Essay エッセイ
2019年02月20日

花束をどうぞ

先日は、ヴァレンタインデー(Valentine’s Day、バレンタインデー)でしたね。



この日のサンフランシスコ・ベイエリアは、雨が降ったり止んだりの生憎のお天気。サンノゼからサンフランシスコに向かいながら、ところどころで激しい雨に降られました。



そう、サンノゼからフリーウェイを北上すると、サンフランシスコ半島にある諸都市を縦断するので、それぞれの街の雰囲気が違うように、雨の降り方も違ってくるのです。



ベイエリアはよく「マイクロ気候(microclimate、微気候)」と呼ばれますが、狭いながらも、それぞれの地形や海からの距離が天候を大きく左右します。ある場所では大雨でも、5分走るとカラリと晴れていることも多いのです。



こちらは、サンノゼからちょっと北に向かったスタンフォード大学(Stanford University)のある辺り。フリーウェイ280号線沿いには牧草が広がり、牛たちがのどかに草を食んでいます。



広大な牧草地はスタンフォード大学が所有するもので、ここだけは、ぽっかりと雨雲にあいた「穴」に覆われていました。



丘の上には1960年代に築かれた巨大なアンテナもあって、ちょっとした地元の名物になっています。



今は現役を退いていますが、大気圏の謎を探ったり、宇宙に打ち上げられたロケットや人工衛星と交信したりと活躍してきました。丘の周辺は自然のまま残されているので、高い山頂でなくとも、十分に観測が行えたのでしょう。




半島を北上して、サンフランシスコの街に近づくと、雨は止んでいるものの、空はどんよりと曇っています。また西の方からひと雨来ても、おかしくないくらい。



連日、そんな空模様が続いているので、例年よりもひんやりとしたお天気です。そう、今年サンフランシスコは、記録的な寒さだとか。2月としては、1949年以来、二番目に寒いそうです!



せっかくのヴァレンタインではありますが、お祝いムードに水を差すような天候です。



けれども、ひとたびフリーウェイから街中に降り立つと、こんな男性を見かけました。



ほら、赤いバラと白い花の束をうやうやしく掲げて、さっそうと歩いている男の人。右手には、彼女に渡すものか、メッセージ用のカードも持っています。



そうなんです、以前から何度も書いておりますが、アメリカではヴァレンタインデーには、男性から女性に贈り物をする習慣になっています。



お花とシャンペン、お花とチョコレート、お花とアクセサリーといったコンビネーションが多いですが、お花とカードに込めたメッセージというのもポピュラーです。そう、ヴァレンタインデーの「王道」といった感じでしょうか。



夕方の帰宅時間ともなると、サンフランシスコの街角では、カード屋さんに人が群がります。



いつもはカード屋さんでは見かけないような男性のお客さんが多かったですが、女性のお客さんも訪れます。ダンナさんに(義理)カードをあげようとしているのかもしれません。



街を散歩していると、花束を持ち帰る人もたくさん見かけました。彼女とレストランで待ち合わせをしているのか、それとも、彼女を自宅に招いて手料理を振る舞おうとしているのか、みなさん足早に目的地に向かいます。



近頃は、男性だって自宅でディナーを準備して、お相手を招待すること(a date night at home)も多いですからね。花は、お皿の上の手料理にも、グンと彩りを添えてくれます。



が、さすがにここは、サンフランシスコ。女性だって堂々と花束を抱えている方がいらっしゃいます。



想像するに、こういった女性の方々は、パートナーの女性にお花を贈ろうとしているのだと思います。だって、奥さんからダンナさんに花束をあげる人は少ないでしょうから、女性から女性に差し上げると考えた方が自然でしょう。



ご存じのように、サンフランシスコは同性カップルが多いことで知られる街。そういった街ですので、お花を抱えるのは、男性だけの特権ではありません。




アメリカの中でもリベラルなカリフォルニア州では、早くから「ドメスティック・パートナーシップ(事実婚)制」が布かれ、同性カップルの州内での権利も拡大されてきました。



