アンドロイド戦争: にわかに勃発!

2009年11月30日

Vol. 124

アンドロイド戦争: にわかに勃発!


 つい先日、救急病院にお世話になってきました。新型インフルエンザではないとは思いますが、まわりには具合の悪い人たちがウヨウヨいて、何かの悪いバイキンをいただいてしまったようです。

 さて、そんな異常事態の11月には、「アンドロイド戦争」も勃発いたしました。まずは、そちらのお話から始めましょう。
 そして、第2話は、ちょっと長めではありますが、スマートフォンの進化論のお話となっております。


<アンドロイドの逆襲>
 ご説明するまでもなく、アンドロイド(Android)というのは、グーグルさんの新しめのスマートフォンOS(賢いケータイの基本ソフト)のことですが、ここに来て、次々とアンドロイド搭載機が姿を現し、市場は戦国時代の合戦の場になりつつあるのです。
 

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 前々回の9月号でもお知らせしていますが、昨年10月、米携帯キャリアT-Mobile USAが発売した「G1(ジーワン)」(台湾メーカーHTC製)が、記念すべきアンドロイド第一号機でした。
 その後、今年8月には、同じくT-MobileとHTCの組み合わせで、アンドロイド1.5搭載の「myTouch 3G(マイタッチ3G)」が登場しています(アメリカ以外の市場では「Magic(マジック)」という名称)。
 それを追うように、今年10月には、T-Mobileの商売敵であるSprint Nextelが、同じくHTC製の「Hero(ヒーロー)」を市場に投入しています。

 残念ながら、「G1」と「myTouch 3G」は、爆発的なヒット作には至っていないと言っても語弊はないでしょう。「G1」はアメリカ市場で100万台、「myTouch 3G」は世界市場で100万台の販売台数を超えていますが、半年かかって徐々に台数を伸ばした感があります。
 ひとつに、T-Mobileは、米携帯キャリアとしては、規模やサービス範囲の点で二流だという要因があるのでしょう。ユーザベースが小さいので、みんながエイッと飛びつく勢い(話題性)が生まれないというか。
 それに、いくらグーグルさんの新OSが搭載されているからって、出始めの初代アンドロイドには、使い勝手の面で「いまいち」なところもありましたしね(そう、どことなく試作機的な香りが・・・)。
 ですから、それこそ多くのユーザがこう思ったわけです。「わたしにはアップルさまのiPhone(アイフォーン)があるわ」と。

 ところが、グーグルさんだって、そのままで終わるわけがありません。「一回目がダメなら、次があるさ」と、黙々とバージョンアップに取り組み、現在はアンドロイド2.0まで成長しています。
 アンドロイドはスマートフォンOSである以上、メール、アドレス帳、スケジュール管理などのビジネス機能の使い勝手も大事ではありますが、やはりゲームやネット、ビデオやカメラなどの娯楽性を充実するとなると、スピードを速くしたり、解像度を良くしたりと、改善すべき点はあまたあるのです。
 まあ、厳密には、アンドロイドはオープンソース(ソースコードが公開されている)OSなので、外部の方々からも自由な発想を次々と取り入れてやっていらっしゃるようですが、その辺の取りまとめが実にお上手なのも、グーグルさんならではといったところでしょう。だって、社外からグーグルファンのプログラマーたちを招いて、自分たちのキャンパスでブレーンストーミングのキャンプを催し、常に新鮮な風を吹き込もうという努力を惜しまない文化がありますから。
 「何でも自分たちで作ろうなんて、今どきそんなの古い、古い!」

 そんなこんなで、成長を重ねるアンドロイドOSと手を組むハードウェアメーカーも増えておりまして、アメリカの大手携帯端末メーカー・モトローラ(Motorola)が本腰を入れて開発に乗り出した頃から、アンドロイドに対する世の中の視線もガラリと変わってきたのです。
 なにせ、モトローラといえば、ちょっと前まで「RAZR(レイザー)」という薄型のコンパクトなケータイで一世を風靡したメーカーではありませんか。やはり、そのネームバリューは消え去ってはいないのです。
 

