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ライフ in カリフォルニア/日常生活
Life in California ライフ in カリフォルニア
2006年11月18日

コミュニケーションの道具

近ごろ、日本では、友達とのコミュニケーションといえば、もっぱらケータイメールなのでしょうか。

8年ほど前、NTTドコモが発表した「iモード」に端を発し、またたく間に、なくてはならないものの筆頭となってしまいましたね。

まあ、ケータイメールは、携帯電話ひとつ持っていればいいわけだし、相手がすぐに答えられない場所にいても、じきに意志が通じるという便利さがあるんですよね。


ところが、アメリカの場合は、日本とだいぶ状況が違っているのですね。

アメリカでは、ケータイメールの代わりに、「テキストメッセージ(text messages)」というのが流行っているのです。
 ショートメッセージとも呼ばれていて、ショートメッセージ・サービスを略して、「SMS」と表記されることもあります。

日本ではあんまりお馴染みではありませんが、声の会話の代わりに、ケータイのキーボードを使って、短い文章で会話するものなのです。ケータイメールと違って、リアルタイムで会話することになります。

たとえば、「今どこにいるの?」という問いかけに、「スタバの前よ」と、短く答えるとか。

ティーンエージャーなんかは、携帯電話でペチャクチャしゃべるのも好きですが、このケータイでできる文字の会話も大好きなんですね。

わたしにはよくわかりませんが、このテキストメッセージ専用に、暗号みたいな文章も発達しているようです。

まあ、短い会話で済むし、声では言いにくいことも、文字だと素直に書ける。そんなことが、テキストメッセージの人気の裏側にあるみたいですね。


で、この文字の会話は、意外なところで重宝されているのです。

聴覚に障害がある人たちにも利用できるからです。

長年アメリカには、聴覚障害のある人が利用できる電話サービスがありました。TDDというのと、TRSという2種類があります。

TDD(Telecommunications Devices for the Deaf)というのは、別名「テレフォンタイプライター(TTY)」とも呼ばれていて、電話線につなぐタイプライターみたいなものです。
 この機械には、タイプライターみたいにキーボードがあって、小さな液晶のディスプレーが付いています。このディスプレーに、相手が打った文章が文字となって現れるのです。こちらも、同じような機械を利用して、答えの文章をタイプし、会話が進んでいきます。

一方、TRS(Telecommunications Relay Services)は、「リレーサービス」というその名の通り、電話のオペレーター(交換手)が介入するものです。相手が打った文字をオペレーターが受け、それを声に出して読んでくれるのです。こちらの言ったことは、オペレーターが文字にして相手に伝えてくれます。
 この方法だと、こちらが専用の機械を持っていなくても、相手と会話ができるのですね。


まあ、こういったサービスがあれば、遠く離れていても、ある程度のコミュニケーションはできるようになりますね。ただ、自宅から一歩外に出ると不便だという欠点はあります。

そこで、登場するのが、携帯電話。近頃の携帯は、音声ばかりじゃなくって、テキストメッセージができます。そして、一般の消費者にはあんまりポピュラーではないですが、メールだって可能です。そういったところが、格段に便利になっているんですね。

たとえば、こんなお話がありました。

ワシントン州にあるギャローデット大学。ここは、アメリカで唯一、聴覚障害を持つ人のための大学です。

ここで巻き起こったのが、学長の交代劇。先生も学生も、次期学長としてやって来る御仁が気に入りませんでした。彼女は同校の前学長だったこともあり、その仕事ぶりはよく知られていたのです。

そこで、反対派の学生たちは、携帯電話のテキストメッセージを使って、仲間を瞬時に集めます。「今から、あの建物の前で抗議行動に出るぞ!」と。

そんな抗議行動が何回も繰り返された結果、大学側もとうとう根負けしてしまって、学長任命を無効にすることが決まったそうです。

たかがテキストメッセージ。でも、その力を、あなどることなかれ!


このギャローデット大学では、ある機種が、一番人気を誇ります。携帯キャリアT-Mobileが提供する「Sidekick(サイドキック)」というスマートフォンです。

画面がパカッとスライドし、中から、かなり大きな使い易そうなキーボードが出てくるのです。
(写真は、2003年にアメリカ市場に新登場した「元祖Sidekick」です。シリコンバレーのDangerという会社が開発したものです。)

近頃、かわいいピンク色の機種も出たし、ファッションデザイナーがデザインした、とってもカラフルな「Sidekick 3」という新バージョンも出ています。

その愛らしく、奇抜なデザインから、発売当初からティーンやセレブの間で人気を博したものですが、パリス・ヒルトンなんかも、ピッカピカのスパンコールの付いたSidekickを愛用していたようですね。一度、彼女がどこかに置き忘れて、たくさんのセレブの電話番号がもれてしまったという、大騒ぎがありましたっけ。

それから、日本では放映していないのかもしれませんが、アメリカの人気テレビドラマ『ギルモア・ガールズ(Gilmore Girls)』でも、大学生の主人公・ローリーが、ロンドンに行ってしまったボーイフレンドと、テキストメッセージで会話するシーンなんかが出てきます。
 優等生のローリーが赤面してしまうようなきわどい会話も、文字を打つと、簡単にできるんだとか。

この「Sidekick」を出しているT-Mobileは、音声なしの、文字だけのサービスを提供しているので、そういった点からも、聴覚に障害がある人には、ありがたいキャリアなのかもしれません。


いつか、連れ合いが、こんな電話をもらったことがありました。

わたしは電話会社の交換手です。こういう方があなたと話したいと言っているけれど、電話を受けてもらえますか?と。

電話のお相手は、以前、同じ会社に勤めていたお友達でした。彼は、あまりよく耳が聞こえないのです。

そこで、連れ合いは、交換手を通して、この方との会話を楽しんだそうですが、別れ際にこう言われたそうです。

なかなか、このTRSというサービスをすぐにわかってくれる人はいなくって、「間違い電話ですよ」と、プツッと切られる場合もあるのですと。

普段、何気なく使っている電話。テクノロジーの発展とともに、みんなが分け隔てなく、便利に利用できるようになる日も近いのかもしれません。


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