今年の第一弾:ロボット、インターネット、ペンギン

2003年1月30日

Vol. 42


今年の第一弾:ロボット、インターネット、ペンギン


 21世紀も3年目を迎えた新年早々、ラスヴェガスで開かれたコンスーマ・エレクトロニクスショー(CES)に行って来ました。今回は、その時のこぼれ話と、インターネット利用のお話などをいたしましょう。写真も少々掲載することにいたします。


<CESその1:車内エンターテイメント>

DSC00408small.jpg  COMDEXを追い抜くか、とも言われるこの巨大イベントは、今年2千社以上が参加し、来場者も10万人を軽く越えました。CESに関するリポートは、読み飽きた方もいらっしゃると思いますので、ここでは、あえて、前回12月の記事に関連した、軽い話題に限ります。

 元来、CESは、消費者向け家電のお祭りなので、出展もその方面の会社が圧倒的に多いです。中でも、アメリカを象徴する車社会における製品・サービスには、力が入ります。今回も、フロアーに話題の車を配置し、凝った音響システムや、テレビ・DVD製品を展示する会社が目に付きました。
 移動中の娯楽としては、AM・FMラジオが元祖と言えますが、その延長として、昨年、衛星ラジオのサービスが全米で始まったことを、前回の記事でご紹介しました。CESの会場でも、まず目に飛びこんできたのが、衛星ラジオ会社の宣伝合戦でした。(写真は、犬がマスコットのシリウスのテント会場)

 現在、サービスを提供するのはXMとシリウスの2社ですが、家電量販チェーンBestBuyの精力的な後押しもあり、XMの方が、加入者の点で大きくリードしています(昨年第4四半期の新規加入者は、XMが14万5千人、シリウスが1万8千人。XMは累計加入者36万人と順調に伸びている反面、シリウスは年末目標の10万人には満たない模様)。
 巻き返しを狙うシリウスは、今回のCESで、衛星テレビ放送にもサービスを拡張することを発表しました。初の画像送受信も披露しました。ラジオ放送用に各都市に配置した電波増幅局により、質の良い音、映像の配信が可能で、年末をターゲットに、アニメーションや教育番組などの放送を始めるとしています。現在、協賛する放送局と交渉段階にありますが、車に乗ると退屈だと騒ぎ出す子供にとっては、とてもありがたいサービスとなりそうです。 

DSC00463small.jpg  一方、大人向けには、人気局のMTVやVH1のように、音楽番組を充実していくようです。音楽分野では、シリウスが今まで培った強みも活かせます。
 現在、マンハッタンの本社で、シリウスのライブ放送を担当するDJ、ホセ・マンギン氏は、音楽放送のエンターテイメント性もさることながら、ビデオ・ライブの放映を通して、金銭的に恵まれない無名のバンドを発掘して行きたい、と夢を語ってくれました。
 現状では、新曲のプロモーションの際、ラジオ局に有償で放送依頼するのが慣例となっており、お金のないバンドやレコード・レーベルなどは、なかなかチャンスが掴めません。自らも、成長株のバンド演奏に飛び入り参加し、彼らの才能を熟知するマンギン氏は、若いアーティストを広く世に紹介し、現状打開に一役買いたい、と心意気を見せてくれました。(蛇足となりますが、放送を見返りに金銭を支払うシステムは、payolaと呼ばれ、半ば合法となっています。通常、indiesと呼ばれるフリーのプロモーターが、レコード会社とラジオ局を取り持ちます。イギリスの人気バンド、ジャミロクワイなどは、1996年に大ヒットとなった、"バーチャル・インサニティー" の1ヶ月間の放送に、1局当たり25万ドルを支払ったとも言われています。)


<CESその2:新手のロボット>

DSC00470small.jpg  新しい技術がどんどん出てくるのがCESですが、ここはまた、夢を語る場でもあります。その夢の一環として、時にロボットも登場します。
 前回の記事でご紹介したiRobot(アイロボット)社のおそうじロボットは、人間のヘルパー的存在でしたが、今回CESでデビューした、エボリューション・ロボティックス社のER2は、コンパニオンに一歩近づくものでした。そのうちに、古来人間の友とされてきた(血の通った)犬の立場も、危うくなるのかもしれません。

 ロボティックス自体は、ホンダのアシモや、ソニーのアイボーが示すように、日本の方がリードする面が多分にあります。アシモなどは、昨年のバレンタインデーに、ニューヨーク株式市場の開始ベルを鳴らし、ヒューマノイド初の快挙を成し遂げました。テレビコマーシャルにも登場しています。
 しかし、このER2ロボットもなかなか隅には置けません。一つ目小僧のような間抜けなルックスですが、セキュリティー、コミュニケーション、教育、娯楽といった分野で、20種以上のソフトウェアを用意し、かなり実用的なしっかり者なのです。
 ロボットの目を通し、持ち主は、遠隔地から自宅の監視ができます。胸にあるモニターで、離れた家族とテレビ会議もできます。また、子供に本を読んであげたり、ジュークボックスに変身したりもします。腕を付けてもらえば、チェスの相手もするそうです。

