やっぱり暑い!: 日本の夏とシリコンバレーの新スタジアム

2014年8月23日

Vol. 181

やっぱり暑い!: 日本の夏とシリコンバレーの新スタジアム


 今月は、日本でのお話から始めましょう。お次は、シリコンバレーの新スタジアムの登場です。


<日本の夏は大敵です!>

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 7月下旬、成田空港に着くとムッとする湿気に驚きましたが、その翌日はいきなり「今シーズン初の猛暑日」となり、湿気と猛暑の洗礼を受けました。

 「干ばつ」3年目のカリフォルニアは、ときに湿度が15パーセントになることもありますが、そんな乾燥の地からやって来ると、日本の湿気と猛暑は体にこたえるらしく、知らないうちに体調を崩してしまいました。

 「虫さされ」だと思った背中の発疹が治らないので病院に行ってみると、疱疹(ほうしん)じゃないかという診断で、何かと病院のお世話になることの多いわたしも、これはちょっとした変化球だ! と恐れ入ったのでした。
 なぜなら、疱疹というのは、疲れやストレスが原因で体内に潜むウイルスが悪さをするものだそうですから。

 普段、ストレスとは無縁のわたしも疲れは感じやすいタチではありますが、この「脱力感」とも言える疲労は初めて経験したもので、やはり日本の真夏は対処が難しいことを、身をもって証明することになったのでした。

 それで、この新手の診断とともに、もうひとつ面白いことがあったのですが、それは東京での病院探し。
 日本では保険が無いので、病院では実費を支払い、アメリカに戻って清算することになるのですが、まあ、この「実費」というのが千差万別であることがわかったのでした。
 

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 過去10年近く、東京では六本木のホテルに滞在していましたが、今年から連れ合いが定宿を変更することになり、汐留(しおどめ)のホテルに滞在しました。
 汐留と言えば、住所は東新橋(ひがししんばし)。新橋と言えば、昔は新橋〜横浜間の「鉄道発祥の地」、今はサラリーマンが仕事帰りに一杯やるような「サラリーマンの街」。
 そして、すぐ隣には「お買い物の街」銀座もあります。

 アメリカに診断書を出す都合で、英語の診断書を書いてくれる病院をホテルに探してもらったのですが、新橋・銀座地区でひっかかったのが、東銀座の歌舞伎座タワーにある病院。かの有名な新生・歌舞伎座の真後ろに建つタワーで、歌舞伎の博物館『歌舞伎座ギャラリー』や会社のオフィスが入る真新しいビルです。

 皮膚科で診療してもらったせいで、待ち時間もほとんどなく、診療後ほんの20分ほどで英語の診断書も手に入れたのですが、実費を支払う段になって驚いたのでした。「万単位」の出費を覚悟していたのに、5,400円の診断書の方が高かったので!

 いえ、どうして万単位を覚悟していたかって、連れ合いが六本木のクリニックの耳鼻科にかかったら、耳を掃除した程度で2万円以上の実費を請求されたことがあったからでした。
 ふ〜ん、だとすると、病院の実費も、まさに千差万別。六本木も汐留も同じ「港区」ではありますが、きっとオシャレで外国人の多い六本木には、「六本木プライス」とも言える特別な値付けがあるんでしょう。

 この先、体調を崩す外国人宿泊者をおもんばかって、実費の違いについては、ホテルの方にも報告しておきました。
 日本各地で「陽子線がん治療」など外国人患者向けの医療ツーリズムが盛り上がる昨今、よほどの難病でない限り、どの病院も治療の上では大差は無いでしょうから。
 

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 というわけで、背中の炎症を抑えるために抗生物質と塗り薬を処方してもらいましたが、日本の小さな抗生物質は3日間飲み続けても副作用も無く、平和な気分で日に日に症状は回復していきました。
 そう、アメリカの抗生物質は日本の3倍はあるかと思われるでっかいカプセルで、副作用も大きいんです! いつか開腹手術の直後にべつの病気を併発して、一週間の抗生物質を飲み続けるのが非常に辛かった思い出があります。

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 このとき、CTスキャンの造影剤(450ml入り2本)もプラスティック容器臭くて飲み干せなかったのですが、あとで放射線技師いわく「こういうのって、300ポンド(約150キロ)の巨漢にも効くようにできてるんだよね。だから、あなたみたいに小さい人は、飲み干す必要なんかないんだよ。ちゃんと映っているからさ」と。

 ふん、だったら、体の小さなアジア系住民のために、小さな服用量(dosage)を準備すべきじゃないでしょうか?

