Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2014年12月24日

2014年: 宇宙探査、燃料電池車、奇妙な福利厚生、etc.

Vol. 185

 

2014年: 宇宙探査、燃料電池車、奇妙な福利厚生、etc.



今月の年末号は、一年を振り返ってみることにいたしましょう。宇宙探査の第一話のあとは、いろんな小話が4つ続きますので、お好きなものからどうぞ。

<今年のサイエンス>
今年「サイエンス」といえば、日本ではSTAP細胞やノーベル物理学賞受賞の青色発光ダイオード(LED)が話題となりましたが、個人的に印象深かったのが、地球から宇宙に放たれた探査機(space probe)。
 


hayabusa2_list_001.jpg

まずは、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」。
12月3日、H-IIAロケット26号機に乗って種子島から打ち上げられ、小惑星「1999JU3」に向かって突進中。
4年後には小惑星に到達し、6年後には52億キロのミッションを終え、地球に帰還する予定です。

当日、TBSの打ち上げ生中継をアメリカからネットで観ていたわたしは、打ち上げ成功に思わず涙ぐんだのでした。
 


Rosetta_spacecraft_node_full_image_2.jpg

そして、ヨーロッパ連合の彗星探査機「ロゼッタ(Rosetta)」も記憶に新しいところです。
打ち上げられたのは10年前ですが、3年前に電池節約のため冬眠に入り、睡眠から目覚めたのが、今年1月。
3年の眠りから起きてくれるか? と、固唾をのんで見守る欧州宇宙機関(ESA)の科学者たちが、大歓声を上げた快挙でした。

このロゼッタが向かったのは、彗星「67Pチュリュモフ・ゲラシメンコ」。名前も変なら、形も双頭のダンベルみたいな、へんてこりんな彗星です。
もともとは、太陽系で一番外側の惑星・海王星のさらに外側にある「カイパーベルト(Kuiper Belt)」からやって来た彗星で、木星に接近してみたり、離れてみたりと軌道が安定せず、ランデヴーするのが難しそうな気まぐれ彗星でもあります。
 


Comet_67P_on_19_September_2014_NavCam_mosaic.jpg

おまけに彗星は速い。ですから、これに追いつくために、ロゼッタは地球と火星の引力を利用して「スリングショット」方式を採用。
スリングショットとは、ゴム紐のしなりで弾を飛ばす「簡易・飛び道具」ですが、地球のまわりを2回、火星のまわりを1回周回することで、引力でブイ〜ンと加速していって、彗星のスピードにキャッチアップ。
SUV車サイズのロゼッタが利用したスリングショットで、地球の自転が「100万分の一秒の100万分の一」遅くなったとか!

そんなわけで、今年1月、3年の眠りから目覚めたロゼッタは、8月には彗星の周回軌道に入り、4メガピクセルのお目々(10年前の最新技術)で彗星を見つめ始めます。

そして、11月12日、ロゼッタから着陸機「フィラエ(Philae英語読みではフィレー)」が放たれ、めでたく彗星に着陸。
 


Philae Candidate Landing Sites.png

実は、このときも、舞台裏では「どこに着地するのか?」と喧々諤々の議論が繰り広げられています。
洗濯機サイズ「100キロ級」のフィラエも、引力の弱い彗星では、わずか4グラム。地表で跳ね返されることなく、安定着地させるためには、いったいどこが最適か?
彗星の大きな頭の部分(右の写真、C地点)に着陸したい科学チームに対し、そこは太陽光が当たりすぎる! と猛反対する航行チーム。こちらは、多少日光が弱く、断崖や巨石の障害物があろうとも、全体的にリスクの少ない、小さな頭(真ん中の写真、J地点)を主張します。
 


