Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2018年12月28日

年末号:カリフォルニアの災害、お葬式、高専ロボコン

Vol. 220



2018年も終わりに近づきました。今月は、一年を振り返って、アメリカと日本の話題を4つピックアップいたしましょう。

<カリフォルニアの災害>
日本では、「」が今年の漢字となったそうですが、カリフォルニアでも災害の多い年でした。

とくに、先月8日に北カリフォルニア(ビュート郡)で起きた山火事は、州史上最悪の山火事となり、同25日ようやく鎮火したものの、焼失面積や人命ともに甚大な被害をもたらしました。

この山火事が起こった時、わたしは日本に滞在していたのですが、現地の人が「とにかく広がり方が異常だ」と言っていたように、アメリカンフットボール・フィールド大をたった一秒間で焼失するという猛スピードに、驚きと恐れを感じました。

昨年10月号でもご紹介していますが、ナパやソノマのワイン名産地で大規模な山火事が発生し、やはり甚大な被害が出ました。この時も、時速100キロメートルの強風にあおられ、火がまたたく間に燃え広がり、数十キロ離れた住宅地も一夜で焼き尽くしました。

この巨大山火事では、ソノマに自宅を持つ知人が、命からがら避難している間に、せっかく7年かけてコツコツとリフォームしてきた自宅を失うという災禍に見舞われました。



この昨年秋の火事あたりから、山火事に如実な変化が見られるといいます。それは、炎が竜巻のように舞い上がり、巨大な「火の竜巻(fire tornado)」となって、触れるものすべてをことごとく焼き尽くすこと。そして、燃料となる樹木や住宅を求めて、ものすごいスピードで延焼すること。

もちろん、山火事では炎が竜巻のように炎上することがあります。けれども、その規模が巨大であるがために、自ら巻き上げる火の柱が突風を起こし、風を原動力としてどんどんと移動し、ルート上にある「獲物」を焼き尽くしていくのです。そのため「火の悪魔(fire devil)」とも呼ばれます。(写真は今年7月、北カリフォルニア(レッディング)で起きた火の竜巻)

こういった変化の原因は、数年間続いたカリフォルニアの「干ばつ」で樹木が乾燥しきったこともありますが、それに加えて、温暖化現象で空気が暖かくなり、竜巻が起こりやすくなったせいだともいわれます。とにかく、ひとたび火が起きてしまうと、消火のプロ集団ですら手がつけられない状態になるのです。



先月の山火事は、二週間も燃え続けたため延焼範囲も広く(東京23区ほどが焼失)、サンフランシスコや南のシリコンバレーでも、PM2.5対応(N95)のマスクをしなければ、外に出られないほどでした。さまざまな化学物質の宝庫である住宅や石油スタンドが焼き尽くされたのですから、体に害のある煙がイヤと言うほど排出されたのです。(写真は、スモッグ警戒警報が最悪となった日のサンフランシスコの摩天楼)

山火事が鎮火して、あたりのスモッグが消えていくと、マスクをしないで呼吸ができる喜びをかみしめたのでした。そして、きれいな空気や水というものは、人が守っていかないといけないのだと改めて痛感したのです。



<またひとり、逝かれました>
あまり縁起の良い話題ではありませんが、12月初頭に執り行われたお葬式のお話をいたしましょう。

11月末日、第41代大統領ジョージ H. W. ブッシュ氏が94歳で亡くなりました。3日後に地元テキサス州から首都ワシントンD.C.に棺が運ばれ、議会議事堂ホールで市民にお別れの機会(the public viewing)が与えられたあと、ワシントン大聖堂で国葬(the state funeral)が執り行われました。

この12月5日は、国の役所や連邦機関である郵便局、そして株式市場などはお休みとなり、喪に服す一日(a day of mourning)とされました。会社やお店などは、よほどの事情がない限り通常営業していたはずですが、あちらこちらに掲げられる国旗は、弔意を表すため半旗(half-staff)とされました。



亡くなられたブッシュ大統領と、長男である第43代大統領ジョージ W. ブッシュ氏は、ともに共和党の政治家なので、正直に申し上げますと、わたし自身は大っ嫌いな大統領のお二人でした。

