年末号:ハイテクおもちゃいろいろ

Vol. 89

年末号:ハイテクおもちゃいろいろ


12月といえば、アメリカの購買力がぐんと増える時期。驚くことに、インターネットの検索件数では、検索専門のグーグルよりも、オークションサイトのイーベイの方がぐんと上回っているとか。おまけに、イーベイで売り出されているティファニーのアクセサリーは、4分の3が偽物だとも言われています。 「この国はいったい何なんだ?」と思ってしまうこの頃なのです。

そんな年末、この2006年という一年を振り返ってみることにいたしましょう。書きたい分野はいくつもありますが、今年話題となった新製品など、「ハイテクおもちゃ」をテーマにお送りいたしましょう。


<今年の新製品:マイクロソフト編>

年末商戦も真っ只中。今年は、マイクロソフトのポータブル・メディアプレーヤー「Zune(ズーン)」や新型ゲーム機の登場で、家電製品全般の売り上げも好調のようです。一度電器屋さんに入ったら最後、なかなか出て来られないのです。
インターネットで検索される製品名の上位には、勿論、任天堂の「Wii」も食い込んでいますが、検索数でいくと、ソニーの「プレーステーション3」を上回っているとか。やっぱり値段なのでしょうか、それとも、家族全員にアピールするゲームの親近感でしょうか。まあ、在庫がなければ買うこともできませんしね。
任天堂と言えば、Nintendo DSの『脳トレ』は『Brain Age(脳年齢)』という名で売られていて、なかなかの人気のようですよ。

さて、今年を振り返って、印象に残った新製品といえば、やっぱりマイクロソフトの「Zune」でしょうか。アップル・コンピュータのiPodに対抗すべく、アメリカ市場で11月中旬に発売されたポータブル・メディアプレーヤーです。30GBの一機種のみで、値段は250ドルです(iPodの30GBモデルは249ドル)。
まあ、第一ラウンドでいきなり巨頭iPodにかなうわけはないでしょうが、ゲーム機Xbox 360と同じで、お金のあるマイクロソフトがどこまでがんばりを見せるか、ちょっと楽しみなところです(ちょうどひと月たった時点でのZuneのシェアは、ハードディスク内蔵型メディアプレーヤーの9%、フラッシュメモリー内蔵モデルも含めると、1.9%ということです。ちなみに、大御所iPodの方は、それぞれ83%、62%だそうです。リサーチ会社NPD発表データ)。

個人的には、Zuneのイメージカラー「マットな茶色」はちょっと地味だし、アップルのiTunesを真似して、独自の「Zune Marketplaceサービス」を使わないといけない方針が気に入りません。
けれども、画面は大きくて見易いし、使い勝手もよさそうだし、なかなかよくできた製品ではあるようです。WiFi機能は、今のところ、Zune同士でコンテンツのやり取りができるだけですが、将来的には、ワイヤレスで音楽や動画をダウンロードできる拡張性があり、大きなプラスです。Zuneのデザインはマイクロソフト、製造は東芝が担当しています。
写真は、茶色ではなく、黒のZuneで、他に白いモデルもあります。黒が圧倒的な売れ筋だそうですが、大型量販店Targetでは、どのモデルもすべて売り切れでした。

マイクロソフトと言えば、昨年末に発売された第二世代ゲーム機Xbox 360の伸びは、目を見張るものがありますね。PS3内蔵のBlu-rayドライブの向こうを張って、HD DVDプレーヤーをオプション販売するようにもなりましたし。
マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は、「Xboxでは、ソニーの堂々たるコンペになった」と胸を張って語っていたし、スティーヴ・バルマー氏は「今年は、Xboxクリスマスだ!」と叫んでいたし、社内でもかなりの注目株なのでしょうね。
まあ、彼らの製品は、第二世代以降にならないと良くならない嫌いはありますが、だんだんと消費者の心をつかんで来たところなのでしょうか。

ところで、「来年はいったいどうなるんでしょうねぇ?」というネット企業の中に、YahooとAOLが含まれています。これに関して、「マイクロソフトは、充分にYahooを買えるよ」とポロッと発言したアナリストがいました。が、ほんとに、いったいどうなるのでしょうねぇ。


<今年の新製品:携帯電話編>
この時期、MP3プレーヤーとともに話題にのぼるのが、携帯電話。今年は、アメリカのケータイ市場もぐんとおしゃれになりました。

たとえば、モトローラの「KRZR(クレイザー)」。これは、おしゃれな薄型で名を馳せた「RAZR(レイザー)」の後継機種で、薄い、小さい、かっこいい、という路線を受け継ぐものです。
中身は、ミュージックプレーヤーとデジタルカメラ付きのケータイで、Verizon Wireless向けのモデル(EVDOネットワーク対応)だと、ビデオストリーミングも楽しめるという、近頃流行りのものです。デザイン的にはちょっと長いのが難点ですが、ほんとに薄くて、かっこいいです。

Verizonのショップで聞いてみると、実は、この新型「KRZR」よりも、まだまだ「RAZR」の方が売れているとか。どうしてって、「KRZR」が2年契約で250ドルなのに対し、「RAZR」はたったの100ドルだから。

 

そして、このモトローラの「RAZR」よりも、売れ筋のものがあるのです。LGの「Chocolate(チョコレート)」です。これは、ケータイとミュージックプレーヤーがうまく融合した製品で、とっても小さくて、軽くて、女の子には受けそうなモデルです(正式名称は、VX8500とかKG800などと味気ないので、もっぱらチョコレートと呼ばれています)。
クリスマスのシーズン、赤が一番売れているということでしたが、もともとの黒に加え、ミント(黄緑)、ホワイト(白)、チェリー(赤)を追加したのが、受けている理由のようです。
テレビでも、ベルトコンベヤーに載った黒のモデルに、色とりどりのシュガー・コーティングがなされるコマーシャルが流れていて、おしゃれな印象を与えています。おまけに、この時期、たったの100ドルだとか。

このChocolateは、iPod風のフェースがパカッとスライドして、中からキーボードが出てくるタイプですが、この「スライダーフォン」の形式は、これからの流行りだそうです。
モトローラの新機種に「RiZR(ライザー)」というのがあって、こちらもポケットサイズのスライダーフォンです。コンパクトで、なかなかいいケータイだとの評です。
残念ながら、今は携帯キャリアが販売していないので、SIMロックが解除された(Unlocked)モデルを、オンラインショップで買うしかありません。よって、値段が350ドル近辺とお高いです。

一方、サムスンの「BlackJack(ブラックジャック)」も注目株です。キャリア最大手のCingular一押しの新製品で、いわゆるビジネス向けのスマートフォンと呼ばれるものです。
内蔵ソフトは、わたしが使っているパームの「Treo 700w」と同じく、マイクロソフトWindows Mobile 5.0なので、ビジネスにも充分活用できます。製品の位置づけとしては、薄さで話題となったモトローラ「Q」の対抗機種ですが、もっと薄くて、精悍な感じの製品になっています。
テレビでもさかんに宣伝していて、マジシャンの手が、トランプのようにヒラヒラとBlackJackを扱う様は、目を奪われるようです。値段も200ドルと、お手頃なのが受けています。
3.5GのHSDPAネットワークに対応し、Cingularの音楽サービスやビデオサービスも利用できます(Cingularの音楽サービスCingular Musicは、競合のVerizonやSprintにずいぶんと遅れ、11月に本格的な開始となりました。独自のサービスではなく、Yahoo MusicやNapster to Goなどと提携しています。動画の方は、ビデオクリップのストリーミングに加え、MobiTVサービスで、テレビ番組のストリーミングも観られます)。

Cingularのキオスクで聞いてみると、意外にも、この「BlackJack」よりも、同じくサムスンの「Sync(シンク)」の方が売れているということです。こちらは、スマートフォンではなく、折りたたみ式のコンパクトなケータイです。
見た目は、何の変哲もない、ただの黒いケータイですが、中身的には、HSDPAネットワーク対応だし、ステレオBluetoothや2メガピクセルのデジカメも付いていて、見劣りはしません。2年契約で50ドルと、非常に廉価なのが受けている理由のようです。

Cingularがスマートフォン「BlackJack」を前面に出しているのに対し、T-Mobileは、「BlackBerry(ブラックベリー)」で対抗しています。
ここでも何回かご紹介していますが、BlackBerryは、リサーチ・イン・モーションが出すビジネス向けメール・デバイスで、今は、どのモデルにも携帯電話機能が付いています。

T-Mobile一押しの機種は、「BlackBerry Pearl(パール)」と呼ばれるもので、今までのモデルよりも、もっとスリムで持ち易いし、メニュー画面の配置なども改良され、ぐんと使い易くなっています。 また、BlackBerryとしては初めてデジカメ機能が内蔵されたし、音楽やビデオの再生機能も付いたし、今までの「ビジネス・オンリー」のイメージを払拭し、一般ユーザーにもアピールする製品になっています。

  実際、10月から12月の四半期、リサーチ・イン・モーションの業績は、売上額と契約者獲得数の上では、予想以上だったようです。これも、「BlackBerry Pearl」のお陰で、一般消費者にも裾野を広げたからだとか。
せっかく一般ユーザーにもアピールできるようになったのに、間もなく出る「BlackBerry 8800、通称Indigo」には、デジカメ機能は付いていないそうなので、さっそく「カメラ付けてよ?」といった声が聞こえています。現在、スマートフォンを使っているのは、アメリカの携帯ユーザーのわずか2パーセント。これから伸びる素地は、充分にあるのです。

  T-Mobileのショップで話を聞くと、まあ「BlackBerry Pearl」も売れているけれど、一番の売れ筋は、モトローラの「RAZR」だよということでした。ここには、リミテッドバージョンがいくつかあって、たとえば、アパレルブランドの「Dolce & Gabbanaバージョン」は、ピッカピカの金色です。隣には、濃いショッキングピンクのRAZRもあって、お店の中は、なかなか華やかな感じでした。
T-Mobileは、若手のユーザーに向けて、月額40ドルで、仲の良い友達5人に無制限に電話できるという「myFaves」サービスも展開していて、これも売上げに貢献しているのでしょうね。

そういえば、先日、人気テレビドラマ『スーパーナチュラル』を観ていたら、大学生の女の子が、淡いピンクのRAZRを使うシーンがありました。今は、ドラマや映画でのプロダクト・プレースメントも、大事なマーケティング手法なのですね(プロダクト・プレースメントとは、ドラマや映画の中で、商品やブランド名を何気なくしのばせる新手の広告手法のことです)。
でも、この女の子、ケータイで会話中事故に遭って、そのあとゾンビになってしまったので、あんまりいい印象ではないかも・・・


追記:Verizonのショップで、担当者がこう聞いてくるのです。「あれ、LGって日本の会社だから、Chocolateだって、日本で売ってるんじゃないの?」と。すると、マネージャのおじさんが彼にこう言うのです。「違うよ、LGは韓国の会社で、サムスンが日本の会社だよ」って。
まあ、このおじさんマネージャ、お世辞にも親日家とは言い難いタイプの方でしたので、韓国と日本がいっしょくたになっているのでしょう。でも、ちゃんと、ソニーとサンヨーが日本の会社だとは知っていましたけれどね。


<来年出るケータイ!>
さて、来年のケータイは?と言うと、もうすぐアメリカの店頭に現れる機種の中に、パームのTreo 750があります。

まず、今年のTreoは、Palm OSの新機種Treo 680も登場し、ラインアップも4種類になりました(Palm OSのTreo 680二種と700p、Windows Mobile OSのTreo 700w)。
11月発売となったTreo 680は、エントリーレベルのTreoで、Cingularから2年契約200ドルで売れ出されています。見た目に劇的な変化はありませんが、今まで邪魔だったアンテナが消え、すっきりしたデザインになっています。
特筆すべきは、これまでのグレーを脱皮し、コッパー(橙)、クリムソン(赤)、アークティック(白)の3色が加わったことでしょう。けれども、この新色はCingularからは出ていないので、SIMロック解除のものを直接パームから購入する必要があります。ゆえに、値段は400ドルと高めです。