Philae_on_the_comet_Front_view.jpg

結局、J地点に着陸したフィラエは、皮肉にも太陽光が足りなくて発電できず、3日後に「わたし眠いわぁ」と居眠りに入ってしまいましたが、それまでに地球に発信したデータは、ただいまESAが解析中。
来春には、彗星もぐんと太陽に近づき、フィラエも目を覚まして、活動を再開することが期待されています。
 


Rosetta_Philae_Artist_Impression_Close_4k.jpg

それで、なぜ宇宙探査が不可欠なのかといえば、「はやぶさ2」が向かった小惑星asteroidも、「ロゼッタ」と「フィラエ」が向かった彗星cometも、天文学的に重要な天体であることでしょうか。
探査機や着陸機が集めたデータを分析すれば、これらの天体が何でできているのか? どうやってできたのか? という疑問に答えてくれるかもしれません。

なにせ、10年前には「氷でできている」と思われていた彗星も、「どうやらジャリっぽいな」と初歩的な疑問すら解かれていないのです。

さらには、炭素や水素、窒素や酸素といった生命の起源を育む材料はあるか? もしもこれらが発見されたならば、この青い地球の生命の誕生にも関与しているのか? といった疑問も解き明かしてくれるかもしません。

まだまだ、わからないことだらけの宇宙。まずは、自分たちが住む太陽系の謎をひとつずつ解明すべく、大活躍中の探査機なのでした。

参考資料: “To Catch a Comet” broadcasted by PBS (Public Broadcasting Service) on November 19, 2014

<今年の新商品>
今年の新商品といえば、アップルウォッチみたいな「ウェアラブル(wearable computing)」や、モノとモノがネットでつながる「モノのインターネット(Internet of Things、通称 IoTアイオウティー)」のお話をすべきなんでしょう。

が、一番印象に残っているのが、年初ラスヴェガスのコンスーマエレクトロニクス・ショー(CES)に展示された、トヨタの燃料電池車でした。
 


P1210343small.jpg

今年1月号・第3話『未来の車!』でもご紹介しているように、そのときは、燃料電池(Fuel Cell)で動く車(Vehicle)という意味で「FCV」と呼ばれていました。

それが、いよいよ12月15日「ミライ(Mirai)」という名で、世界に先駆け日本国内で販売開始となりました!

何がいいのかって、まず、そのカッコよさ。技術の粋を集めているので、中身が先行し、さぞかし「不格好」な乗り物かと思いきや、「わたしも乗ってみたい!」と思わせるオシャレなスタイリング。
とくに、イメージカラーのメタリックブルーは、鮮明な色合いと力強いフォルムで車好きをうならせます。CES会場でも、よだれをたらさんばかりに熱い視線を向ける見学者をたくさん見かけました。
 


P1210346small.jpg

そして、もちろん、ミライは水素を使う燃料電池で走る「未来の車」。

高圧水素タンク(黄色い2つのタンク)から送り込んだ水素を燃料電池(車体中央の銀色の箱)で活性化し、放出された電子で発電して、モーターを動かします。
排出されるものは、電子を放出した水素イオンが空気中の酸素と結合した「水」。二酸化炭素を排出する化石燃料車と違って、地球にやさしいのです。

今のところ、ミライはとってもお高い(価格723万6千円、国の補助金を使えば約520万円)。
しかも、ガソリンスタンドに代わる水素ステーションも数少ない。現在、商用水素ステーションは全国で2カ所、整備が決まっているのは43カ所。ガソリンスタンドに比べると、圧倒的に不足しています。

ですから、まだまだこれからの乗り物ではあります。

けれども、同じく「代替エネルギー車」の電気自動車(EVElectric Vehicle)の販売が少しずつ伸びを示す中、燃料電池車は、未来にしっかりと夢をつなぐ、新しい概念の「目玉新商品」なのでした。

<今年の福利厚生>
日本では「ウーマノミクス」というカタカナ用語を耳にしますが、しょせんは「女性の社会登用」をオシャレに言い換えたもの。昔から掲げられる理想は、なかなか実現しないのが社会構造の厳しさです。

