ホリデーシーズン(パート1):サンクスギヴィングとクリスマス

2001年1月 5日

Vol. 4

ホリデーシーズン(パート1):サンクスギヴィングとクリスマス


 ご存知の方も多いとは思いますが、11月末から新年にかけて、アメリカでは重要な休日がいくつか続き、一年のうちでも最もみんなの心が浮き立つときです。今回は、そういったホリデーシーズンについて、2回に分けお話しようと思います。
 一口にアメリカと言っても、地方によって歴史・伝統が違ったりするので、これはあくまでもサンフランシスコ・サンノゼを中心とする北カリフォルニアの様子であることを、最初にお断りしておきます。

 日本では一般的に、アメリカの方が国民の休日や会社の有休が多く、しょっちゅうビジネスの相手がバケーションでいなくなる、と信じられているようですが、これには多少誤解があるようです。まず、国民の休日(national holidays)は、日本の方が圧倒的に多いです。アメリカの場合は、いくつかの最も重要な休日以外は、各会社がどの日を休みにするのか決定しますが、日本の国民の休日が15日に対して、アメリカは10日の休日(paid holidays)が一般的です。
 また、有休(vacation days)は、日本では勤続年数によって増え、20日くらいもらうこともありますが、アメリカの会社では、一律10日ちょっと、というのが一般的なようです。日本では有休はあっても実質的に取りにくい、という事情もありますが、日本に比べて、アメリカの労働条件が決して薔薇色でないことをお伝えしておきます。

 一部の職業を除いて、アメリカの会社勤めの人が一斉にお休みできるのは、元旦(New Year's Day)、5月末のメモリアルデー(Memorial Day)、7月4日の独立記念日(Independence Day)、9月初旬の労働感謝の日(Labor Day)、11月末のサンクスギヴィング(Thanksgiving Day)、そして12月25日のクリスマス(Christmas Day)です。今回は、年末の一連の行事、サンクスギヴィングからクリスマスまでを、かいつまんでお話しましょう。クリスマス後から元旦までは、次回に廻すことにします。

 サンクスギヴィング(感謝祭)は11月の第4木曜日ですが、この日は遠い所に住む家族も一同に介し、一年間無事に過ごせたことを感謝しながら、七面鳥(turkey)のディナーをとります。家々によっては、この七面鳥の料理の仕方や、付け合せやソースに秘伝があるところもあり、母の味を楽しみに、遠路はるばる故郷に帰る人もたくさんいます。結婚して代替わりしたら、今度は奥さんに母の味の再現を頼む人もいるようです。
 この日ばかりは、小休止していたオーブンもフル回転し、あちらこちらから、七面鳥の焼けるいいにおいが漂ってきます。普段離れている家族が顔を合わせ、近況報告することが第一の目的なので、料理を担当している人以外は、アメリカンフットボールや、各地で行われるパレードの中継をテレビで見ながら、家でのんびり過ごす人が多いようです。

 サンクスギヴィングの翌日の金曜は、会社がお休みの人が多いので、前日の続きで、家でのんびり過ごしたり、友達とゴルフやテニスをしたり、と束の間の休みを楽しみます。この日はまた、約1ヶ月後のクリスマスに向けて、正式なショッピングの始まりの日とされ、"黒い金曜日(Black Friday)" と呼ばれています。由来は、今まで赤字の店であっても、この日には充分黒字転換できる(go into the black)、ということらしいです。
 不運な人は、テレビの前から引っ張り出され、荷物持ちとしてごったがえしたショッピングモールに駆り出されます。店の側では、この日からクリスマスまでの歳末商戦を命綱としている経営者も多く、朝の5時、6時から営業開始します。客の側もわきまえたもので、この日の大安売りをお目当てに、前日に配られたチラシの束とにらめっこして、綿密にショッピングプランを立て、ご馳走で取り過ぎたエネルギーを発散しにお出かけ、という人も多いようです。
 この日を境に、"もうクリスマスショッピングは終わった?(Have you done the Christmas shopping yet?)" というのが、挨拶代わりになります。日本と違って、プレゼントの送り先リストが、家族・親戚 ・友人の何十人にも昇り、単に恋人や親友の身近な人だけでは済まず、誰に何を選ぶかが、かなりシリアスなビジネスになってきます。

 今シーズン珍しかったのは、インターネット・ポータルのYahoo!の作戦です。サンフランシスコの中心地にあるユニオンスクエアという公園に、自社のロゴを塗ったタクシーを待機させ、市内だったらタダで買物帰りの客を家まで送る、という人助けと宣伝を兼ねたサービスを行っていました。
 これが、多少なりとも功を奏したのかはわかりませんが、Yahoo!ショッピングの歳末商戦の売上は、米国内で前年に比べ、2倍になったそうです。その他、Amazon.comでは、前年比50パーセント増、など、オンラインショッピングサイト全体で、前年の2倍、98億ドル(約1兆800億円)の売上だったそうです(Goldman Sachs/PC Data発表の11月第1週から12月24日の統計)。
 しかし、これは予想を下回る結果 だそうで、期待に反して、消費者の財布の紐が堅かったことと、お出かけショッピングの人気の根強さを表しているようです。

 話を元に戻して、サンクスギヴィングに実家に帰って、親孝行・兄弟姉妹孝行をした人達は、一斉に次の土日に家に帰ろうとします。日本の帰省ラッシュと似て、この二日が、一年で一番飛行場が混む時と言われています。
 特に、シリコンバレーあたりに住んでいる人は、生まれながらのカリフォルニア人("native Californians")、という人は少ないので、車ではなく、飛行機で長距離移動という人が多いようです。