新しく出るWindows Mobile OS のTreo 750は、ヨーロッパのユーザーを念頭に開発されたもので、Vodafoneがヨーロッパで先行して売り出しています。
アメリカ市場では、まだまだ「スマートフォンといえばTreoとBlackBerry」といった統計もあるくらいなので、Treo 750が出現すると、Treo全体の売上げ増加につながると、熱い期待が寄せられています(今年前半のアメリカ市場でのスマートフォン販売台数シェアは、Treoが34%、BlackBerryが29%ということです。リサーチ会社Telephia発表データ)。
11月までの四半期では、Treoの販売台数は、前年同期比42パーセントもアップしています。新機種を出せば、まだまだ、成長株なのかもしれませんね。

一方、こんな噂もありますね。いよいよ、アップル・コンピュータの"iPhone"が1月に出るよと。マックワールドには間に合わないにしても、その翌週あたり、発表されるんじゃないかと。

  いつもの通り、アップルの厚い秘密のヴェールに包まれ、"iPhone"と巷で呼ばれているこの製品が、いったいどんなものかはまったくわかっていません。まあ、iPodベースのケータイ(スライダー式?)とはささやかれていますが、いくつかシナリオが考えられます。
まず、ひとつめは、Cingularなどの大手キャリアから専属で出す。以前、iTunesソフトが載ったモトローラの「ROKR(ローカー)」もあったことだし、Cingularとのペアは充分に考えられる。まあ、これが一番手っ取り早い方法ですが、プライドの高いアップルがキャリア一社で満足するか?という疑問が残ります。
お次は、キャリアのネットワークを借り受け、いわゆる、仮想移動体サービス事業者(MVNO)として自分でサービスを運営する。でも、これだと、まったく不慣れな業種に切り込むことになってしまいます。
3つ目の可能性は、エンドユーザーに直接売り出し、ユーザーは好みのキャリアのSIMカードを挿して使う。しかし、この場合、キャリアの補填がないので、デバイスの値段が高くなるでしょう。それに、別のモデルを作らない限り、CDMA陣営のVerizonとSprintには対応できません。
もしかしたら、まったく違うテクノロジー、たとえばWiFiを使うんじゃないか、とも憶測されています。けれども、ワイヤレスなら、せめてWiMax?それに、IP電話サービスは誰が提供するの?といった疑問もあります。

たとえば、"iPhone"をキャリアに提供する形だと、デバイスを売り切っておしまいです。音声やデータサービスの収入は入って来ません。おまけに、モトローラ、ノキア、サムスンといったデバイスメーカーと真っ向から競合することになります。すると、やっぱり、MVNO?
いったい、どんな"iPhone"が出てくるのか、来年初頭のお楽しみではありますね。 ちょっと目を離していると、知らないうちに新製品がどんどん出ている。アメリカのケータイ市場も、ここまで成長いたしましたよ!


追記:WiFi機能を搭載するケータイとしては、ドイツテレコムの子会社T-Mobileが、間もなくシアトル辺りでテストを開始するとも発表しています。普段は、携帯ネットワークを使い、屋内ではWiFiルータを経由し、IP電話を利用するタイプです。
無制限の通話サービス提供で、携帯ネットワークにも負荷がかかっているし、今となっては自宅でもケータイを使う人が増えているわけだし、なかなかいい案でしょ、とT-Mobileは言っています。
業界団体WiFi Allianceも、CTIAと共同で相互接続性や信頼性テストを行うようですし、実現への動きは出ています。


<ちょっとはずしちゃったね>
今年は、「わ、すごい!」というよりも、「ちょっとはずしているんじゃない?」という点で、印象に残ったものもいくつかありました。

その筆頭となるのが、何と言っても、「モバイルESPN」。ESPNとは、アメリカのスポーツ専門のケーブルテレビ会社で、三大ネットワークのABCと同じく、ウォルト・ディズニーの傘下です。
このESPNが今年2月に始めたのが、携帯電話サービスの「モバイルESPN」。いわゆる、仮想移動体サービス事業者(MVNO)というもので、大手キャリアSprintのネットワークを借り、サービスを提供する形態を採っています。
その名の通り、通常の携帯電話サービスに加え、スポーツ関連のプラスアルファが付いています。唯一の対応機種サンヨー「MVP」の「Eボタン」を押せば、あっと言う間に、ESPNのスポーツニュース速報にアクセスしたり、ごひいきチームのスポーツ中継が観られたり。

まあ、スポーツファンには、なかなか良さそうな「モバイルESPN」。悲しいことに、サービス開始8ヵ月後には、早々と撤退宣言をしてしまいました。
理由はごく簡単。利用者が集まらないので、商売にならなかった。初年度25万人を目指していたところが、実際は、8ヶ月で3万人しか契約者が現れなかったとか。

そこで、こう思うのです。いつでもどこでも好きなスポーツチームの活躍が観られるのはいいでしょう。でも、もしそこまで好きなら、大きな画面で観るでしょう?
スポーツ中継こそ、臨場感!だから、ケータイの小さな画面で観ても、つまらない。きっと、多くの人が、そう思ったのでしょう。
そして、もっと問題なのが、ブランドイメージ。スポーツのESPNが携帯サービス?iPodのアップルならいざ知らず、何の関連もない畑の人たちでしょ?多くの人にとって、MVNOの概念は遠いものなのです。

今、アメリカでは、新しい携帯ブランドがたくさん出てきています。成功例で行くと、4百万人の契約者を持つVirgin Mobile USAがあります。
今年出現した中には、若者をターゲットにコンテンツ提供するAmp’dやHelioがあります。前者は、クウォルコムとメディア企業体のヴァイアコムが出資し、MTVやアニメ、スポーツといった多種多様のコンテンツを提供します。後者は、ISPのEarthlinkと韓国のSKテレコムが出資し、各種コンテンツに加え、ソーシャルネットワーキングサイトMySpaceへのリンクボタンを売り物にしています。

ESPNの親会社であるディズニーも、「Disneyモバイル」というのを提供しています。これは、今年6月に始まったばかりの家族向けサービスで、GPSを使った居場所捜しだとか、特定の電話番号にしかかけられなくするとか、子供に特化した機能も付いています。
Disneyモバイル、Virgin、Helioは、Sprintネットワークを、Amp’dはVerizon Wirelessのネットワークを利用しています。

Amp’dを販売するVerizonショップで聞いてみると、新ブランドの知名度は、まだまだ低いということでした。
また、Disneyモバイルのような「居場所捜しサービス」はVerizonでも出しているけれど、みんななかなか飛びついてくれないとのことでした。来年になると、多くのケータイがGPSチップ搭載となるので、状況は変わるのかもしれませんが。

Amp’dの人気コンテンツの中に、ケータイ用に制作された『Lil’ Bush』というのがあるそうです。ブッシュ大統領を茶化したシリーズ物だそうですが、やっぱり、意表を突いたコンテンツが物を言うのでしょうか。
それとも、HelioのMySpaceリンクボタンみたいに、ソーシャルネットワークやYouTubeみたいな情報発信サイトとのコンビが受けるのでしょうか。Time誌の「今年の人」みたいに、今の時代、やっぱり「あなた(You)」が主役なのかも。


<おまけのお話:ボーナス>
今も日本には、年末のボーナスなんてあるのでしょうか。年棒制の導入で、日本の会社でもボーナスなんて過去のものになりつつあるのかもしれませんが、アメリカでも、ボーナスの有無はまちまちです。
けれども、その中で、ボーナスで有名な分野があります。金融業です。プロの投資家は、一年の出来高によって、驚くほどの額のボーナスをドカッと得る人もいるのです。
いや、一介の投資家に限りません。先日、話題になっていたもので、投資銀行モーガン・スタンレーのお偉いさんが、4千万ドル(約47億円)をご褒美としてもらったというのがありました。しかも、その記録は、わずか数日後に、ゴールドマン・サックスのお偉いさんに破られたそうな。

そこで、ふと疑問に思うのです。アメリカの大企業のお偉いさんは、日頃から何十億円、時には何百億円と言う給料や自社株(ストックオプション)をいただいていたりするのです。そこで何十億円のボーナスをもらったって、何の足しにもならないんじゃないかって。彼らにとっては、1億も50億も誤差の範囲じゃないかって。
いや、普通に考えると、アメリカで数億円持っていれば、利子で充分に食べていけるのです。それは、豪邸を建てたり、自家用ジェットを持ったりすれば、少しはお金がいるでしょう。でも、絶対に生活に困らない人に、どうしてそんなに法外な報酬を与えるのかと。

そこが、日本人の庶民とアメリカの企業のトップとの違いなのですね。彼らは、金額にこだわっているわけではないのです。「今の状況下で、何がフェアか」にこだわっているのです。
たとえば、自分がトップに就任して以来、利益がこんなに伸びた。だから、自分はその何パーセントかをもらう権利があるのだ。スポーツ選手にしても同じです。自分の実力はこれだけあって、自分の存在によって、チームの収入はこれだけ上がる。だから、その正当な分け前(fair share)を得る権利があるのだ。

アメリカ人は、フェア性に執拗にこだわる人たちです。「公平」の理念は、そこここに掲げられています。職場でも同じです。たとえば、オフィスを引っ越すときは、誰がどの部屋を使うかで大騒ぎになるのです。同じ立場のスタッフには、同じ条件の部屋を与えなければならないからです。
ちょっとでも不公正さを感知すると、こういった文句が出てしまいます。「ちょっとちょっと、僕の部屋は彼女のよりも3平米狭いし、第一、窓からの眺めが悪いよ」と。

誰かがこの公平の掟を破れば、システム全体が崩壊してしまうのです。秀でた人には、相応に報いるというシステムが。

大企業のトップでも、アップル・コンピュータのスティーヴ・ジョブス氏や、シスコ・システムズのジョン・チェンバース氏のように、年棒1ドルという人もいます(これは象徴的なもので、実際は自社株をかなりもらっているようではあります)。
それに、オークションサイト・イーベイのメグ・ホイットマン氏のように、高層ビルの日当たりの良い角部屋でなく、小さなキュービクルで満足している経営者もいるようです(キュービクルとは、広いオフィスを細かく間仕切ったスペースのことですね。そう、映画『マトリックス』で、主人公のネオが勤めていたソフトウェア会社のような、小さなオフィス空間です)。

まあ、人間は、ある程度財を築くと、お金とか立派なオフィスとか、そういった地位の象徴には関心がなくなるのかもしれませんね。ただ仕事がおもしろいから、仕事ができればいいや、みたいな感じ。
そこからさらに財を築くと、マイクロソフトのビル・ゲイツさんや、投資の神様ウォーレン・バフェットさんのように、自分のことよりも、人類への貢献に心が移るのでしょうか。


夏来 潤(なつき じゅん)

Merry Christmas (メリークリスマス)!

Merry Christmas !