 エボリューション・ロボティックス社は、昨年5月、ER1というロボットを発表し、5ヶ月のベータテストの後、電器店、おもちゃ屋、アマゾンや自社のWebサイトといったルートで、発売を開始しました。値段は699ドルです(ユーザー組み立てキットは、599ドル)。
 持ち主を始めとして、一度見たものはすぐに認識してしまうほど頭は賢いのに、ノートブック・パソコンに足と目が生えたような不恰好さが難点でした(バッテリー、モーター、カメラ付きのキャスターに、パソコンを広げて設置。パソコンは別売り)。

 ER2は、これの後継機種で、姿の面では大きな飛躍です。アシモが映画『スターウォーズ』のC3POなら、ER2は、さしずめR2D2といったところでしょうか。年末の発売をターゲットとしており、価格は2750ドルの予定です。
 協賛する会社に向けて、ソフトウェア・プラットフォームも準備され、今後、ソフトの充実も期待されます。おもちゃのバンダイは、この会社のテクノロジーを使って、2年後に猫のロボットを発売するとも発表されています。

DSC00431small.jpg  ところで、ER2もさることながら、今回、ひょんな所で、すごいロボットを目にしました。ロボティックスとは無関係の、パソコンと家電のオールインワン製品を発売する会社のブースでした。
 動きはごく原始的で、足下のローラーで移動するだけなのですが、やけに陽気で、行き交う人に寄って来ては、"こんにちは、元気?名前は?" などと声を掛けてくるのです。"日本語しゃべれる?" と聞くと、"少しね。コンニチハ" と答えます。日本語の名前も、ちゃんと聞き取り、発音します。
 日本について何か知っているかと尋ねると、"スシ知っているよ。食べないけどね。マキスシなんか、見ているときれいだよね" などと、ぺらぺらしゃべるのです。
 よく考えてみると、応対があまりに自然だったので、誰かが離れた所からワイヤレスで受け答えしていた可能性大なのですが、とにかく、目を引くアトラクションであったことは事実です。会場の隅っこで、カバン屋さんの隣という大きなハンディを乗り越え、客引きに成功していたようです。

追記:CESについては、リックテレコム社配信のWebサイト、月刊テレコミュニケーション・ウェブパークで、まじめな分析をさせていただいております。興味のある方は、以下のURLでご覧ください。
http://www.telecomi.biz/backnumber_tc/webpark_030128_k.htm

(現在は、このサイトは使われておりません。あしからず。)


<インターネットその1:景気と反比例?>

 元旦早々、新聞の見出しは嫌なものでした。前日の大晦日の取引を最後に、市場では、ようやく痛々しい一年が終わった、と半ば諦めとも聞こえるものです。昨年一年を通し、ナスダック指標は31パーセント、ダウ平均は17パーセントの下落でした。
 シリコンバレーに限ると、新たに株式公開したのは、わずか6社に留まっています。上場している307社のうち、市場がピークだった2000年3月と比べ、現在株価が上回っているのは、20社のみという状況です。

 この世知辛さを反映して、年頭に行なわれたデイヴィス州知事の再就任記念パーティーでは、4年前のタキシードとキャビアの豪華絢爛から、ブルージーンズとバーベキューに格下げとなりました。
 それもそのはず。カリフォルニア州は、およそ1千億ドルの年間予算に対し、向こう1年半で350億ドルが足りなくなりそうなのです。企業のスランプがたたり、当てにしていた税収が激減しているのです。テロ対策の警備や医療費の高騰にも出費がかさんでいます。これから先、帳尻会わせが大変です。困ったことに、国も、他の多くの州も、状況は似たり寄ったりで、連邦政府も助けになりそうにはありません。
 一方、消費者の間でも、景気に対する不安がなかなか払拭されません。消費者自信指数はと言うと、11月に一旦上昇を見せた後、年末また下がりました。失業率の悪化、株式市場の低迷、混沌とする世界情勢など、不安材料を反映しているのです。歳末商戦も、近年稀に見る不調を記録し、景気回復にもなかなか見通しが立ちません。

 この悪条件の中、意外なことに健闘を見せているのが、オンライン販売です。昨年11月と12月で、インターネット上での売上は137億ドルとなり、前年と比較し、24パーセントも上回っています(Harris Interactive社発表)。
 小売サイトのアマゾンやオークションサイトのイーベイの存在感は大きく、全米の家庭の1割は、少なくとも月に一度、彼らのサイトを訪れると言います(Forrester Research社調査)。
 これが販売にも結びついているようで、アマゾンの年末の売上は、前年に比べ、28パーセントも伸びています。大手に限らず、オンラインショッピングの魅力は、やはり、家にいながらにして済んでしまうところにあるようです。送料無料キャンペーンも効いているのかもしれません。