お父さんのブッシュ大統領(在任一期:1989年1月〜1993年1月)は、ペルシャ湾で「湾岸戦争」を始めた人だし、息子のブッシュ大統領(在任二期:2001年1月〜2009年1月)は、先のクリントン政権で副大統領を務めたアル・ゴア氏から大統領の座を「奪い取った」ご仁。そして、2001年9月にニューヨークで同時多発テロが起きると、自身もアフガニスタンを侵略、と良い印象がなかったのです。(そう、こちらの「シリコンバレーナウ」シリーズも、以前はブッシュ二世に対する批判を原動力として書いていた覚えがあります:Photo by Jim Watson / AFP / Getty Images)



けれども、時が経てば嫌な思い出も薄らいでくるのか、故ブッシュ大統領を惜しむ声もすんなりと耳に入ってくるのです。

在任中の1989年10月、カリフォルニア州で大地震が起き、サンフランシスコの街中でも住宅が倒壊・炎上したり、高速道路が落下したりと甚大な被害が出ました。故ブッシュ大統領は、すぐにカリフォルニアに飛んで来て現地視察を行い、いち早く国から補助金を出し復興に努めるようにと指示されたそうです。

もちろん、サンフランシスコはリベラルな街なので、ブッシュ大統領に投票した人は少なかったはずです。が、当のご本人は、そんな思想の違いを意識することなく、目の前の問題に立ち向かう広い心を持っていた、と当時のサンフランシスコ市長アート・アグノス氏も回顧されていました。(Photo of Loma Prieta Earthquake by J.K. Nakata, United States Geological Survey)



先月起きた北カリフォルニアの史上最悪級の山火事では、甚大な被害が出ている間に、現政権のトランプ大統領はツイッターでこうつぶやきました。「カリフォルニアは、自然を守ることを言い訳にして、森林を計画的に伐採するなど山火事対策ができていない」と。

これは、人が苦しんでいる時にあまりに非常識なコメントであると非難されましたが、おそらく、ブッシュさんだったら、そんな冷酷な感想は決して口にされなかったことでしょう。



今年8月には、長年上院議員を務めたジョン・マケイン氏(共和党、アリゾナ州選出)が闘病に破れ、同じく議会議事堂ホールで市民のお別れが行われたあと、ワシントン大聖堂で葬儀が執り行われたばかりでした。

奇しくも、故ブッシュ大統領とマケイン氏は、海軍兵士として参戦した経験を持ちます。ブッシュさんは、太平洋戦争で海軍パイロットとして日本軍と戦い、すんでのところで命を失うところでした。マケインさんは、ヴェトナム戦争で北軍の捕虜となり、痛手を負って生死の境をさまよいました。

現大統領が「足の骨が出っ張っていて、(ヴェトナム戦争の)徴兵には応じられない」と逃げたことを考えると、現大統領とブッシュ氏やマケイン氏の間には、「国に尽くす」想いに天と地ほどの隔たりがあるのでしょう。



パパ・ブッシュさんのお葬式では、長男ジョージさん(第43代大統領)が追悼のあいさつをして、こう締めくくられました。

「わたし達は悲しくて涙を流しているけれど、偉大で品格があり、息子や娘にとって最高の父親であるあなたを知り得て、愛することができた喜びを分かち合わんことを(Through our tears, let us know the blessings of knowing and loving you, a great and noble man, the best father a son or daughter could have)」

日本語にすると、なんとなく口幅ったい、大げさな言いようかもしれませんが、「ベスト・ファーザー」と言いながら涙で言葉につまった様を見ていると、パパ・ブッシュさんをまったく知らない人でも、とっても立派な人物だったのだろうと想像に難くないのでした。



第41代大統領の国葬では、現大統領が弔辞を依頼されないという異例な行事となりましたが、「立派な政治家(statesman)というものは、単なる口先だけのポリティシャン(politician)とは違う」と、誰もがかみしめた服喪の一日となったのでした。



