Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2019年09月20日

植物由来の肉:知名度は上がっても・・・

Vol. 228



4月号でも取り上げた、豆類でつくったお肉の話題。今月は、その後の展開をご紹介いたしましょう。

<アメフトファンに向けた「肉なし肉」のCM>

9月に入ると、ホッとしますね。お天気が良くなることもありますが、なんといっても、アメリカンフットボールのシーズンが始まりますので。

昨年は、サンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)期待の司令塔、QB(クウォーターバック)のジミー・ガロポロ選手がヒザの大怪我でシーズンを棒に振り、チームの成績もボロボロ。

「ジミーG」の愛称で親しまれるガロポロもようやく怪我から立ち直り、今年こそは! と、ファンの期待はつのります。



シーズン第一試合は、敵地フロリダの49ers。テレビ中継を観ていたら、驚いたCMがありました。

それは、バーガーキング(Burger King)の「インポシブル・ワッパー(Impossible Whopper)」。こちらは、動物の肉を使わないハンバーガーなんですが、お肉が大好きそうなアメフトファンに向けて、「肉なしハンバーガー」を宣伝しているのです!



今年4月号でもご紹介していますが、近年、動物のお肉を使わない、植物由来の肉製品が話題になっています。豆などを使って「赤身肉」や「鶏肉」を製造するスタートアップ企業と有名なファストフードチェーンが提携して、街角のハンバーガー屋さんでも「肉なしハンバーガー(meatless hamburger)」が食べられるようになったのです。

ハンバーガーチェーン二番手のバーガーキングは、シリコンバレーのインポシブル・フーズ(Impossible Foods:本社レッドウッドシティー)と提携して、今年4月からミズーリ州セントルイスで「インポシブル・ワッパー」のテスト販売を開始。

「お肉文化の中心地」ともいえるミズーリ州で好評を博し自信をつけた同社は、早くも6月には全米展開に乗り出し、ここサンフランシスコ・ベイエリアでも販売するようになりました。

この全米展開に乗じて、アメフトの試合でも宣伝するようになったようですが、「マッチョなアメフトファンが肉なしハンバーガーなんか買うの?」と素朴な疑問を抱くのです。



が、そんな疑問を持つのは、どうやら素人さん。実は、植物由来のハンバーガーを買う大部分は、肉を食べないベジタリアンではなく、肉も野菜も食べる雑食の方々だとか。

なんでも、専門家が分析するところ、「植物由来の肉(plant-based meat)」を好む消費者は4種類に分類されるそう。

ひとつ目は、近年増え続けているヴィーガン(vegan:肉類や卵、乳製品など動物由来の食品を避ける人たち)。

ふたつ目は、どのように食物が生産されているか、環境に与える影響は何かと、食糧生産のあり方を憂慮する消費者。

三つ目は、とにかく体に良さそうな食品を摂取したい、健康志向の消費者。

そして、四つ目は、トレンドに敏感な消費者。自分の好きな有名人が植物由来肉を推奨しているとか、仲間内で「クール」に見えるとか、そういったイメージを大切にしたい人たち。



このうち、ひとつ目のヴィーガンのグループは、世の中ではまだまだ少数派。ですから「インポシブル・ワッパー」を食べているのは、お肉も食べる雑食の人たち、と考えた方が無難でしょう。好奇心からか、自慢話のネタとするのか、さまざまな動機から「肉なしハンバーガー」を購入なさっているようです。

もはや「植物由来」という冠(かんむり)は、ハイブリッドや電気自動車に続いて、新しい勲章となっているのかもしれません。(ビジネス番組ブルームバーグニュースに出演したジョナサン・マッキンタイア氏による分類。同氏は、植物由来の食材を提供するMotif FoodworksでCEOを務める)



ハンバーガー屋さんだけではありません。フライドチキンで有名なKFC(ケンタッキーフライドチキン)は、8月27日「肉なしフライドチキン」のテスト販売を開始。ジョージア州アトランタの店舗で限定販売してみると、その日の分はすぐに売り切れるほど大好評だったとか。

その名は「ビヨンド・フライドチキン(Beyond Fried Chicken)」。4月号でもご紹介したインポシブル・フーズの競合会社、ビヨンド・ミート(Beyond Meat:本社ロスアンジェルス)が生産する「肉じゃない鶏肉」を使ったチキンナゲットです。