 サンクスギヴィングが終わった月曜日からは、まったく普通の日々が続きますが、クリスマスに向け、何となくそわそわした雰囲気が漂っています。この期間は、新しい仕事を見つけたり、引っ越し先を探したり、など大きな決断事は控える人が多いようです。
 週末が来るごとに、軒下や庭のフェンスにクリスマスライティングの飾り付けをしたり、クリスマスカード書きに追われたり、クリスマスツリーを買ってきて、その飾り付けに凝ったり、とショッピング以外にも毎週何かと家族の行事が続きます。

 その中でも、ライティングは、クリスマスシーズンの到来を告げるシンボルになっています。各都市の中心地では、市民達が見守る中、大きなツリーや、ビルの外壁に光を灯すセレモニーが開かれます。また、個人の家でも、そりに乗るサンタや、キリスト降誕の再現(Nativity)など、毎年趣向を凝らしたライトアップで、近所の人達を楽しませてくれる家がたくさんあります。
 大きな家だと、人を雇って軒下や庭の木々にライティングを取り付けたりするようですが、大部分の人は、デザイン、購入、飾り付け、とそのプロセス自体を楽しみにしているようです。毎年新聞にも、どこの家のライティングがすごいから、ぜひ見に行きましょう、と住所付きで特集記事が出るほどで、例年名物になっている家には、2,3時間かけても見に来る人がいるようです。
 不運なことに、今シーズンはカリフォルニア州のエネルギー不足が深刻化し、クリスマスライティングなど、生活に不可欠でないものは摂生するように、と電力・ガス会社から依頼があり、夜7時以降でないとライトアップしないコミュニティーも出てきました。遠くから見に来た人の中には、ライトアップが見られない腹いせに、落書きをしたり、大きな声で脅し文句を叫んだり、家主達を困らせる人まで出てきたそうです。

 クリスマスには、サンクスギヴィング同様、家族で一同に介してディナーをとる習慣があり、祖父母にとって、孫達の成長振りを見る良い機会になっています。最近は生活が多様化しているので、みんなのスケジュールに合わせて、ディナーの日時を変更し、必ずしも25日に晩餐をするわけではないようですが、この日は開いている店もほとんどなく、街中ひっそりと静まり返っています。不運にも、この日に当番が当たったお巡りさんやバスの運転手は、新米さんが多いようです。
 公共の職務に関与しない人達は、家でプレゼント交換をしたり、カレッジフットボールのオールスターゲームを観戦したり、七面 鳥やハム、ローストビーフのご馳走を満喫したり、と静かで平和な一日を過ごします。

 ところで、元来クリスマスとは、そういった物理的なことに一番の重きがあるわけでは当然なく、宗教的な意味合いを除いても、人との分かち合い(sharing)、見ず知らずの人・社会への還元(giving)、人とのふれあい(companionship)を精神の根本としています。
 特に、持つ者と持たざる者の差が歴然としているシリコンバレーでは、毎年この時期になると、各種の助け合い運動が普段以上に盛んになります。缶 詰やパスタなどの保存食を募るフード・ドライブ(Food Drive)が各会社で行われ、いっぱいになったドラム缶 は、食料銀行(Food Bank)の配送センターに運ばれ、集まった食べ物は、そこから個人の家や施設に配られます。
 福祉団体として歴史のあるサルベーション・アーミー(Salvation Army)では、普段行っている古着や家具の寄付受け付けだけではなく、街角に白ひげのサンタを立たせ、ベルを鳴らしながら、街行く人達に募金を促します。
 また、海兵隊(the Marine Corps)が中心となって、おもちゃの寄付を募る "Toys for Tots(Totsは幼児)" というプログラムを繰り広げ、ティーンエージャーを含む子供達へのクリスマスプレゼントを集めます。その他、数えきれないほどの非営利団体が、物品やお金の寄付を一般 や企業から受け付けます。

 この時期は、有名人も各種のボランティア活動に参加します。たとえば、サンフランシスコの対岸、オークランド(Oakland)にあるプロ野球チーム、オークランドA'sが毎年やっているのは、オークランド・バレエ団の "くるみ割り人形" に、おもちゃの兵隊として出演し、その収益を福祉団体に寄付するというものです。
 今シーズンは、フットボールチーム、サンフランシスコ49ersのスター選手、テレル・オーウェンズも兵隊のひとりとして登場し、ちょっとした話題になりました。"バレエの方が緊張したけど、フットボール選手みたいに、数を数えリズムを取れたら、ちゃんと踊れるよ" ということでしたが、お世辞にもうまい踊りではありませんでした。しかし、うまい下手は、この際まったく関係はありません。

 クリスマスの日には、"誰もひとりで寂しく過ごしてはいけない"、と教会が中心となって、日頃食べるものに困っている人達に、ディナーを提供する所がたくさんあります。ボランティア3百人で、8千人のお腹を満たし、おしゃべりの相手をしたサンフランシスコの教会もあり、規模の大小は問わず、暖かい食事や子供達が書いたクリスマスカードで、憩いのひとときを提供しています。
 家でクリスマスプレゼントを交換するより、ボランティア活動に意義を見出す人も多く、配膳が無事に終わり家に帰ると、今までより食事がおいしく、ベッドが柔らかく感じられるようです。


夏来 潤(なつき じゅん)

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