Essay エッセイ
2013年06月01日

「おにぎり」ショートストーリー

いえ、たいしたお話ではありません。

先日、連れ合いと一緒に、刑事モノの2時間ドラマのDVDを観ていたときのことです。

寺脇康文さん演じる警視庁捜査一課の刑事が、「犯人扱い」されている奥さんを助けようと真相を解明するストーリーでしたが、この刑事さんが、意外にも料理がお得意!

「やり手刑事」のイメージとは裏腹に、かわいらしいエプロンが堂に入っています。

手芸が得意で、料理は大の苦手の奥さんになり代わり、一家のお食事を甲斐甲斐しく世話してくれるのです。

めでたく事件が解決し、最後はみんなで仲良く「公園のピクニック」となったのですが、問題は、このシーン。

さ、みんなでご飯にしましょう! と開けたお弁当箱には、おにぎりや卵焼きがずらり。このシーンを観て、連れ合いが、あるイヤな記憶を取り戻したのでした。

何年か前、みんなでピクニックに行ったら、こんなことがあった・・・と。


最初はうろ覚えだったものが、思い出そうとするとだんだんと「痛み」が鮮明によみがえってきたみたいで、こんなストーリーとなりました。

シリコンバレーに引っ越して来る前、ふたりで東京近郊の外資系コンピュータ会社に勤めていた頃。

連れ合いの課でピクニックがあったので、彼は張り切ってお弁当をこしらえました。卵焼きに豚肉のケチャップソースがけ。もちろん、おにぎりは欠かせません。

そして、お昼になって「さあ、食べて!」とお弁当を開いたのはいいのですが、「このおにぎりは、僕がつくったんだよ」と説明すると、おにぎりに伸びていたみんなの手が、突然止まってしまった。

みんなは、わたしがつくって持たせたおにぎりだと勘違いしていて、それだったら食べたい! と手を伸ばしたようです。でも、それが連れ合いのおにぎりだとわかると、まるでバイキンでもくっついているかのように毛嫌いした・・・と。

ドラマを観てこの悲話を思い出した連れ合いは、「みんな、そんなに僕の手がきたないと思っていたのかなぁ」と、ため息まじりに言うのです。

ま、たしかに、女性の手よりはゴツいですし、見目麗(みめうるわ)しくはないですが、それでもちょっとひどいですよねぇ。

だって、せっかく「みんなに食べてもらいたい」と、愛情を込めてつくったのに。


我が家でも、ドラマみたいに、わたしが仕事場にこもっているときには、連れ合いが夕ご飯をつくるのが恒例になっています。

ときどき、「今夜は何にしようかな?」と、冷蔵庫の前でほほに手を当てて考えているみたいですよ。自分は「冷蔵庫の掃除係だ」なんて自慢するくらいですから。

そして、ピクニックのお弁当にいたっては、彼がつくるのが習わしになっています。なぜって、全般的に料理は大好きだけど、お弁当づくりはとくに好きだから。

お弁当をつくっていると、「どこかにお出かけ!」と、ウキウキするんだそうです。

そんな気持ちを裏切られるような「おにぎり悲話」を聞いて、わたしはなんとなく気の毒な気分になっていたのです。

が、連れ合いはきっぱりとこう言うんですよ。

僕が悲しかったのは、べつに自分のおにぎりを食べてもらえなかったからじゃないよ。おにぎりがたくさんあまって、捨てられるなんてかわいそうじゃない、と。

なるほど、それも一理ありますか。

追記: 冒頭の写真は、5月に滞在していた東京のホテルで撮った、ある日の昼食。コンビニのおにぎりと苺です。個人的には「南高梅」のおにぎりが気に入っているのですが、近頃は、コンビニの食べ物もずいぶんとおいしいですねぇ。

そして、最後の写真は、ホテルのレストランで特別に握ってもらった梅おにぎり。メニューにはないのですが、「つくってよ」と頼んだら、ちゃんとつくってくれました。

やっぱり、おにぎりにすると、格別な味がするような!


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