Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2001年06月06日

お子様パワー:財布の紐は誰のもの?

Vol. 15

お子様パワー:財布の紐は誰のもの?

シリコンバレーのお子様達の間で、ちょっとしたブームになっているのが、運転手付きのリムジンです。家から空港の往復をしてくれる乗合小型バスの "リムジン" ではなく、通称 "リモ(limo)" と呼ばれる、大型高級車のことです。
大抵、黒塗りのリンカーンが使われ、後部座席に数人座れるように改造されています。よく、ハリウッドの映画などに出てくる、着飾った男女がシャンペンなんかを飲んでいる乗り物です。10人以上乗れるタイプは、"ストレッチ(stretch)" などと呼ばれ、白の巨体で、窓がまっ黒のマジックミラーというのも、最近よく見かけるバージョンです。

どこからどうしてお子様達がこの乗り物の味を占めたかわかりませんが、お誕生日などに、お小遣いをはたいてリムジンを貸し切り、お友達を引き連れ、マクドナルドなどに行くのがおしゃれらしいです。運転手は、お子様だろうが大人だろうが、お客様には丁重に接します。
お子様をターゲットとしたリムジン会社も存在するようで、お子様専用に改造した車は、全長7メートルの、オレンジ色の "いもむし" だそうです。ご丁寧に、10本の足とパクパク動く口が付き、ふわふわした毛が内と外を覆っていて、乗り心地はなかなかのようです。"いもむし号" の他に、かえる、ジャガー、オオハシ(チョコボールのマスコットになっている鳥)があるそうで、お誕生日の小さなお子様を、内緒のおもてなしで喜ばせるには、最適のようです。

リムジンは、もともと大人達の間で、特別なデートやオペラの行きかえりなどに使われていました。それがティーンエージャーに派生し、高校卒業前のプロム(prom)と呼ばれるダンスパーティーの行きかえりに使われたり、大晦日の晩、車で街を走り廻ってお祝いするのに貸し切られたりするようになりました。
そして、今は、小学生の間でも、彼らの人生の上で大事とされる日には、リムジンを雇うという習慣が生まれつつあるようです。子供達に限らず、リムジンを雇うのには、多分に象徴的な意味が強く、目的地に行くための足というよりは、その行程を皆で楽しみ、なおかつリッチないい気分を満喫する、というもののようです。

このリムジンのご一行様と同様、シリコンバレーの大人達を驚かせているのが、お子様のエステ通いです。女の子がお母さんの洋服やお化粧品を拝借し、大人の真似をするのは昔からのお遊びですが、最近はそれを飛び越え、堂々とエステサロンで大人の仲間入りをしているようです。美顔にマッサージ、マニキュアにペディキュア、そして、にきび予防のお手入れ、など何でも揃っています。男の子も例外ではなく、特にマッサージなどをお好みのようです。小さな女の子のお気に入りは、マニキュアをプロにやってもらうのことのようです。お嬢様になると、やはりお肌のお手入れが一番気になるようです。
中には、まだよちよち歩きの子供にマッサージのギフト券をプレゼントしたり、小学生の娘のために、エステでお誕生日のパーティーを開いてあげたりする親がいるそうです。また、母と娘の絆を深めるために、"親子パッケージ" なるものを設け、フェイシャル、マッサージ、メークアップ、そしてお食事を提供するエステサロンも出てきたそうです。勿論、お子様は堅くお断りのサロンも多いようですが、子供といえども同じ値段を請求できるので、結構いい商売になるのかもしれません。

サロンでの一日は、何も奥様やお嬢様、お坊ちゃまの専売特許ではなく、お父さんのエステ通いも、ニューヨークあたりのビジネス街で流行っているそうです。単なるヘアカットやマッサージだけではなく、男性用マニキュアや眉毛のお手入れ、フェイシャルに髪パックなど、女性顔負けの品揃えのようです。"一日14時間も働いていると、たまにはこうしてリラックスしたいんだよ" と語る重役達も多いそうです。
また、最近はデパートでも男性用のスキンケア商品が充実してきているそうで、お顔のお手入れをちゃんとしているのは、細かいことによく気がつく(paying attention to detail)証拠とされるようです。何でもこれがビジネスの成功に貢献するとか。また、エステサロンは、第二のゴルフ場としても、商談成立に一役買っているようです。

