グーグルさんのケータイ:いよいよ「G1」登場!

2008年10月30日

Vol.111

グーグルさんのケータイ:いよいよ「G1」登場!

  今月は、グーグルさんの新しいケータイ「G1」のご紹介に引き続き、間近に迫った大統領選挙と景気のお話などをいたしましょう。

<グーグルさんのG1>

  ご存じのとおり、10月22日の水曜日、アメリカでは待ちに待ったグーグルさんの携帯電話が売り出されました。
  名付けて、「T-Mobile G1」。携帯キャリアのT-Mobile(ドイツ・テレコムの子会社)が提供しています。色は黒と茶色の2種類です。

  言うまでもなく、G1は、グーグルさんが新しく開発した携帯電話OS「アンドロイド(Android)」を搭載しているわけですが、ハードウェアの方は、台湾のメーカーHTC製となっております。
  HTCは、マイクロソフトのウィンドウズモバイルOSを搭載する端末をたくさん手がけてきた、スマートフォン分野のベテランとも言えるメーカーです。なんでも、HTCの社長であるピーター・チョウさんが、グーグル・モバイルプラットフォーム部門ディレクターのアンディー・ルービンさんと親しかったことから、両社のコラボレーションが実現したのだとか。

  長い間「Gフォーン」というニックネームで取り沙汰された、栄えあるグーグルケータイ第一号機を作ったメーカーとしては、さぞかし鼻が高いことでしょう。


 全米での発売に先駆け、前日の夕方、サンフランシスコのT-Mobileショップには、一足先にG1を購入しようと、たくさんの人たちが詰め掛けました。ショップの前の長蛇の列は、きっとネットでご覧になったこともあるでしょう。

  けれども、その翌日、「いよいよG1をゲットするぞ」と近くのT-Mobileショップに出掛けた連れ合いは、がぜん拍子抜けしてしまいました。だって、ショップの中には、人っ子一人お客がいないのですから!!

  え、誰もG1には興味がないの?

  そんなわけで、行列に並ぶこともなく難なく手に入れたG1ですが、連れ合い曰く、「これって、しょせんアップルのiPhone(アイフォーン)のコピーでしょ!」

  いえ、さすがにグーグルさんの作だけあって、ネットアクセスは快適です。それに、グーグルさんのメールやコンタクツ(アドレス帳)やカレンダー(予定表)のシンクロ(パソコンとケータイ間のデータの同期)はとってもうまくいくのです。
  でも、それ以外は、「あんまりうまくできていない」というのが、G1をチョイといじってみた感想だそうです。

  まあ、見た目も、メニューのラインアップも、アップルさんの真似と言われても反論できない感はあるのですが、そのわりに、本家本元ほどうまくできていない、というのが正直な評ではないでしょうか。

  たとえば、基本的なボタンの使い方がわかり難い。連れ合いは、電源の入れ方がわからず、マニュアルを見て探し当てたそうです(右端の赤いボタンです)。それから、メールなどを操作していて、メニューの奥深くにどんどんと入って行った場合、「前に戻る」のボタンを発見するのに、えらく時間がかかったとか(電源の横の矢印ボタンです)。
  わたしは、電源ボタンはすぐにわかりましたが、カメラのシャッターに使うボタンがわかりませんでした。最初、間違って電源ボタンを押してしまって、画面が真っ暗になってしまいました。次に「これだろう」と真ん中のポッチを押してみたら、3秒ほどたって、ようやくカシャッと写真が撮れました(反応が遅くて、途中で動かしたのが悪かったみたいです。普通はもうちょっとスピーディーに撮れるようです)。

  個人的には、日常的に使う電子機器は直感的でなくてはならないと思っているので、何のボタンであれ、マニュアルを見ないと操作できないようなものは、あまりできが良くないと思うのです。

  デザイン的には、なんとなく、同じくT-Mobileがティーン向けに出している「SideKick(サイドキック)」に似ていて、タッチスクリーン画面がパカッとスライドして、キーボードが出てくるようになっています。
  けれども、物理的なキーボードがあって良いかというと、必ずしもそうとは限らない。なぜなら、いちいち画面をスライドしてキーボードを出さないと文字が打てないから。でなければ、とっさにネット検索すらできないのです。おまけに、右側にある突起が邪魔になって右端のキーが打ち難い。
  だったら、無理してキーボードなんか付けないで、iPhoneのように、画面上でタッチするバーチュアルキーの形式でいいのではないか?とも思えるのです。