 先述の、昨年公開したシリコンバレー6社の中でも、2社はオンライン事業でのデビューと、この分野の健闘ぶりを見せています。このうち、ひとつは、イーベイ上で支払いシステムを担当するPayPalです(のちにイーベイに買収されました)。
 そして、もうひとつは、レンタルDVDをオンラインで運営するNetFlixです(実際の貸し出し、返却は郵送で行う)。ビデオからDVDへの切り換えの波に乗り、サービス加入者も86万人と、年末目標をクリアしました。返却日や延滞料がなく、返せば希望リストの次が借りられる、という新手のレンタル手法が受けています。今年中には、黒字を出すとも予想されており、イーベイ、ヤフー、アマゾンなどとともに、オンライン事業の注目株となっています。

 インターネットと言えば、一時のドットコム・バブルの派手さは消え去り、意表を突くような話はなくなってはいますが、誰もが利用し易いサービスが増えたことで、裾野は確実に広がって来ています。本当に必要な物や、ささやかな贅沢をオンラインで安く見つける。これが、これからのトレンドなのかもしれません。


<インターネットその2:申告はオンラインでお願いします>
 年が明けると、毎年4月15日の確定申告の締め切りが気になってきます。その確定申告がオンライン化され、少しずつ国民に広まって来ているお話を、昨年ご紹介いたしました(2002年3月14日と4月8日掲載)。その中で、連邦政府の税務機関、IRSが、自分達のWebサイトで、直接申告できるようにする計画があることにも触れました。

 ようやく、1月に入り、IRSのサイトで、確定申告ができるようになったと発表されました。しかも、多くの人は、タダでサービスが利用できると言います。
 今までは、国や州のe-file(オンライン確定申告)を利用するには、税金計算ソフトウェアを購入する必要がありました。個人データ漏洩など、インターネット上のセキュリティーに対する不安感もさることながら、このソフト購入が、e-file普及の大きな障害となっていました(一番人気の高い、イントゥイット社のTurboTaxの場合だと、国と州のソフトが合わせて90ドル、e-fileサービス料が24ドル掛かります)。
 そんな中、税金ソフトを発売する会社としては、IRSが独自に無料ソフトを提供し、商売に多大な悪影響が出ることを恐れていたのでした。
 事を穏便に済ませるために、IRSは、独自の税金ソフトを開発するのではなく、従来の製品を後押しすることを決定しました。IRSが、17社ある税金ソフト会社に利用料を支払い、国民が購入する肩代わりをしてくれるのです。
 利用上も大きな変化はなく、基本的には、IRSのWebサイトから、各ソフト会社のサイトにリンクし、申告者が使い慣れている税金ソフトを利用する構造になっています。年齢、年収、簡略申告の有無などの条件により、利用資格に該当しない人もいますが、申告者の6割は、この制度を利用できます。

 e-fileは、3都市でのテスト期間を経て、全米で広く利用できるようになったのは、3年ほど前です。その後、利用者は徐々に増加し、昨年は申告の35パーセントがオンラインでした。今年は、4割と予測されています。しかし、連邦政府は、2007年には8割がオンラインという目標を掲げており、その目標達成のため、今回のe-file無料制度が打ち出されました。

 政府がここまで力を入れるのは、申告の間違いが激減し、処理スピードが速くなることによって、申告検査に携わる人件費が減ることがあります。何と言っても、毎年、1億3千万件以上処理しなければなりません。申告者の計算間違いなどという凡ミスには、付き合っていられないようです。


<原始ペンギン>
 ペンギンと言っても、ペンギンがマスコットの "リナックスOS" とは関係がありません。生身のペンギンのお話です。

 昨年のクリスマスイヴ、サンフランシスコ市南西部にある動物園には、ペンギンが6羽、お引っ越しして来ました。はるばるオハイオ州からやって来たのです。もともと、この動物園には、46羽のとてものんきなペンギン達がいて、日がな一日、丘の上をよちよち歩き、熱くなったらプールでパチャパチャ、というリゾート生活を送っていました。
 ところが、新メンバーの6羽が入ってきた頃から、異変が起き始めました。52羽全員が、円形プールを猛スピードで泳ぎ始めたのです。一方向に、終わりのないサークルを描き、一日に10時間も泳ぐのです。"こんなことは見たことがない" と動物園の飼育係りは驚き、全世界から報道陣が集うニュースとなりました。

 なんでも、オハイオ州のペンギンには、南極にいた頃の季節ごとの移住の記憶が残っており、サンフランシスコに来ても、どこかに向けて、全力で移動しようとしているらしいのです。これに触発されたサンフランシスコの "のんきペンギン" も、自分達もそうしなければと、原始の記憶を取り戻したようです。

 2月になると、巣作りの季節に入り、この猛ダッシュは見られなくなるそうですが、野生の血というものは、そう簡単に消え去りはしないようです。


夏来 潤(なつき じゅん)

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