English words
英語ひとくちメモ/場面
English Words 英語ひとくちメモ
2008年08月04日

Connecting the dots (点と点を繋いでみる)

ちょっと個人的なお話をいたしましょうか。

わたしはアメリカで生まれたわけでも、ヨチヨチ歩きの頃に家族に連れられてやって来たわけでもないので、最初にアメリカに住み始めたときは、それこそ片言の英語しかしゃべれませんでした。

まず、耳に入ってくる言葉がなかなかわからない。アメリカ人なら小さい頃から聞き覚えのあるような基本的な単語も、わたしにとってはまったく新しい言葉です。
 困ったことに、キリンやカバやサイみたいな誰もが日本語では知っているような単語が、まったくわからないのです。だって、giraffehippopotamusrhinoceros なんて言っても、最初は怪獣のようにしか聞こえないではありませんか。

それに、文章となると、もう流れが速すぎて到底ついていけない。あの単語はどういう意味だっけと考えているうちに、あっけなく話題は次へと移り行く。

聞くほうはまだしも、話すほうともなると、もうたどたどしいったらないのです。一応、自分の言いたい文章を作り上げることはできても、それに時間がかかりすぎるのです。コミュニケーションはピンポン玉みたいにポンポンと右から左へとはずまなきゃいけないものだから、相手はじれてしまって、すぐに興味を失う。すると、こちらは言葉を発するのさえ遠慮がちになってしまう。

幸運にもバイリンガル(もしくはマルチリンガル)に生まれた方々は別として、わたしのような体験は、外国語を習う上では誰もが経験することなのかもしれません。けれども、その当事者となると、苦労もまたひとしおといったところでしょう。

言葉なんて一夜のうちに上手くなるわけではなくて、だんだんと知らないうちに上達するものなので、ついつい「なんでわたしはぜんぜん上手くならないの?」と、あせりを感じることもあるでしょう。そして、その上達のプロセスの中では、相手にちゃんと話が通じないとか、相手からバカにされたとか、そんなことで悔し涙を流すこともあるでしょう。

個人的には、外国語なんて、悔し涙の量に比例して上手くなるものではないかと思っているのです。もしまわりに英語なりスペイン語なりドイツ語なり外国語が上手い方がいらっしゃったら尋ねてみてください。「あなたは、悔し涙を流したことがありますか?」と。きっと悔し涙を流さなかった人など、ひとりもいないと思います。


わたしはもともと英語が好きだったので、新しい言葉を学ぶのは自分へのチャレンジとして楽しめたほうかもしれません。

たとえば、耳を慣らすために、毎日テレビドラマを欠かさずに観ていました。その頃アメリカでは、30分のコメディータッチのホームドラマがたくさん流行っていたので、そんなものを観ながら、現実の生活でも使えそうな表現を学んでいました。「Three’s Company」「Different Strokes」「Too Close for Comfort」そういった題名があったでしょうか。コメディーなら話もそんなに難しくはないし、背伸びしない普段の言葉を使っていますからね。
 あまり役には立ちませんが、Your face will freeze like that というのがあったのを覚えています。「(そんな変な顔をしていると)そんな顔になっちゃうよ」という意味ですね。「凍る(freeze)」という動詞がそんな使い方をされるのかと、ちょっと意外に感じました。

それから、ニュースを聞いていてわからない単語があったら、全部紙に書き出して、あとから辞書で意味を調べたりもしていました。わたし自身は、無意味な単語の羅列を覚えるのが苦手で、何かしら文章の中に出てきた単語を脈絡(context)で覚えるのが得意だったので、ニュースから聞き取った単語を内容ごと学ぶというのは、非常に合ったやり方でした。
 だから、わたしは今でも人にこう勧めています。四の五の言わずに、丸ごと文章で覚えましょうと。そして、その文章をリズミカルに発音して自分のものとすると、なおいいですよね。すると、会話で使える文章のレパートリーも自然と増えることでしょう。

そんな風に地道に始まった英語のお勉強でしたが、それから何年も難しい本を読んだり、文章を書いては訂正されたり批判されたりを繰り返していたので、読み書き自体にも、英語での論議のやり方にもだんだんと慣れていきました。そうなると相乗効果が生まれて、聞いたり話したりするのもだいぶ楽になるものですよね。


と、何とも世間話みたいになってしまいましたが、いよいよ表題の「connecting the dots」に移りましょう。

この表題は、今話題の「iPhone(アイフォーン)3G」で有名なアップルの最高経営責任者(chief executive officer)スティーヴ・ジョブス氏のスピーチからヒントを得ました。2005年6月、彼がシリコンバレーの名門スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチに出てきたものです。

もともと connecting the dots という表現は、仕事の場面などでもよく使われるものではありますが、「点と点を繋いでみて、初めて全体の意味がわかってくる」というような意味合いがあります。

