Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2007年01月04日

大理石の天井

今日、1月4日、アメリカでひとつの歴史が刻まれました。

女性の連邦下院議長が誕生したのです。

サンフランシスコ選出の民主党下院議員、ナンシー・ペローシ氏が、連邦下院の議場で、華々しく議長となる宣誓をしたのです。

この歴史的瞬間は、各種報道番組で生中継されていましたが、ペローシ氏は初仕事として、同僚の下院議員たちの宣誓を執り行いました。

Nancy Pelosi氏が就任した連邦下院議長は、Speaker of the United States House of Representatives 、略して Speaker of the House と呼ばれます)


え、どうしてこれが歴史的瞬間なの?と思われる方もいらっしゃるでしょうが、連邦下院議長というのは、アメリカという国では、3番目に政治的権力があると言われる立場なのですね。

もし大統領に何事か起こったら、まず副大統領が大統領に指名されますが、万が一、副大統領が就任できない場合は、下院議長が大統領となるのですね。

先日、お葬式が終わったばかりのジェラルド・フォード元大統領は、「大統領ではなく、連邦下院議長になるのが夢だった」と語ったと伝えられています。

それほど、アメリカの政策上、重要な意義を持つ役職なのですね。単に、議長席で踏ん反り返って、トントンと小槌(こづち)をたたく「お飾り議長」というわけではないのです。


このナンシー・ペローシさんは、「初づくし」のお方で、女性初の連邦下院議長であると同時に、イタリア系アメリカ人初、そして、カリフォルニア州選出議員初の議長職を務めることになります。

彼女は、また、過去3期、連邦下院議会で民主党リーダーを務めていて、これも女性としては初めての快挙だったのですね。

1776年のアメリカ建国から230年、そして、1920年の女性参政権を認める法律制定から80余年、彼女の議長職就任は、アメリカ女性による長い闘争の歴史のクライマックスとも言えるものかもしれませんね。


ナンシーさんには、ちょっと意外なところがあるのです。彼女は、とってもリベラルなサンフランシスコ選出の議員として有名なのですが、実は、出身は、首都ワシントンDC近くのメリーランド州ボルティモア市なのです。

ナンシーさんが6人の子供の末っ子として生まれた頃、お父さんはすでに連邦議員を務めていました。その後、ナンシーさんが小学校から大学へと上がる間は、ボルティモアの市長さんも務めていました。お兄さんも、同市の市長となったほどの政治家一家で、ナンシーさんが政治家になったのは、自然な成り行きだったのかもしれませんね。

けれども、彼女は、政治家二世としてエリートコースを歩んだわけではなくて、夫となるポール・ペローシ氏と大学で出会い、結婚し、彼の出身地であるサンフランシスコで子供を5人も育て、それから本格的に政治の世界に足を踏み入れたのです。

今日の議長就任スピーチでも、ご本人がこう言っていました。「わたしはとってもいい子供たちに恵まれたけれど、みんな、台所からわたしを送り出してくれてありがとう」と。

まあ、ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、ナンシーさんは、お目々がクリクリっとしていて、とっても66歳のレディーにはお見受けしません。だから、昔っから、政界の「プリティー・フェイス(かわい娘ちゃん)」などと呼ばれていたくらいで、こんな実力者になるとは、誰も予想していなかったのでしょうね。


彼女には、もうひとつ意外なことがあります。一般的には、とにかくリベラルで、(同性結婚も認めるような)何でもありのサンフランシスコで選ばれているのだから、ナンシーさんもむちゃくちゃにリベラルな、自由奔放な考えの持ち主に違いないと思われています。

そして、それが、南部や中西部選出の議員仲間からうとまれる原因となっています。「僕たちは、ペローシ氏みたいな急進的な議員とは違うんだ」と。

でも、実際には、ナンシーさんはとっても敬虔なローマ・カトリック教徒で、伝統的な家族の価値観を守り続ける人なのですね。

実は、わたしの大学院時代の恩師が、ナンシーさんと同じボルティモア出身で、彼女のお兄さんとは同級生だったそうです。だから、ナンシーさんのダレサンドロ(D’Alesandro)一族が、いかに信仰深く、密に結びついたイタリア系一家であったかはよく知っていると語っていました。

恩師は、アカデミアの人にしては異色の、ローマ・カトリック、イエズス会の神父さんだった方なのですが、ナンシーさんの従兄弟(いとこ)とは、神学校に一緒に入った仲だとか。多くのイタリア系一家と同じように、ダレサンドロ一族にとって、聖職に就くということは、誉れ高いことだったのでしょうね。

