Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2001年03月26日

肥満の科学:アメリカ人のちょっと危ない状態

Vol. 11

肥満の科学:アメリカ人のちょっと危ない状態

バレンタインデーのチョコレートをたらふく食べた市民に向かって、先日フィラデルフィア市では奇妙なキャンペーンが始まりました。"76日で76トン痩せよう!" キャンペーンです。これは、フィットネスにご執心のストリート・フィラデルフィア市長と、プロバスケットボールチーム、フィラデルフィア76ersのオーナー、クロス氏が呼びかけて始まったもので、自ら希望し登録した市民全体が、76日間でどれだけたくさん痩せられるかを促すプロモーションです。これにタイアップし、多くの従業員を抱える企業や公立学区などが特別なエキササイズクラスを設けたり、民間フィットネスクラブが料金を割り引いたり、といった便宜が図られるようです。

フィラデルフィア市は2年前に、あるフィットネス雑誌上、"アメリカで最も太った街(the least-fit city in the country)" という不名誉な名前を頂戴した経験があり、その名誉挽回を掛け、今回のキャンペーンが始まったようです。住民の3割が肥満という150万都市、フィラデルフィアでは、76トンを落とすには、約3万人が5ポンドほど(2kgちょっと)痩せればいいとのことで、まったく不可能な事ではないらしいです。日本のゴールデンウィークの頃に結果が出るようですが、市民の志がどれほど高いかが、全米中に知れ渡ることとなるようです。

実は、こういった肥満の問題は、フィラデルフィアばかりではなく、全米中で蔓延していると言っても過言ではありません。スリムな人が多い日本やアジア諸国から来ると、とにもかくにも、米国人の大きさ(特に、おなかやおしりのまわり)に圧倒されるわけですが、この傾向が年々加速していることが、生活していてもよくわかります。

一口に肥満と言っても程度の差があり、医学的に言うと3つに分類されます。やや肥満(overweight:BMIが25以上30未満)、肥満(obese:BMIが30から35)、著しく肥満(severely obese:BMIが35より大)と定義されます。[注:BMI=Body Mass Indexは、体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったものです。正常域は、男性で20から25、女性で19から24とされています。]
疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control and Prevention、通称CDC)が昨年発表した統計によると、今やアメリカの大人人口の半数以上(54%)が、"やや肥満" より上と分類されるそうです。そればかりではなく、"肥満" と分類される人も年々増え、1991年には12%だったのが、1999年には19%となっているそうです。この増加傾向は、地域や社会経済層に係わらず、全国的に押しなべて言えることだそうです。

ちょっと堅苦しい医学的な話になりますが、肥満が国民の間で問題となるのは、ひとつに、肥満が原因の死亡率が高くなるということがあります。米国では、毎年28万人ほどが亡くなっていると報告されています。しかし、それだけではなく、タイプ2糖尿病、胆のう疾患、冠状動脈系心臓病、高コレステロール値、高血圧、関節炎といった長期に患う病症を持つ人が増えるということもあります。これによって、個人の尊い健康が損なわれるだけでなく、経済的観点から言っても、米国内医療費の1割がこれら肥満関連の疾病に費やされており、患者や保険会社にとって、相当な負担ともなっています。

中でも、タイプ2糖尿病の増加は深刻な社会問題となっていて、昨年夏、CDCのお医者さん達が中心となり、一般消費者に向け警告が出されました。過去8年間で、糖尿病の診断件数が3割も増加し、今や米国人口の6.5%が糖尿病を持っているそうです。言うまでもなく、糖尿病は、失明、腎臓疾患、足の切断などの主要原因となっており、心臓病や卒中などの死亡率の高い疾病を引き起こす要因ともなっています。
最近の傾向は、単に糖尿病患者数の増加だけではなく、昔は45歳以上がかかりやすいとされていたのが、今は30歳代や20歳代、ティーンエージャーの割合が著しく増加していることが挙げられます。若い人口が発病していることで、今後、糖尿病が国民全体の健康度を大きく脅かすことになるのは必至のようです。[ご存知の方も多いとは思いますが、診断される糖尿病件数の1割弱は "タイプ1" とされ、これは、体の免疫(the immune system)がすい臓のインシュリン生成細胞を破壊することが原因で起こります。これに対し、一般的に言われる糖尿病、"タイプ2" は、体がインシュリンに無反応になり、これを使えなくなることが原因で起こります。]

