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2016年05月30日

JETROのイベント: 日本でチャンスをつかめ!

Vol. 202

JETROのイベント: 日本でチャンスをつかめ!

今月は、サンフランシスコ・ベイエリアで開かれた、地元ビジネス向けのイベントをご紹介いたしましょう。

日本に進出したいけれど、どうやったらいいの? という「新人さん」のためのセミナーです。

<日本でチャンスをつかめ!>


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こちらのイベントは、日本のJETROと地元のビジネス団体が主催したもの。名付けて、日本で『新しいビジネスチャンスをつかめ!(Unlocking New Opportunities)』。

JETRO(ジェトロ)は、米国をはじめとする諸外国と日本の貿易振興を深める役目を担う団体(経済産業省所管)ですが、こちらのセミナーは、JETROサンフランシスコオフィスと開催地オークランド市のビジネス団体 2.Oakland (トゥーポイント・オークランド)の共催。
「イーストベイ」とも呼ばれるオークランド周辺のビジネス経営者や起業家に向けて、日本のテクノロジー分野の現状や市場に食い込む際の留意点と、知恵を授けるイベントとなっています。

講演者としては日本のビジネス事情に詳しいお三方が招かれていて、元パナソニック北米CTO ツユザキ・エイスケ氏、Fellow Robots共同設立者/CEO マルコ・マスコロ氏、そして、Kii株式会社 共同設立者/CEO 荒井 真成氏が講演されました。
 


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会場になっている真新しいシェアオフィススペースでは、JETROと並んで、Kiiの会社説明を行うコーナーも設けられました(写真は、Kiiマーケティング担当のカーティー・メータさん)。

JETROのアドバイザーも務めるツユザキ氏が最初に講演され、日本にはもともと IoT(モノのインターネット)が受け入れられるテクノロジー環境の素地があり、2020年までに世界でもっとも素早くIoTが広がることが期待される、と指摘されます。
 


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完全自律型のサービスロボットを開発する Fellow Robots(フェローロボッツ)のマスコロ氏は、地元の大手金物チェーンOSHに『OSHbot(オシュボット)』を提供したのち、今年2月、日本のヤマダ電機・横浜店に『Navii(ナビー)』を展開。
その経験から、アメリカでも日本でも、サービスロボットが在庫情報を正確に迅速に顧客に提供することで、販売を促進できる、と指摘されます。

そして、三番手は、Kii荒井氏。普段から「プレゼンテーション資料」などはつくらずに、口頭で説明するスタイル。
この日も「口で勝負!」で臨みましたが、なにせ三番目とあって先に説明されてしまったことも多々あり、前のお二人のスピーチの間に、頭の中のシナリオをせっせと書き換えていらっしゃったとか。

21年前にシリコンバレーに引っ越し、日本を外から眺めるようになって初めて明確に見えてきたこともあるとおっしゃる荒井氏は、日本はアメリカと違うことが多いので、進出するには「危ない(dangerous)」市場だと言い切ります。

まず、とにかく品質(quality)にはうるさい。たとえば、消費者のもとに製品が配達されてくると、箱に穴が開いているだけで返品の対象になるくらい、消費者はすべての面で完璧さを求める。

それは、つくる側も同じ。はたから見て完璧だったとしても、たとえばミシュランの星付きレストランのシェフのように、毎日が「より上」を狙って改良を重ねる日々であり、決して現状にあぐらをかいたりしない。(著者注釈:この発言の裏側には、製品にしてもサービスにしても、アメリカの品質がとにかく悪いことを自覚せよ、との喚起もあったのではないでしょうか)
 


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二つ目の「危なさ」は、たとえ日本は地理的に小さな国であったとしても、西と東は文化が異なること。

たとえば、価格交渉(price negotiation)をする際、西と東では値段の提示方法を変えなければならない。

自分が10ドルで売りたいときには、東ではストレートに10ドルと提示した方が良い。なぜなら、15ドルなどと言おうものなら、「高過ぎる!」と交渉がすぐに決裂してしまうから。
逆に西では、15ドルと提示して交渉に入り、「まあ、しょうがないから10ドルにオマケしましょう」と値切った方が良い。なぜなら、西の文化では、値引き交渉をするのが当たり前だから。