一方、海を越えたシリコンバレーでは、今年、奇妙な福利厚生が登場しました。「女性社員の卵」を凍結保存してあげましょう、というもの。

いえ、「卵」というのは、新人さんのことではなくて、卵巣でつくられる「卵子」のこと。つまりは、まだ受精していない「未受精卵」のことですが、働き盛りの女性社員が、今のうちに(若いうちに)卵子を凍結保存しておきたいなら、代金はうちが支払いますよ、という目新しい福利厚生です。


P1000577small.jpg

今のところ、アップル(写真)とフェイスブックが提供していますが、両社とも、3分の1にも満たない女性社員数。
どうしても「白人男性」が集まりやすいテクノロジー企業で、女性社員を呼び寄せ、つなぎ止める新手の「特典(perk)」になるかも! と期待されています。

プログラムの説明会も、オフィスを離れて、ワイングラスを傾けながらリラックスした雰囲気で行われますが、当の女性社員たちは、「それほど女性社員のことを考えてくれて、嬉しいわ」という肯定的なものから、「結局は、出産を先延ばしにしてくれよってプレッシャーをかけてるのかしら?」という微妙なコメントまで、さまざまな反応が見られます。

が、とにもかくにも、生物学的には、若い頃につくられた卵子は、圧倒的に質が良い。ですから、若いうちに卵子を凍結保存しておいて、あとで使うのは理にかなっているようではあります。

知り合いの小児科医がインターンだった頃、産科のローテーションで驚いたことがあったとか。ベビーのママたちが、15歳から22歳までのグループと、28、9から30代後半のグループにきれいに分かれる事実。
今のアメリカ社会では、昔は「産み時」だった20代中盤から後半のママが、ほとんど存在しないんだそうです。

ということは、奇妙に見える「卵子の凍結保存」も、うまく現実に即した、なかなかの福利厚生ということでしょうか?

<今年の一枚>
アメリカの新聞を読んでいると、ときにハッとすることがあります。それは、大きくカラー刷りにされた一枚の写真。

単に報道写真というよりも、人の内面までとらえた、芸術写真みたいな秀作に出会うのです。
 


St. Louis City Hall Missouri Nov5-14.png

そんな秀作を自身のウェブサイトでご紹介したこともありますが、今年「これだ!」と思ったのが、こちらの写真。

何やら、感極まって涙する女性がいます。そして、彼女の背中をさすっている女性と、後ろでにこやかに見守る女性。

こちらは、11月初め、ミズーリ州セントルイスの市庁舎で撮影されたもの。
涙するリリーさんと、パートナーのセイディーさんが、結婚届(marriage license)の申請に来たときの写真です。
(Photo by Michael Calhoun/KMOX Radio, the San Jose Mercury News, November 7, 2014)

アメリカでは、一年ほど前から、とみに活発化した同性結婚(same-sex marriage)の議論。

「結婚は、基本的な人権(a fundamental right)であり、州が定める禁止法(ban on same-sex marriage)は、平等を唱える米国憲法に反する」と、次々と法廷で裁断が下されています。

皮切りは、昨年6月、連邦最高裁判所の判決。「結婚は異性のカップルのみに適用」という国の結婚防衛法(the Defense of Marriage Act、通称ドーマ)を「違憲」と判断したもの(United States v. Windsor)
それ以降、同性結婚を禁止した州法は次々と「違憲」と判断され、10月初め、再び連邦最高裁判所が、「違憲判決」を不服とした5州の控訴を却下しています。


IMG_4037small.jpg

その結果、全米34州と首都ワシントンD.C.で同性結婚が認められることとなりました。

(写真は、今年6月サンフランシスコで開かれたプライドパレード。同性パートナーや性転換で性別を変えた人たちを尊重し、平等(Equal Rights)をうたうパレードで、七色の虹は、彼らの一致団結カラーとされています)