からりと揚がったナゲットは、本物の鶏のフライと変わらないし、ナゲットにからめるソースは、人気のハニーバーベキュー、フライドチキンの定番バッファローソース、スパイシーなナッシュヴィルホットソースと3種類から選べて、味のバラエティーもばっちりだとか。



ぐんぐん知名度を上げるビヨンド・ミートは、5月2日にナスダック市場で株式公開(IPO: initial public offering)を果たしたばかり。一株25ドルの公開株(BYND)は、初日65ドルまで上がり、今は150ドルを超える人気銘柄となっています。

一方、競合のインポシブル・フーズは、同じく5月にシンガポール政府所有のテマセク・ホールディングスと香港のホライゾン・ベンチャーズから3億ドル(約330億円)を追加で資金調達し、生産ラインの増強を図ります。アメリカ市場に加えて、今年3月に同社製品を発売したシンガポールでも、着実に売り上げが伸びているとか。



<ミツワに「ビヨンド・バーガー」登場!>

そんなわけで、存在感を増している「肉じゃない肉」ですが、近頃は、ファストフードチェーンだけではなく、街中のスーパーマーケットでも定番商品になりつつあります。これまではビヨンド・ミート商品が主力でしたが、本日からはインポシブル・フーズも南カリフォルニアのスーパーで販売開始。



中でも、いち早く植物由来肉を取り入れたのは、オーガニック店として有名なホールフーズ(Whole Foods:現在はオンラインショップ Amazon傘下となり、従来農法による食品も扱う)。

4月号では、ホールフーズで購入したビヨンド・ミートの「ビヨンド・バーガー(Beyond Burger)」というハンバーグを試食し、その体験談も付け加えておりました。見た目はお肉と変わらないけれど、お味はちょっと違うかも・・・と。



が、今やオーガニック店だけではなく、普通のスーパーでも見かけるようになりました。たとえば、サンノゼ市にある日系スーパー、ミツワ。シリコンバレー在住の日本人が一度は訪れたことのある店舗です。

種々雑多な食品や日用品を扱っているので、なんとなく植物由来食品とは無縁と思いきや、この夏から、ビヨンド・ミートの商品がちんまりと冷蔵庫に並ぶようになりました。

面白いのは、通常の(お肉の)ソーセージや和牛ハンバーガーと並べて置いてあること。もはや動物のお肉と肩を並べるほど、植物由来の肉製品は当たり前の存在となったのでしょうか。



こちらでは、ビヨンド・ミートのハンバーグとソーセージ2種(ドイツ風ブラートヴルスト、スパイシーイタリアン)と主力商品が置かれていて、ハンバーグは、この日のオススメ商品となっています。

エンドウ豆、緑豆、米を原材料としたハンバーグは「前よりもっと肉らしい(meatier)」と書かれているので、きっとパワーアップした改良版なんでしょう。



そこで、気になった「バージョン2」を試してみました。ホールフーズで見つけた、ひき肉パックの「ビヨンド・ビーフ(Beyond Beef)」。見た目は、本物と見まがうばかり。

そして驚いたのは、その食感。前回4月に試食したものと比べると、つぶつぶ感がパワーアップして、まさに「牛のひき肉」です。

お味もがんばって改良されているようで、「お肉じゃないよ」と言われるまでは誰も気づかないかもしれません。

いえ、ハンバーグをつくるのに、卵や玉ねぎのみじん切り、ナツメグ、パン粉と従来の具材を足したので、もとの味をカモフラージュできたのかもしれません。でも、ケチャップをのせたり、パンにはさんでハンバーガーにしたりすると、動物のお肉だと勘違いすることでしょう。



ただし、鼻につく独特の「におい」だけはそのまま。そこで、スパイスの効いた調理法、メキシコ風ファヒータ(fajita)に挑戦しました。

ファヒータは、平たいトルティーヤにくるんで食べる肉料理ですが、鶏肉や牛肉の薄切りを使います。お肉の代わりにビヨンド・ビーフを使って玉ねぎとこんがりと焼き、ファヒータ・スパイスで調味。トルティーヤには酸味の効いたサワークリームをのせて、ビヨンド・ビーフをくるりと巻くのですが、これだけで人工的な臭みが消えて、かなり美味しくいただけるようになりました。