<高専ロボコン!>
話題はガラリと変わって、日本の「高専ロボコン」のお話です。

「高専ロボコン」と聞いて、まず思い出すのが、NHKが開催する『全国高等専門学校 ロボットコンテスト』。各地区大会を勝ち抜いた精鋭たちが東京・両国国技館の全国大会に集い、最優秀ロボットを決める白熱のコンテストです。



今年は第31回を迎え、さらにパワーアップ。競技課題は、フィールドをカフェに見立てた「Bottle-Flip Cafe(ボトルフリップ・カフェ)」。フィールドに点在する8つのテーブルに向かってロボット2台がペットボトルを投げ、まっすぐに着地させるというもの。ネットで人気の「ボトルフリップ」に、ロボットが挑戦するのです。

ロボットが遠くにペットボトルを投げるだけでも難しそうなのに、人が操作する「手動ロボット」は活動範囲が限られ、ポイントゲッターは「自動ロボット」。つまり、スタートボタンを押したあとは、すべて自動制御でテーブルを探し出し、ボトルを投げ、テーブルにボトルがいっぱいになったら次のテーブルへと移動する、といったスゴい技を備えます。なんでも、ロボコン史上初の自動ロボットの登場だとか。

試合時間は、わずか2分。ボトルは20本。予選リーグでは、高得点を出したチームが勝ち、決勝トーナメントでは、8つすべてのテーブルにボトルをのせる「Vゴール」が解禁となります。ですから、予選と決勝では、おのずと戦略が変わってくるのです。

テレビで「高専ロボコン」をやっていると、必ず釘付けになるわたしは、今年の課題をクリアするのは不可能だろう! と、その難易度の高さに驚いたのですが、高専生諸君を甘く見てはいけません。各チームそれぞれに工夫をこらした戦術で、びっくりするような高得点をあげるチームも次々と登場するのです。



四国地区大会を皮切りに、北海道、東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、中国、九州沖縄と、8つの地区大会と全国大会すべての対決を映像で観戦させていただきましたが、それぞれに違う戦術の中からも、「ここがミソ」という要素を感じ取りました。

まずは、基本のボトル。350グラム以下なら内容物は問いませんが、水では安定しません。衝撃を吸収する「消臭ビーズ」(柔らかい小さな球体)を使ったチームが多かったですが、中には粘性の高い「水飴」や、安定感を求めた「水風船」や「輪ゴム」、粒状の「砂」や「トウモロコシ」と、千差万別。倒れても戻りやすい水飴は、面白い選択かと見受けました。(写真は、水飴を使った豊田高専Bチーム)

ボトルは500mlより大きければ形状も自由ですが、一気に5点を獲得できる中央の2段テーブルの上段(高さ2.4メートル、直径30センチ)にたくさん載せるには、丸型よりも角形が安定するようです。



一方、ロボットのボトルの投げ方ですが、こちらは「フリップ(回転させる)」にこだわり過ぎたチームが多かったようです。腕をグルグル回して一回転、二回転させてテーブルに着地させるよりも、ほぼ真下からまっすぐに射出するタイプが安定的で、高得点が得られます。当然のことながら、一本ずつ投げるよりも、大量装填で一気に発射するか、次々と連射する方が素早く高得点を狙えます。(写真は、安定した打ち上げ方式を採用する北九州高専Bチーム)



ロボットを単体で使うか、2台を「合体」させて2段テーブルの上段を狙うかで、戦略は大きく分かれます。手動ロボットを自動ロボットに載せれば、高さを狙える一方、時間がかかり過ぎたり、合体がうまく行かなかったりと、この点では、単体の方に軍杯が上がったようです。

ただし、熊本高専八代キャンパスAチーム(写真)のように、予選は合体で高得点を狙い、決勝は単体で「Vゴール」を狙うという器用な戦略もありました。こちらのチームは、奇策と高得点ゲットを評価され、全国大会で見事「ロボコン大賞」に輝きました。