  画質も、iPhoneの方が格段にいいですね。たとえば、こちらはYouTubeで見た同一のビデオクリップですが、左のiPhoneの方が、画面が断然きれいです。(すみません、画面に指紋が付いていて見辛いですね・・・)

  G1には、ネットを利用し易くするために、iPhoneのようにワイヤレスLAN(WiFi)機能も付いています。しかし、標準設定は3Gネットワーク接続となっているので、設定を変更しないと、近くにWiFiステーションがあっても、そちらには繋がらないのです(言うまでもなく、iPhoneの方は、WiFiを自動的に検知するようになっていますね)。
  すると、うっかりそれを知らないで、海外に行ってローミングしているなんてことが起きるかも・・・(あとで請求書を見てびっくり?)

  それから、ちょっと盲点かもしれませんが、iPhoneではうまく生かされているアクセレロメーター(ジャイロスコープみたいに方向を検知する機能)が、G1では有効利用されていないのですね(内蔵はされているそうですが)。
  だから、iPhoneを縦横に動かすと、画面が自然と縦長になったり横長になったりするところが、G1は、物理的にパカッとスクリーン画面をスライドしないと横長の画面にならないんです。
  iPhoneの場合は、この機能を使って、ゲームを楽しむこともできますよね。


  けれども、わたしは、この場でG1の悪口を言うためにこれを書いているわけではないのです。なぜなら、G1というグーグルフォーンがどんなものであれ、グーグルさんにとっては、その売れ行きはあんまり関係ないんじゃないかと思うから。

  そりゃあ、グーグルさんにもチャレンジしなければならない課題はありますよ。たとえば、アップルさんのiPhone、iTunes、App Storeのように、ハードウェアとソフトウェアがシームレスに動き、もっとスムーズにサービスを提供するようにならないといけないと思うのです。
  G1にも、アプリケーションやゲームを買えるMarketや、音楽を買えるAmazon MP3はあるけれど、「かゆいところに手が届く」までには到達していませんから。

  しかし、そんな細かい部分はどうであれ、グーグルさんにとっての最大のチャレンジは、ケータイソフトのアンドロイドを出したぞってところにあるのではないでしょうか。だから、オープンソースのソフトウェアでもあることだし、あとはグループ(Open Handset Alliance)のみんなが頑張って良くしてくれればいいやと思ってる部分があるんじゃないでしょうか。

  アップルさんと違って、グーグルさんはケータイで儲けようなどとはまったく考えていないでしょう。第一、アンドロイドはロイヤルティー(ソフト使用料)を取っていないんですから。だから、長い目で見ると、一号機のG1が売れようが売れまいが、グーグルさんにはあまり関係のないことかもしれません。

  きっと彼らにとっては、新しいことを成し遂げること自体が、楽しいチャレンジなのでしょう。たとえば、アンドロイドのように、自分の息のかかった新しいケータイソフトを世に広めて行くこともそうでしょう。現に、HTCに続いて、ケータイメーカー世界第3位のモトローラもアンドロイド採用を表明していますし、もしかすると、広まるのは時間の問題なのかもしれません。
  けれども、もっともっと大きなこと、たとえば、月に探査機を打ち上げるとか、映画『2001年宇宙の旅』に出てきたHALみたいなコンピュータを作り上げるとか、そんなことも彼らにとってはワクワクする楽しいチャレンジのひとつなのでしょう。

  そういうことですので、現時点でG1をうんぬんするのは、あまり意味がないような気もしているのです。


<いったい誰が払うの?>
  さて、お次は、景気のお話です。9月中旬、ウォールストリートを震源地として全世界に広まった金融危機は、困ったことに、庶民の間にも確実に広がりを見せているようです。
  たとえば、比較的経済が安定しているシリコンバレーでも、個人破産をするケースが増えていて、7月から9月の四半期では、前年に比べてほぼ倍のペースとなっているそうです。お陰で、昨年一年間で4千件強だったところが、今年は9月の時点で、すでに5千件を軽く越えているのだとか。
  ざっくり言って、シリコンバレーの人口は2百万人くらいなので、年間数千件の個人破産と言っても、決して無視できる数字ではないでしょう。その多くは、住宅バブルに乗って購入した家の価値が、抱えているローン額を大きく割り込んだことによるもので、貸し渋りをする銀行側ともローンの借り直し交渉がうまく行かず、仕方なく破産となってしまうようです。

