Essay エッセイ
2009年11月05日

東京の空、カリフォルニアの空

前回のエッセイから、ずいぶんと時間がたってしまいました。

9月末には日本に向かい、10月半ばまでゆったりと過ごしておりました。

けれども、物事というものはうまく行かないものでして、せっかく我が家の改築工事から逃れて日本でのんびりとしようと思っていたら、東京に着いてすぐに風邪をひいてしまいました。

幸い、今流行りの新型インフルエンザではなくて普通の風邪だったので、そんなにひどくはならずに済みましたが、喉が痛くなり始めたときには「しまった!」と思ってしまいましたね。
 明日から高熱が出るかと構えていたら、熱はまったく出なかったので、ほっと胸を撫で下ろしたところでした。


そんな風邪の特効薬といえば、アメリカでは「Jewish penicillin(ユダヤ人のペニシリン)」なんかを思い浮かべるでしょうか。

何だか注射器を思い出すような恐い名前ですが、何のことはない、チキンスープ(chicken soup)のことなんです。

鶏の身だけではなくて、人参やタマネギ、セロリ、マカロニなんかがたっぷりと入った、具だくさんの温かいスープです。

どうしてスープのことを「ユダヤ人のペニシリン」と言うのかといえば、ユダヤ人が風邪のときにはチキンスープを好んで食べていたという、古くからの習慣から来ているようです。

まるで抗生物質のペニシリンのように、チキンスープは病気によく効くものだという根強い言い伝えがあって、それがアメリカでも広まっているのです。

一説では、スープを作るときに鶏の骨髄(bone marrow)から出てくる成分が、風邪のバイキンをやっつけるということですが、これは医学的にははっきりと証明されていません。
 けれども、温かいスープをスプーンですくって食べているうちに、その湯気や香りで鼻の通りがよくなったり、喉の痛みが薄らいだりするのは事実のようです。

それに、風邪をひいたときには何かと心細くなるものではありますが、子供の頃、おばあちゃんやお母さんが作ってくれたチキンスープを思い出して、心の中もほっこりとすることでしょう。すると、風邪の治りも自然と早くなるのではないでしょうか。


日本には古くから、「南天のど飴」や「龍角散」や「葛根湯(かっこんとう)」といった風邪薬がありますね。

東京で発病した風邪をそのまま北海道に持って行ったわたしは、こういった日本古来のお薬で治そうといたしました。が、やはり、風邪はひとしきり症状が進化しないと治らないようですね。

さすがに3日目になると、ベッドから起きられないくらいの辛さになって、せっかくの札幌の一日も、街歩きはあきらめて寝て過ごすことになりました。

そして、北海道から東京に戻って来てからも、ずっとホテルの部屋で過ごしていたのですが、ベッドの上に横たわっていたり、長椅子にころがっていたりすると、自然と目が窓に向かってしまうのです。

「あぁ、お外に出たいなぁ」という願いからよりも、窓の外に広がる空に目が吸い寄せられると言った方がいいでしょうか。

あんなに空って大きかったかなぁとか、雲が進むのは速いなぁとか、まったくどうでもいいようなことを考えているんですよね。すると、ちょっと気がまぎれて、気分が良くなってくる。

それに、「空」って、なかなか目が離せないのです。だって、片時も同じ状態で留まっていることはないから。雲は形を変え、絶えずどこかに流れて行くし、空だって、いつも「空色」というわけではありません。

夕日の頃なんて、それはそれは美しい映像を観ているようではありませんか。

アメリカに戻る飛行機で、こんな対談記事を読みました。

ビートルズのジョン・レノンの未亡人であるオノ・ヨーコさんは、落ち込んだときには、いつも空を眺めているそうです。
 今までの人生では、それこそいろんなことがあったけれど、辛いことに遭遇したときには、いつも空に目をやって乗り越えてきたと。

きっと空には、人に元気を与える何かが詰まっているのでしょう。


そして、カリフォルニアに戻って、ようやく東京の風邪が治ったわたしは、また2週間もしないうちに、べつの風邪をひいてしまいました。今度のは、ちょっと熱が出たので、違う種類だったみたいです。

幸いなことに、こちらの方はタチが良かったみたいで、すぐに治りましたが、いずれにしても、10月はよく体調を崩すひと月でした。

結婚記念日や誕生日、ハロウィーンと、10月には楽しい行事が目白押しなのに、やっぱりカリフォルニアでも、空を眺めてはほっと息をつく日々を過ごしていたのでした。


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