ナンシーさんご自身も、今日のスピーチの中で、「サンフランシスコの守護聖人は、アッシジの聖フランチェスコです」と述べる一幕もありました。


さて、題名になっている「大理石の天井」ですが、これは、ナンシーさんご本人の言葉なんです。

英語で、marble ceiling

ナンシーさん曰く、「わたしたち(女性)は、とうとう大理石の天井を壊したのです(We have broken the marble ceiling)」。そして、「さえぎるものは、もう何もありません(Only the sky is the limit)」と。

アメリカでは、女性の職場での進出をさえぎる障壁のことを、「ガラスの天井(glass ceiling)」と言います。ガラスの向こう側はちゃんと見えているのに、なかなかその天井を越えられない、そういうところから来ているのでしょうね。

そして、ナンシーさんが「大理石の天井」と表現したのは、きっと、ガラスよりももっと厚い天井、そして立派な議事堂を支える大理石の天井を掛けているのでしょうね。


個人的には、ナンシーさんの議長就任は、とってもいいことだと思っています。それは、女性としての歴史的快挙という意味ばかりではなくて、今後の国のあり方をいい方向に導いてくれそうな気がするからです。

今まで、大統領も連邦上院も下院も、ブッシュ大統領とお仲間である共和党にぎっちりと握られていました。彼らはこれまで、数に物を言わせ、自分たちの好き勝手に国を操ってきたのです。「俺たちが多数派なんだから、俺たちの言う通りにしろ」とでも言わんばかりの一方的な態度で。

けれども、女性の長は違うと思うのです。ふたつの勢力が真っ向から対立している場合も、協力体制をうまく築いていけると思うのです。もともと女性は争いを好みませんから。

それに、心配りがうまくできます。たとえば、こんなエピソードがありました。ナンシーさんの先任議長が、議長職を追われるにあたり、小さな議員部屋にお引越しすることになりました。そのことに不満を抱いていると聞き及び、ナンシーさんは議長就任前に、さっさと彼のために大きな便利な部屋を準備してあげました。

まあ、そんなことは、政策とは何にも関係のない、小さなことではあります。でも、人との関係を築く上では、とっても大事な計らいだと思うのです。

議長就任式でも、こんな一幕がありました。「将来を担う子供たちにも、議長の小槌を触らせたい」と、宣誓を前に、ナンシーさん自身のお孫さんや同僚の子供たちを壇上に招き入れました。そんな子供たちやお花いっぱいの、一味違った就任式となったのでした。

そんな感じで、議会でも物事が潤滑に進んでいけばいいなと願っているところです。


今年、2007年は、女性下院議長が誕生した年となりました。

来年、2008年は、もしかしたら、女性大統領が誕生する年となるのかもしれませんね。

そろそろ、そうなってもいいのに。

追記:冒頭で、アメリカ女性の参政権を認める法律が制定したのは、1920年だと書きました。これは、「アメリカ全土で」という意味で、州によっては、もっと早く女性の参政権が認められています。最初の例は、1869年のワイオミング領土でしたが、その頃ワイオミングは州ではありませんでした。州としての最初は、1893年のコロラド州でした。

それから、意外なことに、参政権は、それまで奴隷として扱われていた黒人男性の方が先に与えられています。1870年に追認された米国憲法修正第15条で、黒人男性の選挙権が正式に定められています。憲法の修正条項なので、アメリカ全土を司る法律ですね。

白人女性の参政権運動は、すでに1840年代には始まっていたのですが(日本の江戸時代ですね)、自分たちの権利主張を優先するのか、それとも黒人男性の参政権を認めさせ、その後、白人女性にも認めさせるのか、活動家の間にも、いろいろと葛藤があったようですね。いつか、そんなドキュメンタリー番組を観たことがあります。

それから、一般的に、女性の職場での障壁は「ガラスの天井(glass ceiling)」と呼ばれますが、有色人種男性の職場での障壁を「コンクリートの天井(concrete ceiling)」と呼ぶ人もいます。

有色人種で女性というと、「二重の足かせ(double burden of gender and racial discrimination)」があるなどとも言われます。

有色人種の女性を表す言葉としては、women of colorというものがありますが、個人的には、とっても嫌いです。今の時代、なんで「(肌の)色」という言葉を使うのかと・・・

う~ん、これから先も、まだまだでしょうか。


Life in California Search

© 2005-2024 Jun Natsuki . All Rights Reserved.