こういったリムジン業界やエステサロンの隆盛は、勿論、昨年までの好景気と株式市場高騰に伴い、皆の懐が潤っていたことが大きい要因かもしれません。一説によると、景気が今のように一時停滞しているときが、男性が最もエステサロンに通うとき、とも言えるそうです。バケーションを取る代わりに、身近にマッサージなどでリラックスしたい、というのが理由だそうです。

しかし誰が何と言おうと、ここで忘れてはいけないのが、お子様パワーです。ティーンエージャー産業は今や莫大なのもので、去年アメリカ国内では、12歳から19歳までのティーンのために消費された金額は、1550億ドル(約19兆円)と言われます(Teen Research Unlimited社発表)。
この世代は、戦後のベビーブーマーの子供達で、3千2百万人という数は、親の世代をしのぐそうです。また、両親が働いている家庭が多く、子供達の意見が家庭内の決定を大きく左右するという現象も、ティーン消費拡大に影響しているようです。この分野では、ティーン自らの消費額は全体の3分の2に昇り、いかにして彼らの気を引くかが、販売会社のマーケティング部門での最優先課題となっています。

ソフトドリンクのスプライト(Sprite)は、早くからこのティーンパワーに気付き、音楽を商品と結びつけることで、近年販売を著しく伸ばしてきました。ヒップホップ分野(hip-hop)のアーティストを招き、コンサート会場で自社の飲み物を配る。また、そのコンサートの模様を、人気音楽テレビ局のMTVで放映し、草の根的に若い視聴者に訴える。そして、"スプライトはヒップホップの一部" と言われるまでに、強いブランドイメージを植え付けることに成功したようです。

また、MTV自身も、若い視聴者を繋ぎ止めるためには調査を怠りません。"民族誌研究(ethnographic studies)" と銘打って、MTVのメンバーがティーンエージャーの家に出向き、インタビューだけではなく、その生活の一部始終を記録し、何が彼らに好まれるかを検討するという手法を取っているようです。お陰で、12歳から24歳の視聴者層では、過去4年間連続して、ケーブルテレビ局人気ナンバーワンの座を保っているそうです。今年1月からMTV Japanのサービスが開始されましたが、世界中で140カ国に放送網を作り上げるまでになっているそうです。

ピザのチェーン店、ピザ・ハット(Pizza Hut)は、重役達のランチの席にティーンエージャーを招き、忌憚のないご意見を伺う "円卓会議(roundtable discussions)" を実施しています。これが、新製品開発にうまく生かされているようです。また、ゲームソフト会社では、契約したティーン達に建設的な意見を請うのが、以前からの習慣になっています。こういった会社の謝礼で、充分に生活できそうな "ご意見プロ" のティーンも、たくさんいるそうです。
ひとたび若い消費者の信頼を得ると、生涯に渡って自社ブランドに対し忠誠心を示してくれるかもしれないので、各社ティーン層の獲得に必死なのです。

近頃はティーンエージャー("ジェネレーションY" とか "Gen Y" とか呼ばれる人達)をターゲットとしたマーケット・リサーチの会社がもてはやされ、販売促進にも大きく貢献しているようです。こういったリサーチ会社からは、ちょっとおしゃれな(cool な)ティーンを求めて、"クールハンター" 達が派遣され、街で集めた情報は、即インターネットで顧客に報告するそうです。
でも、こういった情報が公になった途端、クールはクールではなくなるそうで、"クールとはいったい何か?" という命題は、永遠に解き続けなければいけないようです。

それ故に、流行が生み出され、消費者からも新しいものが求められるのでしょうが、それにしても、最近はクールが飽きられるのが早いものです。

夏来 潤(なつき じゅん)

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