CDCのお医者さん達は、タイプ2糖尿病の最大の原因は肥満にあり、最近のライフスタイルが大きくこれに作用しているとしています。テレビやコンピュータの前に張りついて動かない、エキササイズが足りない、たくさん食べ過ぎる、それも高カロリーのものを巨大な量食べる、などの生活様式に根本的な問題があるようです。
"カウチポテト(couch potato)" なる有名な言葉があるように、テレビの前にどっかり陣取って、スナックをむしゃむしゃほお張り、リモコンでチャンネルをパチパチ変更、というのは洋の東西を問わず工業社会のシンボルとも言えます。最近は、ビデオゲームやネットサーフがそれに加わり、定住民族度(sedentary lifestyle)に拍車を掛けています。

食べる方では、アメリカ人は世界に名だたる悪食と言え、ピザやラザーニャ、フライドチキン、ハンバーガーなど、高脂肪、高カロリー、低ビタミンの見本のような料理を最も好みます。お昼を食べながらのミーティングになると、サンドイッチのような比較的健康料理は敬遠され、ピザの宅配となると、途端に皆の目が輝きます。しかも、レストランなどで出される量たるや、常人の許容範囲をはるかに超え、これを食べて太らない訳がない、と肥満の統計数値に妙に納得したりします。病院食も例外ではなく、開腹手術(laparotomy)の二日後に、ボリュームたっぷりのラザーニャを出され閉口した経験を思い出します。

さすがにアメリカ人自身も、このままではいけないと思っているようで、減量に対し異常なほどに関心を抱いていたりします。"太っていては、重役候補から外される" などと言われるように、健康の観点からと言うよりも、むしろ見かけの美しさ、社会からの容認を求めているようではあります。そのお陰で、フィットネスクラブ、ダイエットプログラム、脂肪取りなどの美容手術の業界は、景気に関係なくとても潤っているようです。
しかし、なかなかうまく痩せられなかったり、落とした体重をまたおなかに戻したり(a yo-yo diet)、と結果が伴わないのが悲しい現実のようです。一連の行事が続く年末・年始が終わってみると、甘いものの食べ過ぎで2,3キロ太ってしまっていた、というのが大抵のアメリカ人の嘆きとなっています。

エキササイズに関しては、肥満の人の過半数が、運動で健康的に痩せようと志を持っているそうです。しかし、エキササイズしているよと言っても、ほんの少しの人しか適切な運動量(一日30分、週に5日)に達していないようです。エキササイズの方法として人気の高い、男性陣のゴルフ(カート付き?)や、女性陣の庭いじり(gardening)に至っては、それ自体が怪しいものです。

また、ダイエットにしても、短絡的に食欲抑制ドリンクに手を出す人が多く、テレビはそういったダイエット製品CMのオンパレードです。食事療法に頼る人でも、野菜中心に変更しようというサラダには、高カロリーのドレッシングをたっぷり掛けたり、たんぱく質の源であるメインディッシュをスキップしてまでも、デザートをぱくついたり、と食の基本ができていないように見うけられます。

そういった食の習慣に関し、こぼれ話をひとつ。先日、シリコンバレーで最も優れたカフェテリアを持つと噂される、サーチエンジンのグーグル社(Google Inc.)でおかしな事件が起こりました。夜中におなかをすかせた何者かが、翌日にカフェテリアで出される予定のパイ数個を、冷蔵庫から失敬し、全部食べてしまったそうです。
誇り高き担当シェフふたりは、これに激怒し、"もし、どろぼうがもう一度パイを盗んで食べたら、金輪際カフェテリアではデザートを出さないぞ" と社内Eメイルで宣言したそうです。結局犯人は捕まりませんでしたが、皆デザートがメニューから消えてしまうのが怖くて、それ以降パイの盗難は起こっていないそうです。

実は、シェフ達が激怒した理由は、盗まれたパイが未完成で、人様に食べて戴く状態ではなかったということらしいですが、食べた側は、きっとそんなことは気が付きもしなかったと思います。

夏来 潤(なつき じゅん)

カテゴリー

  • お知らせ (4)
  • 仕事 (3)
  • 政治・経済 (28)
  • 教育 (8)
  • 旅行 (20)
  • 業界情報 (86)
  • 歴史・風土 (22)
  • 社会・環境 (53)
  • 科学 (7)
  • © 2005-2020 Jun Natsuki . All Rights Reserved.