Life in California
ライフ in カリフォルニア/日常生活
Life in California ライフ in カリフォルニア
2014年04月18日

サンノゼって、どんなとこ? ~観光編その2

前回は『サンノゼって、どんなとこ? ~観光編』と題して、サンノゼから足を伸ばせる観光地のお話をいたしました。

成田空港からは、サンノゼ(ノーマンYミネタ・サンノゼ国際空港)に向けてANAの直行便(NH 1076便、10月以降は 172便に改名)が出ていますので、有名なサンフランシスコからだけではなく、サンノゼからも、気軽に観光地に行けると思ったものですから。

中でもモントレーカーメルは、一押しの観光地ですので、前回は二つの街の周辺をご紹介いたしました。

そして、今回は、もっと南に足を伸ばしましょう。

前回のモントレーとカーメルは、サンノゼから南に一時間ほどの太平洋沿いの街でしたが、もっと南に行くと、これまた有名な観光名所があるのです。

その名も、ハーストキャッスル(Hearst Castle)。

キャッスルというと「お城」ですが、まさにヨーロッパのお城みたいな豪邸が建っていて、州に寄贈された現在は、ツアー見学ができるようになっているのです。

でも、お城に行く前に、寄ってみたいところがいくつかありますので、まずは、そちらのお話からどうぞ。


サンノゼから南下してモントレーとカーメルの街を過ぎると、州道1号線(CA-1)は、ひたすら南に海沿いを走ります。

カーメルを過ぎた辺りでは、まだ平地を走りますので、たとえば、ポイントロボス州立自然保護区(Point Lobos State Natural Reserve)に立ち寄って、海を間近に感じるのもいいのではないでしょうか。

以前『モントレーのおみやげ話』でもご紹介したように、この辺りは海の幸が豊富だったので、19世紀後半、北カリフォルニアに移住してきた中国系の方々が、アワビ漁をしようと早くから居住区とした場所でした。

今では、人が住んでいた気配はほとんどなく、晴れた日には、真っ青な海の色を満喫できます。

この海の色とオブジェのような岩礁は、好んでアーティストが取り組む題材ですので、もしかするとスケッチブックを広げている方を見かけるかもしれません。

時間がなければ、海まで散歩して引き返すだけでも十分にリラックスできるし、時間に余裕があれば、公園管理官がガイドする散歩コースに参加すると、辺りの自然や歴史について物知りになれるでしょう。


ポイントロボスを越えると、1号線はだんだんと海から離れた高い場所を走るようになります。

カーメルの街から30分ほど下ったところには、ビックスビークリーク(Bixby Creek Bridge)という橋があって、こちらも1号線沿いの名所です。

高さが85メートルもあるコンクリート橋で、高いゆえに、見晴らしも抜群! 南下するときに助手席(右側)に座っていた人はラッキーでしょうか。

1930年代にこの橋ができる前は、冬の雨季になると、内陸の道路が土砂崩れで通れなくなって、ここから南のビッグサーの辺りは「陸の孤島」になっていたそうです。この橋は、美しいばかりではなく、立派な生活道路なんですね。

(間近に写真を撮ってみたいところですが、この橋は狭くて駐車できませんので、遠くから撮るか、離れた場所に駐車して歩いてカメラアングルを探すかしかないでしょうか)


ビックスビー橋から南は、ビッグサー(Big Sur)と呼ばれる地域で、切り立った崖がいくつも重なる海岸線となります。

霧に包まれた墨絵のようなビッグサーの崖の連なりは、絵はがきにもなるほどのカリフォルニア屈指の海岸線です。

ここは景色がきれいなばかりではなく、海洋生物がたくさん生息する地域でもあります。

モントレーにもいるカリフォルニアアシカ(California sea lion)が住んでいますし、年に2回ザトウクジラ(humpback whale)が訪れ、小高い丘からは潮吹きが見られます。

この辺りのラッコ(sea otter)は、モントレーのラッコの「祖先」でもあるそうです。なんでも、19世紀末にラッコが乱獲され、モントレーからは姿を消してしまいましたが、ビッグサーのラッコが北に生息地を伸ばしていったおかげで、今はモントレーでも繁殖しているとか。

ラッコには、1平方インチ(約2.5センチ四方)に人間の髪の毛以上の毛が生えているそうで、世の中で一番密度が濃い毛皮だそうです。ですから、皮を採るために、人間に乱獲されたのでした。

ビッグサーは、海洋生物だけではありません。

南に行くにしたがって山の緑が濃くなっていくのですが、この辺りのセコイア(redwood)の森には、一時は絶滅に瀕していたカリフォルニアコンドル(California Condor)が生息するそうです。

コンドルは、他の動物を捕らえるワシやタカとは違って、海岸に打ち上げられたアシカや陸上動物の死骸を食べるそうですが、くちばしは鋭く、アシカのような大きな動物でもうまく食いつきます。
 顔にはシワがあって、なんとなく絵本に出てくる西洋のおばあちゃん(!)みたいですが、大空を優雅に飛び、獲物をめざとく見つけるのです。(Photo of California Condor at San Diego Zoo from Wikipedia)

