Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2002年11月25日

シリコンバレーと政治・経済:投票結果と景気予測

Vol. 40

シリコンバレーと政治・経済: 投票結果と景気予測

近頃、ベイエリアでは、あまりいいニュースが聞こえてきません。何となく世相を反映しているようでもあります。メジャーリーグ野球では、サンフランシスコ・ジャイアンツがカリフォルニア南部のエンジェルスに負け、王者の座を逃がしてしまうし、2012年のオリンピック候補地として名乗りを上げていたサンフランシスコ市は、東海岸のライバル、ニューヨークに破れてしまいました。
その代わり、球界では、ジャイアンツのバリー・ボンズ選手と、対岸のオークランドA’sのミゲル・テハダ選手が両リーグのMVPに輝き、ある有名な旅行雑誌の投票では、サンフランシスコが世界で一番いい観光都市に選ばれました。このランキングで、米国で2番目に入ったのはニューヨークで、これで、ベイエリアっこ達の溜飲はちょっとだけ下がったようです。

前置きが長くなりましたが、それでは本題に入りましょう。今回は、前半は政治のお話、後半は景気のお話です。シリコンバレーの内輪話も登場します。

<全米での投票結果>
まず、前回お伝えした、11月5日の選挙についてのフォローアップです。ご存じのように、連邦議会は、上院も下院も共和党が大きく前進し、ブッシュ大統領も采配がとり易くなりました。
一議席が未決の上院では、共和党が2議席伸ばし、51対47(無所属1)と立場を逆転しました。もともと過半数を保持していた下院では、共和党はさらに差を広げ、現時点で26議席も民主党を上回っています(無所属1、未決2議席)。
4年に一度の大統領選の間で行なわれる中間選挙で、これほど共和党が議席を伸ばしたのは歴史上でも珍しく、これは明らかに、ブッシュ大統領の人気の絶大さを物語っています。彼のイラクに対する強行さが支持されているのです。国民にとって、昨年のテロは、それほどの一大事だったのです。

前回ご紹介した中で、上院のニュージャージー戦では、直前に出馬したベテランのローテンバーグ氏(民)が議席を勝ち取り、ニューハンプシャー戦では、若手ホープのスヌヌ氏(共)が現職知事のシャヒーン氏をかわし、二大政党は一勝一敗となっています。両方とも、予想された通り、僅差の戦いでした。
10月末、民主党現職議員が飛行機事故で亡くなったミネソタ州では、急遽ピンチヒッターとなった、元副大統領で駐日大使も務めたモンデール氏が、共和党候補のコールマン氏に敗れました。直前の事故で、州民ともどもかなり感情的な選挙戦となっていましたが、国中を駆け抜ける保守の風を受け、民主党から転向した候補者に軍配が上がりました。

一方、州知事戦では、現職に対する不信感から、激しい争奪合戦となった末、民主党が知事の座を3つ伸ばし、共和党に対し24対25と善戦しています(1州で未決)。
前回お伝えした女性候補の躍進については、期待されていた5人のうち、4人が選ばれ、単年度での当選最多記録となりました。また、現職と合わせると、6人の女性知事誕生となり、こちらも現在の5人の記録を塗り替えました。
ミシガン州司法長官のグランホルム氏は、予想通り快勝し、州初の女性最高責任者となりました。アリゾナ州で辛くも勝った、ナポリターノ州司法長官は、任期満了の女性知事の後任となり、史上初の女性から女性へのバトンタッチという快挙を成し遂げました。
残念ながら落選したメリーランド州のタウンゼンド副知事は、ケネディー一族という血筋と、民主党支持の地盤という助けもありましたが、力及ばず、36年ぶりに共和党知事の誕生となりました。
女性候補同士の戦いとなったハワイ州では、4年前の知事選で破れたリングル氏に軍配が上がり、こちらは40年ぶりの共和党知事となりました。女性候補ではないものの、ジョージア州でも、共和党候補が勝ったことで、南北戦争以来の政権交代となりました。

