Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2009年06月09日

歴史の証人 ~ タイタニック編

昨晩、映画『タイタニック(Titanic)』をテレビで観ておりました。

ご存じ、レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレット主演で、豪華客船タイタニック号の沈没の悲劇を描いた超人気映画ですね。

1997年にこの映画が封切られたときは、それは、それは、話題になったものでした。アメリカ人の友達の中には、何回も映画館に通って、そのたびに涙を流すのよという人もおりました。

わたし自身は映画館には足を運ばなかったものの、ビデオが出されるとすぐに買ってみたので、内容は十分に承知しております。けれども、今でもテレビで放映していると、なぜだか必ず観てしまうのです。

途中からであろうが、何であろうが、そんなことは関係ありません。画面に主演の二人を見つけると、必ず釘付けになってしまうのです。

それは、たぶん、映画の軸となっている若い二人の燃えるような恋心に魅了されるからなのだと思いますが、それと同時に、生命の危機という極限状態に瀕した人間の性(さが)みたいなものが見えるからなのではないでしょうか。

ある人は、人を蹴落としても助かろうとするし、ある人は、これが運命なのかと静かに海に沈むのを待つ。またある人は、自分の運命を自らの手で変えてやろうと、最後まで必死にがんばろうとする。


そんなタイタニック号に関して、先日、こんなニュースが流れておりました。

タイタニックの最後の生存者が亡くなったと。

彼女は、97歳のエリザベス・“ミルヴィナ”・ディーンさん。

1912年4月15日未明にタイタニックが沈没したときには、わずか2ヶ月の赤ちゃんでした。

ミルヴィナさんは、タイタニック号が出奔したイギリス南部の港街サウサンプトンで生まれ、両親に連れられてニューヨークに渡る途中でした。
 お父さんはこの港街でパブを経営していましたが、店を売り払って、アメリカ中部のミズーリ州カンザスシティーに移り住む計画でした。カンザスシティーにはお母さんの親戚がいたので、その地で新たにタバコ屋を営もうとしていたのです。

ミルヴィナさん一家は、もともとは別の船に乗る予定だったのですが、ストライキで船が出なかったので、タイタニックに乗り込むことになりました。そう、タイタニック号の記念すべき処女航海です。

そして、出奔から5日目の日曜日の深夜、大西洋上で氷山に接触し、翌未明に沈没するという大惨事に遭遇するのです。

お父さんは、かなり機転が利く人だったらしく、3等客室にいたにもかかわらず、ミルヴィナさんとお母さん、そして当時2歳のお兄さんをライフボートに乗せることができました。氷山にぶつかったショックを感じて、「このままでは済まない」といち早く悟り、家族を連れて甲板に飛び出したそうです。
 まわりの多くは、技術の粋を集めたタイタニックが沈むわけはないと固く信じていたそうなので、さすがに港街に育ったお父さんの洞察力は鋭いものです。

そんなお父さんは、家族3人を乗せたボートが海面に下げられていくのを見送りながら、「さよなら」と言うお母さんに向かって「あとで行くからね」と声をかけます。けれども、その「あと」はありませんでした。

ご存じの通り、ライフボートに乗るのは、女性と子供、そして1等客室の乗客が優先されておりました。

ライフボートの一行は、2時間後に救助にやって来たカーパシア号でニューヨークに連れて行かれるのですが、ミルヴィナさん一家のようなイギリス人は、その2週間後に、また別の船に乗ってイギリスに戻ることとなります。

そんなわけで、アメリカに移住する計画も頓挫したまま、一家3人はその後ずっとイギリスで過ごすことになるのです。


もちろん、2ヶ月の赤ん坊だったミルヴィナさんは、事の仔細はまったく知りません。けれども、彼女が8歳のときにお母さんが再婚することになって、そのときに初めて、自分の数奇な運命と機転の利く勇敢なお父さんのことを知ったそうです。
 ミルヴィナさんたちが乗ったボートが「ライフボート13号」であったことも、そのときに知りました。

遭難のことはあまり話したがらないお母さんは、34年前に95歳で亡くなりました。

12年前には、ミルヴィナさんは豪華客船クイーン・エリザベス二世号で大西洋を渡り、生まれて初めてカンザスシティーを訪れました。85歳になるミルヴィナさんは、「ここはとっても美しいわ。5年は住めるわね」と、この地をいたく気に入ったそうです。

そして、今年5月31日、そのミルヴィナさんも亡くなりました。

彼女は、タイタニック号の遭難を生き延びた、706人の最後のひとりなのでした。


映画を観ながら思い出したのですが、小学生のときに、タイタニック号の話を聞いて、自分の印象を絵に描かされたことがありました。

海は暗い群青色で塗りつぶされ、木の葉のようにはかないライフボートを大きな波が飲み込もうとしている絵です。

その当時は、なんとなく荒波が沈没の一因だったのではないかという印象があったのでしょう。映画を観てみると、海は穏やかだったようですし、実際には、雲もない晴れ渡った夜空だったともいいます。けれども、子供のわたしの頭の中では、これでもか、これでもかと巨大な波が打ち寄せていました。

そして、木の葉のボートに乗るのは、ピンク色のドレスを着た金髪の女の子。きっと波間には、溺れている人たちも描き込んでいたのでしょう。

その「金髪の女の子」がミルヴィナさんだったのですね。

そして、「溺れている人たち」が彼女を見送ったお父さん。

それにしても、もしも自分が同じ境遇に陥ったら、自分だけボートに乗るだろうか?
 それが道義的に良いとか悪いとか、そんなことは置いておいて、それよりも自分の心が許すだろうか?

それとも、生命の危機に瀕したら、「自分の心」なんてなくなってしまうのだろうか?

映画を観ながら、今まで何度も自問したことを、もう一度自問してみたのでした。

追記: ミルヴィナさんについては、今年5月31日のAssociated Press(AP)社の記事を参考にさせていただきました。

それから、映画『タイタニック』では、多くの登場人物が架空のキャラクターとなっておりますが、主人公のローズ(架空)を助けた乗組員は実在の人物のようです。ハロルド・ロウさんという若い乗組員です。
 このロウさんが、自分の乗った「ライフボート14号」を救助ボートとしてタイタニックが沈没した辺りに向かったわけですが、一時間後に救助できたのは、男性4人だけだったということです。そして、海に放たれた18隻のライフボートのうち、あとで現場に戻ったのは、ロウさんのボートだけでした。


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