が、その一方で、11月初め「結婚は州の行政の場で定められるべきである」と、連邦控訴裁判所がオハイオ州など4州の禁止法を支持する判断を下し、計14州で禁止法が続行しています。

そんな中、上の写真のミズーリ州は、セントルイス市とジャクソン郡だけは同性結婚を認める、という奇妙な状況に陥っています。

が、どんなに複雑な行政事情があったにしても、一カップルとしては、とにかく「結婚」できるのが嬉しいんです。
今まで、遺産相続でも医療現場でも「赤の他人」と冷遇されていた同性パートナー。それが、胸を張って「配偶者(spouse)」と名乗ることができるのです。

これで、ようやく普通の人の生活ができると、市庁舎のカウンターで感極まって涙したリリーさん。

この光景に心を動かされた写真家がいて、彼の一枚に涙した読者がいる、ということでしょうか。

<今年のスポーツ>


CIMG1307small.jpg

そして、今年嬉しかったことと言えば、メジャーリーグ野球のサンフランシスコ・ジャイアンツ。
ワールドシリーズを征して、過去5年で3回目のチャンピオンとなりました!

(写真は、リーグ優勝に貢献したトラヴィス・イシカワ選手。10月31日サンフランシスコで開かれた優勝パレードの光景です)

9月末、レギュラーシーズンが終わってナショナルリーグ西部地区を逃したときには、「もう今シーズンは終わりね」とあきらめていましたが、ギリギリ「ワイルドカード」で出場したプレーオフから這い上がり、あれよあれよとワールドシリーズへ!

ワールドシリーズのお相手は、青木宣親選手の在籍するカンザスシティー・ロイヤルズ。日本の野球ファンはロイヤルズを応援していたそうで、それがひどく残念ではありましたが、どちらのチームが勝っても納得できる、「ワールドシリーズ」の名に恥じない7戦でした。
 


CIMG1356small.jpg

両チームとも、「スーパースター不在」の若いチーム。やはり、若い力からは予想もつかない勢いが生まれるようで、試合ごとに「ヒーロー」や「ムードメーカー」が次々と出現。

野球とは、全員が一丸となって、助け合ってプレーするものだと、野球オンチのわたしも改めて認識したのでした。
(写真は、ジャイアンツきってのムードメーカー、ハンター・ペンス外野手)

第6戦、最終第7戦と、敵地でプレーしたジャイアンツですが、ミズーリ州カンザスシティーの方々も、ジャイアンツのプレーヤとファンを温かく迎えてくれたそうです。


Pablo Sandoval Game 6 in KC.png

そりゃあ、野球ですから、観客の辛辣なヤジが飛ぶこともありますよ。
「パンダ」の愛称の三塁手パブロ・サンドヴァル選手は、ロイヤルズファンのヤジにも、かわいらしく「見返りスマイル」で答えます。

が、ジャイアンツの優勝が決まり、「おバカな」ジャイアンツファンが地元ファンを口汚くののしると、あるロイヤルズファンはこう答えたそうです。

「カンザスシティーでの滞在を十分に楽しまれたことと思います(We hope you enjoyed the stay here)」

負けてもなお、相手をおもんばかる地元ファン。これこそ、「アメリカのスポーツ」と呼ばれる野球ファンの品格(class)だと、普段はフットボールファンのわたしも、俄然、野球に対する思い入れが増したのでした。

というわけで、間もなく、今年も終わり。

2015年も楽しく、充実した一年になりますように!

夏来 潤(なつき じゅん)

 

カテゴリー

  • お知らせ (4)
  • 仕事 (3)
  • 政治・経済 (28)
  • 教育 (8)
  • 旅行 (19)
  • 業界情報 (85)
  • 歴史・風土 (21)
  • 社会・環境 (51)
  • 科学 (7)
  • © 2005-2019 Jun Natsuki . All Rights Reserved.