Essay エッセイ
2015年09月21日

西洋なしの季節

9月の第一週、日本から戻ってきた連れ合いが、開口一番こう言うのです。

 

 いやぁ、カリフォルニアは、天気がいいねぇ、と。

 

 そう、今は「乾季」のカリフォルニア。

 

 天気がいいのは当たり前ではありますが、日本では連日雨に降られ、余計にカリフォルニアの晴れた空に感動したようでした。

 


 けれども、さすがに9月ともなると、風がひんやりとしてきて、早々と季節の移ろいを感じるのか、葉っぱを黄色くする木々も見かけます。

 

 そうなると、スーパーマーケットにも、秋の果物が並びますね。

 

秋の果物といえば、(なし)を思い浮かべる方も多いと思いますが、それはカリフォルニアでも同じでしょうか。

 

 夏の間、幅を利かせていた桃やプラムは影をひそめ、代わりに梨が登場します。

 

 もちろん、日本で見かける丸い梨も「アジアの梨(Asian pear)」と呼ばれ、ポピュラーなものではありますが、やっぱりアメリカでは、西洋梨が主流ですね。

 

 西洋梨といえば、今までは縁遠い存在でしたが、近くのオーガニックスーパーには、いろんな種類が並んでいて、ついつい試してみたくなりました。

 

 どことなく美術品のように端正で、「どんな味がするんだろう?」と、興味をそそられるでしょう。

 

 それで、最初に試したのは、バートレットBartlett)という緑色の梨(上の写真では、朱の混じった黄緑の二つ)。

 

 実は、このバートレットが西洋梨の代表格だそうで、みなさん梨と聞くと、こちらを思い浮かべるとか。缶詰にも使われる品種だそうです。

 

歯ごたえは、まさしく西洋梨独特の柔らかい感じ。日本のシャキシャキ感はなくて、トロッとした感じでしょうか。

 

 お味は、甘みがある代わりに、酸味もあって、すっぱ味の強い日本の梨を思い浮かべます。そう、梨らしい味ですね。

 

 そのまま食べても美味しいですが、お料理に使うときには、サラダに入れたり、スライスしたチーズと重ねたりと、リンゴの代役ともなるようです。

 


そして、ボスクBosc)も、ポピュラーな種類でしょうか。

 

 9月後半の旬になると、どこのお店にも並んでいるような人気の梨です。

 

 酸味が少なく、食べやすいですし、もっとも日本の梨に近い味と歯ごたえでしょうか。見かけも茶色っぽくて、皮の感じも日本のものに近いですね。

 

 実がしっかりしているので、型くずれしにくく、火を通すお料理にも向いています。西洋梨独特の香りが少ないので、どんなソースも邪魔しない、万能の果実だと思います。

 


お次は、真っ赤なスタークリムソンStar Crimson)。

 

 クリムソンは、燃えるような、鮮やかな赤の名前ですね。

 

 こちらは、わたしの「一押し」なんですが、それは、見た目が美しいだけではなくて、熟した実はとっても柔らかく、甘みも強いからです。

 

 ジューシーで味わい深く、どことなくトロピカルフルーツのような独特の甘みが特長です。

 

 わたしはさっさと皮をむきますが、せっかく色鮮やかなので、皮のままスライスしてサラダに入れたりすると美しいそうですよ。

 


お次は、トスカTosca)。

 

 その名の通り、イタリアの品種なので、アメリカでは知名度は低いようですが、こちらも「オススメ!」です。

 

 日本で知られるラ・フランスみたいに、西洋梨独特の香りがパ~ッと口の中に広がり、これぞ、西洋梨! と、声を上げたくなるようなお味です。

 

 酸味もありますが、すっきりとしていて、とっても親しみやすい品種だと思います。

 

 アメリカでは、おもに西海岸で生産されるようですが、人気のバートレットに似た味と外観なので、これからドンドン知名度が上がるのかもしれません。

 


こちらは、ディアンジュd'Anjou)という種類。

 

 別名、アンジュAnjou)とも呼ばれます。

 

 近くのスーパーでは、まだ緑色しか見かけませんが、赤い種類もあって、アメリカではバートレットに次いで知名度の高い品種だとか。

 

 わたしが試食したときには、まだ熟していなくて青リンゴのイメージでしたが、本来は2、3日待って食べるべきとか。熟しても緑色のままなので、ほったらかしにしないで、数日たったら冷蔵庫に保存するように、とのことでした。

 


形がエレガントなこちらは、コンコードConcorde)。

 

 あまり酸味がなくて、とっても食べやすい品種です。

 

 歯ごたえは柔らかですが、型くずれしにくいので、お料理にも最適です。ボスクと同じように、西洋梨独特の香りが少ないので、どんな調理法にも合いそうです。

 

 スライスしたあとも、茶色く変化(oxidize)しにくいので、サラダに入れても、スライスチーズと盛り合わせても見栄えがする、とのことでした。

 


そして、こちらは、セッケルSeckel)と、ご存じ日本の梨(Asian pear)。

 

 セッケルは、英語では「セクー」といった風に発音しますが、とにかく西洋梨の中では、一番「小粒」。

 

 でも、「山椒は小粒でもピリリと辛い」ように、セッケルは小さくても、とっても甘いのです!

 

 あまり果汁が多い方ではありませんが、歯ごたえが柔らかく、甘みが強いので、すでにコンポートになっているような印象でもあります。

 

 甘みに加えて、リンゴのような独特の酸味もあって、子供たちにもスナックとして最適かもしれません。

 

スライスすると、ビワに似た香りも漂い、外観からは想像できない、意外な西洋梨! といったところでしょうか。

 

 そして、おなじみ丸い梨。

 

 外見は、日本の幸水に似ていますが、アメリカで生産するものは、どことなく西洋梨の香りに近い感じがします。

 

 でも、やっぱりアジアの梨は、冷やした方が美味しいですよね!

 

 ひんやりとした、果汁たっぷりのアジア梨は、まだまだ暑い秋口には、ぴったりの果実なのです。

 

というわけで、秋の味覚、梨のあれこれ。

 

 知ってみると、奥が深い、西洋梨の探訪でした。

 

 まだまだ試していない種類はたくさんありますが、それはまた、次回お店で出会ったときのお楽しみといたしましょう。

 


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