Essay エッセイ
2018年03月07日

スランプのときにはどうするの?

突然ですが、「スランプ」の話題です。



スランプといっても、いろいろありますよね。



なんとなく、勉強や仕事がはかどらないとか、体調がすぐれないとか、人とおしゃべりしていても、いつものように楽しくないとか、自然と、ため息が出てしまうような感じ。



もっと深刻なものになると、「これでいいのかな?」と、自分の生き方にすら疑問を持ちはじめるかもしれません。



それこそ、スランプには、人の数ほど種類があるのでしょう。



それで、今日の「スランプ」は、俳句のスランプなんです。



たとえば、いくらがんばっても、頭をひねっても、いい句が浮かばない。



自分ではいい句だと思うんだけれど、句会で発表すると、評判がかんばしくない。



以前は、もっと調子よくスイスイといい句ができたのに、近頃いったいどうしたんだろう? といったスランプです。



いえ、わたしは、俳句は詠めません。ですから、わたし自身の悩みではないんです。



でも、興味は大いにあるので、NHK・Eテレの『NHK俳句』という番組を観ていたら、スランプの話題が出てきたのでした。


アメリカをはじめとして、海外にいながら日本の放送を観るワザ(正規の方法と裏技)がいくつかあって、我が家は今、有料サービスに入っています。過去一週間の地デジとBSの番組がネット経由で観られるという、ありがたいサービスです。



連れ合いが出張中の日曜日、のんびりとEテレの『日曜美術館』を観ようと番組表を見ると、同じ日曜の早朝に『NHK俳句』なる番組があって、それが先生のトークも軽やかな、テンポのいい楽しい番組だったんです。



毎週ゲストをお招きするようですが、このとき(3月4日放送分)のゲストは、前・横浜高校野球部監督の渡辺元智(わたなべ もとのり)さん(写真右)。横浜高校といえば、松坂大輔投手をはじめとして、数々のプロ野球選手を輩出してきた野球の名門校。



その野球部監督として、長年にわたって逸材を育ててこられた方なので、おっしゃることにも重みがあります。



人を育てるのは、相手のことを思って、相手にわかりやすく伝える言葉。



キャッチボールひとつをとっても、相手がボールを受けやすく、投げ返しやすくするように投げてあげる。それが野球の基本であり、相手とのあいさつでもある、とおっしゃいます。(番組も、監督と俳句の先生の屋外でのキャッチボールで始まる、という意表をつく趣向でした)



その渡辺監督に、俳句の今井聖(いまい せい)先生が「スランプのときには、どうすればいいでしょう?」と質問なさったのです。



どうやっても、うまく言葉が浮かんでこないときには、どうすれば? と。



すると監督は、「そんなときには、一度離れてみる。ちょっと休んで間をおくのがいいですね」とおっしゃいます。



「あ〜、できない、できない」とがんばり続けるのではなく、その場から離れてみて、少し休んでみる。実際、春の大会で横浜高校を優勝に導いた松坂投手には、いったん休息期間を与えて、キャッチボールすらさせなかった。そこからリフレッシュして、新しい気持ちで夏の大会に臨んだのだ、と。



もちろん、できないからって、やめてしまうのは良くないですが、逆に調子が悪いのに、同じように続けているのも良くないらしいです。


そう言われてみれば、思い当たる節がひとつやふたつはありませんか。



わたし自身は、小さい頃からピアノを習っていたんですが、小学二年生のときに一度スッパリとやめたんです。「四年生になったら、また始める!」と母に宣言して。



やめたのは「スランプ」という上等なものではなく、レッスン日の土曜日に友達と遊びたかったからです。それでも、四年生になって宣言どおりにピアノを再開した自分が誇らしくもありますし、あのとき再開したおかげで少しは弾けるようになって嬉しくもあります。



そういった「冷却期間」があるからこそ、戻ったときに、イヤなことの中にも喜びを感じられるのかもしれませんよね。


いや、それにしても、みなさん俳句がお上手ですねぇ。



このときのお題は、「(たこ、いかのぼり)」。

(情けないことに、わたしは凧が「いかのぼり」と読むことすら知りませんでした!)



海外を含めて毎月数千句ほども寄せられるそうですが、その中から、先生が選ばれた9句。どれもこれも「プロか?」と思えるほどの秀作なんです。



そして、9句の中から一席(一番)になったのは、こちらの句。



降りてきた 凧にちょこんと 座る神    吉野ふく(佐賀県唐津市)



高く、高く揚がった凧を、糸をたぐって手元に引き寄せると、パッと地面に凧が降り立つ。そこには、小さな神さまがちょこんと座っていた。



ちょこんと座る神さまは、ユーモアもあるし、読み方によっては、両親やどなたか近しい方が凧に連れられて降りて来られたのかもしれない。



とにかく、この句は視点が新しいし、凧を詠んでいるのに、同時に神を詠む素晴らしさがある。凧が神を連れてきたという奇抜な情景に、確かな実感すらある、との評でした。



こちらは、司会を務めるエッセイストの岸本葉子さんが一番にひかれた句でもありますし、わたし自身の一押しでもありました。



たぶん、いい句というものは、目の前に光景が浮ぶようなヴィヴィッドさがあって、なおかつ、詠む者の気持ちがじんわりと伝わってくる句なんでしょうね。



というわけで、これからやってみようかな? と思い立った俳句。



自分にとっては「スランプ」なんて、まだまだ遠いお話ですが、スランプになるほど上達してみたいものです!





追記:『NHK俳句』の放送日は、Eテレで毎週日曜日の午前6時35分から7時。再放送は、水曜日の午後3時から3時25分だそうです(録画するしかない方も多そうですね)。基本的には、視聴者のみなさんから投稿された俳句を、先生(選者)が選び解説する形式で進められます。



毎月、4人の選者が一週ごとに受け持たれるみたいですが、3月第一週(4日)を担当された今井聖先生(写真右)は、一年間番組を担当されて最後の出演でした。語り口が軽快で、とてもわかりやすい解説をしてくださるので「あ、この先生なら付いていける!」と思ったのに、いきなり降板されるとのことで残念です。次の先生にも「わかりやすさで勝負してほしい!」と期待しているところです。




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