Essay エッセイ
2016年05月06日

ミルクティーって紅茶が先!

先日『ミルクティーってミルクが先?』というお話をいたしました。

 

 イギリスに行くと、どうも紅茶の「お作法」がわからなくて、

 

 いったい何が正しいんだろう? と、ひとり迷っていたお話でした。

 

 それで、困ったときには、誰かに聞いてみようと思い立って、ロンドン出身の友人に質問してみました。

 

 すると、彼なりの明瞭な回答をいただきましたので、ここでご紹介いたしましょう。

 


 まずは、ひとつ目の「謎」: 日本のようにレモンを入れるのは「邪道」であって、イギリスではいつもミルクを入れる?

 

 これは、ずばり、正しくないようです。

 

 もちろん、レモンを入れることは、ミルクに比べて圧倒的に少なく、ミルクの方が常識(norm)になっているとか。

 

 だって、「紅茶にはミルクを入れますか?(Do you take milk with your tea?)」というのは、接待のあいさつ代わりにもなっていますものね。

 

 けれども、イギリス人だって、とくに高級な銘柄を楽しむときには、レモンを入れることもあるそうです。

 

 こういった紅茶の場合は、ティーバッグはいけません。

 

 ティーポットに紅茶の葉を入れて、沸騰したてのお湯を入れ何分か蒸らす、とルールを守っていれた紅茶に、レモンを添えるそうです。

 

これで、ホテルのティールームで「紅茶にはミルクかスライスレモンを入れますか?」と聞かれたのも、ルームサービスの朝の紅茶にレモンが添えられていたのも、大いに納得です。

 

 「レモンを入れる = 品質の高い紅茶」という意識があるので、お客様に「レモンをお出しする」ことは、「良いお茶を使っています」という誇りの表れだったんですね。

 

ちなみに、こちらのホテルでは、紅茶もカモミールティーのようなハーブティーも、ティーポットにはなみなみと葉が入っていて、「濃いお茶」が好みのわたしにとっても、かなり濃い味わいでした。

 

 きっと「葉っぱをケチってはいけない」というのが、こちらのモットーなんでしょう!

 


 というわけで、お次は、ふたつ目の「謎」: ミルクティーにするときに、ミルクと紅茶はどちらが先?

 

 友人が断言するに、「絶対に紅茶が先」だそうです。

 

 こちらは聞きもしないのに自分から教えてくれたのですが、彼の言葉では、

 

 The milk should always be added after the tea, never milk first

 ミルクはいつも紅茶のあとに入れるべきものであって、絶対にミルクが先ではない

 

 ということでした。

 

 「絶対にミルクは先じゃない(never milk first)」とは、彼にしては珍しく強い口調でした。

 

 これには、異論もあるのではないかと思います。

 

 だって、人がやることに「絶対」ということはありませんので、「もちろんミルクが先よ!」と主張する方もいらっしゃることでしょう。

 

 どっちを先に入れるかで、温度や香りや味に変化が生まれる、とも言いますものね。

 

ですから、「紅茶を先に入れた方が香り高い」という意見と、「いや、ミルクを先に入れた方が絶対においしい」と両方の意見があっても、おかしくはないのかもしれません。

 

 ただ、お客様を接待するときに、どういう風に紅茶をいれるか? というのには、何かしら「社会通念」みたいものがあるのかもしれません。

 

 友人は、ウェストミンスター寺院の敷地内にある学校に通っていたらしく、勝手に想像するに、比較的「良いお育ち」のようなので、「自分の一族は、絶対にミルクなんか先に入れないよ!」といった、こだわりみたいなものがあるのかもしれませんよね。

 


 それから、ミルクを入れてミルクティーにするのは、どちらかというと味の濃い「ブレックファースト(Breakfast)系」の紅茶が一般的だ、とも伺いました。

 

ブレックファースト系というと、イングリッシュ・ブレックファースト(English Breakfast)が有名ですけれど、名前のように「朝食」のときに飲むばかりではなく、「朝10時の休憩」とか、「アフタヌーンティー」のときにも飲んだりするとか。

 

 わたし自身も、「がっつり」と渋みと奥行きのあるイングリッシュ・ブレックファーストが大好きですが、こちらは、もともとアメリカスコットランドで広まったブレンドティーである、という説が有力だとか。

 

 まあ、わざわざ名前に「イングリッシュ」と付けたということは、どこか別の場所で生まれて「英国風」と名付けた可能性が高いわけですよね!

 

 でも、今となっては、イングリッシュ・ブレックファーストは「イギリスの紅茶ナンバーワン」みたいなイメージすらあるのです。

 


 それから、友人は、こんな面白い言葉も教えてくれました。

 

 それは、Builder’s tea というもの。

 

 直訳すると「建築関係者(builder)の紅茶」ですが、今では一般的な口語になっているとか(アメリカでは聞いたことはありませんが)。

 

 こちらは「真っ黒(black)に見えるくらい濃い紅茶(strong tea)」という意味で、

 

マグカップの中に直接葉っぱを入れるか、もしくはティーバッグを入れて、とっても濃く出す紅茶のことだそうです。
(Photo by Factorylad, from Wikimedia Commons)

 

 ミルクとお砂糖を入れることも多いそうですが、朝10時や午後3時の休憩に「エネルギー補給」のために飲む紅茶が、Builder’s tea と呼ばれるようになったようですね。

 

 働いている工事現場や工場、オフィスなどでは、悠々とティーポットでお茶をいれる暇はないので、マグカップとティーバッグでチャカチャカっといれちゃいましょう、というわけです。

 

 わたし自身も、いつもそうしているのですが、紅茶の醍醐味って、そういった気取らないところにあるんじゃないかなぁ? と、庶民としては思ってしまうのでした。

 


そういえば、母は若い頃に「イギリス家庭の紅茶とスコーンのティータイムに憧れていた」と聞いて育ったのを思い出しました。

 

 たしかに、ティーポットでお茶をいれて、午後のひとときを楽しむなんて、ぜいたくな過ごし方ですよね。

 

 そんな風に、いろいろと「こだわり」や「決めごと」があるのが紅茶の文化ではありますが、好きなときに、好きようにいれたお茶を楽しむのが、一番おいしいのかもしれませんね。

 


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