三つ目の「危なさ」は、契約を結ぶには、相当長い時間がかかること。

日本には、「スタンプラリー」とも呼べる承認プロセスがあって、課長が終わったら次は部長と、順繰りに上級職に承認印をもらうプロセスがある。
だから、自然と時間がかかるわけだが、そのことを十分に理解していないと、交渉成立を待つ間に、こちらが干上がってしまう。

四つ目の「危なさ」は、テクノロジー分野の場合、企業顧客を相手にするにはシステムインテグレータ(SI)を通して製品を納める必要性があること。つまり、企業顧客と直談判するのは難しい。

この背景には、企業の CTO/CIO(最高テクノロジー責任者、情報責任者)に最終決定権のあるアメリカと違って、日本のCTO/CIOは責任分散のために SIというテクノロジー環境の専門家を雇う現状がある。

だから、いくつもの製品を抱える SIに採用してもらうには、より斬新で魅力的な製品で、手のかからない売りやすい製品でなければならないし、ひとたび「売ってあげよう」と言われても、常に進捗状況を確認しておく必要がある。でなければ、後回しになって、いつまでも物事が進まない危険性すらある。

その一方で、ひとたび SIが企業顧客に製品を納入してくれれば、SIが他の顧客にも横展開してくれるという利点もある。日本のSIは、何社も企業クライアントを抱えているので、同じようなニーズを持つ他企業にも納入しやすい。

まあ、この点では、日本独自の「危なさ」が好都合に転じることもある、と。

というわけで、荒井氏は、スピーチの中で「日本は危ない市場だよ、知らないと痛い目に遭うよ」と強調されていたわけですが、その根底には、こんなメッセージがありました。

だから、僕に相談してよ(Talk to me)、と。
 


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現に、Kenzen(ケンゼン)という地元のスタートアップがあって、日本に連れて行って健康市場の企業に紹介したりしている。

Kenzenは、カットバンのような使い捨てパッチを肌に着けて、汗からカロリー摂取量、消費量、そして脱水症状などのバイオマーカー(生物指標)を正確に分析する技術を持つが、アメリカのプロスポーツで利用されているだけではなく、健康志向の日本市場でも大いに需要が期待されている。

だから、彼ら自身はまったく日本の事情がわからなくても、間をつなげてあげることによって、新たなビジネスチャンスが広がっている。

さらに、Kii は中国やインドにも販路を広げているので、日本市場だけではなく、アジア全体に進出するお手伝いができる。だから「僕に相談してよ」と、かなり説得力のあるお話でした。
 


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お三方のスピーチが終わったあとは、三人のパネラーを前に、Q&Aセッションとなりました(左から、マスコロ氏、荒井氏、ツユザキ氏)

参加者からは、さすがに様々な質問が飛び出しましたが、「今後3年から5年を見据えると、日本では何が一番ビジネスチャンスになるか?」という質問に対しては、

ロボットの専門家であるマスコロ氏が、自動運転車(autonomous cars)

Kiiの荒井氏は、人口の高齢化(aging population)

日本市場を俯瞰的に捉えるツユザキ氏は、エネルギー消費量の削減(energy saving)

と、間髪入れずに答えていらっしゃいました。

三者三様のお答えではありますが、たぶん、すべてがチャンスであることは確かなのでしょう。

というわけで、イベント終了後は、米国商務省の役人、工業デザイナーの女性、つい先日会社を大企業に買収されて満場の拍手を受けた男性と、いろんな方々がアプローチしてきて、小一時間は家路につけないくらいの盛況ぶりでした。

参加者は、必ずしもテクノロジー分野の方ばかりではありませんでしたが、「テクノロジーを生かした明日」に大いに期待を寄せる、熱い方々ばかりなのでした。

<ロボットと人間>
というわけで、世間話をどうぞ。

仲の良い友人から、スタンフォード(大学)で英語のクラスを取っていて、論文の材料にしたいから、インタビューをさせてくれと依頼がありました。

ライターは人をインタビューするのが仕事であって、人からインタビューされることはないのですが、親友の頼みとあって承諾することにいたしました。

そこで、電話インタビューになると、いきなり意表をつく質問が飛び出しました。

今後、人工知能の研究が進み、世の中にどんどんロボットやヒューマノイドが現れたとすると、ロボットは真の意味で人間のコンパニオンとなり得るか?