いくつか番狂わせがあったものの、民主党が州レベルで善戦したということは、民主党知事を選んだ州に住む人が増えたことを意味し、少なくとも現時点で、大統領選の選挙人団の票では、民主党に天秤が傾いています(選挙人団は、州の上院議員の数、すなわち2と、人口比率で割り当てられる下院議員の数を合わせたものが、州に分配されます。各州の選挙人の票はひとりの候補者にまとめて投じられるため、カリフォルニア、テキサス、ニューヨーク、フロリダなど、大きな州を取ることが鍵となります)。
2004年に控えた大統領選挙で、現職に立ち向かうこととなる民主党は、そろそろ候補者選びに本腰を入れるようですが、スター政治家に欠けるという批判をどう撥ね付けられるのか、これからが見物となっています。

<カリフォルニア>
州知事戦や連邦下院戦などが行われたカリフォルニアでは、大きな変化はありませんでした。知事選では、人気はあまり芳しくないものの、現職のデイビス知事(民)が小差で再選され、同様に現職が勝った、テキサス州のペリー知事(共)、ニューヨーク州のパタキ知事(共)、フロリダ州のブッシュ知事(共、大統領の弟)の仲間入りを果しました。
連邦下院戦では、民主党がひとつ議席を伸ばし、カリフォルニアが持つ53議席を、33対20としました(ちなみに、今年選挙がなかった上院は、2議席とも女性民主党議員が占めています。サンフランシスコで再選されたナンシー・ペローシ氏は、新たに下院での民主党リーダー(House minority leader)に選出され、連邦議会で二大政党のいずれかを率いる、初の女性議員となりました。

州の議会戦も同様の結果で、弱冠民主党が議席を失ったものの、上院も下院も、民主党が6割を占めています。カリフォルニアと他の州の分極化は更に進んでいるようで、今回、州の要職はすべて民主党が握る結果となりました。これに含まれるのは、知事、副知事のみならず、州長官、会計監督長官、財務長官、司法長官など州政の舵取りをするもので、このように民主党が完全制覇を成し遂げたのは、1882年以来初めての出来事です。
この中で、僅差で会計監督長官に選ばれたウェスリー氏は、オークションサイトのイーベイ社の元副社長で、久方ぶりのシリコンバレーからの代表者となります。州都サクラメントに新たな風を吹きこみ、浪費を省き、事務手続きの効率化を図ろうと抱負を語っています。

このような民主党の台頭に対し、共和党サイドでは、2006年の州知事戦に、俳優のアーノルド・シュワルツネッガーが名乗りを上げ、大きく巻き返しを図ることに期待を寄せています。彼は映画を通しての名声だけでなく、結婚で得たケネディー一族の座も、政界入りに有効利用できます。
がちがちの保守派とは違い、社会面での政策は中道寄りの立場を取っており、支持政党なしの有権者にもアピールできそうです。今回の選挙でも、放課後の補習授業に州の財源から5億ドルを投入する提案を精力的に支持し、これが住民投票で州民に可決されています。何と言っても、彼がテレビの画面に出てくると、説得力があるようです。

前回、おしまいに出てきたロスアンジェルス市の分割の話ですが、これは大方の予想通り、実現しないこととなりました。サンフェルナンド・バレーの分割の方は、2対1で、ハリウッドの方は、3対1で棄却されたようです。
大部分のロスアンジェルス市民にとって、現状のままが望ましいという結果が出たものの、負けた分割推進派は、まだまだ戦いを続けていくことを表明しています。サンフェルナンドの中では、分割希望票が半数を超えたそうで、この運動はなかなか収まらないかもしれません。