 サンノゼ市なんて、3分の1はアジア系住民ですから、この辺りから医療改革を推進すべきだと思うのですが・・・。


<シリコンバレーの新名所、Levi’s Stadium>

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 実は、日本の一番暑いときに帰国したのは、ひとえに8月10日の東京湾花火大会を見物したかったからでした。
 ご存じのように、この晩東京に到達した台風11号のおかげで、午前中には早々と「中止」の決定が下りましたが、途中まで湾内に組まれていた足場が、朝ご飯が終わると撤去されているのを見て、「疱疹が舞い戻るんじゃないか?」と案ずるくらいに落胆したのでした。

 やはり、花火と言えば、日本のものが一番美しいという印象を持っていますが、花火にも匹敵する華やかな「イベント」が、シリコンバレーに登場しています!

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 アメリカンフットボール・サンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)の新スタジアム、Levi’s Stadium(リーヴァイス・スタジアム)です。

 これまでサンフランシスコ市内のキャンドルスティック・パークが49ersのホームグラウンドでしたが、老朽化のため今シーズンはシリコンバレー・サンタクララ市にお引っ越し。
 しかも、13億ドル(約1,300億円)をかけた豪勢な新居ですから、このスタジアム自体が「イベント」とも言えるくらいに、話題沸騰となっているのです。

 こけら落としは、8月2日に開催された地元サッカーチーム、サンノゼ・アースクエイクスとシアトル・サウンダーズの試合。そして、いよいよフットボールの本番は、8月17日のプレシーズン第2週目、デンヴァー・ブロンコス戦でした。
 

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 晴れ渡った日曜日、スタジアムに向かう人々の心も晴れ渡ります。試合開始は午後1時ですが、午前9時には駐車場が開き、正午近くともなると、あちらこちらで「テイルゲートパーティー(tailgate party)」が佳境です。
 そう、車の「テイルゲート(後部ドア)」を開け放ち、バーベキューなんかで盛り上がる試合前の恒例イベントですね。フットボールに限らず、野球場のパーキングでもよく見かけます。

 けれども、こちらはテイルゲートをするよりも、早く中に入りたいので、すぐにセキュリティゲートをくぐり、「チケットもぎり」に向かいます。

 いえ、いまどき「もぎり」なんてやりませんよ! だって、ここはシリコンバレーですから。

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 実は、今シーズン49ersが誇るのが、白亜の新居とともにスタジアム全体のテクノロジー。
 たとえば、シーズンチケットを購入した人には紙のチケットが送られますが、何かの手違いで届かなくても心配ご無用。スタジアムのモバイルアプリ(写真)をダウンロードすれば、チケットも駐車場の入場パスもバーコード付きのスマートフォン画面で代用できるようになっています。
 実際、「チケットが届かないよ」というクレームに対して、49ersのオフィス担当者が「NFL(フットボールリーグ)で一番進んだシステムなので大丈夫!」と自慢話を展開するのを小耳にはさみました。

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 ところが、試合当日の朝、何かしらシステムに問題が起きたようで、モバイルアプリの自分のチケット情報にリンクできないという混乱が生じます。
 が、すぐに問題は解決したようで、スタジアムの駐車場でもバーコートをピッ、ゲートでもピッと、スムーズに通過できました(と言いたいところですが、ゲートのチケット読取り機(写真)がちょっと気分屋で、手慣れた担当者がスマートフォンをかざさないと、なかなかデータを読み込んでくれませんでした)
 

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 ひとたびゲートの中に入り、巨大なスタジアムを見上げると、真っ白な骨組みはキラキラと輝いて見えます。いやぁ、階段を上っていくアプローチがオシャレだし、ゆったりとした観客席は観戦しやすそう!
 柔らかい真っ赤な座席の背もたれには、49ersのロゴが刻まれ、味方の好プレーを逃さないようにと、両脇には巨大なテレビスクリーンが設置されています。

 そう、座っているだけで、ワクワクするような雰囲気。
 

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 そして、スタジアムと言えば、「観る」と同じくらい大事なのが「食べる」こと。ですから、新スタジアムには「バーガー」や「チキン」と食べ物のスタンドがたくさんあって、中には「カレー」や「点心(Steamed buns)」のスタンドもありましたね(さすがにアジア系の多いシリコンバレーのスタジアムです)。

 この「食べる」に関してもアプリ機能があって、事前にスマートフォンで注文しておくと、フードスタンドでピックアップできるというサービスもあります。ピックアップには専用の「エキスプレス」窓口が使われるので、長い行列もなんのその!
 さらに、5ドルの配達料で「座席まで運びましょう」というサービスもあります。が、こちらはあまりにも人気が高くて、試合が始まってみると「今は受け付けていません」というメッセージが返ってきました。

