Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2020年01月26日

新年号:サンフランシスコは 49ersで大騒ぎ

Vol. 232



新年早々、アメリカでは大統領の弾劾裁判が始まり、中国ではコロナウイルスが猛威を振るい、なにかと騒がしい世の中です。が、今月は、のんびりと車とスポーツのお話をいたしましょう。



<第1話:テスラはアップル「Siri」とお友達>

たいしたお話ではありませんが、電気自動車テスラ(Tesla)の話題です。なんでも、アップル iPhoneの音声コマンド機能「Siri」を使うと、テスラ車に向かって指示が出せるとか。

これは2年前(2017年11月)から地味に存在する機能だそうで、「ドアをロックして」とか「トランクを開けて」とSiriに話しかけることで、駐車するテスラに向かって指示が出せるのです。



手元の iPhoneに必要なのは、「Siri ショートカット(Shortcuts)」と「スタッツ(Stats)」というアプリ。

「スタッツ」は、サードパーティ製のテスラ車向け有料アプリで、もともとは電池残量や走行の効率性をグラフで明確に示す機能を持ちます。駐車中にドアが開けられると手元に警告がくるという防犯機能もあります。

「Siriショートカット」は、お好みのコマンド(フレーズ)を追加できる iOS上の機能ですが、「スタッツ」アプリが Siriのコマンド設定を自動的にやってくれるので、「ドアをロックして」とか「車内を暖めておいて」と Siriに話しかることで、テスラ車を操作できるようになります。

たとえば、「トランクを開けてよ(Open the trunk)」と iPhoneから「スタッツ」クラウドに向かって指示があると、そこから「テスラ」クラウドにある個人ユーザアカウントのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)を経由して、自分のテスラ車に指示が飛び、トランクが開く仕組みになっています。

アメリカの場合は、「テスラ」クラウドとテスラ車間のコミュニケーションは通信会社 AT&Tのネットワークを利用していて、このような Siri音声コマンドやテスラ車の状態チェックに使われるだけではなく、ドライブ中の道路状況検索や音楽ストリーミングなどにも使われます(通信料金は事前に車体価格やリース料に含まれます)。



実際に連れ合いが使ってみて喜んだのが、このトランクを開ける機能。両手に大きな荷物を抱えていても、ポケットの中の Siriに指示をするだけで、パカッとトランクが開いて便利です。

テスラはモーター搭載の電気自動車ですので、車体の前後にトランクがあります。なんでも前方トランクのことを「フランク(frunk: front trunkの略)」と呼ぶんだとか。「Open the frunk」とは、立派なテスラ用語なのです。

ドアロックの開け閉めなどは、キーを持っているとテスラ車が自動的にやってくれますが、たとえば誰かを先に乗せたい時には「ドアを開けて」コマンドを使うといいのかもしれません。

ちょっと便利な「スタッツ」アプリ。類似のサードパーティアプリはいくつか存在しますが、「スタッツ」は初期設定が簡単で、使いやすいとか。



いえ、トランクやドアの開け閉めというのは、なにも Siriを使わなくてもいい話です。けれども、テスラ車には「遊びごごろ」が満載。ディスプレイ画面にはゲーム機能が付いていたり、「サモン(Summon、呼び出し)」機能で iPhoneをリモコンにしてテスラ車を狭いスペースに駐車させたりと、運転とは直接関係のない機能も充実しています。

ディスプレイ画面に映る暖炉の映像(写真)に至っては、「う〜ん、これで心まで温めてくださいということなのかなぁ?」と疑問にも感じます。が、これがテスラ社のクルマづくりに対する心意気というものなんでしょう。



そういえば、先日連れ合いの「モデルS」が、「タイヤの空気漏れ」警告を頻繁に出すようになりました。タイヤに空気を入れようと立ち寄ったガソリンスタンドでは、「テスラのロードサービスに連絡した方がいいよ」と整備員にアドバイスを受けます。

そこで初めて利用したロードサービスですが、便利なことに「テスラ」アプリからサービステクニシャンを呼べるようになっています。すぐにディスパッチャーから確認のメッセージがあり、1時間後には自宅前にテクニシャンが現れます。

面白いことに、iPhoneのビデオ機能を使って拡大映像でタイヤをぐるりと検査した彼は、「あ〜、ここにビスが刺さっているよ」と、すぐに問題を発見。20分もしないうちにタイヤを修理して、すぐに帰って行きました。タイヤ交換ではなかったので、料金も60ドル(約6500円)で済みました。