この言葉に説明はいりませんね。

クリスマスが近づいて来ると、あちらこちらで、このごあいさつが聞こえてきます。

会っていきなり言ってもいいし、別れ際に言ってもいいし、気前よく両方言ってもいいし、おめでたい言葉は、出し惜しみしないのですね。


この「Merry Christmas !」は、あんまり早いと、臨場感がなくって間が抜けて聞こえるし、結構タイミングが難しいんです。

近頃は、アメリカでもだんだんクリスマスを感じるのが早くなってきて、9月に入ると、早々とクリスマスの飾り付けを売っているお店もあるくらいです。

でも、親しい人たちの間のごあいさつは、やっぱり、12月も中旬になってからでしょうか。

わたしはいつも、クリスマスカードを出すタイミングがわからないので、斜め前のご近所さんが先頭を切ってカードをくれると、そろそろ書き始めるようにしています。


クリスマスは、元来、キリスト教の祭日なので、もっとも宗教色の強いものですよね。だから、Merry Christmas を意識的に使わない人も多いです。

そういう人たちは、Happy Holidays ! と言います。

これは、クリスマスから元日にかけて、休みを取る人が多いので、「楽しい休暇をお過ごしください」といった意味が含まれていますね。

アメリカは、クリスマスと元日が公共のお休みですが、会社によっては、年末オフィスを閉鎖するところもあります。そうでない場合は、自分で有給休暇を取る人もいるし、カレンダー通りに出勤する人もいます。

大方のアメリカ人は、感謝祭かクリスマスの時に、実家に帰って家族みんなで集うので、この時期お休みの人は多いですね。

カリフォルニアは、アメリカの中でも最も人種が混ざっている所です。ですから、市役所なんかの公共の場では、公平性を期して、Happy Holidays を好んで使うみたいですね。


キリスト教のクリスマスに対し、この時期、ユダヤ教の人は、ハヌカ(Hanukkah)というものを祝います。

これは、12月の8日間の祭日で、紀元前2世紀エルサレム神殿をシリア人から奪回したことを記念するものだそうです。
 ヘブライ暦に基づくので、グレゴリオ暦では毎年異なりますが、2006年は、12月16日からの8日間でした。

言い伝えによると、神殿を照らす聖油が一日分しかなかったのに、奇跡的に8日間燃え続けたところから、ハヌカでは、毎日一本ずつロウソクに火を灯し、8日目には8本にするのが習慣になっています。別名、「光の祭り(Feast of Lights)」とも呼ばれています。

ですから、ユダヤ教のお友達が Merry Christmas!と言ってくれたら、Happy Hanukkah!と言ってあげるのがいいですね。


この時期、アフリカン・アメリカン(黒人種)の中には、クワンザ(Kwanzaa)というものを祝う人もいます。

これは、太古のアフリカ大陸との繋がりを思い起こそうという祭日で、12月26日から1月1日まで、7日間続きます。

人種差別に抵抗する市民権運動が盛んだった1966年、アメリカで始められたものです。キリスト教のクリスマスに代わるものとして生まれたので、宗教色は強くありませんし、あまり他の国には広まっていないようです。

クワンザとは、スワヒリ語で「初めての果実(first fruits)」という意味で、アフリカ大陸で伝統的に行われていた収穫祭を表すそうです。
 アメリカには西アフリカルーツの人が多いわけですが、わざわざ東アフリカのスワヒリ語を使ったのは、アフリカ全土の文化(pan-Africanism)を象徴するためだとか。

このお祭りでは、毎日テーマが決められています。
 一日目は「結束(unity)」、二日目は「自決(self-determination)」、三日目は「集団の労働と責任(collective work and responsibility)」と、黒人種としてのルーツや誇り、コミュニティー内での互助を考える日々となっているのです。

おもしろいことに、ユダヤ教のハヌカと同じく、ロウソクに火を灯すセレモニーなどもあるそうですよ。やっぱり、火は、神聖なものを表すのでしょうね。

もしお友達の中にクワンザを祝う人がいたら、Happy Kwanzaa!と言ってあげてくださいね。


ところで、今年も素敵なクリスマスカードをたくさんいただきましたが、その中で、印象に残ったものがありました。わたしの歯医者さんからのカードです。

いつもは、愛想無く、来年のカレンダーをポロッと送ってくるだけなのですが、今年は、ご本人の短いメッセージが入っていました。こんなことを言っています。

いつものことながら、今年も、歯を治療中のあなた方を“お見舞い”できて嬉しかったです。口が器具でいっぱいなのに、僕とおしゃべりしてくれたことに感謝しています・・・むにゃむにゃと返事してくれてありがとう(thanks for mumbling back)。

まぎれもなく、ご本人が考えた文章のようで、思わず笑みがこぼれてしまいました。


さて、クリスマスが終わると、いよいよお正月。

さっそく Happy New Year!のごあいさつも聞こえてきます。

Merry Christmas から Happy New Year へ、頭を切り替えなくっちゃ。

追記:残念ながら、ハヌカもクワンザも、わたし自身体験した事はありません。ですから、代用となる写真を使わせていただきました。

ハヌカの段落の柿は、「シャロン(Sharon)」というイスラエルの柿です。種無しの甘い柿で、イスラエルとスペイン、南アフリカで作られています。17世紀にヨーロッパに伝えられて以来、人気の高い果物だそうですが、学名は、「神の果実」という意味があるそうです。

クワンザの方は、ロウソクを灯す習慣があるので、ちょっと「クワンザらしく」アレンジさせていただきました。本来、ロウソクは赤3本、緑3本、黒1本の7本を使います。黒は黒人種、赤はこれまでの苦闘、緑は将来の希望を表します。燭台の下には、色とりどりの果物や、トウモロコシやピーマンなどの野菜を飾ったりするようです。

それから、冒頭の写真は、サンフランシスコのユニオン・スクエアです。ここのクリスマスツリーは、大きくて有名なのです。

後日談:大部分のキリスト教徒は、クリスマスを12月25日に祝いますが、ロシア正教徒は、今日1月7日に祝うそうです。昔の太陽暦であるユリウス暦に基づいているので、普通よりも13日遅いのです。
 ロシアでは、1917年の革命で、ロシア正教をはじめとして、すべての宗教行事が禁止されていましたが、クリスマスは、1992年になって復活したそうです。

昔は、クリスマスイヴに、牛や馬の家畜の恰好をした人たちが、賑やかに家々をまわったり、クリスマスキャロルを歌う人たちが家族を祝福し、お礼に食べ物やお金をもらったりしていたそうですよ。

ちょっといい話

考えてみると、アメリカ人について書くときって、ちょっとからかってみたり、悪口を言ったりしているような気がします。

まあ、住んでみると、どの国にもいい部分と悪い部分がありますので、自然と愚痴も言いたくなるものなのです。

でも、誰が何と言おうと、アメリカが大好きなところもたくさんあるんです。


先日、こんな話を耳にしました。

サンフランシスコ・ベイエリアに、コンコード(Concord)という街があります。夏に開かれるジャズ・フェスティバルで有名な場所なのですが、この街にある車体工場(body shop)のお話です。

この工場では、毎年クリスマスの時期、近隣に住む恵まれない家族に、車を一台プレゼントするのが習慣になっているのです。車はアメリカでは必需品ではありますが、買えない人もたくさんいるからです。

今年は、特別に、ふたつのシングルマザーの家族が選ばれ、それぞれ車を一台ずついただきました。これで、お母さんたちふたりは、今までよりも仕事に通うのがずっと楽になるし、娘たちの学校の行き返りに、車で送り迎えができるようになります。

こんな贅沢(ぜいたく)は今まで考えられなかったと、お母さんのひとりは涙ぐみます。

プレゼントされた二台は、一台が日本のセダン車、もう一台は韓国のセダン車でしたが、子供たちがトランクを開けてみてびっくり。中には、きれいに包装されたクリスマスプレゼントが、びっしりと詰まっていたのです。

「ママ、わたしのプレゼントもあるよ!」と、お姉ちゃんが真っ先に叫びます。

歓声を上げる子供たちにとっては、車なんかよりも、クリスマスプレゼントの方が嬉しかったのかもしれませんね。

実は、この二台の車、新品ではありません。事故にあった車を、車体工場のみんなが、コツコツと修理したものなのです。
 毎日、勤務時間が終わったあと少しずつ直し、一年かけて、新品みたいにピッカピカに仕上げたのです。もちろん、安全性の面でも、きちんと修理・点検されているのは言うまでもありません。ひとりひとりのノウハウが、ギュッと集結されているのですね。

例年は一台だけのプレゼントなのですが、今年は、みんなのがんばりで、二台も仕上がりました。

そして、車の方は、一台は保険会社、もう一台はAAA(日本のJAFみたいな車のお助けサービス)が寄付したものだそうです。


もともと、コミュニティー全体のことを考える機会の多いアメリカ人は、人のために何かをしてあげることを苦にしていません。

たとえば、こんなことだって助けになることがあるんですよ。

あるとき、いつも行っている郵便局に行くと、窓口のお姉さんの髪が、急にショートヘアーになっています。

「いったいどうしたの?」と聞いてみると、「あ〜、今まで長く伸ばしていたのは、髪の毛を寄付するためだったのよ」と言うのです。

病気のために髪が生えないとか、化学療法のために髪が抜けるとか、そんな人たちのために髪の毛を集める慈善団体がいくつかあって、その団体のことを知ったとき、自分も髪を寄付しようと決心したんだとか。(たとえば、Locks of Loveという団体がありますし、小児ガンの団体で髪の寄付を受け付けているところもあります。)

その話を聞いたとき、窓口のお姉さんには、こう言ってあげました。

「そっちの方が似合うよ」って。

彼女は体が大きくって、ボーイッシュな顔立ちなので、ほんとにショートヘアーの方が似合っていたんですけれどね。


今は、Season of Giving (人に与える季節)。

だから、いいお話がたくさん耳に入ってきます。

でも、一年を通していいことをしている人はたくさんいるわけだから、そんないい話をいつも耳にしていたいものだなと思うのです。

Slef-conscious (自意識)

もうすぐ一年も終わり。

そろそろ日本は、忘年会のシーズン。年が明けたら、新年会。そして実家に帰る人は、同窓会なんかにも出席するかもしれませんね。

人と会うことが多いこの季節、なんとなく気になってくるのが、お顔のシワやお肌のツヤ。同窓会までには、ちょっとスリムになりたい!そんな人もいるかもしれませんね。


エッ、こんなところにシワ?白髪?と、鏡を見て愕然としてしまう。そんな体験って、万国共通なものだと思います。

そして、ふと自分をかえりみることを、英語では、self-conscious と言います。

Self は「自分」、conscious は「意識している」という形容詞。だから、self-conscious とは、「自分を意識している」という形容詞になります。

いいにつけ、悪いにつけ、まわりの人に対して、自分というものを意識してしまう、といった含蓄がありますね。

辞書には「内気な」という訳語もありますが、これは、「自分を意識してしまうがゆえに、なんとなくおとなしくなってしまう」みたいな意味なんだと思います。

たとえば、こんな風に使います。

She’s being self-conscious about her weight (彼女って、自分の体重が気になってるのね)

まあ、多くの場合、気にする必要もないのに、自分だけが気になっているんですけどね。


この self-conscious にもあるように、「自分」という接頭語 self- が付いた単語って、結構たくさんあるんですよ。

たとえば、上記の self-conscious に似たところで、self-esteem。これは、「自尊心」という意味ですね。自分を大切にする気持ち。

辞書によっては、「うぬぼれ」という悪い解釈があるようですが、個人的には、「自分を大事にする、誇りに思う」という良い意味の方が強いんだと思っています。

こんな話もあるくらいです。自尊心が低いと、気持ちが暗くなるばかりではなく、体の免疫作用もだんだんと衰えてくる。

たとえば、こういう風に表現されています。

Strong self-esteem can help boost the immune system (自尊心が強いと、体の免疫作用を高める助けになる)

自分を大事に思っていると、しっかりと前を向いて背筋が伸びる。すると、新陳代謝を司る甲状腺( thyroid gland )が活発に働き、体の防衛メカニズムにもいいのだ。そんな話を聞いたことがあります(甲状腺は、のどの下あたりにあります)。

ちなみに、low self-esteem という表現があるように、自尊心が「弱い」という形容詞は、weak ではなく、low(低い)を使うのが一般的なようです。


さて、この他に、接頭語 self- を使う単語を並べてみましょうか。

まず、self-service。これは、日本語にもなっているように、「セルフサービス」という意味ですね。動詞を使って、self-serve という言い方もします。

たとえば、自分で給油するガソリンスタンドでは、「Self」という看板が掲げてあります。これは、self-service の略なのですね。

まあ、アメリカでは、この手のセルフサービスの給油所がほとんどですが、たまに「Full」と書いてある場所があったりします(田舎とか高級住宅地とか)。
 これは、full-service(フルサービス)、つまり、至れり尽くせりで、お店の人がガソリンを入れてくれることなのです。

いずれにしても、アメリカで車を運転する場合は、セルフサービスのガソリンスタンドに慣れておく必要がありますね。


さて、self- の単語に戻ると、ちょっと難しいところで、self-fulfilling なんていうのがあります。

日本語になおすと、「自己達成しつつある」なんてことになっていますが、これは、こういう風に使われる場合が多いです。

Self-fulfilling prophecy 「的中する予言」

エンジニアのお友達がよく言っていました。前回のソフトウェア・プロジェクトで、こんなバグ(プログラムの間違い)が出たから、「今度もきっと同じミスが見つかるに違いない」って言っていたら、その通り self-fulfilling prophecy になってしまった。


