Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2018年03月31日

車の自動運転技術:その現状は?

Vol. 213



先日アリゾナ州で起きた痛ましい交通事故も記憶に新しいところですが、今月は、車の自動運転技術のお話をいたしましょう。



<車の「自立」って?>

昨年12月号でご紹介しましたが、我が家にも電気自動車のテスラ「モデルS」がやって来て、ようやく何がしかの自動運転技術に触れることとなりました。すると、今までと違ったものが見えてきたような気がするのです。



そもそも自動運転とは、英語では self-drivingもしくはautonomousと呼ばれ、自分で判断を下せる、自立した存在をさします。とはいうものの、いきなり「自立」は難しいので、若干のドライバーアシスト機能の「レベル1」から完全な自動運転を示す「レベル5」まで幅広く定義されています。



テスラの例では、彼らの「オートパイロット(Autopilot)」機能が「レベル2」の自動運転技術となり、フリーウェイでの車間距離を保った自動走行(アクティブクルーズコントロール)やハンドル操作、車線変更など、人がハンドルから手を離せる機能が提供されています。が、安全性のため、かなり頻繁にハンドルに触れなくてはならないルールになっていて、指示されたとおりにハンドルに触れないと、自動制御はその場で解除されます。

日産なども車線キープ機能や自動緊急ブレーキを売りとしていますが、自動駐車システムなどと並んで「レベル2」の機能の一例となります。いずれにしても、車が自分を制御するとともに、まわりの状況を少しでも認識していないとできない技です。



その上の「レベル3」となると、いきなりハードルが高くなって、フリーウェイの自動走行に加えて、街中の走行もマスターしなくてはいけません。市街地の運転となると、信号や交通標識もあるし、歩行者や自転車も頻繁に行き交うし、車を取り巻く環境もぐんと複雑になります。

公道で走る自動運転車と聞くと、自動運転技術の先駆けとなったグーグル(現ウェイモ、Waymo:一昨年グーグルの親会社アルファベットより分社化)の愛くるしい「ファイアフライ(ホタル)」を思い起こします。このホタルくんや白いトヨタ「プリウス」、レクサスSUVハイブリッド(RX450h)と、カリフォルニアやネヴァダの街中でテスト車を見かけるようになって久しいですが、いまだに「レベル3」の自動運転車は試験走行のみにとどまっています。

アウディが新技術を搭載したセダン「A8」の販売が各国で許可されれば、こちらが世界初の「レベル3」市販車となるようです(ただし、一般道路では時速60キロ以内、高速道路では上下線に中央分離帯があることが条件だとか)。



<目指せ「レベル4」!>

この先の「レベル4」となると、理論上は、フリーウェイでも街中でも車がすべてを判断できることになり、もはやドライバーは必要なくなります。ですから、この「レベル4」を目指して、各社しのぎを削っています。



この手の乗車テストで話題になったのは、マサチューセッツ工科大学からスピンオフしたニュートノミー(nuTonomy)があります。2016年9月号でもご紹介したように、シンガポールの街中で行なった乗車テストは、世界初の一般客を対象にした自動運転タクシーとなりました。

ダウンタウンの4キロ四方のみと一部区域に限った乗車テストでしたが、何が起きるかわからないので、危険な状況を回避できるようにと運転席には常時ドライバーが待機していました。その後、ニュートノミーはアメリカ東海岸のボストン都市部でも試験走行を展開し、自動運転を取り巻く幅広いソフトウェア開発に注力しています(昨年、自動車部品大手のデルファイに買収され、分社化された自動運転技術の開発部門は、アプティブと改名されました)。



2009年からグーグルの名で自動運転に取り組んできたウェイモは、現在「レベル4」を目指して、全米各地で公道試験を展開しています。愛くるしい実験車「ファイアフライ」から量産モデルに移行する過渡期にあり、昨年末からは、アリゾナ州フェニックスで、自動運転技術を搭載したクライスラー「パシフィカ」ハイブリッド・ミニバンを使って、一般の希望者に体験乗車してもらっています。

一部区域に限った試みではありますが、運転席にも助手席にもドライバーは乗車しません。後部座席にゆったりと乗り込んだ体験者は、「子供を送り迎えする忙しいライフスタイルにも、ピッタリねぇ」と、まんざらでもない様子。今年末には、このフェニックス郊外で自動運転車を呼べる配車サービスを開始する予定だとか。



ウェイモは、このような自動運転「パシフィカ」ミニバンを600台保有するそうですが、つい先日、高級車メーカーのジャガーに電気自動車「I-PACE」2万台を発注すると報道されました。再来年からハイエンド自動運転車として各地に配備するそうですが、ウェイモとしては、あくまでも自動運転ソフトウェアの開発に携わります。

この点では、iPhoneで有名なアップルも同じなのでしょう。レクサスSUVハイブリッド(RX450h)27台を保有するアップルも、自動車メーカーではない以上、ハードは車屋さんに任せて、自分たちは、ひたすらソフトウェア開発に専念する。そして、自分たちが培った技術は車屋さんに売る。そういったスタンスのようです。昨年末には、アップルは独自方式のナビゲーションシステムで、かなり詳細な特許を取得していて、「アップル印」の自動運転技術も遠い夢ではないのかもしれません。