まあ、細かく述べるとキリがないですが、特筆すべきは、ロボットは2台とも自動ロボットで勝負した鈴鹿高専Aチーム。こちらは、フィールド脇の高い位置にカメラを設置して、相手チームが設置した移動テーブルの位置を把握。位置情報を伝えられたロボットは、フィールド内を自由になめらかに動き回ります(通常は、テーブル横に貼られた白線をガイドとして直線的に移動しますが、鈴鹿チームは AI(人工知能)のマシンラーニングによる動きに挑戦)。

広島商船高専Aチームなども、フィールド脇の距離センサーを使って、ロボットとテーブルの距離を検知し、指示を出す方式を採用。その甲斐あって、広島商船は「Vゴール」をわずか21秒(!)で達成し、その輝かしい記録を香川高専高松キャンパスチームと分かち合っています。



そして、25チーム参加した全国大会の競技優勝は、決勝戦で函館高専を下した、一関高専チーム。東北地区大会から全国大会まで、一貫して抜群の安定感を見せた2台のロボットです。あせらず、欲張らず、1本ずつ確実にテーブルにのせていく戦法の勝利でした(あせりを見せないメンバーの性格が、ロボットにも出ていたような気もします)。

というわけで、世に名を馳せるNHKの「高専ロボコン」。お次は、あまり知られていない、もうひとつの高専ロボコンのお話をいたしましょう。



<もうひとつの高専ロボコン>
そうなんです、世に風変わりな高専ロボコンが存在するそうな。

その名も『廃炉創造ロボコン』。福島高専の呼びかけで始まった、文部科学省主催のロボットコンテストで、今年は3回目となります。12月15日、全国14の高専とマレーシア工科大学から16チームが参加し、会場の楢葉遠隔技術開発センター(福島県双葉郡楢葉町)に集結しました。



「廃炉ロボコン」は、その名が示す通り、原子力発電所の「廃炉」作業に貢献できないかとスタートしたロボコン。今年の競技課題は、名づけて「わかさぎ釣り」。実際に、福島第一原発で行われた核燃料デブリの回収作業を模した競技内容です。(写真は、第一原発1号機で行われた炉心内部調査のイメージ図)

長さ4メートル、内径24センチの配管を通して小型ロボットを送り込み、その先の円形の足場にロボットが到達したら穴から子機を下ろし、3.2メートル下にたまったデブリ(競技ではテニスボール)を回収して、遠隔操作をする作業員の手元へと持ち帰る、という課題。実際の回収作業が「わかさぎ釣り型」と呼ばれたことから、課題が命名されました。(写真は、会場に設営された擬似炉心。足場の左側からロボットを送り込みます:産経フォト、2018年12月15日)



さすがにハードルの高い課題だったので、制限時間10分以内にボールを持ち帰るのは難しく、子機が何度もトライしてボールをつかんだのに、あえなく時間切れ、ということもしばしば。

しかし、長岡高専チームは、見事5分(!)でゴールし、優勝に輝きました。なんでも、このチームのメンバーは、4年連続で「NHK高専ロボコン」に出場していて、その経験を生かしてロボットづくりに励んだとのこと。

「廃炉ロボコン」は、原発の廃炉だけではなく、災害レスキューやインフラ整備の分野でも活躍できる人材を育てるのが目標だそうです。こういったロボコンで興味をかき立てられ、将来は災害に立ち向かう分野に挑戦しようと決意した若者もたくさんいらっしゃることでしょう。



「NHK高専ロボコン」も「廃炉創造ロボコン」も、また違ったタイトルの「ロボコン」も、これに参加できるのはスゴいことだと思います。

残念ながら、「ほんとはうまく行く予定だったのに、本番はダメだった・・・」ということも多々あるでしょう。機械的な不具合が出た、プログラムに若干のミスがあった、本番会場への微調整にしくじった、会場内の混信や通信障害でうまく動かなかった、と本領を発揮できずに涙する高専生も少なくないでしょう。

けれども、仲間と一緒にひとつの大きなプロジェクトを成し遂げる機会は、なかなか得られるものではありません。その過程でたくさん挫折を味わって、悔しい気持ちをこれからの原動力に替えていただければいいなと思った次第でした。



というわけで、2018年も間もなく幕を閉じようとしています。新しい年が、皆様にとって良い年となりますように!



夏来 潤(なつき じゅん)

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