Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2009年03月23日

緑色のセント・パトリックス・デー

先日、連れ合いが、お出かけする前に黄緑色のTシャツを着込んでいるではありませんか。

そこで、わたしは、すかさず聞いてみました。「今日がセント・パトリックス・デーだって知ってたの?」

そうなんです、セント・パトリックス・デーという日には、緑色の服を着なければならないお約束になっているのです。もちろん、本人は、そんなことは何も知らないで、その日の気分で選んでいるんですけれどね。

日本ではあまり馴染みがいないかもしれませんが、アメリカでは「セント・パトリックス・デー(St. Patrick’s Day)」というのを3月17日にお祝いする習慣があるのです。

もとは遠く離れたアイルランド(Ireland)のお祝いなのですが、この日は、みんなでアイルランド人(Irish)の気分になって、緑色の服を着て、夜はワイワイとビールやお酒をたらふく飲んで楽しむ! というのがお決まりとなっているのですね。


そもそもセント・パトリックス・デーというのは、「聖パトリック(St. Patrick)」を祝うカトリック教会の祭日なのですが、この聖パトリックさんという人は、西暦4世紀末に、当時ローマの支配下にあったイギリスで生まれた方なんだそうです。
 16歳の頃に奴隷としてアイルランドに連れて行かれたのですが、6年ののち自力で脱出し、母国でキリスト教の修行を積んで、それから修道士としてアイルランドに戻った方だそうです。
 今ではアイルランドの守護聖人(patron saint)として崇(あが)められているのですが、それは、聖パトリックさんが、当時異教徒の国だったアイルランドにキリスト教を広めたからなんだそうです。キリスト教では、「伝道」はとても重要な使命とされていますからね。

現地のアイルランドでは、「聖パトリックの日」は国民の祝日となっているそうですが、この国を挙げてのお祝いが、アメリカをはじめとして世界各国にも広まったようです。アメリカにもアイルランド系の移民は多いですから、最初は彼らが自分たちだけで祝っていたものが、いつの間にかアイルランド人でない人たちにも広まったのでしょう。

アメリカではさすがにお休みにはなりませんが、みんなが楽しみにしている日であることは確かなのです。

どうして楽しみなのでしょう?

アイルランドといえば、ギネス(Guiness)ビールだの、アイリッシュ・ウイスキーだのとアルコール類が名高いではありませんか。そんなアイルランド名物を堪能しながら、この日を賑やかに祝うのも、なかなか乙なものじゃないか!というわけなのです。
 なにせ、この国は、アイリッシュ・コーヒーなどといって、コーヒーにもお酒が入っているお国柄ですからね。そんなアイルランド人たちを見習って楽しくやりましょうよ、というのがモットーとなっているのです。

想像するに、この聖パトリックの日は、例年キリスト教の受難節(Lent、聖灰の水曜日から復活祭までの日曜を除く40日間)の期間に当たるので、ストイックな毎日を送っているキリスト教徒たちも、「この日ばかりは大目に見てよ~」といったところではないでしょうか。


もう7年ほど前になりますが、東京の表参道を歩いていると、偶然にパレードに出くわしたことがありました。ちょうどセント・パトリックス・デーとなった日曜日は、春の日差しの暖かい一日でしたが、どうやら、表参道を埋め尽くす賑やかな集いは、ギネスビールが主催したパレードだったようです。
 ギネスビールの乗り物に続くのは、外人さんの鼓笛隊ですが、みなさん緑色の軍服を着ていらっしゃるので、きっとアイルランドから訪れた軍人さんなのでしょう。
 さすがに外人さんの鼓笛隊は人々の目を引くもので、聖パトリックに馴染みのない日本にもギネスビールを流行らせよう!という企ても、少しは効果があったみたいですね。

アメリカでは、ボストンやニューヨークと、聖パトリックのパレードを賑やかに催す街もあるようですが、少なくともシリコンバレーでは、パレードを見かけたことはありません。まあ、休日というわけではないし、子供たちにはお酒なんか関係ないし、もうすぐやって来る復活祭のイースター(Easter)に比べると、ちょっとマイナーな祭日(キリスト教のお祝いの日)かもしれませんね。


セント・パトリックス・デーというと、わたし自身は「緑色の服を着ないとポカッとたたかれる」という印象が強いのですが、別の色を着ていたからって実際にたたかれた経験はありません。多分「たたかれるよ」という脅しは、地方色豊かな、ある種のジョークなのでしょうね。

けれども、どうして緑色を着なくてはならないかというと、それにはちゃんと理由があって、アイルランドの人々が一番身近に感じている色がだからなんです。

そして、セント・パトリックス・デーのシンボルである三つ葉のクローヴァーshamrock)が緑色だから。きっと、この日に三つ葉のクローヴァーを身につけているうちに、自然と緑色の服を着るようになったのでしょう。

なんでも、聖パトリックは、野原から摘んできた三つ葉のクローヴァーを使って、キリスト教の「三位一体(the Holy Trinity)」を説いて回ったそうですが、それが人々の心に深く印象づけられることとなったのでしょう。
 いつしか、聖パトリックと三つ葉のクローヴァーは切っても切れない関係となって、聖パトリックを守護聖人のひとりといただくアイルランドのシンボルは、三つ葉のクローヴァーと緑色となった。そんな歴史的な背景があるようです。

こちらのカードは、セント・パトリックス・デー用のグリーティングカードなのですが、中にはこんなメッセージが書かれています。

Happy Shamrock Day! (どうぞ楽しい三つ葉のクローヴァーの日を!)