お次は、難しいついでに、self-deprecating。「自己を卑下した」とか「控えめな」という意味で、誰かが謙遜(けんそん)しているときに使われる言葉です。

自分をいやしめるような話題で笑いを取るコメディアンを指して、self-deprecating humor(へりくだったユーモア)などと使います。

これは、難しい響きではありますが、意外とよく使われる単語ですよ。


お勉強の分野では、self-taught なんかがありますね。独学で何かを学んだときに使います。たとえば、

He is a self-taught artist (彼は、独学で学んだアーティストなんですよ)

それから、self-explanatory。「自明の」という意味ですが、誰が説明しなくっても、おのずから明らかになってくることですね。

The announcement was self-explanatory (その発表は、自明であった)

この言葉は、学校の講義なんかで、「説明しなくっても、わかるでしょ。(さ、次に行きましょ。)」というような場面にも使われます。


こういうのもあります、self-proclaimed。これは、自分で何かを公言しているときに使います。

たとえば、self-proclaimed “geek” (自称 “おたく”)

それから、self-appointed というのもあります。自ら何かを任命している、つまり、使命としている、という意味ですね。

I have a self-appointed mission (わたしには、自ら課しているミッションがあるのだ)

こんな例文もありました。

I’m sick and tired of self-appointed experts (わたし、自分でエキスパートぶってる人って、ほんとに嫌い)

アメリカ人って、結構「知ったかぶり屋さん」が多いんですよね。逆に日本には、口数は少ないけれど、優秀な人って多いですけれど。

だから、相手に口でうまく乗せられそうになっても、「ちょっと待てよ」と、自分で考えてみることは大事なことなんです。とくに、この国、アメリカでは。

追記:冒頭に出てきたお顔のシワ。英語では、wrinkle と言いますね。シワ取りクリームは、wrinkle reducer cream などと言ったりします。

まあ、シワとは言わないまでも、笑ったときに目の下に出る線。こちらは、laugh line。それから、目じりにできる「カラスの足あと」は、crow’s feet

徹夜明けで、目のまわりが黒っぽい。これは、dark circle (around the eye もしくは under the eye)と言います。なんとなく目が腫れぼったいのは、puffiness。それから、だんだん歳をとって、目の下にたるみができてしまったら、これは、eye bag。「目の袋」といった表現になるんですね。

お気に入りのおじさん

シリコンバレーには、古くからニックネームがありました。

それは、「人々を喜ばせる歓喜の谷」。英語では、the Valley of Heart’s Delight

東と西に連なるふたつの山脈に囲まれた谷間は、まさに豊穣の地。さくらんぼやプルーン、いちごやアプリコットの果樹園が広がり、あでやかな春の花や、たわわに実る色とりどりの果実に、人々の心は自然と浮かれ立つ。

そんなところから生まれた、とっても詩的なニックネームなのですね。


時代は変わり、今は果樹園の代わりに、ハイテク会社や住宅街が広がります。

ついこの前まで果樹園や畑だったのに、いつの間にか、家がたくさん建っている。そんなこともよくある話なのです。

我が家の近くのこの辺りも、ワインを造るぶどう畑が広がっていたのに、気が付くと、住宅街の目抜き通りになっていました。


街の景観が変わるにつれ、人の流れも変わります。

シリコンバレーが開拓された頃には、ヨーロッパ系の白人や、日系や中国系のアジア人が多かったものですが、今では、ラテン系やインド系やベトナム系など、さまざまな人たちの集まる場所となってきました。

なにせ、シリコンバレー最大のサンノゼ市は、英語とスペイン語とベトナム語を公用語としているのですから。

そんな人の流れって、肌で感じるものなのですね。

たとえば、サービス業の人たち。今となっては、エアコンやテレビが壊れたからって、やって来るサービスマンは、圧倒的にラテン系の人が多いんですね。


でも、そんなシリコンバレーでも、昔っからサービス業を営んでいる人って、白人の人が多いんですよ。

たとえば、わたしのピアノの調律師。

とっても早口のべらんめえ調のおじさんで、「ピアノは一年に一回必ず調律する!」をモットーとしています。毎年やっていれば、いつも調子いい音を奏でてくれる、それが理由です。

最初に会ったときは、怒られたものでした。仕事が忙しくって、何年もほったらかしにしていたから。その頃は、ピアノにすら触っていなかったんです。楽器って、ある程度心に余裕がないと、うまく奏でられないものでしょう。

開口一番、おじさんからは大目玉。「Yuck !(ウワッ、ひどい!) なんでこんなになるまでほっといたんだ?」
 こんなにひどいんじゃ時間がかかるよと、たっぷり2時間以上かけて調律してくれました。

もうそれからは、おじさんが恐いばっかりに、一年たつと、来てちょうだいと電話をするようになりました。

今年は、「予定より2ヶ月遅れだけど、ま、いいだろう」と、チクっと言われましたけど。


でも、こんな恐そうなおじさんだけれど、わたしはかなり気に入っているんです。どうしてって、このおじさんの皮肉がおもしろいのです。あと何年かたったら、おじさんの皮肉語録集ができるくらい。

一年目は、こんな話をしていました。題して、『シリコンバレーのお金持ちとピアノ』。

1990年代後半のインターネットバブルの頃は、シリコンバレーにもお金持ちがたくさん生まれました。だから、その頃は、おじさんの商売も繁盛したでしょうと尋ねると、「いや、ダメだね」と、つれないひとこと。

シリコンバレーの人間は、お金ができると、すぐにでっかい家や、高い車を買い始める。ピアノを買ったって、古くなればすぐにポイして、新しいのに買い換える。ピアノの調律なんかしないんだよ。

そこが、東海岸と違うところさ。東では、おばあちゃんから貰ったピアノをとっても大事にするし、ちゃんと手入れもする。そんな何代も受け継がれたスタインウェイが、あっちにはたくさんあるんだ。

この辺のぽっと出のヤツの金は、しょせん、「quick money(あぶく銭)」なんだよ。東海岸の「old money(代々の金持ち)」とは違うのさ。

なるほど、そういえば、この辺の家のピアノって、ただの飾りになっている場合が多いかもしれません。


二年目は、以前、ここでも書きましたが、向かいの丘の邸宅のお話。

インド系の若い夫婦が、ふたり目の子供ができたからって、もともと大きな家を建て増しして、2倍の大きさにしてしまったんです。

そのお話をおじさんにしたら、こう仰せになりました。

「ふっ、そんなに広かったら、家の中で子供を捜すのに、2週間かかっちまうよ。」

(ライフ in カリフォルニア『住宅地が狙われている』の追記部分に掲載)


三年目は、残念ながら、別の方がいらっしゃっていたので、雑談をする時間がありませんでした。

そして、今年。まず会った途端に来ましたよ、このひとこと。

自分からさっさと靴を脱いで家に入ってくれたのに、「ふん、この方が、カーペットの掃除屋を呼ぶよりも安いやね。」

お〜、今年も全開だ!と思っていると、今回は新たな発見をしてしまいました。

このおじさん、なんと、ハンティング(狩り)が好きなんだそうです。

この間、州都サクラメントのずっと北に、キジ(pheasant)を撃ちに行ったとのこと。

そして、シリコンバレーでも、サンフランシスコ湾沿いに狩りができる場所があって、よく鴨(duck)を撃ちに行くんだそうな。銃を持つ人だけが知っている穴場?

なんでよりによって、ハンティングなんかをするのかと思えば、全部お腹に入れるためだそうです。「いやあ、野生の鳥は、味が違うよ。においが強いからねぇ。」

この前、感謝祭だったこともあり、ワイルドターキー(野生の七面鳥)を食べたことあるかと聞いてみると、こういうご返答でした。

「僕はないけど、友達が捕って来たことがあったよ。もともと脂肪が少ないから肉がパサパサしてるんだけど、大きな鍋で丸揚げにしたら、うまかったらしいよ。この辺にもワイルドターキー多いんだろ?」

う、ピアノの調律にハンティング、なんかちぐはぐ、と違和感を持ちながらも、無駄な殺生でなければ許してあげましょう、とこっそり思ったのでした。


ところで、今回は、意外なこともわかりました。このおじさんの苗字、典型的な英語の名前なので、てっきりアメリカ人だと思ったのですが、アメリカ生まれではなかったんですね。

なんでも、お父さんと自分はカナダ生まれで、お母さんはニュージーランドからカナダにやって来た人だそうな。

おじさんはこう言います。

We’re all foreigners(僕たちはみんな外国人なんだよ)」

やっぱり、ここは、シリコンバレーなんだ!

追記:このおじさんって、まったくパソコンは使わないそうです。そんなのは嫌いだとか。
でも、今年は、新兵器「チューニングマシーン」の登場です。
 自分は高い音は聞き取り難いので、この機械を使うと、ばっちり調律ができるのだということでした。

おじさんだって、立派なシリコンバレーの住人ですよ!

ちなみに、シリコンバレーのエンジニアや科学者の半分以上は、外国生まれだそうです。おもに、インド、中国、台湾からやって来た人たちです。
 そういうところが、シアトルやボストン近郊などのハイテク地域と大きく違うところですね。こういった場所では、アメリカ生まれの白人やヨーロッパからの白系移民が多数派を占めているようです。

ホリデー・ブルー

アメリカは、「人種のるつぼ(the melting pot)」と呼ばれますよね。

もちろん、移民の多いアメリカでは、これは当たっているんですが、シリコンバレーのあるカリフォルニアほど、この表現がぴったりな場所はないかもしれませんね。


感謝祭の前日、シリコンバレーの新聞、サンノゼ・マーキュリー紙に、こんな社説が載っていました。

感謝祭のディナーって、アメリカの伝統の権化みたいなもの。

でも、もしあなたが、17世紀のニューイングランド地方の伝統にとらわれているのだったら、今年はちょっと、それを変えてみませんか?
 だって、ここは、21世紀のシリコンバレー。

手始めに、ディナーのオープニングは、日本の味噌汁(Japanese miso soup)をどうぞ。お腹がいっぱいになることなく、うまく食欲をそそってくれます。

サラダには、ローカルなところで、ワトソンヴィル産のほうれん草(Watsonville spinach)、その上にたっぷりとのせた、ポイント・レイエスのブルーチーズ(Point Reyes blue cheese)。

メインディッシュの七面鳥に添えるのは、メキシコのポーク・タマレス(Mexican pork tamales)。そして、ベイエリアのイタリア系住民の伝統ともいえる、近海で獲れたばかりのダンジェネス・クラブ(Dungeness crab)。

野菜の付け合せには、モントレーのアーティチョーク(Monterey artichokes)に、ギルロイのニンニク(Gilroy garlic)をたっぷりとのせて。

炭水化物を好む方は、アフリカン・アメリカンご推奨のコーンブレッドのスタッフィング(cornbread stuffing)。それから、フィリピンからやって来た麺、しっかりお味のパンシット(Filipino pancit)をどうぞ。
 そうそう、サンフランシスコ名物のサワドーブレッド(the San Francisco sourdough)も忘れずに。

もちろん、食事をさらに楽しむには、サンタクルーズ山脈の赤ワイン、ピノ・ノアール(Santa Cruz Mountains pinot noir)。

そして、忘れてはなりません。デザートには、チョコレートトリュフ。サンフランシスコのリキューティ(Recchiuti of San Francisco)か、サンタクルーズのリチャード・ドネリー(Richard Donnelly of Santa Cruz)はいかがでしょうか。

と、まあ、こんな感じです。

いろんな国のお料理に限らず、ローカル産の野菜や名産品が、たくさん出てきていたのでした。

(ふたつめの写真のパンは、サンフランシスコのサワドーブレッドとは違って、酸っぱくないパンです。わたしのお気に入り、ACMEというパン屋さんのものです。)