<シリコンバレーと政治>
ハイテク産業も政治とは無関係ではいられません
。米国のどの企業もそうですが、業界や自社を有利な方向に持っていくことに関しては皆必死で、いずれかの政党や政治家への合法的な献金は怠りません。支持する政治家や、自分の政治理念を明らかにする経営者も少なくありません。
たとえば、この界隈で共和党支持者として有名なのは、シスコ・システムズ社のジョン・チェンバース氏、サン・マイクロシステムズ社のスコット・マクニーリー氏、シリコンバレーからは外れますが、デル・コンピュータ社のマイケル・デル氏などです。
一方、民主党支持の中には、アップル・コンピュータ社のスティーブ・ジョブス氏、オラクル社のラリー・エリソン氏、ネットスケープ創立者のマーク・アンドリーセン氏などがいます。
必ずしも、個人の意向が会社の献金に反映されるわけではありませんし、中には、ちゃっかり両極の政治家に投資する企業もありますが、彼らの意見には、市民も耳を傾けます。ちなみに、HPのカーリー・フィオリナ氏などは、どちらかはっきりしない、ちゃっかり組のように見受けられます。

政治家にしても、過去に受領した資金源は、こと細かく新聞やテレビでリストされるので、どこからもらうかについて、うかつに判断はできません。そういった政治家をサポートするグループが、シリコンバレーにはたくさんあります。たとえば、州や地方自治体のレベルで民主党候補者を助ける、デモクラティック・フォーラムというのがあります。先述の、元イーベイ副社長で、州会計監督長官に選ばれたウェスリー氏も、この団体の創立者のひとりです。彼の音頭取りで、会員の3割がハイテク産業からの参加となっています。
ロビー団体のテックネットは、首都に太い繋がりを持ち、国のテクノロジー関連の政策決定に少なからず影響を与えています。
共和党のサポート団体としては、一年前に発足した、若い世代のための新世紀サークルなどがあります。元エキソダス社長のエレン・ハンコック氏も、このグループを後押ししています。しかし、数年前からハイテク業界にラブコールを送り続け、ヤフーの創設者、ジェリー・ヤンのような若手有名人を見方に付けた民主党に、弱冠遅れを取っているようではあります。

それにしても、こちらでは、新聞が読者に向かって投票内容を推薦するのがおもしろいです。地元のサンノゼ・マーキュリー紙は民主党寄りなので、ほとんどの民主党候補を推薦しています。ウェスリー氏もこの中に入っていました。先述のアーノルド・シュワルツネッガーご推奨の提案は、勿論 "No!" です。

<景気と失業率>
この辺で、景気のお話に移ります。企業の従業員解雇が毎日のように報じられ、それが半ば当たり前のようになっている中、流れに逆行するかのように、オークションサイトのイーベイ社は、先日、社員を広く募りました。
"eBay needs You!" と、まるで軍隊のようなキャッチフレーズで、ソフトウェアエンジニアや品質エンジニア、その他IT、マーケティングのポジションを募集したのですが、サンノゼ市の会場では、午後4時から8時までのイベントのため、何時間も前から並ぶ人が長い列を成しました。2百人の募集に対し、2千人が会場に詰め掛け、せいぜい募集の3倍ほどを予想していた主催者側を驚かせました。インターネットでの応募も合わせ、最終倍率は30倍だったとも言います。

ドットコムブームが急激に冷え込んだ後、シリコンバレーの失業率は上昇傾向が続いており、10月のサンタクララ郡での失業率は7.9パーセントと、過去20年来最悪となりました(国や州レベルでは、6パーセント前後)。
ひとつの空きに対する競争率は常に高く、誰かのコネがないと、履歴書すら見てもらえないこともあります。運良く、仕事にありついても、職種や給料の面で、以前より条件の悪いことも多々あります。スタートアップ会社の中には、ベンチャーキャピタルの投資を待つ間、給料をまったく払っていない所もあり、それでも職があるだけいいか、と貯金をつぶして生活する人もいます。いつかは見返りがあるだろうし、少なくとも、履歴書には空白の期間がなくなり、スキルも落ちることはない、という希望的観測のもとです。
今は、スタートアップやベンチャーキャピタルにとっても我慢のしどころで、第3四半期で株式公開したのは、たった1社に留まっています。投資額も、インターネットバブル成長期だった、4、5年前のレベルまで下がって来ています。