驚くことに、お店に行くと、セント・パトリックス・デー用のカードが何十種類も棚に並んでいるんです。どれにしようかと迷うほどなんですが、このシンプルなクマさんの絵は一目で気に入ってしまいました。ほんとにハッピーそうですよね!(グリーティングカードで有名な Hallmark が出しています。)

こんなものもありました。こちらは新聞の日曜版の漫画なのですが、以前もご紹介したことのある『神秘のアジア人(Secret Asian Man)』では、こんなエピソードが登場です。(by Tak Toyoshima, published on March 15, 2009)

主人公のサムさんが、三つ葉のクローヴァーをかわいく頭に付けて「ハッピー・セント・パトリックス・デー!」とお出ましです。それを見た友達はゲッと「殺気」を感じてしまうのです。
 僕たちパレードに行くんだけど、フェイスペイント(face paint、顔に絵の具を塗る派手なお化粧)をしてあげようかと言うサムに向かって、友達は、「君たちのように、僕にまで馬鹿丸出しにさせようっていうの?」と毒づくのです。それから、サム派と友達の間でこんな押し問答が続きます。

友: そもそも、僕たちは誰もアイルランド人じゃないじゃないか。
サ: 君はクリスチャンじゃないのに、クリスマスを祝うじゃないか。
友: 関係ないね。だってクリスマスは誰もが祝うものだからね。
サ: 君は中国暦の獅子舞のパレードにも行ってたじゃないか。
友: だから? あれは、アジアのもんじゃないか。
サ: あれは中国のものであって、君は日本人じゃないか。だから、今回は何が違うっていうんだい?

とうとう押し問答に負けた友達は、顔に三つ葉のクローヴァーを塗られます。そこで、サムは勝ち誇ったようにこう宣言するのです。
 その格好で気分が良くなったのなら、これから君を Irishese と呼んであげようじゃないか。
(いうまでもなく、Irishese というのは、「アイルランド人」の Irish と「日本人」の Japanese を掛け合わせた造語ですね。)

まあ、アイルランド人でなくとも楽しければいいや! という精神が、うまく表れている作品なのでした。


そうそう、先日の3月17日は、見かけた女性のほとんどが緑色の服を着ていました。なかなか優秀なものですね!
 男性はというと、まったく気にしていない人の方が多かったようですが、さすがに女性となると、着るものには敏感なのです。(連れ合いも、この点では合格でした!)

きっとこの晩は、レストランやバーも、緑色を着た人たちで大にぎわいだったことでしょう。

そうなんです。この日はどうしても飲酒が増えてしまうわけですが、警察の方だってちゃんとわきまえているのです。だから、酒気帯び運転の検挙率だってグンと高くなるのです!

アメリカでは、飲酒運転で捕まると、そのまま留置所に連れて行かれるそうなので、これだけは気をつけた方がいいですよ!

追記: 文中に「アイリッシュ・コーヒー」というものが出てきましたが、これは、暖かいコーヒーの中に、砂糖を少しと、アイリッシュ・ウイスキーをいっぱい入れて、最後に生クリームをドンとトッピングしたものです。かなりウイスキーの量が多いので(コーヒーの半分の分量のウイスキーを入れる)、お酒が飲めない人とかお子様にはお勧めできません。
 なんでも、1940年代、寒い冬に船でアイルランドに渡って来たアメリカ人観光客のために、コーヒーにウイスキーを入れてあげたレストランのシェフがいて、そのジョセフ・シェリダン氏という方が、アイリッシュ・コーヒーの「発明家」として知られているそうです。たしかに、お酒を飲むと体が温まりますものね。冬の寒さが厳しい地方では、どこも「飲ん兵衛さん」が多いのです。

実は、サンフランシスコにも、The Buena Vista というアイリッシュ・コーヒーで有名なカフェがあるのですが、なんでも、このお店は、アメリカで最初にアイリッシュ・コーヒーを出したところなんだそうです。
 1953年に、カフェを訪れた有名な旅行ライターがアイルランドの空港で飲んだ「おいしいコーヒー」の話をしていて、それを耳にした当時のカフェのオーナーが、苦労してアイルランドの味を再現なさったんだそうです。最初は、なかなかコーヒーに合うウイスキーに出会わなかったり、上に浮くはずの生クリームが底に沈んだりと、かなりの苦労があったようですが、生クリームを48時間寝かせて、均一のキメで泡立てることによって、「白鳥のように」クリームが浮くようになったとか。(この苦労話は、The Buena Vistaカフェのウェブサイトに載っております。)
 こちらは昔から有名なカフェなのですが、観光スポットとして名高いフィッシャーマンズ・ウォーフ(Fisherman’s Wharf)やギラデリーのチョコレート屋さん(Giradelli Chocolate)の近くにあって、ひと休みするのには最適な場所となっております。


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