なんとも便利な世の中になったものだと感心する立派なサービス網ですが、アメリカでテスラ車が人気なのは、電気自動車用のチャージ(充電)ステーションがたくさんあることも一因でしょう。

大きなショッピングモールには、テスラ社が運営するスーパーチャージャーが併設されているし、街角にも「EVgo」や「ChargePoint」といった民間のチャージステーションが多数存在します。

企業のオフィスやマンションのような集合住宅でも、駐車場にチャージステーションが置かれていて、一軒家に住んでいなくても、電気自動車を充電できるインフラが整っています。マンションの「共用部分」に設置する高電圧コンセントはいったい誰が負担するのか? と問題視される日本とは、かなり違った状況です。



先月のクリスマスシーズン、遠くからシリコンバレー周辺に電気自動車でドライブしてきた人たちが、チャージステーションに殺到して何時間も待つハメになった、と報道されていました。

わたし自身は、絶対に電気自動車では遠出しないと思うのですが、そこのところが実におおらかなアメリカ人です。「なんとかなるさ」の精神がないと、新しいインフラもなかなか整わないのかもしれません。



<第2話:サンフランシスコ 49ersがスーパーボウルへ!>

ガラリと話題は変わって、スポーツ界のお話です。ずっと待ち望んでいた夢が、ようやく実現しそうなんです。NFL(アメリカンフットボール)のサンフランシスコ 49ers(フォーティーナイナーズ)が、いよいよスーパーボウルに進出するんです!



毎年2月に開かれる スーパーボウル(Super Bowl)は、アメフトにおける天王山。まさに「世界一」の名誉を手に入れられるのか、運命の分かれ道。

自称「三度のメシよりもアメフトが好き」というわたしにとって、地元チームがスーパーボウルに出るというのは、歴史に残る一大事。

初優勝を果たした1981年のシーズン、地元サンフランシスコで大騒ぎした思い出を胸に秘め、あの感動をもう一度! と、ずうっと待ち続けていたのでした。

(写真は、スーパーボウル初出場を決めた運命の「ザ・キャッチ」。ドゥワイト・クラーク(故人)が、ジョー・モンタナのパスを受け逆転勝ちした瞬間。「王朝時代」の幕開けでもありました:Photo by The Mercury News)



49ersといえば、日本でも「強いチーム」という印象が強く、ファンの方もたくさんいらっしゃることでしょう。1981年のシーズンを皮切りに、スーパーボウル優勝を5回果たしています。

けれども、最後に勝ったのは、25年前の1994年のシーズン。我が家がシリコンバレーに引っ越してくる直前のことで、それ以来、優勝がないのです。今はスポーツ解説をしているスティーヴ・ヤングが、現役で活躍していた頃でした(Photo by The Mercury News)

それからは、いろんな選手を雇い、監督を雇ってはクビにして、2012年のシーズンには、ようやくスーパーボウル出場に漕ぎつけます。が、惜しくもロンバルディ優勝杯を逃してしまい、人々の脳裏からは「スーパーボウル出場」の記憶すら消えてしまいます。



翌2014年のシーズンは、心機一転。49ersはチーム65周年を記念して、シリコンバレー・サンタクララの新スタジアムに移るのです。が、そんな一大イベントをもってしても、長い「低迷の時代」を抜けきれません。

前年にはスーパーボウルに出場した勇姿は影を潜め、シーズン8勝8敗で終わります。

次の年には、頼みの綱だった監督も司令塔のQB(クウォーターバック)キャパニック選手もチームを去り、シーズン5勝11敗と成績はますます悪化。

監督とQBをとっかえひっかえ、次の年(2016年)には、シーズン2勝14敗と最悪の結果を残すのです。そう、開幕試合で勝って以来、ファンがホームスタジアムに応援に行っても、負け試合しか見られない! という悪夢が訪れるのです。

もしかすると、新スタジアムを建てると、チームは弱くなるのでしょうか。今シーズン新アリーナが完成し、オークランドからサンフランシスコに引っ越してきた NBA(バスケットボール)のゴールデンステート・ウォーリアーズも、これまでの連続優勝がウソみたいに落ち込んでいるし、「立派なスタジアムにお金を使い果たして、選手に手が回らない事情があるのか?」と、勘ぐりたくなってしまうのです。



そんなこんなで、次の年(2017年)に就任したのが、カイル・シャナハン現監督。父親は、デンヴァー・ブロンコスの名将とうたわれたマイク・シャナハン。49ersが最後に優勝したときのオフェンスコーディネーターでもあります。

そんなお父さんの影響で、小さい頃からアメフトに親しんできたカイルさん。彼のミッションは、ドラフトやトレードを駆使して、チームを一から立て直すこと。シーズン途中には、攻撃の要となるQB ジミー・ガロポロを獲得します。

