Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2013年03月30日

シリコンバレーの女性たち: CEOマリッサさんとCOOシャールさん

Vol. 164

シリコンバレーの女性たち: CEOマリッサさんとCOOシャールさん

 


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3月。アメリカでは、大学の合格通知が郵便受けに届く季節。

3月。シリコンバレーでは、花々が満開となる季節。

そんな花いっぱいの美しい季節、まずは、女性のお話から始めましょうか。

<女性はめげない! その1:マリッサさん>
3月は、何かと女性が話題となる月でした。とくに、テクノロジー業界の女性たちが、全米の注目を集めることとなりました。

2月末、インターネットの老舗 Yahoo!(ヤフー、本社:シリコンバレー・サニーヴェイル)の人事担当副社長が、「6月からはテレコミューティング(在宅勤務)を禁止とするので、すべての従業員はオフィスに毎日出社するように」という通達を出しました。
これに関して、昨年7月に同社CEO(最高経営責任者)に就任したばかりのマリッサ・マイヤー氏がやり玉に上がったのです。
 


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マイヤー氏は、ライバルGoogle(グーグル、本社:シリコンバレー・マウンテンヴュー)の社員番号No. 20で、同社初の女性エンジニア。ぐんぐんと頭角を現し、彼女が手がけた目玉サービスは枚挙にいとまがないくらい。
ライバルからYahoo! に移った直後の昨年9月、初めての赤ちゃんマカリスターくんを産み、お母さんCEOになったことでも知られます。

だから、自宅で働く(女性)従業員の味方だとばかり思っていたのに、テレコミューティングを禁止するなんて、とんでもないわ! と批難の声が上がったのでした。

ご説明するまでもありませんが、「テレコミューティング(telecommuting)」というのは、従業員がオフィスには出社しないで、自宅でパソコンや電話会議を利用して働くことですが、そんなフレキシブルな(融通のきく)労働環境のため、多くのテレコミューターが子供のいる女性となっています。
ですから、テレコミューティングは、働く女性の「味方」となっているのに、それを禁止するなんて、女性従業員を冷遇しているとしか言いようがない、との不満の声が上がったのでした。

Yahoo! 従業員の憤懣があらわになっただけではなく、世のジャーナリストなどの「うるさ型」も、声を大にして、Yahoo! 批判のコーラスに加わったのでした。
たとえば、ニューヨークタイムズ紙のモーリーン・ダウド氏は、こんなコラムを書いています。

昨夏、マリッサ・マイヤーがヤフー臣民の女王となったとき、彼女は女性のロールモデル(模範)になるであろうと称えられた。しかし、たった2週間の産休を終え、自分のオフィスの隣に(自費で)乳児室をつくったとき、多くの女性にとっては不可能な前例をつくってしまった。
そして、テレコミューティング禁止のお達しを発した今、彼女ほど恵まれない姉妹たちや幼い子供たちは生きる縁(よすが)を奪われようとしているのに、彼女はまったくそれを気にする様子がない。
もちろん、とくにテクノロジー業界では、ベル研究所の昔から研究者が一堂に会し、互いにクリエイティヴな考えをぶつけ合って、新しいことを成し遂げてきた。しかし、彼女は、自分とは違う状況にある女性に対して、もう少し理解を示すべきである。

(Summarized from “Mayer fails to see real people in view from top” by Maureen Dowd, a New York Times columnist, February 28, 2013)
 


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そう、この方の論点は、サンフランシスコのフォーシーズンズ(写真)の最上階ペントハウスに住み、5年で1億1千7百万ドル(自社株も含めて約110億円相当)の契約を結んでいるようなマイヤー氏には、一般の女性従業員の心(苦労)はわかっていない! というものです。

まあ、この方の言うことにも一理あるでしょうけれど、わたしはこのコラムを読んで、ひどく疑問に感じたことがあったのでした。
それは、マイヤー氏がたまたま女性CEOだったから、女性従業員に理解を示して欲しいと願っているけれど、もし男性CEOだったら、「テレコミューティング禁止」のお達しだって、問題として追求していなかったんじゃないの? ということでした。

さらに言うなら、会社のCEOが女性か男性かということが、会社の方針に関係あるのだろうか? ということです。

個人的には、CEOが女性であっても、男性であっても、その中間であっても、たとえ宇宙人であっても、会社の方針は、企業独自の文化や業績や現在置かれている状況に基づくべきものだと思うのです。ですから、マイヤー氏が女性だから、女性には特別な理解を示せというのは、ある意味「甘え」だと思っているのです。

もちろん、女性CEOは、男性CEOと違っていて当然だと思います。一般的に、女性マネージメントは社会道徳的に潔癖だし、女性従業員が働きやすい環境をつくりあげる心配りには長けているのだと思います。
そして、今の時代、テレコミューティング禁止なんて、明らかに世の動きに逆行しています。
 


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けれども、Yahoo! の状況を考えてみると、今後の発展はマイヤー氏の「さじ加減」ひとつにかかっているのです。
会社の文化(corporate culture)を大改革して、モバイル環境への移行など、もっとスピーディーに世の中の変化に対応して行かなくてはならない! との英断がテレコミューティング禁止につながったのなら、従業員はそれに従うべきでしょう。