大方の見方では、この辺の景気はそう簡単には戻らず、米国の他の地域に比べても、回復は遅れそうだと言われています。バブル期の過剰投資が悪影響を及ぼしていると指摘されます。こういった悲観的な予測のため、IT関係の投資は抑えられ、研究・開発費も思ったより伸びず、人を雇うよりも解雇する方が増えるという悪循環が続いています。
ただ、カリフォルニアの生産性は国内でも優れたレベルにあり(サンフランシスコ連邦準備銀行の発表によると全米で6位)、これが企業の流失を防ぐのに一役買っているようです。また、ハイテク産業に限らず、建設、医療、流通など、幅広い分野での生産性の高さが顕著で、この底力をもって、州経済の回復が早く実現するように期待されています。

<ハイテクから転向>
このように厳しい雇用状況が続く中、ベイエリアでは、あるトレンドが起きています。ハイテク産業に見切りをつけ、不動産業界に鞍替えする人達が増えているのです。不動産エージェントの学校では、州の免許を取得しようと、例年に比べ、2倍近くの学生が集まっていますが、その多くは、ハイテク産業からの転向者といいます。
カリフォルニア、特に、ベイエリアの不動産は常にホットな状態です。景気に反し、値段が下がりません。需要に対し供給が追いつかない現状もさることながら、折からの連邦準備理事会の利下げで、住宅ローンの利子が大幅に下がり、消費者が買いのムードに煽られているのです(銀行に対する金利は、過去41年で最低の1.25パーセント。30年住宅ローンは、6パーセントほど)。
エージェント希望者の間でも、何億円もする豪邸を一軒売ったら、手数料ががっぽり入って来た、という成功例もたくさん聞こえています。自立して仕事ができる点や、人助けになる点も魅力です。また、今までの仕事のスキルは、決して無駄にはなりません。

ところが、こういった転向者にとって、必ずしもバラ色の未来が開けているわけではありません。エージェントの急激な増加によって、いい物件を担当しようと、競争が過熱します。また、いくら不動産がホットだとは言え、億を越える豪邸の売れ行きは、近頃かなり落ち込んで来ています。そこそこの物件を何件か売っているようでは、年収にして1、2万ドルにしかならないし、まったく収入が得られないエージェントも出てくる、と専門家は見ているようです。

例年3割は脱落し、ある程度やっていけるには、最低5年は掛かると言われるのが不動産業界です。しかし、最近この業界も売り方が大分変わって来ています。5年ほど前に出てきた、インターネット上での物件サーチが大幅に改善され、買い手の側にも、無くてはならないトゥール(道具)となっているのです。
たとえば、宅地開発のKBホームが提供するバーチュアル・ツアーでは、近所の様子から家の内外が手に取るようにわかるだけではなく、モデルハウスの家具類を除いてみたり、じゅうたんやキャビネットなどのオプションを替えてみたり、と現地に行くよりも役立つ面もあります。また、不動産エージェントが扱う中古物件にしても、その大部分がWeb上にリストされ、各部屋の360度パノラマが望めるようになっています。
プルーデンシャル社などは、エージェントがデジカメで撮った写真をアップロードできるように、ソフトウェア・パックを全員に配布しています。エージェントにしても、顧客を現地に連れていく手間が省けるし、広告に頼らず、物件をタイムリーに紹介できるという利点があります。

これらの近代的道具と従来の人との繋がりを駆使して、希望通り売上を伸ばしていけるのか、不動産業界に飛び込んだハイテク転出者達にとって、これから先も踏ん張り所が続きます。

夏来 潤(なつき じゅん)

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