シリコンバレーは、ハイテク産業のメッカなので、世界各地から人が集まって来ます。それは、アメリカ人にも言えることなんですね。各州から集まって来る。

まあ、子供たちは別として、カリフォルニア生まれの「生粋のカリフォルニア人」なんて、結構珍しいんです。

我が家のまわりをふと見渡しても、純粋なカリフォルニア人はいないような気がします。みんな、実に、さまざまな州から移入して来た人たちなのです。

そんなこんなで、一族が一堂に会する感謝祭やクリスマスともなると、大変なんですよ。


日本では、お盆や年末・年始に帰省する習慣がありますが、アメリカの場合は、11月下旬の感謝祭か、12月のクリスマスのときに帰省するのが一般的なんです。

日本とおんなじで、みんなが一斉に移動するので、感謝祭とクリスマスの頃は、どこも大混雑。

州内や近い州から来ているカリフォルニアの住民は、車で移動するので、道路は大混雑。遠い州だと、飛行機で大陸横断するので、飛行機は満杯。

飛行場は混んでいるし、荷物検査の行列は長いし、乗客が増えるから、その分、無くなる荷物も増える。

しかも、冬は、東海岸なんかでは大雪で飛行機が遅れたりするし。乗り継ぎがあったりすると、もう大変。


まあ、実家にたどり着いた頃には、かなり疲れている人も多いんだと思いますが、それに輪をかけて大変なのが、家族や親戚と長時間を過ごすこと。

もちろん、とっても仲がよく、何の問題も起きない家族もたくさんいるでしょう。
 でも、一般的に、人に対してとっても気を遣うアメリカ人は、こういう一族のお集まりで、疲弊してしまう人もいるのですね。

そんな年末のブルーな気分を表して、「ホリデー・ブルー(holiday blues)」という言葉すらあるのです。

ま、最初の1日や2日はいいでしょう。ニコニコと笑って過ごせばいいですから。

でも、それが3日、4日となってくると、だんだんと小さなことも気に入らなくなってくる。一族の中には、ソリが合わない人が、必ずひとりやふたりはいるものですから。

「う~、あのおじさんに会わなくちゃいけないなんて、なんだか気が進まないなぁ」なんて思っていると、だんだん気分がめいって来る。

それが、典型的なホリデー・ブルーなのです。


アメリカの場合、それに輪をかけているのが、家族構成が複雑なこと。

離婚率が高いので、別れた夫婦の子供をどこの家庭で過ごさせるのか。また、再婚した先の家族は、いったいどこで過ごせばいいのか。

こうなってくると、いろいろとスケジュール表が必要となってくるみたいですね。

近所に住むお友達夫婦は、再婚夫婦。奥さんが、マサチューセッツ州の海沿いの街の出身で、ダンナさんは、内陸のインディアナ州の出身。

ダンナさんの方は、離婚した相手との間にティーンエージャーの息子がいて、インディアナに住んでいます。

ある年、この息子が友達夫婦の家に感謝祭を過ごしに来たのですが、これが、カリフォルニアに来た最初で最後の感謝祭。それ以降は、インディアナの実家で、みんなが集合することになったようです。

この息子くん、カリフォルニアが気に食わなかったのでしょうか、それとも、家族と過ごしたくないお年頃なのでしょうか。

まあ、いくらいい人でも、ステップマザー(stepmother)と過ごすのは、息がつまったのかもしれませんね。

(「ステップ~」という言葉は、再婚後の新しい家族に当てはまる言葉です。たとえば、ステップチルドレンというと、新しく再婚でできた子供たちのことですね。)


ところで、このお友達夫婦。出会いがおもしろいのです。

彼女は、地元出身のダンナさんとの破局を向かえたあと、新しいボーイフレンドに会いに行こうと、飛行機に乗っていました。

そこで、隣に座っていたのが、今のダンナさん。彼も離婚したばかりで、すぐに意気投合したようです。

ダンナさんは、お仕事で飛行機に乗っていたようですが、そこは広いアメリカ。お話する時間はたっぷりあったようですね!

追記:「ホリデー・ブルー」の撃退法として、アメリカのカウンセラーは、こうアドバイスしています。
 まず、どれだけの時間を家族と過ごすか、ちゃんと前もって計画すること。それから、自分の好きなことをする自由時間を作ったり、実家に昔からの友達を呼んで一緒に行動したりすること。

本来は、楽しいはずのホリデーシーズン。心の持ちようで、自分の楽しい方に持って行きましょう、ということでしょうか。

賑々しい11月:選挙とPS3とお家の一大事

Vol. 88

賑々しい11月:選挙とPS3とお家の一大事


アメリカでは感謝祭も無事に終わり、いよいよクリスマス商戦に突入です。今年は、買い物客の出足も好調のようで、お店のレジはKa-ching! Ka-ching!と、調子の良い音を出しています。ひとたびお買い物に出たら、”倒れるまで買いあさる(shop till you drop)”、それがバーゲン・ハンターたちのモットーなのです。

まあ、そんな賑やかな毎日ですが、11月を振り返って、鮮明に記憶に残るお話を3つほどいたしましょう。


<ソニーの新製品>
いや、もう大騒ぎ!何がって、あのソニーのプレーステーション3(PS3)です。11月17日午前零時1分、一斉に発売開始となったのですが、全米中を騒ぎの渦に巻き込み、この日一番のヘッドラインとなっていました。
金曜日未明の発売に備え、すでに水曜日あたりから、各地の販売店の前ではキャンプを張る人たちの行列が続出。シリコンバレーのBest BuyやFry’sは勿論のこと、大型電器店やWal-Martなどの量販店の存在する街では、どこでも長?い行列です。マンハッタンでは、もう日曜日には一番乗りの人が姿を現したとか。

この騒ぎの発端は、発売当日、全米で40万台しかPS3を準備できなかったこと。全米の小売店に出荷すると、一店舗あたり、100台にも満たないのです。ソニー側は、年内には百万台を準備すると発表しているにもかかわらず、品不足の予告が「希少価値」の期待を呼ぶ結果となりました。
勿論、ソニー自体がPS3の生産に追いつかなかったのでしょうが、アメリカの一般的な見方は、「メディアハイプ(media hype、マスコミの過剰な大騒ぎ)」を引き起こすために、わざと出荷を制限しているのだというもの。アメリカのメディアと消費者は手厳しいのです。ソニーは、品不足のため、ヨーロッパでのPS3発売を来年3月に延期しているそうですが、そんな話は、人々の耳には届きません。

発売直後、アメリカで一番人気のオークションサイトeBayでは、「PS3を売ってあげましょう」というリストのオンパレード。なにせ、600ドルの投資が、2000ドル、3000ドルにもなるのです。ソニーが一台あたり300ドルの赤字を出すと言われるのを尻目に、ラッキーにもPS3を手に入れた人たちは、ちょっとした小遣いを懐に入れています。勿論、「絶対に売らないぞ!」という、ハードコア・ゲーマーたちもいましたが。

サンフランシスコのソニービル「Metreon」。ここでも、発売の何日も前からキャンプを張る人たちが現れ、その数は700にも膨れ上がっていたとか。ソニーは、この若者たちのために、仮設ステージを設けロックバンドを呼んだり、タダで食べ物を配ったりと、サービスに余念がありません。
きわめつけは、PS3の搬送です。発売約4時間前、真っ赤な巨大トラックがどこからともなく現れ、中からは、真っ黒のスーツを着込んだSPとともに、ソニー・アメリカのお偉いさんがPS3の箱を持って登場!そして、まわりは大歓声の渦。空高く掲げられるPS3は、まさに水戸黄門の「葵のご紋」なのです。

この2日後、11月19日に発売となった任天堂のゲーム機Wiiは、比較的静かに消費者に受け入れられています。供給も潤沢に行われ、暴動に近い大騒ぎも、強盗による発砲騒ぎもありませんでした。やっぱり、「品不足」のメディアハイプは恐ろしいものなのです。

真面目な話、騒ぎが収まったら、我が家でもPS3を買ってみようかと話しています。次世代DVDのBlu-rayが魅力的なのです。まあ、60GBのモデルには無線LAN機能(IEEE 802.11b/g)なんかも付いているし、家電製品として考えると、定価600ドルという値段も、そんなに悪くない気はします。
近年、我が家では、ソニーの新製品とは縁遠い日々を送っていました。この夏は、ソニーの薄型液晶テレビを購入してみたのですが、これを機に、またソニー製品を買う機会も増えるのでしょうか。

追記:我が家にとっては、PS3を日米どちらで買うのか?という問題が残っています。アメリカで買ったPS3でも日本のゲームソフトは動くようだし、日本で買ったPS3でもアメリカで販売するBlu-rayディスクは再生できるようです。
だとすると、保証のことを考えて、アメリカで買うのでしょうか。それとも、もう少しドル高になったら、日本で買ったほうがお買い得なのでしょうか。

一方、任天堂のWiiですが、アメリカではさっそく、「テニス肘(ひじ)」ならぬ「任天堂肘(Nintendo elbow)」というのが出てきているようです。お医者さんは、こう警告します。Wiiのリモコンを使う前には、充分にウォームアップすること。


<選挙の余韻>
いや、もう大騒ぎ!何がって、あの全米の中間選挙です。先月号でもご報告いたしましたが、ブッシュ大統領に敵対する民主党が連邦議会を取るかどうかで、国中が揺れていたのです。ホワイトハウスとともに、両院を死守したい共和党は、あの手この手で有権者に迫ります。

そして、11月7日の開票即日、連邦下院は、あっさりと民主党の手に落ちました。民主党が新たに手にした議席は、少なくとも29。必要とされる15議席を軽く越えています(テキサス、ルイジアナなど南部の州で4議席が確定していませんが、大勢に影響はありません)。
一方、最後まで揉めていたのが、連邦上院。100議席のうち51議席を獲得しないと、議会をコントロールできません(50議席ずつになると、チェイニー副大統領が最後の一票を投じるという、とんでもない状況に陥るのです)。
問題は、モンタナ州とヴァージニア州。ここで2議席を獲得しないと、努力が泡と消える民主党。後日、ほんの僅差でこの2議席を勝ち取り、めでたく主導権を握ることとなりました(両州とも、共和党現職候補が敗れています。モンタナ州は疑惑のロビイストとの関係、ヴァージニア州では過去の人種差別的発言が、現職候補の妨げになったようです)。

まさか、両院を失うとは思っていないご様子のブッシュ大統領。忸怩(じくじ)たるものを感じながらも、さっそく選挙の2日後には、下院議長となる民主党のナンシー・ペローシ氏を笑顔でホワイトハウスに招きます。「これから、両党仲良くやっていこうよ」と。その翌日、今度は、上院議長となるハリー・リード氏を招き、固い握手を交わします。
リード氏のときは、民主党に敬意を表し、赤ではなく、青いネクタイを結ぶブッシュ大統領。選挙の翌日、ラムズフェルド国防長官を罷免したときは、まさに、怒り心頭に発する面持ちでの記者会見。この日は、少なくとも表面上は平静さを保ちます(色の話ですが、一般的に、赤は保守的な共和党、青は革新的な民主党を表すとされています。「レッド・ステート、ブルー・ステート(赤い州、青い州)」という表現もすっかり定着してしまいました)。

けれども、お祝いムードも束の間、一枚岩とはいかないのが、民主党です。新たに下院リーダーに選ばれたナンシー・ペローシ氏は、国中でもっともリベラルなサンフランシスコ選出の議員。彼女を心底信頼している民主党員は、南部や中西部出身の議員の中には少ないのかもしれません。
それが証拠に、「ブルー・ドッグ(the Blue Dog Coalition)」と呼ばれる議員連盟があるのです。これは、自らを「穏健派と保守派の民主党員」と呼ぶ議員たちの集まり。あくまでも、国の赤字削減を第一目標とすべきであり、あまりに民主党色の強い討議となったら、自分たちは共和党とともに闘うぞという姿勢の表れなのです。ブッシュ大統領の富裕層への課税削減を守り、ビジネス・フレンドリーな政策を打ち立てようとする民主党員の集まりともされています(ブルー・ドッグという名前は、議員の部屋の壁に掛けられる、青い犬の絵から来ているようです。ちなみに、党自体のマスコットは、共和党が象、民主党がロバです)。

若干の不平分子を抱える民主党。来年1月からは、ペローシ氏の手腕が厳しく問われることになるのでしょう。 不公平感がつのる税制、据え置かれる最低賃金や医療費高騰への適切な対処、同性結婚や幹細胞研究など国を二分する社会問題。そして、日々泥沼化するイラク戦争。問題は、あまりに山積し過ぎているのです。