しかも、マイヤー氏にとっては、自分の経営者としての定評(reputation)がかかっているんです。もしこれで失敗したら、「無能なCEO」のレッテルを貼られるかもしれないのです。
そんなに厳しい、失敗しても誰を責めるわけにもいかない「孤独な立場」にいて、思うままに采配をふるわせてもらえない(外野が無責任に茶々を入れる)なんて、理不尽な気もするのです。

いえ、べつにマイヤー氏を弁護しなければならない義理などありません。が、なんとなく、一方的な声が強過ぎる印象を受けたのでした。

そして、この大騒ぎを受けて、Yahoo! の取締役会は、こんな発表をしました。
「マイヤー氏はCEOとして良くやってくれているので、最初の5ヶ月半のボーナスとして、110万ドル(約1億円)をあげることにした」と。

いえ、さすがのわたしも、騒ぎの渦中にある人にボーナスをあげるなんて、いったいどういう神経? と耳を疑ったんです。
すると、連れ合いは静かにこう言うのです。あの映画『テルマエ・ロマエ』と同じだよと。

阿部寛さん主演の映画『テルマエ・ロマエ』(2012年公開)では、ローマ皇帝の世継ぎが伏線となっていて、前の皇帝は、次の皇帝によって「神格化」されなくてはならないことが主人公のミッションともなっています(だからこそ、皇帝のために素晴らしい共同浴場をつくらなくてはならない!)。
Yahoo! の取締役会がやっていることは、それと同じことで、ボーナスを払うことで(自分たちの評価・敬意を示すことで)、騒ぎの渦中にあるマイヤー氏を「神格化」しようとしているのだと。

ふ〜ん、なるほど。取締役会としては、世間の風評が悪くなったところで、CEOを神棚に乗せて、皆があがめる環境をつくらないといけない、ということでしょうか。

お断り:マリッサ・マイヤー氏のラストネームですが、日本語の一般的な表記「メイヤー」に反して、英語では「マイヤー」と発音されますので、後者で統一させていただきました。それから、Yahoo! については、あくまでも本国の状況をご紹介しております。
また、Yahoo! 取締役会は、社内メンバーは会長のアモローソ氏と役員のマイヤー氏だけで、残り9名は社外メンバーで構成されています。

<女性はめげない! その2:シャールさん>
それで、取締役会がCEOを「神格化」しようとしているなら、自身を「神格化」しようとしているのが、Facebook(フェイスブック、本社:シリコンバレー・メンロパーク)のCOO(最高執行責任者)シャール・サンドバーグ氏でしょうか。

いえ、「自身を神格化」とは、いたって意地の悪い表現ですが、3月中旬、彼女は本を出版し、それが全米の(とくに女性の間で)大きな話題となったのでした。
 


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サンドバーグ氏の著書『Lean In: Women, Work, and the Will to Lead』は、女性が社会で働く上で、もっと積極的に(ときには男性のようにあつかましく)なりなさい! と、働く女性への応援歌ともなっているようです。
一般的に、女性従業員は、自分の才能を正当に売り込むことがヘタクソで、順当な報酬をもらっていなかったり、とくに子供を持つと「子供のことで時間を割かれて、そんな責任重大な仕事はできないわ」と尻込みをしたりと、ともすると、積極性に欠ける部分がある。だから、もっと積極的になりなさい!(Lean in)と。

ハーヴァード大学、同ビジネススクールを優秀な成績で卒業し、世界銀行や米財務省勤務ののち、グーグル副社長(グローバル・オンラインセールス担当ヴァイスプレジデント)、フェイスブックCOOと着実に階段を上ってきたサンドバーグ氏は、「超エリート」ビジネスウーマンと言っても過言ではありません。ゆえに、財も影響力もあります。
ですから、「彼女にはできることでも、平均的な女性には難しい部分もたくさんある」「女性の社会参入には社会制度が障壁となっている部分もあり、女性個人を叱咤するのは間違いである」などと、辛口の批判も集中したのでした。

けれども、本が出版されて1週間で、シリコンバレーの「ノンフィクション第1位」にランクされたり、ネットワーク機器のCisco Systems (シスコ・システムズ、本社:シリコンバレー・サンノゼ)のCEOジョン・チェンバース氏に絶賛されたりと、少なくとも、テクノロジー業界では受けがいいようです。

チェンバース氏などはCEOとして「ベテランの域」に達する方ですが、彼女と話し、著書を読み、まさに開眼した(my eyes were opened)そうです。
「自分は今まで、ジェンダー(性別)の問題に敏感で十分にやってきたと思っていたが、新たな視点で開眼し、もっと素早く社内改革を進めなくてはならないことに気がついた」と。