  そして、そんな不動産物件はどんどん市場に出回り、ますます値崩れを起こす・・・

  破産とまでは行かなくとも、株式市場の壊滅的な暴落のお陰で資産が大きく目減りし、そのことが人々の心に大きな翳を落としています。すでにリタイア(退職)している人からは「また働かなくっちゃ食べていけない」という不安の声がもれていますし、ティーンエージャーを抱える親たちからは「希望の大学ならどこでも行っていいよと、子供に自信を持って言えない」といった悲観的な声も聞こえています。

  投資の神様であるウォーレン・バフェット氏は、「今は、下がりに下がったアメリカ企業の株が買い時だ。わたしはどんどんアメリカ株に投資する」とおっしゃっているのですが、そうしたくても、庶民にとっては、株を買うお金もありません。

  下手に投資なんかすると、日に日に目減りするので、「ベッドのマットレスに隠した方がいいや」と、ジョークとも本音ともつかないようなヤケッパチの発言を耳にしたりします。(アメリカの場合は、お金の隠し場所はタンスの引き出しじゃないんですね!)


  ジョークと言えば、わたしの大好きな深夜コメディー番組『ジェイ・レノー・ショー(The Tonight's Show with Jay Leno)』では、ホストのジェイ・レノーさんがこんなことを言っていました。
  「あなたがチョンボすると、あなた自身が尻ぬぐいをする。しかし、彼らがチョンボすると、やっぱりあなたが尻ぬぐいをすることになるんだよね。(If you screwed, you pay. If they screwed, you pay.)」

  レノーさんが言う「彼ら」というのは、ウォールストリートの銀行屋さんのことですが、彼らが好き勝手にやって(世界中の)経済をめちゃくちゃにしたのに、彼ら自身ではなく、税金を払ってる庶民がツケを払うことになる、という熱いメッセージなのです。

  連邦議会では、財務長官の音頭取りに乗って、少なくとも7000億ドル(約70兆円)の公的資金の投入を決めたわけですが、この論理は、庶民にとっては、自分たちの血税から銀行屋に対して信じられない額のサラリーやボーナスを払っているとしか映らないのですね。
  たしかに、破綻が決まって、何十億円という「さよならボーナス」をもらった銀行トップはたくさんいて、どうしてそうなるのかと、頭を抱えるしかないのは事実です。

  けれども、わたしにとっては、そもそもいったいどこに金融界に投入するお金があるのかと、疑問視せざるを得ないのです。もちろん、公的資金は必須だとは思いますが、その出所はいったいどこなんでしょう?

  ブッシュ大統領になって、早8年。その間に、アメリカの財政は急激に悪化し、今は、毎年赤字に次ぐ赤字という状態です。
  9月末に終わった2008年度には、史上最悪の財政赤字(budget deficit)となる4550億ドル(約46兆円)を記録しています。これは、イラク戦争を始めたせいで、それまでの赤字記録となった2004年度の4130億ドルを塗り替える結果ともなっています。

  お陰で、国が抱える負債(national debt)はどんどん膨らみ、現在は10兆ドル(約千兆円)という規模。今の時点で、負債の比率はGDPの7割にもなっているのに、新たに7000億ドルの投入を行えば、もっともっと負の財産が増えていく・・・これって、アメリカがどんどん借金地獄にはまっていくってことでしょう。


  この困った状況をジ~ッと睨んで、おもしろい事を言い出した人がいます。「いっそのこと、金持ちがみんなでお金を出し合ったら?」と。

  これは、シリコンバレーの地元紙、サンノゼ・マーキュリー新聞のコラムニストであるマイク・キャシディー氏が書いていたことなのですが、フォーブス誌が発表した「金持ちトップ400」のリストを眺めていて、こんなことを思い付いたそうです。
  この400人全員が自分の資産の半分を出し合ったら、ちょうど公的資金の7000億ドルになるじゃないかと。
  なんでも、400人の総資産は、実に1兆5700億ドル(約157兆円)。だから、みんなが半分ずつ出し合ったら、7000億ドルなんて軽いものでしょうと。(ちなみに、1兆6000億ドル近くなんて額は、クリントン大統領時代のアメリカの国家予算に匹敵するものなのです!!!)

