Essay エッセイ
2011年03月14日

がんばれ、ニッポン!

東北沖の大地震から最初の日曜日。この朝は、いつもよりも早く目覚めたのでした。
 頭上をバリバリとジェット機が飛んで行って、その大きな騒音で目が覚めたのです。

サンノゼ市南端にある我が家の真上を、民間のジェット機が飛ぶことはありません。ですから、アメリカ軍の戦闘機だったのでしょう。
 そして、飛行ルートから考えると、たぶん海軍の空母艦載機「F/A-18」だったんじゃないかと思うのです。

日本での救援活動のために、南カリフォルニアのサンディエゴ海軍基地を母港とする原子力空母「ロナルド・レーガン」が派遣されたので、想像するに、アメリカ国内でも軍の要員の配置換えが起きているのではないでしょうか。

ですから、日曜日にもかかわらず、南の海軍飛行場からシリコンバレー辺りにまで戦闘機が「出張」していたのではないかと、勝手に想像してみたのでした。


そんな物騒なお話だけではなくて、シリコンバレーでも身近な所で日本のことを考えていらっしゃる方々を見かけました。

たとえば、お買い物に行った日系スーパー。マウンテンヴュー市にあるニジヤさんの前では、大きな箱を抱えて募金活動をなさっている方々がいらっしゃいました。

最初は、赤十字社(Red Cross)の募金運動かと思ったんです。なぜなら、アメリカの赤十字はいち早く募金活動を始め、ケータイのテキストメッセージを送るだけで簡単に募金できるシステムを採用して、積極的に募金を集めているから。

けれども、こちらにいらっしゃる方々は、台湾をベースにした仏教徒の団体のようでした。

ちょっとお話を伺ってみると、こちらの団体(仏教慈済基金会)は、普段から世界中で救援活動を行っていて、すでに日本にも毛布などの救援物資を送ったんですよ、とのことでした。

なんでも、500ミリリットルのペットボトル数十本をリサイクルすると、その再生ポリエステルから毛布が一枚できあがるそうで、そんなリサイクル毛布を被災地に届けているそうなのです。

毛布だけではなくて、食料や薬品といった救援物資も世界各地に送っているとのことで、昨年のチリ地震では、現地の方々に大変喜ばれたという実績もあるそうです。

そんな彼女たちが抱えるプラカードには、「Help Japan with Love(愛をもって日本を助けましょう)」と書かれているのです。


東北沖で大地震が起こったとき、カリフォルニアは木曜日(3月10日)の午後10時近くでした。

10時のローカルニュースを観ていると、突然、緊急ニュースが割り込んできて、日本で大地震が起きたというではありませんか!

その後、11時のローカルニュースでは、津波の中継映像が画面いっぱいに流れるのです。たぶん仙台市郊外をとらえたヘリコプター映像だったのだと思いますが、もう、アメリカ人も何人も関係なく、ただただその映像のものすごさに絶句していたのでした。

そんな映像を目の当たりにしたカリフォルニアは、日本と同じ地震国。「Ring of Fire(火の輪)」と呼ばれる環太平洋地域に属していて、地震もしょっちゅう経験します。ですから、カリフォルニアの住民にとって、日本の地震は、決して人ごとではありません。

そして、真夜中の1時を過ぎると、シリコンバレー辺りにも津波警報(Tsunami Warning)が発令され、「午前8時になると、カリフォルニアの湾岸地区にも津波がやって来るぞ」と注意をうながすのです。

実際、翌朝8時過ぎには、アメリカの太平洋岸にも津波がやって来て、カリフォルニア北端のクレセントシティーや、シリコンバレー近くのサンタクルーズ(サーフィンのメッカ)といった港街では、停泊中のボートが流されたり、沈没したりと、数十億円規模の被害が出たのでした。(記事にある右下の写真は、クレセントシティーの港です。)

そして、北部のクラマス川河口では、津波の様子をカメラに収めようとした25歳の男性が海に流され、命を落としたのでした。


大地震のあと、アメリカ人の方々からは「あなたの家族は大丈夫?」と気遣いの連絡をいただきました。

同じようなことは、海外在住の日本人の方が Twitter(トゥイッター)で書いていらっしゃいました。街を歩いていると、見ず知らずの方からも「あなた日本人でしょ?家族は無事なの?」と尋ねられると。

あまりの被害の甚大さに、こんなことをおっしゃった方もいらっしゃいました。「You’re almost like mourning.(あんなことがあって、あなたは喪に服しているようなものよね。)」

そして、イギリス在住の日本人の方は、「パソコンの前から離れられない」とつぶやいていらっしゃいました。
 それは、まったく同感なのです。日本から遠く離れていると、とにかく現地の様子を知りたくて、インターネットに頼っているのです。

幸い、今は日本の放送局のニュース・ライブ配信をパソコンで観られるだけではなくて、アップルの「iPad(アイパッド)」みたいな身近なタブレット型パソコンもあります。
 ですから、わたしなどは、仕事部屋のパソコンから離れると、キッチンでも居間でもiPadで日本のニュースを流しています。

残念ながら、iPadでは「Flash(フラッシュ)」と呼ばれる動画規格を採用するニュース映像は観られないので、NHKは観られないという制限があるのですが。

(その後、iPadでもNHKを観られるようになったのですが、きっと配信サーバに負荷がかかり過ぎているのでしょう。声しか聞こえない場合が多くて、まるでラジオみたいになっています。)


日本時間の未明にニュース配信を観ていたとき、画像の脇の掲示板にこんな書き込みが出てきました。

どうしても時差の関係で、日本の未明には海外からの書き込みが増えてしまうのですが、これに対して「海外に住んでるって自慢しなくていいよ」と憤慨のコメントが書かれていたのです。

たしかに、「ドイツ在住です」だの「アメリカ在住です」だのと次々に自己紹介されると、鼻につく場合もあるでしょう。けれども、「外国にいる」と明記する裏側には、「自分は遠くにいて、募金をするか、遠くから祈るしかない」という「ふがいなさ」や「無力感」もあるのだと思います。

できることなら、自分も被災地に飛んで行って、何かしら助けになりたいけれど、生活の場を離れるわけにもいかない。だから、遠くから祈っておりますよと。


週末明けの日本の月曜日。NHKの番組を観ていたら、被災地の方がこんな悲嘆をあらわになさっていました。

「もう何もかも失ってしまいました。命は助かったけれど、それが良かったのか悪かったのか、今はまだわからない」と。

絶望感にうちひしがれている人に「そんなこと言わないで、がんばって!」などと無責任なことは言えないでしょう。自分で体験していない限り、その痛みを知ることは難しいのですから。

けれども、痛みは、いつかは和らぐもの。今は、ただただ「早く立ち直ってほしい」と、遠くから静かに願っているところです。

そして、被災地に集中する原子力発電所がなんとか持ちこたえてくれますようにと、世界中が祈っているのです。


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