なるほど、すべての人に気に入られることなんて世の中には皆無ですが、これほどまでの讚頌を得られるとは、批判なんてなんのその! でしょうか。

そして、個人的には、ようやくシリコンバレーにも、真に実のある女性経営陣が現れ始めたなと、喜ばしくも感じるのです。

<オープンドア・ポリシーって?>


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先日、こんなニュースが流れました。今、アメリカで最も従業員に好かれているCEOは、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏であると。
(Photo of Mr. Zuckerberg from GBR’s article, “Facebook’s Zuckerberg now most-liked CEO as Tim Cook plummets in rankings” by Brad Reed, March 15, 2013)

これは、就職情報サイトGlassdoorの『最も好かれるCEOトップ50(2013年版)』によるものですが、ここで映えある1位となったのが、ザッカーバーグ氏。
上に出てきたシャール・サンドバーグ氏をグーグルから引き抜いたボスでもあります(ちなみに、昨年首位のアップルCEOティム・クック氏は18位に転落し、Yahoo! のマイヤー氏は、昨年7月のCEO就任でリストからはもれています)。

422人のフェイスブック従業員が評価した結果、実に99パーセントが(!)ザッカーバーグ氏を好意的に思っている(approve)とのことですが、中でも、会社の雰囲気が「オープン(open)」であることは得点が高かったみたいですね。

要するに、スタッフとCEOが話しやすい雰囲気にあり、互いの心が通じ合っている、といった感じ。

アメリカでは、社内の風通しを良くしようと『オープンドア・ポリシー(open door policy)』というのが設けられている場合が多いですが、これは、CEOやマネージメントが常に「ドアを開けている」、つまり、いつでも気軽に立ち寄って話をして行ってくれていいんだよ、という方針のことです。


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ま、フェイスブックや多くのシリコンバレー企業には、社長室のドアなんて無いのが普通ですので、比喩的に「ドアを開けている」ということでしょうか。
そう、近頃は、だだっ広いオフィスにずらっと机を並べて、CEOであっても、みんなと机を並べるのが主流でしょうか(小さな会社になると、こちらの写真のように、広いスペースを間仕切って、他の会社と机を並べていることもあるくらいです)。

『オープンドア』といえば、わたしが働いていたIBMも、その基本理念は全世界のIBM支社に徹底されていて、従業員が何かしら重大なことを疑問に思ったり、「こうした方がいいんじゃないか」と改善案を考え付いたりしたら、たとえCEOにでも遠慮せずに意見できることになっていました。
これは決して「絵に描いた餅」ではなくて、実際に、IBMのエイカーズ(元)CEOに意見した(社内メールを送った)ケースを知っています。べつに偉そうに意見したからって、何もおとがめはなかったですし、査定にひびくこともありません。

このような『オープンドア・ポリシー』は、わたし自身は素晴らしいことだと思っているのですが、それは、会社の地位に関係なく、おもしろいこと(建設的なこと)を考え付いた人は明確に意見を述べるべきだし、上の人だって、真摯に耳を傾ける義務があると思うから。
だって、常に上の人が正しい保証は無いのだし、誰かが「方向が違う!」と感じたら、船が座礁する前に意思表示をすべきでしょう。

シリコンバレーでも、船の舵取りを間違えたと思われるケースはたくさんありますが、携帯端末の老舗Palm(パーム)は、残念ながら、その代表例かもしれません(写真は、Palmフラッグシップ3機種。右から Tungsten W (i710)、Treo 650、Treo 700w)。


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2006年末、「これからはケータイでネットアクセスする時代だ!」と当時のCEOが誇らしげに述べたのが頭にこびりついているのですが、NTTドコモの「iモード」サービスが始まったのは、1999年2月のことです。あまりにも、世間を知らなさ過ぎるではありませんか!

それで、もしかすると、日本の企業文化では「上司に意見して、怒られたらいやだなぁ」と危惧されるのかもしれませんが、わたしに言わせれば、意見された上司は怒るどころか、かえって嬉しいんじゃないかと思うのですよ。
「ふん、俺に意見してくるとは、かわいいヤツ!」と。

もう何年か会社勤めしてきたら、上司だって「自分」とか「俺の考え」とか「体面」なんかに凝り固まってはいないだろうし、「意見されたらキレる」みたいな狭い心は持ち合わせていないと思いますよ。
組織の上になればなるほど、広い視野で現状を把握していなければならないわけで、たとえば、この交渉がうまく運ばなかったら、次の一手は? というような「最悪のシナリオ」は、常に頭に思い描いていないといけません。

ですから、上司だって、違った角度から考察するためにはフレッシュな意見は大歓迎なはずなのです。

というわけで、べつにフェイスブックやIBMを真似しなさいと言っているわけではなくて、何か素晴らしい(と感じる)ことを思い付いたら、上司に臆さずに意見を述べてみたらいかがですか? というお話でした。

べつに何か意見したからって殴られるわけじゃなし、黙っている方が、お腹がふくれて辛いでしょう?

ちなみに、上述の『オープンドア・ポリシー』でIBMのエイカーズ(元)CEOに意見したケースは、「パソコンソフトでマイクロソフトと渡り合って行くには、ビジネスアプリで有名なLotus(ロータス)を買収するしかない」というものでしたが、数年後、外部から就任したガースナー(元)CEOがLotusを買収しています。

夏来 潤(なつき じゅん)



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