  普段、わたしは、このキャシディー氏の意見には賛同しないことが多いのですが、このときばかりは、「なるほど、妙案だ!」と、膝を打つことになりました。
  だって、このリストの中で一番「貧乏」な人でも、資産は13億ドル(約1300億円)。半分に目減りしたって、6億ドル(約600億円)は手元に残るんですよ。そんな額は、一生かかったって使えやしません。
  まさか墓場に札束を持って行くわけにはいかないし、それだったら、いっそのこと、困っている国民のためにポンと出してあげたらいかがでしょう? そうすれば、自分だって、「人助けをしたぞ」と、いい気分になれるでしょうに。

  残念ながら、そんな奇特な人はほとんどいないとは思いますけれど、自分の資産の8割をビル&メリンダ・ゲイツ財団に投げ出した、ウォーレン・バフェット氏という実例だってあるではありませんか。

  経済構造がここまでゆがんでしまった以上、誰かがまともなことをしないと、どうにもならないところまで追い詰められていると思うのですけれど・・・

 


  というわけで、お次は、間近に迫った大統領選挙のお話をいたしましょう。


<脳と政治>
  世の中には、ざっくり言って、ふたつのタイプの人間がいるのでしょう。ひとつは「かっこいい、クールな」商品を目ざとく見付けて、そちらに釘付けになるタイプ。そして、もうひとつは「かっこ悪い、ダサい」商品を見付け出し、そちらの方にどうしても気を取られるタイプ。
  これは、ファンクショナルMRI(fMRI)を使って人の脳の働きを研究しているカリフォルニア工科大学のグループの研究成果でもあるのですが、脳の無意識の反応によって人間を大別すると、瞬時にかっこいい物を識別し、「ああいうのっていいなあ」と好感を抱くタイプと、逆にかっこ悪い物に反応し、「ああいう風にはなりたくないものだ」と拒絶を示すタイプと、ふた通り存在するということです。

  前者は、「あんなクールな物を持ってると、人にかっこよく見られるよなぁ」と感じるタイプ。そして後者は、「あんなダサい物を持ったら、みんなにかっこ悪いって思われるじゃん」と決め込むタイプ。そう、人間は社会動物であるがゆえに、人にどう見られているのかが頭の隅でいつも気になっている生き物なんですね。

  このような人の分類は、昨今注目を浴びつつある「ニューロマーケティング(Neuromarketing、脳に直接訴えかけるマーケティング)」の研究テーマのひとつでもあるのですが、個人的には、この二種類の人の大別は、政治の世界にも通用するのではないかと思っているのです。
  つまり、世の中には、かっこいいものに強く反応するタイプの候補者と、かっこ悪いものに強く反応するタイプの候補者と、ふた通り存在するのではないかと。

  すなわち、有権者に向かった選挙キャンペーンにおいても、自分の「かっこいい」政策を打ち出し、自らのクールさを訴えるのか、それとも相手の「かっこ悪い」弱点をあげつらい、相手のダサさを攻め立てるのか、候補者がどちらのタイプかによってキャンペーンの仕方がまったく異なってくると思うのです。


  いよいよ11月4日に迫るアメリカの大統領選挙ですが、現在、両候補が採っているアプローチは、きれいに二手に分かれると見ています。
  民主党のバラック・オバマ氏は前者、つまり自分のクールな政策を主に打ち出すタイプ。そして、共和党のジョン・マケイン氏は後者、つまり相手のダサい弱点をあげつらうタイプ。

  たとえば、オバマ氏は、こう訴えます。ここで8年も続いたブッシュ政権のしがらみを打破しよう!そのためには、金持ちを優遇する不公平な税制を改革し、中流階級や低所得層の負担を軽減しようじゃないか。自分にはそれを実現する具体案もあるし、実行力もあるのだと。

  それに対し、マケイン陣営は、「オバマ氏は危険なほどに青二才で、彼じゃ大統領になっても何もできないんだよ」と、否定的に訴えます。
  そして、金融危機の嵐がアメリカ中を襲い、いよいよ経済音痴のマケイン氏が形勢不利になってくると、「オバマという奴は、1960年代にFBIがテロリストの地下組織と認定したグループと深い付き合いがあったのだ」と、テロに対する有権者の恐怖心を扇動する心理作戦に出ます。
  さらに、オバマ氏が経済救済策の理念を説くと、「彼は銀行を国営化しようとしている社会主義者だ」と、アメリカ人の大嫌いな「社会主義」という言葉を巧みに駆使するのです。

  今では、マケイン支持者の間では、オバマ氏に対する「危険人物」「テロリスト」「アラブ人(イスラム教徒を示唆する言葉)」「社会主義者」「共産主義者」といったレッテルが独り歩きしています。