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 そして、いよいよモトローラは、今年10月14日、T-Mobileから「Cliq(クリック)」というアンドロイド機を発表するに至るのです。(「Cliq」はアンドロイド1.5搭載機で、実際の発売は11月2日から。アメリカ以外の市場では、「DEXT(デクスト)」というネーミングになります。)
 9月号でもお知らせしていますが、外観は、同じくT-Mobileが販売するアンドロイド一号機のHTC「G1」によく似ていて、タッチ画面がパカッとスライドして、キーボードが出てくる仕掛けになっています。(7年前にDanger社開発のSidekickを発売して以来、T-Mobileは、このスタイルがいたくお好みのようです。)
 けれども、初代「G1」に比べて、一年間の進化の過程を経ているだけのことはありまして、こちらには「Motoblur(モトブラー)」という名のモトローラ一押しの新機能が載っています。新しいメールやメッセージが舞い込んだら、逐一知らせてくれるし、ソーシャルネットワーキングサイトや「つぶやきサイト」のトゥイッター(Twitter)に新しい書き込みがあれば、やはり瞬時に把握できる。そんな人とのコミュニケーションを大切にする、若いユーザ層向けの機能です。
 T-Mobileがおもにティーンや20代の獲得に力を注いでいることを考えると、このモトローラ「Cliq」の発売は、キャリアの路線にぴったりと合っているのでしょう。
 

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 モトローラが手がけたのは、「Cliq」だけではありません。いよいよ携帯キャリアの大御所Verizon Wirelessが、モトローラ製「Droid(ドロイド)」を発売しました。
 こちらは、「Sholes(ショールズ)」という開発名で知られていたアンドロイド2.0搭載機ですが(9月号でも「Sholes」とご紹介)、11月6日、鳴り物入りでVerizonから登場したときには、新しい名称に変身しておりました。
 いうまでもなく、「Droid」とは、映画『スターウォーズ』に出てくるロボットたちのことでして、R2-D2とかC-3POとか、賢いロボットたちにあやかりたいという名前なのでしょうか。「ドロイド」という言葉は、制作会社ルーカスフィルムのトレードマークとして登録されているので、Verizonはこの名前を借りるだけで、使用料をたくさん払っているようです。

 いえ、最初「Droid」には、いやな印象しかなかったんですよ。なぜって、発売翌日の土曜日にふらっと近所のVerizonショップに行ってみると、いきなりデモ機が壊れているんです。なんでも、2日間、みんなが好きなだけ触ったので、充電器が壊れてパワーが入れられなくなったとか。でも、たった2日ですよ!
 しかも、指紋で薄汚れたデモ機を手に取ってみると、まるでモックアップ(店頭用の筐体だけのデモ機)みたいにペラペラした印象だし、薄くてすぐに壊れそうだし、とても売れるような代物には見えなかったのでした。
 

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 けれども、動く実物は違います。べつにモトローラの肩を持つわけではありませんが、なぜだか、手に取ると、ずしりとした重厚感があるし、薄さも、壊れそうな印象というよりも、ちょうどいい薄さでクールな感じなのです。
 ついでに、クールといえば、新しいメールが到着したりすると、ロボットのような声で「Droid!」と知らせてくれることでしょうか。それに、画面の下にある「ホーム」や「メニュー」ボタンを押すと、ビリッとした感触があって、なんとなくかっこいいのです。(トゥイッターのアプリケーションを入れると、誰かが書き込みをするたびに、パタパタと羽音がするのですが、こちらはあんまりクールじゃないですね。)
 

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 アップルさまのiPhoneと比べてみると、ほんのちょっと長くて厚い感じですが、大きさはほぼ同じです。画面は、「Droid」の方が少々縦長ですが、サイズとしては同等です。そして、「ずしりとした重厚感がある」と感じたことだけのことはあって、「Droid」の方が若干重いです。なにせ、こちらには、画面をスライドするとキーボードが付いていますからね。
 それから、解像度は「Droid」の方がよろしいので、地図の検索やビデオ鑑賞にも十分に耐えられるでしょう。カメラは5メガピクセルで、iPhone(「3GS」で3メガピクセル)を超えています。それに、物理的なキーボードが付いてこれだけ薄くまとめてあるというのは、なかなか良くできたものだとも思うのです。

 機能的には、今までのアンドロイド機よりもユーザインターフェースが改良されていて、たとえば会社のメールの設定なども簡単にできるようになっています。複数のアプリケーションを同時に走らせるという、iPhoneにはできない技も持っています。ウェブアクセスも驚くほど速いですし、全体的に使い勝手はグンと向上しています。