カリフォルニアコンドルの他にも、タカ(Red-tailed Hawk、アカオ・ノスリ)やヒメコンドル(Turkey Vulture)のような大型の鳥たちも生息していて、1号線からは「濃い緑の山」にしか見えない地域にも、さまざまな野生のドラマが繰り広げられているようです。

この辺りは、ロスパドレス国立森林の中でも「ヴェンタナ原生地域(the Ventana Wilderness)」と呼ばれるところで、コンドルやアメリカの国鳥ハクトウワシ(Bald Eagle)の再生・野生復帰(restoration/reintroduction)に努める保護区です。

自然を楽しめるようにハイキングコースがいくつもありますが、コヨーテやクーガー、ガラガラヘビもたくさんいるそうですので、山に分け入るときには、自然の生き物と出くわす心構えをしておいた方がいいかもしれませんね。


自然がとくにお得意じゃなくても、もちろんビッグサーを満喫できます。

1号線沿いには、有名なリゾートが2つあって、こちらに泊まれば、のんびりと海を眺めながら息抜きができるのです。

ひとつは、1号線の山側にあるヴェンタナ・イン(Ventana Inn & Spa)。

ログキャビンみたいな部屋でキャンプ気分を味わえますし、高台にある施設なので、見晴らしのよい屋外スパにつかると、目の前に広がるのは太平洋の大海原のみ。

わたしも何年も前に宿泊したことがありますが、ピクニックランチを準備してもらって、1号線沿いで海を見ながらお弁当を楽しんだ記憶があります。この辺りの海は、紺碧だったり、ターコイズだったりと、豊かな表情で迎えてくれるのです。

こちらのリゾートはウェディングでも知られていて、ショートカットにした女優のアン・ハサウェイさんが、電撃的にご結婚なさった場所でもあります。

そして、もうひとつのリゾートは、海側にあるポストランチ・イン(Post Ranch Inn)。

こちらは、さらに海に近いので、潮風を肌で感じられる立地です。

崖の上に建つ部屋(Cliff House)や、丘に溶け込むような部屋(Ocean House:写真)、そして冒険心をくすぐる木の上の部屋(Tree House)と、それぞれに特徴があって、どれにしようかな? と迷うようです。

まだ泊まったことがないので、「ぜひ泊まりたいところ」として心に留めています。


というわけで、いよいよ目的のハーストキャッスルに近づいてきました。

ハーストキャッスルのある地域は、サンシメオン(San Simeon)と呼ばれますが、キャンブリア(Cambria)という小さな街の手前にあって、「大自然の中」という表現がぴったりでしょうか。

サンシメオンの海岸線には、大きな海洋生物がゴロゴロしていますが、こちらはアシカではなく、キタゾウアザラシ(Northern elephant seal)。

この辺のゾウアザラシは、一度は乱獲で絶滅しましたが、メキシコから北上してきたゾウアザラシが繁殖して、ここまで増えたと聞いたことがあります。なんでも、脂を採って灯油にするために乱獲されたそうですが、先述のラッコのお話と似ているでしょうか。

動物って、本来は何にでも興味を持つ(curious)生き物で、人間も友達だと思って近づいてくるのでしょうが、人の目には、モノとしてしか映っていなかったのでしょう。

一方、こちらは、サンシメオンの春の野原。ちょうど10年前に撮ったものですが、今でもお気に入りの風景写真になっています。
 オレンジ色の花は、カリフォルニアの州花「カリフォルニアポピー」。そして、教会の後ろの山頂に建つ建物群がハーストキャッスルです。

ハーストキャッスルには車では登れませんので、車は平地の駐車場に置いて、ビジターセンターでツアーチケットを購入し、そこからバスで坂道を上ることになります。

ツアーの種類は3つあって、時間帯によっては「これしかない」という場合もありますが、どれを選んでも十分に楽しめると思います。春と秋には、夕日を楽しむ夜のツアーもあるそうですよ。


さて、ハーストキャッスルに近づくと、教会みたいな荘厳な建物が見えてきますが、こちらが「母屋」のカサグランデ(the Casa Grande)。

スペイン語で「大きな家」という意味ですが、文字通り巨大な建物で、面積からすると、アメリカの平均的な一軒家の30戸分といったところでしょうか。

スペイン風の外観ですが、内部はヨーロッパ各地の建築様式を取り入れています。ヨーロッパの古城から運ばれた柱や装飾が、うまくインテリアに組み込まれていて、中には部屋全体をそっくりそのまま復元したものもあります。