現在は、同性カップルの婚姻(same-sex marriage、同性婚)も法的に認められています。



ですから、他州や外国で結婚した同性カップルの方々も、婚姻関係が法的に認められます。



法的に婚姻が成立するということは、相続権もあるし、パートナーの末期医療に関する決断も下せるし、男女の夫婦と同じ権利を持つということです。



けれども、これに至るまでには、さまざまな法廷での争いがありました。ひとたび婚姻を認められた同性カップルの方々も、争いの場が州の最高裁から国の地区裁判所、控訴裁判所、連邦最高裁判所と変わるたびに、「自分たちの法的な立場はどうなってしまうのだろう?」と不安を抱き続けました。



真っ先にサンフランシスコの市長さん(結婚証明書を発行する権限を持つ郡長を兼ねる)から結婚証明書をいただいた同性カップルの方々は、2004年のヴァレンタインデーの頃から2013年にカリフォルニア州で同性婚が定められるまで、実に9年もの間、争いの渦に巻き込まれてきました。



判決が下されるたびに、喜びを噛みしめたり、意気消沈したりと、精神的な起伏を乗り越えるのも大変だったことでしょう。



今ではもう、当たり前となった同性婚ではありますが、これまでどれだけの方々が心を痛めたことだろうと、道ゆく人々のヴァレンタインデーの花束を見ながら、厳粛な気分になったのでした。



想いを語るのに、性別は関係ないはずなのに・・・と。





この話題に興味のある方へ: 現在は、アメリカのすべての州(首都ワシントンD.C.とアメリカ領を含む)で同性婚が認められています。が、その最先端ともなったカリフォルニア州が法律制定に至る道のりは、本当に紆余曲折でした。



上でも触れたように、2004年のヴァレンタインデーをはさむ5日間、サンフランシスコ市長(現カリフォルニア州知事のギャヴィン・ニューサム氏)が同性カップルに結婚証明書を発行したのが、全米に「同性結婚(same-sex marriage)」を知らしめるケースとなりました。



すぐさま法廷での争いが始まるのですが、2008年5月には、州最高裁も「同性カップルの婚姻を認めないのは、平等を唱える州法に反する」という判決を下し、これを機に結婚証明書を手にするカップルが増えました。(こちらは51年連れ添い、2004年に記念すべき結婚一組目となった女性活動家、フィリス・ライオンさんとデル・マーティンさん。州最高裁の判決を受けて、サンフランシスコ市庁舎でお祝いパーティーが開かれました)



ところが、わずか半年後の2008年11月、反対派が中心となって民意を問う州民投票が行われ、僅差で反対派の提案(Proposition 8)が可決されて、「同性の者同士の婚姻を禁ずる」と州法改正がなされました。



そこから法廷での争いが複雑化するのですが、すったもんだの末に、2013年6月、国の最高裁判所が結果的に同性婚を肯定する判決を下し、カリフォルニアで同性婚が法的に定められることになりました。



以前こちらにも書いたことがあるのですが(第3話「最高裁のパワフルな判決」)、このときの判決は、「同性婚を認めるぞ」という肯定的なものではありませんでした。「そもそも訴えを起こした側(反対派)は、何も不利益を被っておらず、訴える立場にはない。ゆえに提訴をしりぞける」という消極的なもの。州最高裁へと差し戻しとなり、それが、結果的に反対派を封じ込めることとなりました。



ちなみに、全米で最初に同性婚が州法として制定されたのは、東海岸のマサチューセッツ州です。カリフォルニアがこれに続き、少しずつ他州にも波及していきます。そして、2015年6月、連邦最高裁判所が「同性婚を認めないのは、基本的人権を定める米国憲法修正第14条に反する」という画期的な判決を下し、同性カップルの婚姻制度は全米に広がりました。



それから数年の歳月が流れ、以前のように同性婚が取り沙汰されることもなくなりました。少なくともカリフォルニアの都市部では、同性のカップルが手をつないで歩こうと、結婚式を挙げようと、ほほえましい光景として受け入れられるようになっています。




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