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 使い勝手といえば、「Droid」の売りは音声検索(search by voice)にもあるのですが、たとえばグーグルの検索ページでは声で検索項目を入れることもできるのです。英語の発音があまり上手でない人の単語だってちゃんと認識していたので、今の音声認識の技術とはすごいものだと感心してしまいました。
 この音声検索は、いろんなシチュエーションで便利なようでして、たとえば「イタリアンレストラン」と声で検索すれば、近くにあるイタリアンレストランを地図上でさっと示してくれるのです。当然のことながらGPS機能が付いていますので、現在位置はかなりの正確さで把握しているのです。(韓国では、このようなロケーションベースのサービス認可を取るのが遅れて、iPhoneの発売が今月まで延びていたようですね。)
 

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 このGPS機能を生かした目玉アプリケーションには、リアルタイムのルートナビゲーションがあります。トップ画面のGoogle Mapsに「ナビゲーション(Navigation)」というメニューがあって、ここで目的地を入力すると、現在地から目的地まで声でルート案内をしてくれるのです。
 このルートナビゲーション(turn-by-turn navigation)は、もちろん他機種でも画面で見ることはできますが、「Droid」は音声で細やかに案内してくれるところが、アメリカ市場での画期的な機能となっているのです。(日本では、もう何年も前から可能なことでしょうけれど。)
 

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 ところで、「Droid」を裏側から見ると、まるで超薄型デジカメみたいな感じがするのですが、やはりドロイド(ロボット)というだけのことはあって、「この機械はいったい何をしてくれるのだろう?」と、期待感とともに、謎めいた印象もあるのです。
 まあ、「謎めいた印象」の中には、あまりに賢くて使いこなすまでに苦労するという含みもあるわけですが、そんな「Droid」をひとことで表現すると「なかなかいいんじゃない?」といったところでしょうか。

 というわけで、この「なかなかいいDroid」の登場で、アンドロイドOSは成功するのでしょうか?
 その鍵を握る要因のひとつが、アプリケーションでしょう。一説によると、アンドロイドの各種アプリケーションは、その数1万2千にも膨れ上がっているそうですが、10万とも言われるiPhoneのアプリケーションには、まだまだ遠く及びません。けれども、近頃の注目度を考えると、アンドロイドファンの開発者が増えるのは、時間の問題かもしれません。
 そして、もうひとつの要因は、ハードウェア。魅力的な端末がなければ、OSとして伸びてはいきません。しかも、大前提は2年契約で200ドル近辺という値段。最初の一週間で25万台売れたという「Droid」は、十分にヒット作となる素地はありますが、これ一機でポシャるわけにはいかないのです。
 現在、端末メーカー各社が新作にしのぎを削っているようですが、「Droid」を超える後続に期待したいところです。

 調査会社Gartnerは、5年のうちに、アンドロイドはスマートフォンOSの2割のシェアを獲得すると予測していますが、この予測が当たるも当たらぬも、それはひとえにアンドロイドのエコシステム(生態系)としての成長にかかっているのです。

 
<スマートフォン進化論>
 モトローラの最新のアンドロイド機「Droid」は、今、モバイル市場で一番注目を集める、スマートフォン分野の新星となりますね。2年前、アップルさまがiPhoneを発売して以来、モバイル文化では立ち後れたアメリカでも、スマートフォンという言葉は猫も杓子も語るようになっています。
 

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 そういえば、あのときはびっくりしましたね。2007年6月29日、初代iPhoneが世にデビューしたとき。
 何がびっくりって、アップルショップでiPhoneを買って来たのはいいものの、いったいどうやって初期設定するのか謎のままではありませんか。これを提供キャリアのAT&T Mobilityショップに持って行くのかと、いろんなことを考えたものの、結局、iPhoneをパソコンに繋げて、パソコンに最新のiTunes(アイチューン)をダウンロードして、そこからすべてがオンラインで登録されるシステムになっていたわけですものね。もちろん、AT&Tの処理が済んで、お知らせメールが送られてくるまでは、自分の電話番号だってわからなかったのです。
 携帯電話のくせに、パソコンに繋げなければ使うことができない、そんな不思議な機械でした。

 この初代iPhoneの初期設定が体現するように、多くのアメリカ人にとって、パソコンとかマックといったコンピュータは子供の頃から慣れ親しんだものでして、それを小さくしたものが、PDA(Personal Digital Assistance)と呼ばれる携帯情報端末でした。

