生は、いろいろと計画しても、その通りにはならないことも多いでしょう。

そして、おかしなことに、理屈を離れて突き進んでいたら、思いもよらない発展が待ち構えていたりもするのです。グリッシャム氏だって、法律を勉強していた頃は、まさか小説家になるとは夢にも思わなかったはずです。

ずっとテクノロジー業界で過ごしたわたしが言うのもなんなのですが

どうせうまく手なづけられない人生なら、なにも無理して「給料が高そうな」エンジニアリングに固執しなくても、文学や芸術を専攻して、ウキウキと心躍らせてもいいんじゃない? とも思うのですが、いかがでしょうか。

だって、もしかしたら、シェイクスピアを読んで、人の本質を知り、のちに新しいビジネスに発展することだってあるかもしれないでしょう?

追記: 平均年収のリストで、「あれ、お医者さんは?」と思われた方もいらっしゃるでしょうが、こちらは、あくまでも学部卒業者(学士号 bachelor’s degree 取得者)のリストとなっています。ですから、お医者さんなどは含まれていません。

それから、冒頭でご紹介した青年のエピソードというのは、こちらになります。後半部分は、ちょっとテクノロジー業界の話題に暴走していますが、いくつかアドバイス差し上げた内容なども書いてみたのでした。


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