時代の流れとともに、人の心は移ろうもの。政治にしても、まったく同じことなのでしょう。今まで、大きく右に傾いていた振り子が、ここに来て、ようやく真ん中に戻ろうとしているのかもしれません。
アメリカがイラクに侵入して、間もなく4年。今でこそ、国民は懐疑心を持ち始めていますが、その過ちに気付くまでに、あまりにたくさんの命が失われているのです。その代償に、アメリカはいったい何を勝ち取ったのか。そろそろ国民は、真摯に答えてほしいと願っているようです。


<サンフランシスコのスタジアム>
東京、2016年! 何かといえば、夏のオリンピック開催候補地のことです。同じ年、サンフランシスコも名乗りを上げているのです。いえ、正確には、「上げていた」と言うべきですね。残念なことに、つい先日、立候補を取り下げてしまいました。

事の発端は、サンフランシスコのプロフットボールチーム、サンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)。その名の通り、彼らのスタジアムは、ずっとサンフランシスコにあり、昔は、ゴールデンゲート公園内にあるキーザー・パーク、過去35年間は、湾沿いのキャンドルスティック・パークというスタジアムをホームグラウンドにしてきました。
ところが、このキャンドルスティック・パーク、もう40年以上も経っていて、老朽化がかなり進んでいます。そこで、市と開発業者は、スタジアム周辺の再開発も兼ね、立派なスタジアムを造ろうじゃないかとプランを練り始めました。
プロスポーツチームのスタジアム建設ラッシュが吹き荒れる中、今どき、こんなに古い場所を使っているのは、49ersと対岸のオークランド・レイダーズくらいなものです。キャンドルスティックを共用していた野球チーム、サンフランシスコ・ジャイアンツだって、自分の美しいスタジアムを建て、さっさと逃げて行ったではありませんか。

一見、スムーズに運んでいた再開発計画。けれども、今月になって、大問題が起こりました。突然、49ersのオーナーが、シリコンバレーのサンタクララ市に新スタジアムを建てることにしたからね!と宣言したのです。
実は、49ersにとっては、サンタクララ市は自然な選択なんです。なにしろ、チームの本拠地とトレーニンググラウンドは、20年も前からここにあるのですから。
周りには大きな遊園地やコンベンションセンターもあり、公共の交通機関や駐車場は充分に確保されています。市が所有するスペースはふんだんにあり、スタジアムを建てるには充分です。加えて、幹線道路フリーウェイ101号線に近い地の利、市が自ら営む公益事業で低く抑えられる公共料金と、いいことずくめ(明言をはばかられますが、こっちの方が治安もいいのです)。

ここで寝耳に水なのは、サンフランシスコ市。49ersが出て行くとなると、新スタジアムを目当てとしていたオリンピック開催も危うくなります。そこで、急遽、反撃の対策を練り、市長自ら49ersのオーナーとミーティングを始めます。そして、市民からもサポートを得ようと、壮大な再開発計画を公にします。
チーム側は、このプランを「素晴らしい!」と称(たた)えます。だけど、ひとつ大きな問題がある。チームが新スタジアムを望む2012年には、とっても間に合いそうにない!ひとつ間違えば、すべてが遅れてしまうようなギリギリのプランの上に成り立っていると。たとえば、道路の整備は、開発業者が6500戸の住宅を売ってまかなうらしいが、もし順当に利益が出なかったら、いったい誰が金を払うんだ?
決着が付かないまま、サンフランシスコは、オリンピック開催の名乗りを、さっさと取り下げることとなりました。

このサンラクララのスタジアム計画が浮上して以来、北にサンフランシスコ、南にサンタクララと、ベイエリアは二分されているようでもあります。
サンフランシスコ選出のベテラン上院議員ダイアン・ファインスタイン氏は、こう発言します。「もし49ersがサンフランシスコを出て行くのなら、彼らに”サンフランシスコ”の名を使わせない条例を作るべきだ」と。 これに対し、シリコンバレーの新聞、サンノゼ・マーキュリー紙は、社説でこう反撃します。「11月7日の選挙でファインスタイン氏が再選できたのは、シリコンバレーの有権者のお陰でしょ。そこのところを考慮なさった方がいいのでは」と。 いや、真面目な話、彼女の得票は、サンフランシスコの16万票に対し、シリコンバレーは29万票だったそうです。元サンフランシスコ市長という輝かしい経歴はありますが、今は立派にカリフォルニアを代表する政治家なのですね。

キャンドルスティック・パーク。多くのファンにとっては、思い出深い場所なのです。1981年のシーズン、その頃いつもビリの49ersが、何やら突然調子付いた年。1月10日、大事なプレーオフのお相手は、宿敵ダラス・カウボーイズ。もうダメかとみんながあきらめかけたとき、3年目のクォーターバック、ジョー・モンタナから、レシーバーのドゥワイト・クラークへと奇跡のようなタッチダウンパスが決まったあの日。
その年、スーパーボウルを初めて制し、いつしかこのパスは、「The Catch」と呼ばれるようになりました。振り返ると、あれが、49ersの伝説の始まりだったのです。

まあ、そんなスタジアムですから、昔からのファンは、移転に反感を持つのは充分に理解できます。けれども、シリコンバレーだって、49ersのファンは多いのですよ。
11月のある日曜日、49ersがデトロイト・ライオンズに勝った日のこと。我が家の近くを車で通りかかると、おじさんがニコニコとこちらを見ています。何だろうと思っていると、彼の頭の上には、真っ赤な49ersの帽子。49ersの勝利がただただ嬉しくって、街を歩き回って、みんなに笑顔を振りまいていたのですね。

いろいろとお家の事情はあるでしょうが、ファンあってのプロスポーツです。スタジアムが便利で快適な方が、ファンにも喜ばれますよ。


後記:時を同じくして、オークランドの野球チーム、オークランドA’s(アスレチックス)も、ホームグラウンドのオークランド・コロシアムを出て行くぞ!と宣言しています。こちらは、ちょっと南にあるフリーモント市に新スタジアムを建設する計画。土地の所有者は、シリコンバレーの重鎮、ネットワーク機器のシスコ・システムズだそうです。
こちらは本決まりなのか、「A’sは、アメリカで一番進んだ”シスコ・フィールド”でプレーするんだよ」と、テレビで宣伝を流し始めています。まだ土台もできていないのに、なんとも、気が早いことではあります。
実は、フリーモントに決まる前、サンノゼ市という案もあったんです。けれども、詮無きかな、サンノゼは、サンフランシスコ・ジャイアンツの領土。不可侵条約(territorial rights)のお陰で、A’sは入れないのです(なんでも、この不可侵条約、独禁法の例外として、連邦議会にも認められているそうな)。

それにしても、フットボールのスタジアムって、必ずしも名前の場所にあるわけではないんですね。たとえば、ワシントン・レッドスキンズ。彼らのスタジアムは、首都ワシントンDCではなく、お隣のメリーランド州。そして、ニューヨーク・ジャイアンツとニューヨーク・ジェッツが併用するスタジアムは、ニューヨーク州ではなく、ニュージャージー州にあります。だとすると、サンフランシスコ49ersがサンタクララ市に移っても、何の問題もないのではないでしょうか。同じ州なのに。
サンフランシスコ選出のダイアン・ファインスタイン上院議員は、こう仰せになったそうです。サンタクララ市に移るんだったら、「サンタクララ・チップス(Santa Clara Chips)」にでも名前を変えたらと。
このチップとは、勿論、コンピュータチップから来ています。サンタクララには、かの有名なインテルの本社もありますし。


夏来 潤(なつき じゅん)

Black Friday (黒い金曜日)

11月の第4木曜日は、待ちに待った感謝祭。12月のクリスマスとともに、アメリカでは、もっとも人気のある祭日です。

感謝祭。英語では、Thanksgiving(サンクスギヴィング)。

Thanks” を “Give” する、つまり、「ありがとう」を「与える」というのが、語源ですね。まあ、平たく言って、「日頃の生活に感謝する」という意味なんです。

こんな質問も聞こえてきます。

Who do you want to give thanks to? (あなたは、誰に感謝したいですか?)

What are you being thankful for? (あなたは、何に感謝していますか?)

感謝する一日なので、こんなことをふと考えてみる、いい機会なのですね。


もともと、この日は、家族や親戚が一堂に集まり、夕餉(ゆうげ)の食卓を囲むのが決まりとなっているので、今でも、実家に帰る人々も多いのです。

カリフォルニアの場合は、よその州から来ている人が多いので、感謝祭の旅路も大変です。

今年は、感謝祭前後に遠くへ行ったカリフォルニア人は、5百万人近く(6人にひとり)。
 そのうち、4百万人は車でお出かけしたそうなので、祭日のわりに、フリーウェイはかなり混んでいたようです。

全米では4千万人近くが遠出をしたそうで、日本のお盆の頃みたいに、陸と空で、「民族大移動」が繰り広げられるのですね。

そうそう、感謝祭の前には、こんな挨拶を忘れてはいけませんよ。

Happy Thanksgiving ! (楽しい感謝祭をね!)

こんなのもありますね。Happy Turkey Day ! (楽しい七面鳥の日をどうぞ!)


そして、感謝祭と切っても切れない縁が、Black Friday(ブラック・フライデー、黒い金曜日)。感謝祭の翌日の金曜日のことです。

え、金曜日が黒い?

実は、黒いというのは、「黒字」を指すのです。今までは赤字(red ink)だった経営も、この日を境に、黒字(black ink)に変わるという意味なんです。それほど、儲かる日ということですね。

このブラック・フライデーは、どこでも朝早くから店を開けます。大きなお店だと、もう朝の5時から開いています。

一年のうちで、もっとも安売りをする日なので、お客の方もそれをわきまえていて、朝の4時や5時には、もうお目当ての店の前で待っている人もたくさんいます。

この日のために、朝の5時から11時までは特別セールだよ!とか、急がないと数に限りがありますよ!とか、いろんな商戦が繰り広げられるのです。

新聞の広告もすごいです。「感謝祭の一日、ちゃんとお勉強しておくように」と、前日の感謝祭には各家庭にドサッと配られるのです。


そんなブラック・フライデーにまつわる単語に、doorbusters または、doorbuster discount というのがあります。

なんと、door(ドア)をbust(破壊する)ようなもの。つまり、破壊的な力を持つような、すごい割引という意味ですね。

人々がドアに殺到し、ドアが壊れてしまうようなものすごい安売り!

いや、実際、アメリカではよくある話ですね。あの暴動のような大騒ぎ。

このブラック・フライデーも、42インチの薄型液晶テレビが、たった999ドル(12万円弱)というのがありました。きっと、店の中では、取り合いだったんだろうなぁ。

今年、ブラック・フライデーにお買い物をしたアメリカ人は、1億4千万人(人口のおよそ半分)。
 売り上げは、去年よりも6パーセント上がって、実に90億ドル(約1兆円)だったそうです!