ガロポロは、強豪ニューイングランド・ペイトリオッツでトム・ブレイディのバックアップを務めた控えのQB。ファンが期待するデビュー戦はシーズン後半の12月第1週に訪れ、敵地シカゴで僅差の勝利を獲得。そこから最終ゲームまで5連勝という「魔法」のような実力を見せ、シーズンを6勝10敗と盛り返します。そんな新QBの到来に、来期にかけるファンの期待はどんどんふくらむのです。

ガロポロは、ギリシャ彫刻のような甘いマスクの持ち主。女性ファンの熱い視線を集め、ファンの裾野も一気に広がります。



ところが、「今年はいけるぞ!」と誰もが信じていた昨シーズン、第3試合目でガロポロはヒザの大怪我を負い、シーズンを棒に振るのです。残念ながら、控えのQBはパッとせず、気がつくと4勝12敗。が、「来年こそは!」とファンは望みを捨てません。

そして、迎えた今シーズン。シャナハン監督も3年目となり、怪我から復帰したガロポロをはじめとして、オフェンスとディフェンスのバランスの取れた若いチームが誕生。勢いに乗って開幕から9連勝、シーズン13勝3敗と好成績でファンを魅了するのです。

とくに、強敵シアトル・シーホークスとアウェイで戦った最終試合では、残り9秒、敵の逆転をわずか数センチで食い止め、NFCコンファランス一位の座を獲得。

おかげで、プレーオフ2試合はホームゲームとなる有利な展開に。地元ファンの絶大な声援に支えられながら、スーパーボウルへのチケットを手に入れました(全米フットボールリーグ NFLは、NFCと AFCの二つのコンファランスに分かれ、それぞれのチャンピオンがスーパーボウルに出場します)。



強いチームには、ファンがつく。変な話、ファンがどれほどチームに「faithful(忠誠心がある)」かは、観客席で見かけるジャージで判断できるのです。

シリコンバレーの新スタジアムで観察したところ、最初のうちは、背番号「16」「8」「80」といった過去の名選手の番号が主流でした。

そう、「16」は49ersを初めての優勝に導いた QB ジョー・モンタナ。「」は見事に後継を果たした QB スティーヴ・ヤング。そして「80」は彼と名コンビだった WR(ワイドレシーバー)ジェリー・ライスです。

が、新スタジアム6年目となる今シーズン、さすがに現チームで活躍する背番号が増えてくるのです。やはり「10(QB)ジミー・ガロポロ」が多いですが、ルーキーとして華々しいデビューを果たし、全米にその名をとどろかせた「97(DL:ディフェンスライン)ニック・ボーサ」もたくさん見かけます。

QB を守る大事なポジション「74(T:タックル)ジョー・ステイリー」も根強い人気です。アメフトではQBやレシーバー、ラニングバックが注目されがちですが、雪崩のように押し寄せるディフェンス陣を前線で食い止めるオフェンスラインの存在も大きいです。試合中ボールに触らない彼らですが、オフェンスラインが弱いとゲームが成り立たないという、縁の下の力持ちなのです。

そして、これまでチームジャージには無関心だった連れ合いも、今期は「85(TE:タイトエンド)ジョージ・キトル」の真っ赤なジャージをまとい、同じく「85」を着込んだ後ろの席のおばさんと大の仲良しになりました。キトルも、今期大活躍したひとり。「ベスト・タイトエンド」として、全米の注目を浴びています。



そんなわけで、まだまだ若い 49ersのチーム。過去の栄光にすがることなく、自分たちの歴史を築くまでに成長しています。

ラッキーなことに、我が家もプレーオフの2試合をホームフィールドで観戦し、1試合目はミネソタ・ヴァイキングスを、2試合目はグリーンベイ・パッカーズを破って NFCチャンピオンとなり、スーパーボウルへのチケットを手にした瞬間を味わうことができました。

紙吹雪が舞い、フィールドの選手たちや観客席のファンが熱狂する中、「昔はテレビでしか観戦できなかった試合を、今はスタジアムで見ているんだ」と我に帰って、ありがたくも感じたのでした。



スーパーボウルは、2月2日にマイアミで開催されます。50年ぶりにスーパーボウルに出場するカンザスシティ・チーフスと、25年ぶりの優勝を目指す 49ers。

両チームの選手もファンも「相手には絶対に負けないぞ!」と思っているはずです。が、やっぱり 49ers は負けないぞ! と固く信じているのでした。



夏来 潤(なつき じゅん)



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