この巨大な母屋だけではなく、敷地にはゲストハウスが3つあって、いずれも贅を尽くした建築様式と下界を見下ろす眺望を誇ります。

ところで、名前がついている「ハースト」というのは、新聞王で政治家のウィリアム・ランドルフ・ハースト(William Randolph Hearst)のことです。

19世紀末から20世紀前半にかけて、アメリカ社会(西海岸と東海岸)で大きな影響力を持っていた方で、「お城をつくってやろう!」などと考えることだって大きいのです。

お城は、1919年、サンフランシスコ生まれのハーストが56歳のときに建築が始まったものですが、それまでサンシメオンに来ると山頂にテントを張って過ごしていたのが辛くなって「平屋建て」を建てようと思い立ったとか。

それが、いつの間にか「お城」の構想にふくらんだようですが、趣味で集めたアートや骨董品(約2万5千点)を展示する空間も欲しかったのでしょう。

一般的には、この年にスペイン風邪で亡くなったお母さんに捧げられたものと言われますが、この頃おおっぴらに「おめかけさん」である映画女優マリオン・デイヴィースと暮らすようになったそうで、彼女との新しい住処という意味もあったのでしょう(別居中の奥さんとは亡くなるまで離婚しなかったとか、できなかったとか・・・)。

お城には、美しいプールがふたつあって、太陽が照りつける夏の日には、ハリウッドから招待したきらびやかな友人たちとプールサイドで水遊びを楽しんだようです。

招待客の中には、チャーリー・チャップリン、ケーリー・グラント、クラーク・ゲイブルといった有名な俳優や、フランクリン・ルーズベルト(第二次世界大戦・戦前/戦中のアメリカ大統領)、ウィンストン・チャーチル(戦中/戦後のイギリス首相)と名だたる政治家もいます。

上の写真のネプチューンプール(the Neptune Pool)は、お城の建築が進み招待客が増えるにつれ、ハーストが2回増築を命じたそうで、ローマ風の建物(写真右端)は、実際にイタリアから運んで来た古代ローマの柱と正面装飾を使っているそうです。

もうひとつのプールはテニスコートの下にある屋内プールで、ローマプール(the Roman Pool)と名づけられています。柱の形やガラスタイルのモザイク装飾がビザンティン風でもあります。

ガラスタイルはヴェニス製で、薄暗い屋内プールには金地の装飾が映え、誰もがため息をつく「作品」となっています。


ハーストキャッスルの建築は、ハーストがハリウッドの病院に移るまで30年ほど続けられ、彼が1951年に88歳で亡くなったときは、未完だったそうです。が、現存する建物群は壮大なばかりではなく、細部まで美しい装飾が施され、見る者を圧倒するのです。

設計したのは、アメリカ初の女性建築家とも言える、サンフランシスコ生まれのジュリア・モーガン(Julia Morgan)。

依頼主のハーストは、ヨーロッパからいろんなものを運んで来ては「これを使いなさい」と命じていたそうで、若い頃からの知り合いだったとはいえ、付き合いにくいところもあったようです。(Photo of William Hearst and Julia Morgan from Wikipedia)

ネプチューンプールの古代ローマの柱だって、最初は庭に置く予定だったのが「池の脇に置こう」「いや、プールサイドに置こう!」と何回も心変わりがあり、結局はネプチューンプールをつくることになったとか(それだって2回も増築となり、設計図は何百枚も書き直し)。

ちなみに、お城の水は、10キロ離れた山頂の井戸から敷地内の水源地に運ぶという、大がかりなシステムで供給されています。

ハーストはまた無類の動物好きだったので、キリンや象、バッファローや虎と野生動物を集めては「動物園をつくってくれ」という依頼もありました。
(写真は、象のメアリーアンにエサを与えるジュリア・モーガン:Photo adopted from Julia Morgan: Architect of Dream by Ginger Wadsworth, Lerner Publications, Minneapolis, 1990, page 98)

以前『カリフォルニアの熊さん』でもご紹介したように、ハーストは、カリフォルニアで絶滅に瀕する野生のグリズリーを捕獲し、サンフランシスコ動物園に寄付した方でもありますが、ハーストキャッスルにも当時世界で一番大きな個人動物園をつくって、招待客に披露していたそうです。

敷地内では「動物が先を行く権限を持つ(Animals Have Right of Way)」というルールがあって、現役の英国首相であるウィンストン・チャーチルも、道路で休むキリンが立つまで身動きできなかったとか!

まあ、そんな大変なお仕事を引き受けた建築家ジュリアさんについては、また別の機会にお話しすることにいたしましょう。

でも、ひとつだけ。このハーストキャッスルに従事していたときには、サンフランシスコで病気の母と弟の面倒を看ていたにもかかわらず、月に3回サンシメオンまで通っていたそうですよ(片道400キロ近い道のりは、その頃どれくらいかかっていたのでしょうか?)。

というわけで、サンノゼからビッグサーを経由して、サンシメオンへ。

サンシメオンまで来れば、カリフォルニアの中間地点で、ロスアンジェルスにももう一息。

けれども、カリフォルニアの海沿いは、先を急がずのんびりと行きましょう。

写真出典: 冒頭と最後のハーストキャッスルの写真は、ハーストキャッスルのウェブサイトより。Ventana Inn と Post Ranch Inn の写真は、リゾートのウェブサイトより。


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