この大事なショッピングの日は、「正式なクリスマス商戦の始まり(official start of Christmas shopping season)」ともされています。

今年は、クリスマスまで、31日もあります。いつもよりも長いので、お店の方も期待が大きく膨らんでいるのです。

そうそう、感謝祭をいつにするかには、こんなお話があるんです。

感謝祭が国民の休日となったのは、1863年、リンカーン大統領のとき。当時は、11月最終木曜日が感謝祭と定められていました。
 ところが、その数十年後の1939年、時の大統領フランクリン・ルーズベルトが、それまでよりも一週間早めたそうです。

どうしてって、クリスマス商戦を一週間伸ばしたかったから。

その頃、アメリカは大恐慌時代。少しでも国民の消費の手助けをしようと必死だったようです。

まあ、クリスマス商戦の別名は、Spending Season。その名の通り、遣って、遣っての、消費の季節なのです。

みんなのクリスマスプレゼントのリストは、年々長くなる一方。ひとり760ドルくらい(9万円弱)は使うという調査もあるくらいなのです。


そんなクリスマスを控えたシーズンは、なんとなく心ウキウキ。

The holiday spirit(ホリデー・スピリット)とか、‘Tis the Season(ティス・ザ・シーズン)などと表現されます。

人々の財布の紐もゆるむかわりに、心も広くなります。遠くの親戚を思ったり、コミュニティーの見ず知らずの人たちを気遣ったり。

いつもよりも、もっともっとお互いを助け合うのが、感謝祭からクリスマスにかけて。とってもいい季節なのですね。

追記:ちなみに、わたし自身のお話です。ブラック・フライデーの金曜日、通院したあと、オペラ『セビリアの理髪師』を観に行きました(オペラとはいえ、コメディータッチなのでとっても楽しめるのです!)。通院途中、ショッピングモールを通りかかりましたが、さすがに、車がたくさん。例年、この日は、駐車場も見つからないくらい混むんですね。一度、車を停めたら、近くのモールには歩く!これが鉄則です。

翌日の土曜日は、サンノゼのサンタナ・ロウに行きました。フォトギャラリー「小さい秋」でご紹介した、新し目のショッピングモールです。ここは、安売りが大好きなアメリカ人にしてみたら、ちょっとお高いので、駐車場にもちゃんと車を停められました。

日曜日はあいにくの雨だったので、ネットでショッピング!(いえ、ただ、前から欲しかった本を一冊買っただけですけれど。)

実は、その翌日の月曜日は、Cyber Monday(サイバー・マンデー)と呼ばれているのです。感謝祭の週末、どこにもお買い物に行かなかった人が、ネットに殺到して、オンライン・ショッピングするという意味です。なんで月曜日まで待つかって、月曜日に会社に行って、オフィスのパソコンでショッピングする人が多いからでしょうね。
 今年は、去年よりも7パーセントも、サイバー・マンデーのオンライン売り上げが伸びているというお話でした。

感謝祭の七面鳥

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やっぱり、感謝祭は七面鳥!

でも、今までは、お友達の家にお呼ばれしたり、お気に入りのレストランに食べに行ったりしていたので、自分で焼いたことがないのです。

そこで、今年は、一念発起。我が家で七面鳥に初挑戦!

と言っても、七面鳥なんて、勝手がまったくわからない。いったいいつ買ったらいいのでしょう?近くのスーパーで聞いてみると、半冷凍のものを1週間くらい前に買って、感謝祭直前の火曜日に、冷蔵庫で解凍を始めたらいいとのこと。

次の問題は、七面鳥の大きさ。「いったい何人分が必要なの?(How many people are you feeding?)」とは、お肉屋さんの最初の質問です。ほとんどの七面鳥は、10人前ほどを想定しているので、とっても大きい。だから、小さいものは、すぐに売り切れるんです。「早く買わないと、なくなるよ!」との仰せに、あわてて買ってみました。

買った七面鳥は、10ポンド(4.5キロ)。そんなに馬鹿でかくはありません。鶏のひとまわり大きい感じで、日本人の家庭でも大丈夫。

感謝祭の食卓は、こんなものが定番です。主役は勿論、七面鳥の丸焼き(roasted turkey)。七面鳥の切り身の上には、グレイビーソース。そして、脇に添えられるのは、スタッフィング、マッシュポテト、真っ赤なクランベリーソース。

脇役としては、まず、ジューシーなハムのかたまり。それから、いんげんのキャセロール、甘いお芋のキャセロール、とうもろこし、サラダ、ロールパン、などなど。

そして、忘れていけないのが、デザート。シナモンと生姜がピリッときいたパンプキンパイは、往年の一番人気なのです。

地方や家々によって、いろんな伝統はあるようですが、誰でも自分の「大好きなレシピ」を持っているものなのです。「うちのお袋のように作ってよ」と、奥さんにおねだりする旦那さんもいるようで、やっぱり、お袋の味は、いくつになっても忘れられないものですね。

こんな伝統派に対し、近頃は、新手のものも登場です。その名も、「七面鳥の丸揚げ(deep frying turkey)」。もともとは南部の伝統的な料理法だったのですが、いつしか、全米で楽しまれるようになりました。

普通はオーブンで長時間かけて丸焼きにするかわりに、油で丸揚げにするのです。数時間もかかる丸焼きに対し、丸揚げは1時間弱でできあがるそうなので、そのお手頃さと、揚げ物の「こってり味」が喜ばれているようです。

そして、今年の話題は、なんと言っても「ターダッキン(Turducken)」!

七面鳥(Turkey)の「Tur」、鴨(duck)の「duc」、それから鶏(chicken)の「~ken」を繋げた造語です。

その不思議な名前の通り、骨を取った鶏を鴨で巻き、その上を七面鳥で巻くのです。間にいろんなハーブも入れ込み、その「太巻き」みたいな完成品は、なかなかの美味だとか。

感謝祭の夕方、どこかにお呼ばれすることがあったら、ペコペコで行ってはいけませんよ。かえって、たくさん食べられなくなるんだそうな。だから、理想的なのは、果物か何かを軽くお腹に入れておくことだそうです。

それから、感謝祭には、こんな話も付き物です。あまりに一生懸命に料理を作ろうとしたあまり、キッチンの排水管が詰まってしまって、さあ大変。配管屋さんを呼ばないといけなくなって、感謝祭のディナーを翌日に延期する羽目にも。

アメリカの家では、生ごみを処理するディスポーザーが一般的なのですが、これには許容範囲があって、お芋の皮みたいな硬い物は、流さない方が無難なのです。それを忘れてしまったら、さあ大変。

なんとなく、日頃、自分でお料理をしてないのがバレてますよね。感謝祭は、配管屋さんの最も忙しい一日なのだとか。

ところで、我が家の七面鳥。6時半にはできる予定が、できあがったのは9時。

焼く時間は、摂氏160度で、1ポンドに付き18分のお決まり。だから、10ポンドの場合は、3時間のはず。でも、なぜだか温度が低すぎて、結局、6時間もかかりました。温度センサーが壊れていたのか、それとも、旧式のオーブンのせいでしょうか。

おまけに、食べ終わって、変なことに気が付いたのです。どうも焼けた七面鳥のお皿の上に、血が落ちているなと思ったら、首の部分に、ビニールに包まれた内臓が隠されていました!

いえいえ、手落ちではありません。七面鳥の心臓や肝臓の臓物(giblets)は、肉に添えるスタッフィングの味付け用スープに使うのです。だから、ごていねいに、ビニールに包んで肉の中に詰めてあったのですね。

でも、そんなの、教えてくれなきゃわかんないよ!

まあ、そんなハプニングはありましたが、我が家の七面鳥、なかなかの美味でしたよ。やっぱり、シエラネヴァダ山脈のふもとでのんびりと過ごした七面鳥は、お味もよろしくお育ちになっているようです。

追記:感謝祭のディナーのお楽しみは、残り物の七面鳥にもあります。残飯整理の得意な連れ合いは、さっそくその手腕を振るってくれました。

まずは、七面鳥のピカタ。淡白な白身の部分を使い、ピカタにはぴったり合っていました。グレイビーソースでも、ケチャップでもいいコンビです。

お次は、七面鳥のクリームソース・スパゲッティ。七面鳥の深い味が出ていて、マッシュルーム入りのクリーミーなソースにぴったりです。

やっぱり、一番のヒット作は、七面鳥のスープ。身を粗方取り除いた骨を、一日中コトコトと煮てスープにしました。それに、セロリやニンジン、マカロニを入れて煮込み、最後に、色付けにチャイブ(アサツキ)を散らします。

ついでに、初挑戦でわたしの自信作となった、七面鳥のスタッフィングのレシピをどうぞ。色取りが悪くて、見た目はいまいちですが、なかなかおいしかったですよ。
以前は、七面鳥のお腹の中に入れてお出ししていたスタッフィング(stuffing)ですが、今では食の安全性を考え、別々に料理し、脇に添えるルールに変わりました。

<材料>
フランスパンひとつ、1センチ角に切る
細切れにした胡桃、1カップ
みじん切りの玉ねぎとセロリ、2カップ
バター、2分の1本
青リンゴひとつ、細かく切って
干しブドウ、1カップ
グリーンオリーブ、5個から10個を細切れに
七面鳥の臓物から取ったスープ、1カップ(なければ、市販のチキンスープで代用)
セージ少々
家禽用調味料少々(Poultry seasoning と呼ばれる鶏や七面鳥用の調味料で、バジル、ローズマリー、セージ、マージョラム、タイム、オレガノの混ざったもの)
塩・コショウ少々

<作り方>
1.まず、鍋にバター少々を入れ、フランスパンをこんがりと炒めます。
2.別の鍋で、玉ねぎとセロリを炒め、その中に、パンと残りの材料を入れます。
3.スープを入れたところで、蓋をして煮込みます。スープは適宜足し、しっとりとやわらかくなるまで煮ます。
4.味付けは、お好みで適宜(スープの塩気と、干しブドウの甘味がいいバランス
となっています)。

出展:Simply Recipes という楽しいサイトです。

ワイルドターキーはいずこへ!

皆さん、ワイルドターキーって知っていますか?

いえ、あの有名なバーボンのブランドではありません。生きたワイルドターキー(wild turkey)です。野生の七面鳥のことですね。

実は、我が家のまわりには、ワイルドターキーがいっぱい。数年前にはまったく見かけなかったのに、2、3年前から大量繁殖しているのです。日がな一日、みんなの裏庭をのっそのっそと、徒党を組んで歩き回ります。

なんでも、天敵のコヨーテが少なくなったので、辺りは「ターキー天国」となったんだとか。

最初のうちは、ご近所さんも珍しがって、「見て、見て、ワイルドターキーよ!」と大騒ぎしていましたが、そのうち慣れてしまって、ただの風景の一部となってしまいました。


いつか、朝早く起きたとき、度肝を抜かれたことがありました。我が家にも出現したのです!

数羽のターキーが大きな体をゆっくりと動かしながら、裏庭のフェンスのあたりを歩いています。

そのうち、一羽がヒョイッとフェンスの上に飛び乗ります。

首をもたげ、まるで勝ち誇ったかのような、その顔!

近くで見ると、とっても大きくて、びっくりです。それに、あの鋭い爪!
 あんなのに襲われたら、さぞかし大変だろうと思うのです。

彼らは、真剣に走ると、時速30キロも出せるらしく、どことなく、ヒッチコックの映画『鳥』を彷彿とさせるのです。

それにしても、まさか、ワイルドターキーのご一行様が、我が家にも訪れていたなんて。まさに「知らぬが仏」です。


コミュニティーにすっかり同化してしまったワイルドターキー。でも、不思議なことに、ここ一週間、姿を見かけないのです。たったの一羽も。

あんなに何羽もいたのに、ご近所さんの一帯から、まったく姿を消してしまったのです。

そこで、みんなは、こう噂します。「もうすぐ感謝祭だから、食べられないように、どこかに隠れているんじゃないの?」と。

そう、11月23日の木曜日は、感謝祭(Thanksgiving)。

1620年、メイフラワー号に乗って新世界アメリカに着いた清教徒たちが、初めての収穫を記念し、みんなで集まって食事をしたのが始まりとされています。

いつしか、感謝祭の食卓には、収穫した穀物とともに、七面鳥が乗るようになりました。
 なんでも、ヨーロッパでは、1500年代から七面鳥を飼育していたそうです。だから、イギリスからやって来た清教徒たちも、七面鳥を飼育するすべを知っていたのだと言われています。

それ以来、毎年、感謝祭に七面鳥を食べるのは、アメリカのお決まりとなっているのですね。


ここでちょっと、七面鳥のトリビアをどうぞ。

七面鳥には、「トリプトファン(tryptophan)」と呼ばれるアミノ酸が、たくさん含まれています。
 何がいいかって、このトリプトファン、脳内のセロトニンやメラトニンの分泌を促進し、ぐっすり眠れるようになるのです。

ご存じの通り、セロトニン(serotonin)は人をリラックスさせ、メラトニン(melatonin)は眠らせる効果のあるホルモンですね。

普通は、たんぱく質の中のトリプトファンは、含有量は少ないんです。でも、七面鳥は例外。たっぷり入っているそうです。

だから、感謝祭の晩は、たらふく食べて、早いうちから寝てしまう人が多いのでしょうか。


食卓でしかお目にかからない七面鳥。その大きな図体(ずうたい)からか、なんとなくお馬鹿さんな鳥だと思われているのです。

でも、その七面鳥を信じきった男がいます。

「建国の父」とも呼ばれるベンジャミン・フランクリン。彼は七面鳥が痛くお気に入りで、「国章」にもふさわしいと考えていたとか。

七面鳥ではなく、ハクトウワシ(the bald eagle)が国章になったときは、ひどくがっかりして、娘にこう書き記しました。

「七面鳥こそ、品の良い鳥であり、真のアメリカ原産の鳥なのだ」と。


七面鳥は、成長すると、約3800本の羽が生えているそうですが、食用の七面鳥は、真っ白な羽のものに限られます。ちょうど、こんな感じ。

どうしてかって、白じゃないと、羽が生えている毛根(?)が黒っぽいのです。黒い斑点のある七面鳥の皮なんて、おいしそうじゃないですよね。

だから、人間様のお気に召すように、真っ白なスベスベのお肌に品種改良されたんでしょうね。

今年の感謝祭は、アメリカ中で、実に1千6百万羽の七面鳥が動員されているのです。


カラリと晴れ上がり、穏やかだったシリコンバレーの感謝祭。その雲ひとつない空を見ていると、自然と空の上に向かって感謝したくなるのです。

それから、食卓に乗った七面鳥さん。彼らにも、大きな感謝です!