一方、カリフォルニアの路上試験の状況は? といえば、この3月初頭から、サンフランシスコの東に位置するコントラコスタ郡で、本格的な自動運転バスの乗車テストが開始されました。一昨年秋にコントラコスタ郡に限って施行された州法(AB1592)に則り、オフィスが立ち並ぶビジネス区域(サンラモン市のビショップ・ランチ)で、12人乗りのミニバスが公道を走るようになったのです。

小さなミニバスが、たった12人の乗客を乗せてゆっくりと進む試験走行ですが、このバスには、ハンドルもアクセル/ブレーキペダルもなく、運転手も乗車しません。ゆったりとしたビジネスパークの中とはいえ、3万人が勤務する地域。歩行者のような「障害物」を認識しながら公道を走る姿は、画期的とも言えるでしょう。



次のステップは、オフィスと近くのバスセンターや電車駅(ベイエリア高速鉄道、BART)を結んで、人を運ぶこと。バスや電車の公共交通機関とオフィスや自宅の最終目的地をつなぐ「足」は、サンフランシスコ・ベイエリアのような人口密集地では、切に求められています。



<自動運転車による死亡事故>

ところで、3月中旬、自動運転車が起こした交通事故が大きく報じられました。こちらは、一般車両を使った配車アプリで知られるウーバー(Uber:本社サンフランシスコ)が、アリゾナ州テンピで行なう公道テストで、道を渡ろうとした歩行者をはねて亡くなったというもの。



ウーバーによる公道テストの取り組みは早く、一昨年9月、ペンシルヴァニア州ピッツバーグで全米初となる一般客向けの乗車テストを開始しています。交通事故が起きた夜間走行テストでは、自社開発の自動運転ソフトを搭載したボルボSUV(XC90)には、運転席にテストドライバーが乗車していました。

歩行者は横断歩道でない箇所で暗がりから飛び出しているものの、路上から目を離したテストドライバーの責任も問われています。が、この事故で真っ先に槍玉に挙がったのは、ライダー(光レーダー、Lidar)システムを提供する、シリコンバレーのヴェロダイン・ライダー(Velodyne LiDAR:本社サンノゼ)。ウーバーが採用したとされるHDL-64Eモデルは、周囲360度、半径120メートルの範囲で見渡せるとのことで、レーザー照射を遮る障害物がない限り、夜間にもまったく問題はないとされています。それどころか、夜間の方が、太陽光の反射に惑わされないので、よく見渡せるとか。

現在、国家運輸安全委員会(NTSB)が原因究明に乗り出していますが、ヴェロダインの幹部は、「わたしたちも、みなさんと同じように首をかしげているわ。たとえライダーが人を検知しても、自動運転システムがそれを認識して行動を起こさなければ、事故は回避できないのよ」と、ブルームバーグのインタビューで述べています。



事故を受けて、ウーバーは地元カリフォルニアでの路上テストを中止する決定を下しました。また、それに先駆け、自動運転車の開発に取り組むトヨタも、すべての路上テストを一旦停止すると発表しています。トヨタは、自社開発の技術に加えて、ウーバーとも自動運転技術の供与契約を結ぶと伝えられ、いち早くテスト中止に乗り出したのかもしれません。



なにやらここで思い起こすのは、一昨年春のテスラ「モデルS」の事故。フロリダ州で「オートパイロット」走行中に前方のトラックに激突し、ドライバーが亡くなったというもの。一昨年9月号でも取り上げていますが、この時は、レーダーではトラックを検知していたものの、制御コンピュータがカメラ映像を含めて総合的に判断した結果「トラックではなく、遠くにある道路表示板だ」と結論づけて、ブレーキをかけなかったのでした。

つい先週も、シリコンバレーのフリーウェイで、テスラSUV「モデルX」が中央分離帯に激突してドライバーが亡くなる事故が起きましたが、これはオートパイロット走行中の事故だったのか? と現在調査中です。



<遠い「レベル5」>

というわけで、冒頭にも書きましたが、我が家にテスラ「モデルS」がやって来たことで、自動運転に関する見識が変わったように思います。なによりも、機械は人間とは違う、ということでしょうか。



たとえば、車線変更を車に指示しても、十二分なスペースがないと、がんとして動こうとしません。そのわりに、隣の車線から前方に割り込む車に気づかずに、急ブレーキをかけたりします。アップダウンのある道路だと、車線が蛇行しているように勘違いして、ハンドルを大きく左右に切ろうとします。隣に大型トラックがいると、人間は無意識のうちに逆側に寄ろうとしますが、機械は、そんなことはお構いなし。あくまでもまっすぐに突き進もうとするので、人間は「あ、ぶつかる!」と鼓動が速くなります。

そして、かなり「お利口さん」の車でも、フリーウェイに入るのは大の苦手で、車の流れに切れ目がないと、いつまでも進もうとしないと聞きます。そう、「こわいよう・・・」と震え上がる子供のように、高速道路の入り口で、じっと動かなくなるらしいです。



自動運転における最高レベル「5」というのは、車が自分で判断できるだけではなく、車同士がコミュニケーションを取り合って、譲り合う環境が整ったということですが、それくらいにならないと、高速道路に乗るなんて芸当はできないのかもしれません。

けれども、それは、世の中の車の大部分が自動運転になったということで、残念ながら、そうなるためには、あと何十年もかかるのでは・・・と感じている今日この頃なのでした。



夏来 潤(なつき じゅん)



© 2005-2024 Jun Natsuki . All Rights Reserved.