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2011年01月31日

闘病生活:なかなか辛い一月です

Vol. 138

闘病生活:なかなか辛い一月です

 


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新しい年が明けたというめでたいときに、手術を受けて入院いたしました。
それがようやく治りかけたと思った矢先に、まったく別の病気にかかってしまって、救急病院に駆けつけるハメになってしまいました。

そんなわけで、今は闘病生活を送る毎日ですが、そんな一月は「痛み」にまつわるお話をいたしましょう。

<チャイコフスキーに感謝!>
今回の手術は、わが人生6回目の手術となるのですが、そんな手術の「ベテラン」でも、今度のはちょっと手ごわいぞと、ひるんでしまいました。
なぜなら、いつもよりも術後の痛みが大きかったから。

まあ、術後の痛みというものは、表面を切った大きさにもよりますが、中身(内臓)を切り刻んだ量にも比例するので、以前よりも中身をたくさん切られた今回は、自然と痛みも増すようです。
まだ麻酔が効いているうちは良いのですが、二日目ともなると麻酔は抜け、初日に痛みを和らげてくれたモルヒネの点滴も取りあげられている。そんなときには、痛み止めの薬を定期的に与えられるのですが、これがなかなか効かないこともあるのです。

入院なさったことのある方はご存じだと思いますが、昼間は「ちょっと元気になったぞ」と思っていても、なぜかしら暗くなって寝る時間になると、痛みが戻って来るものなのです。きっと人間のDNAには、夜を怖がるようにとプログラムがなされているのでしょう。
おまけに、同室の患者は、24時間テレビを点けっぱなしにしないと耐えられないタイプ。テレビはガーガーとうるさいし、痛み止めをくれた看護師は、「この錠剤は2つめだから、あと4時間は何も飲めないのよ」と脅しをかけてくるし、こんな状態で寝ようと思っても、なかなか眠れるものではありません。
 


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そんな恐怖の二日目の晩、わたしを助けてくれたのが音楽でした。入院前にアップルの「iPod nano(アイポッド・ナノ)」を購入していたのですが、この手のひらサイズの携帯プレーヤが眠りの導入剤となってくれたのでした。

こんなときに重宝するのは、だんぜんクラシック。まずは、チャイコフスキーのバレエ音楽『くるみ割り人形』を聴き始めたのですが、いつの間にか一枚目のCDが終わり、ニ枚目のCDが終わり、次に『白鳥の湖』にうつったときには、すっかり眠りこけていたのでした。
バレエ音楽といえども、つなぎみたいな無駄のない美しい旋律の数々。きっと、馴染み深い音楽に触れてリラックスできたのでしょう。

おかげで、恐ろしい二日目の晩も無事に乗り切ることができたわけですが、このときばかりは、天才作曲家チャイコフスキーに大感謝なのでした。

ちなみに、わたしの経験からいくと、チャイコフスキーだけではなくて、モーツァルトでも良く眠れるようですね。

このように、音楽を聴くと気持ちが良くなるという人と音楽の関係については、昔から研究がなされているようですが、Nature Neuroscience(ネイチャー・ニューロサイエンス)最新号の論文によると、好きな音楽と脳の密接な関係を科学的に証明することができたそうです。

好きな音楽を聴くと、脳からドーパミン(dopamine、神経伝達物質)が分泌され、まるで好きな食べ物や性行為から得たような快い感覚(euphoria)を味わう、ということは今までにもわかっていました。
新しい研究では、PETスキャンやfMRIを使って、人が大好きな音楽を聴ながら、脳の中ではドーパミンが分泌され、それがいつどこから分泌されるかというのを突き止めたそうです。

ドーパミンは、脳の真ん中にある線条体(striatum)などから分泌されるのですが、なんでも、好きな曲のクライマックスを迎える15秒前になると、その期待感から線条体の一部がドーパミンを放出し始めるんだとか。そして、実際にサビの部分がやってくると、線条体の別の箇所からドーパミンが出てきて、感動で鳥肌がたったりするのだそうです。
その反応は、音楽好きの人ほど強く、好きな曲(歌のない器楽曲)ほど強い。
 


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きっと痛みを感じているときにも、音楽を聴くとドーパミンが放出されて、痛み止めのモルヒネと似たような効果をかもし出してくれるのでしょう。
人間の体がつくり出す痛みの対処法も、なかなか捨てたものではありませんよね。

痛み対策(pain management)といえば、薬や音楽ばかりではありません。医療従事者と話すことも、十分に効果があるそうです。
現在、アメリカの病院では、わざわざ通院しなくても、電話で医師や看護師と接してアドバイスを受けられる「電話診療(telephone-based care)」が広まりつつあるのですが、これが思ったよりも効果があるということなのです。

昨年、The Journal of the American Medical Association(米国医師会誌)で発表された研究によると、看護師の電話診療を定期的に受けていたガン患者は、何も受けなかった患者よりも、痛みやうつ状態が和らいだということです。
これには、誰かが話を聞いてくれるという精神的な効果もあるのでしょう。が、医師と直接会っているときよりも、電話の方が話しやすいので、細かい症状や精神的な不安を訴えられ、それに具体的に対処してもらえることが大いに助けになるそうです。

電話診療というと、今回、わたしの手術の術式を協議したのも電話でした。この多忙な執刀医は、ひどく早口で文章を最後まで言わない傾向があるのですが、それでも彼の手術は3回目。つきあいは長いので、「中途半端な手術だと出血が心配だ」という外科医らしい主張もわかってあげられるのです。

そして、術後べつの病気になって救急病院に駆けつけたあと、つのる不安を解消してくれたのは、主治医の電話診療でした。
救急医が「もっとひどい状態だったら、食べた物は全部吐き続けるはずよ」などと脅すものだから、こちらはどれほどひどい病気かと恐れていると、主治医は電話の往診でこう断言してくれました。「そんなにひどくないよ(Not bad)」と。

さらに、専門医に会う必要があるかと問えば、主治医はその場で専門医に電話してくれて、「まずは薬を続けたあと、様子をみましょう」という結論に達したのでした。その静かで噛み含めるような声には、十分に説得力があるのです。

そんなわけで、痛みと闘った一月も間もなく終わりとなりますが、一日も早く外を歩けるようになりたいなぁと思っているところです。

それから、思う存分くしゃみもしたいですし、コメディー番組を観て大笑いもしてみたいです。

夏来 潤(なつき じゅん)

 

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