<ほんとに体にいいの?>

というわけで、なかなかの快進撃を見せる「肉なき肉」。肉に代わる「植物由来の代替肉(Plant-Based Meat Alternatives)」などと呼ばれ知名度は上がっても、問題がないわけではありません。

ひとつに値段が割高なので、すべての消費者が気軽に手に入れられるわけではないようです。

たとえば、上記「ビヨンド・ビーフ」は、450グラム入りで10ドル(1000円ちょっと)というお値段。100グラム240円ほどになりますが、アメリカの感覚ではちょっと高いような気もするのです。



そして、植物由来製品は、本当に健康志向なのか? という根本的な問題もあります。近頃は、冷静に栄養価を分析する記事も目につくようになりましたが、ある栄養士は、こう評しています。

「バーガーキングのワッパーは、通常のものでカロリー660kcal、塩分980mg。これに対して、植物肉バージョンは、カロリー630kcal、塩分1080mg。これだったら、どちらも体にいいとは言えないので、カロリーも塩分も控えめのハンバーグを家でつくった方がいいんじゃない?」と。



この方によると、一見栄養価が高い豆類なども、粉状にしたり、イーストやセルロース、野菜ジュースなどを加えたりして、さんざん手を加えた「ウルトラ加工食品」になると、もとの栄養価は失われてしまう、とのこと。

だから、本物の健康志向を望むのだったら、加工されていない食材(ホールフーズ)を買ってきて、ゼロから料理する方がいいんじゃない? というわけです。(管理栄養士カーラ・ローゼンブルームさんによるワシントン・ポスト紙の記事:”Is it really possible that plant-based foods such as Impossible Whopper are healthful?”, Cara Rosenbloom, The Washington Post, September 9th, 2019)



そして、アメリカの米国医師会雑誌 JAMAの掲載記事は、こんな警告を発します。

たしかに植物由来肉は、通常の肉と比べて脂質(saturated fat:飽和脂肪酸)も低いし、コレステロールも含まれない。カロリーとタンパク質は同等だが、その一方で塩分(sodium)が高い。

さらには、原材料となる豆類をそのまま摂取したときよりも脂質は高く、ファストフードチェーンでハンバーガーとフレンチフライのセットで売られる環境では、必ずしも健康食品とはいえないだろう。

また、インポシブル・フーズのように、製造過程で大量のヘム鉄(heme:血の赤みを出す成分)が加えられることによって、体内に蓄積される鉄分が増え、2型糖尿病が引き起こされる可能性もあり、植物由来肉の体に与える影響については今後の研究が望まれる、とのこと。(”Can Plant-Based Meat Alternatives Be Part of a Healthy and Sustainable Diet?”, Frank B. Hu, MD, PhD; Brett O. Otis, MLA; Gina McCarthy, MS, JAMA, published online August 26, 2019)



たしかに、植物由来商品の外箱の裏に小さく列記された材料を眺めていると、アスコルビン酸(ascorbic acid)だの酢酸(acetic acid)だのコハク酸(succinic acid)だのと、いったい何を体に入れているんだろう? と怖くなってしまうのです。



どうやら、そう思うのはわたしだけではないようで、さっそく深夜コメディー番組にはパロディーが登場です。

CBSの人気番組『レイトショー』では、ホストのスティーヴン・コベア氏がインポシブル・ワッパーのパロディー版「インプロージブル・バーガー(怪しげなハンバーガー)」をご紹介。

ニセCMでは、「たくさんの野菜とたくさんの牛をブラックボックス製造工場につっこみ、ゴチャゴチャとかき混ぜて、出てきたハンバーガーをご提供。中に何が入っているかなんて、誰にもわからないのさ」と誇らしげなナレーション。

最後に、「知らないことこそ、美味なのさ!(Ignorance is delish!)」と結びます。(”The Late Show with Stephen Colbert” on CBS, September 18, 2019)



いえ、これはコベア氏独特のブラックユーモアではありますが、与えられるものを盲目的に信じるのは、ちょっと危ないのかもしれません。

というわけで、何かと話題の植物由来の代替肉。今後の展開に、乞うご期待です。



夏来 潤(なつき じゅん)



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