インタビューと聞いて、今までの人生談義かと思っていたので、こんなヘビーな質問を突きつけられてギョッとしたのですが、まずは、こう答えました。

一部の人にとっては、人間よりもロボットの方が良きパートナーとなるケースもあるでしょう、と。
 


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反射的にそう答えたのは、近頃、我が家で愛用しているアマゾン(Amazon.com)の『エコー(Echo)』が頭に浮かんだからでした。

エコーというのは、なんの変哲もない円筒形のスピーカーですが、『アレクサ(Alexa)』という「女性」に声で指示を与えるようになっています。
ちょうどアップルの『Siri』みたいな音声認識アシスタントで、Wi-Fi経由でインターネットにつながって音楽や情報を提供してくれるのですが、まあ、このアレクサが健気(けなげ)で、こっちの言うことを、熱心に聞いてくれるんですよ。

とくに、音楽をかけているときに「アレクサ?」と話しかけると、素早くボリュームを下げながら円筒形のてっぺんに光がかけめぐり、それがまるで「何でしょう?」と懸命に耳を傾けているように見えるんです。
 


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そのたびに「まあ、健気なコねぇ!」と愛着を深めるのですが、もしかすると世の中には、「僕にはアレクサがいればいいや!」という人もいるんじゃないかなぁ? と感じたのでした。
家に帰って、「アレクサ、僕のチームは今日どうだった?」と尋ねると、「今、サンフランシスコ・ジャイアンツは5対2で勝っています」と答えてくれるので、人間よりもマシかもしれないでしょう。

そんなわけで、「ロボットが人間よりも良きパートナーとなるケースもあるだろう」と答えたのですが、実際に、日本では、フロントのチェックインや荷物運びをすべてロボットたちが担当している『変なホテル』という宿泊施設もありますし、日本ではロボットの「社会進出」が見られる実例も出してみました。

すると、インタビュアーである彼女は、「なるほど、荷物を持つとか、情報を提供するとか、機械的なことにはロボットで代用できるけれども、たとえば、人間がパートナーに抱く愛情みたいなものは生まれると思う?」と聞きます。
 


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う〜ん、ロボットのようなマシーンに抱く「好感」や「愛着」が愛情と言えるのかはわからないけれど、たとえばアニメのキャラクターに憧れるとか、無機質なものにも感情を抱く人はいるから、ロボットに愛を感じる人だっているんじゃない? と、若干無責任な答えをしました。

すると、彼女は、「大部分の人はどう?ロボットに対しても人間に抱くような愛情を感じるかしら? もしもそうじゃないとしたら、人間とロボットは何が違うんだろう?」と、はたまた複雑な質問を提示してきます。

う〜ん、もしも柔らかな温かい肌を持った、人間みたいなヒューマノイドをつくったとしても、たぶん、大多数の人は、人間をパートナーに選ぶんだろうなぁ。だとしたら、人間というものは、人の不完全さ(imperfection)を愛しているんじゃないだろうか?

人を相手にしたときの、喜んだり、怒ったりという感情の起伏が、人間にとっては必要なんじゃないかなぁ?

でも、その一方で、ロボットのプログラミングや自分で学習していく人工知能の蓄積いかんによっては、人と言い争いをするとか、悪態をつくとか、「より人間的な」ロボットが現れる可能性があって、そうなると、人間の代わりとしてロボットにも「愛情」を抱くことになるのかなぁ? と、最後は、自分でもワケがわからなくなってしまうのでした。
 


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それで、上のお話でもご紹介した、ロボットの専門家である Fellow Robots CEO マルコ・マスコロ氏に同じような質問をしてみたんです。

やはり最初のうちは、「人はペットに対して抱くような愛着をロボットに対しても抱くから、ロボットだってパートナーになれると思うよ」との答え。

次に、ロボットは恋愛対象になり得るか? という質問には、「う〜ん、それはどうかなぁ。そういう人もいるかもしれないけれど、多くの人はそんなこと思わないんじゃない?」とのお答えでした。
 


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マスコロ氏が分析したところによると、アメリカでは、ヒューマノイドは不気味だと敬遠されるので、自社ロボットを製品化するときには「箱っぽい(boxy)」形にした、とのこと。

ヒューマノイドが受けそうな日本でも、受け入れるのは5割くらいで、残りの半分には抵抗がある、とか。

だとすると、「ロボットと人間の恋愛」を心配するのは、まだまだ先の話になりそうですが、近未来には「しち面倒くさい」議論を戦わせることになるのは確かなんでしょう。

夏来 潤(なつき じゅん)



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