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 今となっては、PDAと言われても「それって何?」と首をかしげる若い方も多いわけですが、要するに、パソコンに入れていた情報(スケジュール、顧客の住所録、売り上げ計算、プレゼンテーション資料など)を持ち歩きたい欲求から、パソコンの小型化が試みられ、次々とPDAの新機種が生まれました。かの有名なパーム(Palm)・パイロットやシャープ・ザウルスを始めとする、華々しい「PDA文化」の到来です。
 すると、やっぱりPDAにも通信が必要でしょうという話になって、PDAに電話機能を付け始めたわけですが、ここに二つの流れがあって、PDAに電話をプラスする陣営と、携帯電話にPDA機能を付加する陣営に分かれました。

 まあ、世の中の趨勢(すうせい)は、「何でも速く、小さく、より高性能に」ですから、結局のところ「小型化」という点では、どちらの陣営も勝ち目はあったわけです。

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 ところが、北米市場においては、勝者はひょんな所から登場するのです。両陣営が必ずしも重要視していなかった「メール」の分野から、勝者が現れたのです。そう、ご察しの通り、ブラックベリー(BlackBerry) 端末で有名な、カナダのリサーチ・イン・モーション(Research In Motion)です。もともとは、双方向通信のポケベルを作っていた会社です。
 日本では馴染みは薄いものの、ブラックベリー端末といえば、アメリカのビジネス界や政界の誰もが愛用しているようなメール端末です。個人的なメールではなく、大事な仕事のメールを四六時中やり取りするのに重宝されました。やはり、アメリカはメール文化ですから、オフィスを離れてメールができないと、みなさんパニックに落ち入るのです(写真は、今のような縦型のブラックベリー端末としては初代機)。
 そのうちに自然の流れとして電話機能も付加されたこともあって、しっかりとキーボードの付いたブラックベリー機は、ある種のスマートフォンとして、不動の地位を築くのです。
 

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 もちろん、いくら北米市場でメール端末が重宝されていたからって、市場がブラックベリーに独占されていたわけではありません。たとえば、マイクロソフトだって、Windows Mobile(ウィンドウズ・モバイル)というスマートフォンOSを作り、日本の端末メーカー各社や台湾のHTC、韓国のサムスン、アメリカのHPと、さまざまなハードウェアメーカーをリクルートしておりました。
 こちらの写真はほんの一例ですが、左側は中国・上海のWindows Mobileメーカー、Dopod(ドゥーポッド)のモデル818。のちにDopodは、HTCに吸収合併されています。
 そして、右側はパーム初のWindows Mobile搭載機、Treo 700wです。パームは、今年6月6日、社運を懸けた新製品「Pre(プリー)」を市場に投入しておりますので、これからはWindows Mobile路線は捨て去り、自社開発のwebOSに全精力をつぎ込むようです。
 

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 そして、北米市場では伸び悩んではおりますが、やはり世界市場でのスマートフォンOSの王様といえば、Symbian(シンビアン)。現時点では、世界のスマートフォンOSの約50パーセントを占めています。
 代表的なメーカーとしては、世界最大の携帯端末メーカーであるフィンランドのノキアがありますが、こちらはS60というフレーバーのSymbian搭載機となっています。
 左から、コンパクトな702NK IIとN95、ビジネスユーザ向けのE71とE61です。N95(日本名X02NK)以外は日本仕様モデルですが、E71は日本市場では未発表に終わりましたので、幻の機種でしょうか。

 話はちょっと脱線しますけれど、欧米のモバイル市場が混沌とした状態の頃、日本にはすでに「iモード」という画期的なサービスがありましたので、国外のスマートフォンの進化とは無関係な市場ができあがっていたわけですね。
 このiモードサービスが始まった1999年2月というと、アメリカはいまだケータイ黎明期にあったわけですが、日本では、瞬く間にケータイユーザの全員にメールやコンテンツというおしゃれな機能が浸透してしまいました。
 サービス開始の直前、わたしもNTTドコモに夏野剛氏を訪ねたことがありましたが、シリコンバレーのネットワーク製品を売り込みに行ったこちら側は、夏野氏が披露するiモード構想の壮大さに、口をあんぐりと開けて戻って来ました。「やっぱり、日本はスゴい!」と。