そういえば、我が家のまわりのワイルドターキー様ご一行。明日あたりから、また姿を現すのでしょうか。

追記:4年前に、感謝祭にまつわるお話を書いてみました。小さなお話がふたつありまして、上から4つ目の「七面鳥悲話」というのと、その次の「メイフラワー号」というものです。
 「悲話」の方は、七面鳥の恩赦(!)のお話で、「メイフラワー」の方は、アメリカ建国にたずさわった、友人の祖先のお話です。興味のある方は、どうぞこちらへ

それから、我が家のまわりのワイルドターキーですが、感謝祭の翌日の金曜日、しっかりとその姿を目撃されています。

小さい秋

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だれかさんが、だれかさんが、だれかさんが見〜つけた

小さい秋、小さい秋、小さい秋見〜つけた

という歌がありましたよね。

サトーハチロー氏の有名な詩。

なんだか今年は、秋の深まりが遅くって、「大きな秋」じゃなくって、「小さな秋」って感じなのです。

裏庭の百日紅(サルスベリ)も色づくのが遅いし、中庭の桜の葉が散るのも遅いのです。それに、なんとなく、例年よりも発色が悪いような・・・

でも、ある晴れた一日、ふとあたりを見まわすと、あちらこちらに秋の色。

見下ろすと、近所の木々もとっくに軒を追い越し、鮮やかな赤い色が、ちらちらと見え隠れしています。知らない間に、季節は移ろっているのですね。

カリフォルニアには、紅葉で有名な木々がいろいろとあります。

プラタナスの仲間のアメリカスズカケノキ(Sycamore)、カエデ科のメープル(Big-leaf maple)、ミズキ科のハナミズキ(Pacific dogwood)、そして、ポプラ科のアスペン(Aspen)。

日本にもありそうで、それでいて、どことなく違った葉っぱたち。

紅葉が終わると、あたりは、落ち葉、落ち葉、落ち葉の山。

これが土に還るには、長いこと時間がかかります。そんなに気長に待ってはいられないので、せっせとお掃除しないといけませんね。

アメリカは、ご近所さんが結構うるさいので、家の前は、いつもきれいにしておかなくてはならないのです。


今年は、秋が来るのが遅いなあと思っていると、さっそく、サンノゼのショッピングモールでは、クリスマスツリーに灯をともすセレモニーが開かれました。まだ、11月14日なのに!

ここは、「サンタナ・ロウ(Santana Row)」という新し目のショッピングモールで、ブランドショップや、おしゃれな洋服屋さんやレストランが軒を連ねます。

サンノゼの観光名所「ウィンチェスター・ミステリーハウス」の真ん前にあり、まあ、サンノゼの新しい目玉といったところでしょうか。建物はヨーロッパ風の造りになっていて、店舗の上は、人が住めるようになっています。

この晩のセレモニーには、それこそ、シリコンバレー中からたくさんの子供たちが集まって来て、大きなツリーの前では、高校生の鼓笛隊の演奏や、子供たちのバレエも繰り広げられました。

広い敷地内では、ジャズにカリビアンにクリスマスキャロルと、あちらこちらで生演奏。まだ感謝祭も終わっていないうちから、クリスマスソングなんぞを聴いていると、「あ、もうそろそろ、プレゼントを買わなくっちゃ!」という気分になってくるのです。

ショッピングモールのクリスマスキャロル。なかなかうまいマーケティング作戦かもしれません。

そういえば、新聞にこんなふたコマ漫画がありました。

「落ち葉を掃くのはまだいいさ。でも、クリスマス商戦のカタログはなんとかしてよぉ〜」っと、カタログの山に頭まで埋まってしまったおじさん。

我が家でもそうですが、ダイレクトメールのカタログは、売るほどあります。

これからシリコンバレーは雨季。

本格的な嵐がやって来る前に、みんなせっせとショッピングモールへ通うのでしょうね。

追記:写真にあるメキシコ料理は、とっても代表的なものなのですよ。

「グアカモレ(Guacamole)」は、アヴォカドをつぶして、辛味のきいたサルサと独特の香りのシラントロ(中国パセリ)を加え、ライム汁をたっぷりかけて作ります(サルサは、トマト、玉ねぎ、唐辛子の細切れを合わせた調味料)。これを、レストラン自家製のトルティーヤにのせていただきます。コーンチップスに合わせてもおいしいですね。

「タマレス(Tamales)」は、一見、中華ちまきのようでもありますね。材料は、普通はコーンミールを使うそうですが、ここのは、つぶしたお豆のようでした。中には、やわらかく調理された鶏肉が入っていました。巻いているのは、バナナの葉っぱ。全体的に、まったりとしたお味です。

この晩は、プランテイン(中南米産バナナ)の揚げ物も食べてみたのですが、なんだか日本の「大学芋」みたいに香ばしくて、甘くって、女性が好みそうなお味でした。

コミュニケーションの道具

近ごろ、日本では、友達とのコミュニケーションといえば、もっぱらケータイメールなのでしょうか。

8年ほど前、NTTドコモが発表した「iモード」に端を発し、またたく間に、なくてはならないものの筆頭となってしまいましたね。

まあ、ケータイメールは、携帯電話ひとつ持っていればいいわけだし、相手がすぐに答えられない場所にいても、じきに意志が通じるという便利さがあるんですよね。


ところが、アメリカの場合は、日本とだいぶ状況が違っているのですね。

アメリカでは、ケータイメールの代わりに、「テキストメッセージ(text messages)」というのが流行っているのです。
 ショートメッセージとも呼ばれていて、ショートメッセージ・サービスを略して、「SMS」と表記されることもあります。

日本ではあんまりお馴染みではありませんが、声の会話の代わりに、ケータイのキーボードを使って、短い文章で会話するものなのです。ケータイメールと違って、リアルタイムで会話することになります。

たとえば、「今どこにいるの?」という問いかけに、「スタバの前よ」と、短く答えるとか。

ティーンエージャーなんかは、携帯電話でペチャクチャしゃべるのも好きですが、このケータイでできる文字の会話も大好きなんですね。

わたしにはよくわかりませんが、このテキストメッセージ専用に、暗号みたいな文章も発達しているようです。

まあ、短い会話で済むし、声では言いにくいことも、文字だと素直に書ける。そんなことが、テキストメッセージの人気の裏側にあるみたいですね。


で、この文字の会話は、意外なところで重宝されているのです。

聴覚に障害がある人たちにも利用できるからです。

長年アメリカには、聴覚障害のある人が利用できる電話サービスがありました。TDDというのと、TRSという2種類があります。

TDD(Telecommunications Devices for the Deaf)というのは、別名「テレフォンタイプライター(TTY)」とも呼ばれていて、電話線につなぐタイプライターみたいなものです。
 この機械には、タイプライターみたいにキーボードがあって、小さな液晶のディスプレーが付いています。このディスプレーに、相手が打った文章が文字となって現れるのです。こちらも、同じような機械を利用して、答えの文章をタイプし、会話が進んでいきます。

一方、TRS(Telecommunications Relay Services)は、「リレーサービス」というその名の通り、電話のオペレーター(交換手)が介入するものです。相手が打った文字をオペレーターが受け、それを声に出して読んでくれるのです。こちらの言ったことは、オペレーターが文字にして相手に伝えてくれます。
 この方法だと、こちらが専用の機械を持っていなくても、相手と会話ができるのですね。


まあ、こういったサービスがあれば、遠く離れていても、ある程度のコミュニケーションはできるようになりますね。ただ、自宅から一歩外に出ると不便だという欠点はあります。

そこで、登場するのが、携帯電話。近頃の携帯は、音声ばかりじゃなくって、テキストメッセージができます。そして、一般の消費者にはあんまりポピュラーではないですが、メールだって可能です。そういったところが、格段に便利になっているんですね。

たとえば、こんなお話がありました。

ワシントン州にあるギャローデット大学。ここは、アメリカで唯一、聴覚障害を持つ人のための大学です。

ここで巻き起こったのが、学長の交代劇。先生も学生も、次期学長としてやって来る御仁が気に入りませんでした。彼女は同校の前学長だったこともあり、その仕事ぶりはよく知られていたのです。

そこで、反対派の学生たちは、携帯電話のテキストメッセージを使って、仲間を瞬時に集めます。「今から、あの建物の前で抗議行動に出るぞ!」と。

そんな抗議行動が何回も繰り返された結果、大学側もとうとう根負けしてしまって、学長任命を無効にすることが決まったそうです。

たかがテキストメッセージ。でも、その力を、あなどることなかれ!


このギャローデット大学では、ある機種が、一番人気を誇ります。携帯キャリアT-Mobileが提供する「Sidekick(サイドキック)」というスマートフォンです。

画面がパカッとスライドし、中から、かなり大きな使い易そうなキーボードが出てくるのです。
(写真は、2003年にアメリカ市場に新登場した「元祖Sidekick」です。シリコンバレーのDangerという会社が開発したものです。)

近頃、かわいいピンク色の機種も出たし、ファッションデザイナーがデザインした、とってもカラフルな「Sidekick 3」という新バージョンも出ています。

その愛らしく、奇抜なデザインから、発売当初からティーンやセレブの間で人気を博したものですが、パリス・ヒルトンなんかも、ピッカピカのスパンコールの付いたSidekickを愛用していたようですね。一度、彼女がどこかに置き忘れて、たくさんのセレブの電話番号がもれてしまったという、大騒ぎがありましたっけ。

それから、日本では放映していないのかもしれませんが、アメリカの人気テレビドラマ『ギルモア・ガールズ(Gilmore Girls)』でも、大学生の主人公・ローリーが、ロンドンに行ってしまったボーイフレンドと、テキストメッセージで会話するシーンなんかが出てきます。
 優等生のローリーが赤面してしまうようなきわどい会話も、文字を打つと、簡単にできるんだとか。

この「Sidekick」を出しているT-Mobileは、音声なしの、文字だけのサービスを提供しているので、そういった点からも、聴覚に障害がある人には、ありがたいキャリアなのかもしれません。


いつか、連れ合いが、こんな電話をもらったことがありました。

わたしは電話会社の交換手です。こういう方があなたと話したいと言っているけれど、電話を受けてもらえますか?と。

電話のお相手は、以前、同じ会社に勤めていたお友達でした。彼は、あまりよく耳が聞こえないのです。

そこで、連れ合いは、交換手を通して、この方との会話を楽しんだそうですが、別れ際にこう言われたそうです。

なかなか、このTRSというサービスをすぐにわかってくれる人はいなくって、「間違い電話ですよ」と、プツッと切られる場合もあるのですと。

普段、何気なく使っている電話。テクノロジーの発展とともに、みんなが分け隔てなく、便利に利用できるようになる日も近いのかもしれません。

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