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 そして、ピックアップ方式にも問題があって、スタジアムで待ち合わせた友人が昼ご飯をご馳走しようと「注文アプリ」をトライしたら、Wi-Fi(無線LAN)がつながらずに、スタンドで注文することに。ほんの10分前は大丈夫だったのに、12時を過ぎると「魔の時間帯」?
 なんでも、スタジアムのWi-Fiは、一度に2万台の端末をサポートするそうですが、68,000人の観客には足りないのでしょう。
 運良くWi-Fiにつながっても、座席から一番遠いスタンドをピックアップに指定された観客もいましたが、お隣さんは、ビール一杯を買うのに一時間も並んだそうなので、それを思えばマシかもしれません。

 一方、肝心の試合はどうかと言うと、「う〜ん」とうなりたい気持ちでしょうか。

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 まあ、プレシーズン2週目ですので、注目の49ersクウォーターバック、コリン・キャパニック選手(写真の7番)など、スタメンは最初のうちしか出場しません。それに、後半は控えの選手の「品定め」になりますから、試合としては面白くはないです。
 が、49ersのキッカーがフィールドゴールのチャンスを2回ともミスったことと、相手のブロンコスのパスがスムーズに通るくらいにディフェンスがもろかったことが、非常に気がかりな初ホームゲームではありました。
 あの「クール」なジョー・モンタナが49ersを初優勝に導いた1981年のシーズン以来、ディフェンスだけは常に強かったのに・・・。
 

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 結局、この日49ersは1点も入れられずに34対0で負けたのですが、相手方の名クウォーターバック、ペイトン・マニング選手(写真中央の18番)は、試合後のインタビューでこう答えています。
「いやぁ、フィールドは見通しが良くて、クウォーターバックにとっては、最高のスタジアムだねぇ」

 う〜ん、敵方に褒められてどうするの? と若干の幻滅を覚えるのですが、新スタジアムは、「暑さ」という深刻な問題も抱えているのです。

 外見は白いスケレトン(骨組み)みたいな構造のわりに、太陽熱を逃がさないようにできているようで、華氏80度(摂氏27度)の気温でも、観客はオーブンで焼かれているような熱を感じます。

 ひとつに風通しが悪いことが要因と思われますが、これは、サンフランシスコ・ベイエリアのスポーツチームが経験したことのない課題です。なぜなら、キャンドルスティックもオークランド・コロシアムも野球のAT&Tパークも、真夏でもジャケットが必要なくらいに霧で冷える場所にあるから。

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 ところが、シリコンバレーは、名前の通り「サンタクララの谷間」にある盆地で、太陽熱や光化学スモッグを閉じ込めやすい地形です。ですから、試合が単調なことも手伝って、初ホームゲームでウキウキしていた観客も、第3クウォーターには、ほとんどが家路に向かいました。

 スタジアムには、文字通り「風穴を開ける」必要があるようですが、具体的な方策は発表されていません。

 そして、3日後のスタジアム公開練習では、フィールドの芝(sodturf)にも問題があることが発覚!

 どうやら4月に張った芝の根付きが悪く、初ホームゲームでもディヴォット(芝生上のスニーカーの跡)が目立ったものの、この日の公開練習では選手が足を滑らせるので、スタジアムを引き上げ、隣の練習フィールドで調整を再開。
 次のホームゲームが迫る中、翌日には、電光石火で芝の張り替え作業を始めています。
 

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 そもそも49ersがサンタクララ市にホームグラウンドを移そうとしたのは、チームのオフィスと練習フィールド(写真)があり、隣接する遊園地グレイト・アメリカ周辺の土地を活用できたからなのですが、それにしても、スタジアムの引っ越しには、いろいろと盲点があるものですねぇ。

 8月14日、元ビートルズのポール・マッカートニーのコンサートで54年の歴史に幕を閉じたキャンドルスティック・パークは、間もなく解体作業に入ります。

「もしかしたらキャンドルスティックに戻った方がいいんじゃない?」とは、半ばシリアスなジョークにも聞こえるでしょうか。

 

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蛇足ですが: スタジアムの名前「Levi’s」は、ブルージーンズの生みの親、リーヴァイ・ストラウスが19世紀中盤サンフランシスコで創設したLevi Strauss & Coのブランドです。現在ストラウス家は、市北端の砂浜復元プロジェクトなど、地域の慈善活動にも従事しています。

 新スタジアムの施設命名権(naming rights)をめぐっては、他に31社が名乗りを上げたそうですが、20年で2億2千万ドル(約220億円)のオファーと、ブランド力、健全な経営が評価されて選ばれたようです。
 サンフランシスコの老舗の名が付いたことで、スタジアムを奪われた地元っこの溜飲も少しは下がったのかも。



夏来 潤(なつき じゅん)
 

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