  よくもまあ、恥ずかし気もなくウソを並べ立てるものだと、こちらは不快感を通り越して感心すらしてしまうわけですが、アメリカという国は、とにかくでっかい不思議な国でして、ひと口で「こうだ!」とはステレオタイプ化などできないのですね。だから、有権者も実にいろいろ。
  たとえば、アメリカの各種研究機関は、ノーベル賞を受賞するような優れた研究者を育む素地を持ち、そこには天才ともいえるような卓越した人材が集ってきます。わたしの知り合いの男の子などは、たった14歳でコミュニティーカレッジを卒業し、コンピュータを人間の脳に近づける研究をしているグループに招かれ、この秋、カリフォルニア大学バークレー校の3年生に編入しています。
  その一方で、一桁の足し算や引き算も危うい人や、「地球は5千年前に神によって7日間で造られた」と、本気で信じている人もたくさんいるのです(共和党副大統領候補のサラ・ペイリン氏などは、このクチですね)。
  そして、後者のタイプの人たちは、自分の脳細胞で独立独歩に物を考えようとしないから、選挙キャンペーンの扇動にコロッと乗せられてしまう・・・


  けれども、そんな悪口作戦は、もう風前の灯(ともしび)かもしれません。現時点での世論調査からいくと、前回2004年の大統領選挙で共和党のブッシュ大統領に傾いた州でも、今回は民主党のオバマ氏支持に翻(ひるがえ)りそうな州はたくさんあるようです。

  そういった寝返り現象は、そのまま、今回の選挙に対する有権者の関心の高さを表しているのでしょう。今までは、ともすると、若い人や有色人種、そして社会の底辺にいるような人たちは、投票する関心や機会がないケースが多かったのです。けれども、そんな風に投票に縁のなかった人たちも、今回ばかりは有権者の登録(voter registration)を済ませ、実際に投票する意気込みでいるようです。

  カリフォルニア州のような大きな州でも、実際の投票率(turnout)は、登録者の85%まで伸びるのではないかと期待されています。(写真は、シリコンバレーのあるサンタクララ郡の広告で、有権者に投票を促すもの。)

  そう、昔は、投票率は高かったんですね。カリフォルニア州では、1952年から1976年の間に行われた7回の大統領選挙では、すべて8割を超えていたそうです。
  ちょうどその頃は、アメリカ自体が大きな変革を遂げている時代でした。第二次世界大戦後のソビエト連邦との冷戦、ひと筋の明かりだったケネディー大統領の暗殺、黒人の権利と平等を訴える公民権運動の激化とキング牧師の暗殺、そして、ヴェトナム戦争。まさに荒海とも言えるような世相だったのでしょう。だから、多くの有権者が、投票して世を変えたいと望んでいた。

  そして、今回も、荒海の真っただ中なのかもしれません。そう、金融危機と社会・経済構造に対する信用失墜の荒波。
  そんな世相を反映して、国中の投票率はグンと伸びるのでしょうが、伸びた分のほとんどは、民主党のオバマ氏に流れることでしょう。「ストレート・トーク(まっすぐに物を言うこと)」で知られるマケイン氏が悪口作戦に出るなんて、幻滅を感じる国民も多いでしょうから。

  思えば、今のブッシュ大統領という人は、歴代の大統領の中でも最も悪運の強いお方なのでしょう。2005年8月にルイジアナ州を襲ったハリケーン・カトリーナが、もしもその前年に起きていたのならば、2004年の大統領選挙では彼が再選されることはなかったでしょう。
  しかし、あの大惨事とそれに続く政権の大失態は、ブッシュ大統領の二期目が始まった後に起こった。これはまさに、神の悪戯(いたずら)としか言いようのないタイミングでした。

 けれども、今回は、金融危機という未曾有の大混乱が全世界を襲い、経済構造の根本的な建て直しが迫られている。そんな中では、庶民の味方とのイメージが強い民主党が中心となって政治を進めることが望まれているし、経済政策にも明るいオバマ氏が大統領候補としての名声を高める結果ともなっています。
  しかも、皮肉なことに、8年間に渡るブッシュ大統領の悪政が、オバマ氏の大きな追い風ともなっているようです。

 
  今回ばかりは、勝利の女神はオバマ氏ににっこりと微笑んでいるのでしょう。


夏来 潤(なつき じゅん)

 

 

 

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