 今となっては、日本で「メール」というと、ケータイメールを指す場合が多いわけですが、そこまで成功したiモードサービスがどうして海外では受け入れられなかったかというと、それはひとえに海外の携帯キャリアの事情によるのです。
 海外のキャリアは、すでにSMS(ショートメッセージサービス、別名テキストメッセージ)から莫大な利益を得るビジネス構造になっていて、もしiモードのメールが主流になったら、自分たちの金庫が干上がってしまうので、メール機能には本格的に着手したくなかった。
 まあ、メールのないiモードなんて骨抜きもいいところですので、欧州を中心に海外で展開した国際iモードサービスも風前の灯となってしまいました。
 そんなこんなで、iモードのような至れり尽くせりのサービスが浸透しなかった海外では、データサービスに加入するユーザも伸び悩み、ケータイ文化そのものが停滞した背景があるのです。

 すっかり話がそれてしまいましたが、北米市場の元祖スマートフォンメーカーであるリサーチ・イン・モーションの大成功を横目でにらんでいたのが、他でもない、シリコンバレーのアップルさまです。アップルさまには、iPod(アイポッド)という携帯音楽プレーヤーの貴重な経験もあり、スマートフォンだってその延長線上にとらえていました。
 それに、すでにアップルさまには、iTunesという音楽やビデオを売るマーケットがありました。これをスマートフォンのアプリケーションの紹介の場とすれば、誰もが無理なく、欲しいものを売り買いできる交換の輪ができ上がります。

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 そして、ご説明するまでもなく、2年前、満を持して登場したiPhoneは、世の中の携帯電話に対する考えをガラリと変えてしまいました。電話というよりも、何かをするプラットフォーム、そういったスマートフォンのパラダイムができあがったのです。(写真は、初代iPhoneの発売当日、パロアルトのアップルショップにて一番乗りでiPhoneをゲットした男の子。)

 現在、このスマートフォン分野では、アップルさまの「iPhone 3GS」を始めとして、リサーチ・イン・モーションの人気モデル「Curve(カーヴ)」やタッチスクリーン方式の「Storm(ストーム)」「Storm 2」、そして、久方ぶりのパームの新製品「Pre(プリー)」や弟分の「Pixi(ピクシー)」と、きらびやかな機種で賑々しくなっています。

 そこに登場したのが、アンドロイド搭載機。第一話でもご紹介したように、HTC製の「G1」「myTouch 3G」「Hero」に引き続き、いよいよ大御所モトローラが「Cliq(クリック)」と「Droid(ドロイド)」を発表しています。
 そして、「Droid」を引っさげ、アンドロイド界に突入した米キャリア最大手のVerizon Wirelessは、商売敵であるAT&T Mobility (iPhoneの独占提供キャリア)に宣戦布告しています。どうだ、iPhoneのできないことを俺たちはできるんだぞと。
 

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 いえ、まさに宣戦布告という言葉が適切に感じるくらいのVerizonの挑みようなのです。
 たとえば、「Droid」発売直前の新聞広告。ちょうど発売一週間前に掲載された一面広告ですが、こんなことを書いてあります。
 「iDon’t customize. iDon’t have interchangeable batteries. iDon’t run simultaneous apps. iDon’t allow open development. / Everything iDon’t, DROID DOES 11.06.09」
(僕はカスタマイズできない。僕は電池の交換ができない。僕は同時に複数のアプリケーションを走らせられない。僕はオープンな開発を認めていない。/僕ができないすべてのことを、ドロイドはできる。2009年11月6日に乞うご期待)

 いうまでもなく、iDon’tというのはiPhoneをもじったパロディーではありますが、この広告文には「打倒 iPhone!」という意志が強く表れているではありませんか。

 そして、実際に「Droid」がお目見えすると、宣伝攻勢はさらに激化するのです。テレビのコマーシャルは、まるでサイエンスフィクション映画のような懲りようだし、そんな派手なコマーシャルも時とともに変化し、「Droid」の名が知れ渡った今は、もっぱら目新しい機能の紹介に向けられるという、念の入れようです。
 iPhoneのコマーシャルもそうですが、やはり端末が高機能になればなるほど、メディアで宣伝してくれないと見つけられないような便利な機能も出てきますから、宣伝のシナリオも長い目で描かなければなりません。そして、懐が暖かいVerizonには、そんなことは朝飯前なのです。

 そんなこんなで、いよいよ火ぶたが切られたアンドロイド戦争。iPhoneをかつぐAT&T 対 Verizon、Sprint、T-Mobileのアンドロイド陣営の戦い。

 何年か経ってみると、世のスマートフォンはこの2つのプラットフォームに集約されているのでしょうか?


夏来 潤(なつき じゅん)
 

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