ジョブス氏はスピーチの中でこんな話をしていました。

僕は大学に入ってすぐにドロップアウトしてしまったんだけれど、すっかり大学を辞める前に、ひとつ「calligraphy(カリグラフィー、西洋書道・ペン習字)」のクラスを取ってみたんだよ。僕のいたリード大学は全米でも最も充実したカリグラフィーのクラスを持っていて、キャンパスのポスターやら引き出しのラベルやら、全部が手書きの美しいカリグラフィーでできているような所だったんだ。
 そのカリグラフィーのクラスでは、いろんな書体だとか、文字と文字のスペースの取り方だとか、書体の発展の歴史だとかいろんなことを学んだんだけれど、そこには科学が解析できないような微妙な芸術的なニュアンスがあって、つい夢中になってしまったね。今になって考えてみると、それがすごく役に立っていたんだよ。だって、10年後に僕たち(アップルを創設した相棒のスティーヴ・ウォズニアック氏とジョブス氏)がマッキントッシュというコンピュータを初めて作ったときに、画面に出てくる文字には美しい字体を使ってみようじゃないかって思いついたからなんだよ。

もし僕が大学をドロップアウトしてなくて、カリグラフィーのクラスを取っていなかったとしたら、コンピュータの活字なんて、今ほど美しいものにはなっていなかったと思うよ。(マイクロソフトの)ウィンドウズの載ったパソコンなんて、所詮は何でもマック(マッキントッシュの愛称で現在の商品名)の真似だから、きっとパソコンのほうだって、味気ない字体のオンパレードになっていたはずだよ。もちろん、未来に向かって点と点を繋ぐなんてことはできないさ。こういうのは、10年後に振り返ってみて初めてクリアにわかることだからね。

もう一度言うとね、未来に向かって点と点を結ぶことなんてできない。後ろを振り返ってみて初めてできることだから。だから、君たちも、今経験しているさまざまな点が君たちの将来ではちゃんと繋がるんだっていうことを信じなきゃいけないよ。そう、君たちは何かを信じてなきゃいけないんだ。直感、運命、人生、業(ごう、仏教用語で「宿命」)、何でもいいんだけどね。僕自身はこういったアプローチで裏切られたことは一度もないし、僕の人生はこれでずいぶんと良くなったよ。

(この話はスピーチの初めの方に出てくるものですが、内容はある程度意訳しています。)


そう、点と点を繋いでみて何かしら意味を感じ取るなんて、自分の後ろを振り返ってみて初めてできることなんですね。今は「何でこんなことやってるんだろう?」と思うようなことでも、後になって考えてみると、「そうかぁ、あのときのあれが今の役に立ってるんだぁ」と感心することも多々あるわけです。

冒頭で、ドラマやニュースに出てきた単語をていねいに調べるという、わたしの英語学習術をご紹介しましたが、それだって今のわたしには充分に役に立っていると思うのです。

実は、どこかに昔のお勉強の跡が残っているに違いないといろいろと家捜しをしてみたのですが、見つかりましたよ、紙切れの数々が。よくもまあ何年も大事にとってあったものですが、いろんなサイズの紙切れに書かれた単語や言い回しを見直してみると、やっぱり、今となっては、ほとんどすべてわかるのですね。

ふむふむ、piece of cake ね。もともとはケーキの一切れってことですが、It’s a piece of cake と言うと、「そんなの簡単なことじゃん!」って意味になりますね。

それから、beat around the bush というのもありました。藪(やぶ)のまわりを突っつくのが転じて、「直接言及を避け、わざとまわりくどく言う」といった意味ですね。

考えてみると、そうやってひとつひとつお勉強したからこそ、頭の中の語彙(ごい)が増えたことは事実ですよね。一度では意味なんか覚えられないものもあるけれど、少なくとも、前に調べたことがあるくらいはわかるでしょ。そして、そんな積み重ねで語彙が増えたからこそ、今ではスムーズに物も読めるし、書くこともできる。
 それから、その頃は、後で自分が物を書くようになるとは夢にも思っていなかったわけですが、ひとつひとつ言葉を大事にする昔からの習慣は、今のわたしには大いに役に立っているわけですね。

そう、後ろを振り返ってみて初めて点と点が繋がる。

You can only connect the dots looking backwards.

だからこそ、今は点でしかないようなことも、自分の将来においてちゃんと繋がるんだと信じなきゃいけない。

So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.

追記: ご紹介したスティーヴ・ジョブス氏のスピーチについて、ほんのちょっとだけ書いたことがあります。こちらの最後に掲載されている「おまけのお話:iPhoneを出せるアップル」というものです。
 ここでも書いていますが、彼のスピーチの全文和訳をできないのがほんとうに残念です。


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