Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2000年12月01日

ハロウィーン : Trick or Treatの社会学

Vol. 1

ハロウィーン : Trick or Treatの社会学

先月末10月31日は、ハロウィーンでした。今では日本でもかなりポピュラーになってきた風習ですので、ご存知の方がほとんどだと思いますが、米国では仮装パレードやパーティー、お化け屋敷、そして、子供達の Trick or Treat(トリック・オア・トリート:お化けや魔女などに仮装して、お菓子をおねだりして家々をまわる)で皆が浮かれる一日です。
子供だけではなく、仕事場に仮装をしていく人もあり、オフィスの仮装コンテストで賞金を狙うため、何ヶ月も前から何に扮するか計画している大人達もたくさんいます。

この日は元来キリスト教とは異なる由来を持っているので、敬虔なキリスト教徒の中には、ちょっと複雑な気持ちでこの日を迎えている人もいるようですが、それでも大部分の人にとっては一年のうちでもっとも楽しい日のひとつです。

もともとハロウィーンは、ケルト人の新年からきているようです。グレゴリオ暦では10月末にあたるのですが、この日は人間と霊魂の世界の垣根が一番薄くなり、死んだ人の魂がうろうろと徘徊する時だと信じられていました。
キリスト教が世界に広まり、異教徒ケルト人の間にも新しい宗教として受け入れられる過程で、このケルトの新年とカトリックの教えが融合し、ハロウィーンが誕生しました。ケルト人が信じていた霊魂、お化けや怪物は、カトリックの聖人の魂ということになり、11月1日の万聖節(諸聖徒・殉教者の霊を祭る日)の前の日ということもあって、HalloweenEve of All Hallows:すべての神聖な者の日の前夜)として広く伝わるようになりました。
しかし、単なるお遊びの仮装であっても悪魔や魔女、お化けや怪物など良からぬ ものに扮したり、実際に霊魂の世界を崇拝し儀式を行う人がいたりと、オカルト的な要素を否定できないので、一部のキリスト教徒には、ハロウィーンに対して眉をひそめる人もいるようです。

由来はどうであれ、大多数のアメリカ人にとっては、堅苦しいこと抜きで仮装やアフターファイブのパーティーで楽しめる一日だし、子供達にとっては、お菓子がいっぱいもらえる嬉しい晩であることには変わりはありません。

子供達は Trick or Treat で存分に楽しめるわけですが、それを受け入れる側としては、毎年どんなお菓子をどれだけ用意すればいいかと、ちょっと頭を悩ませます。
あまり多く用意しても、後で自分では食べられないくらい余ってしまうし、少なすぎると子供達が来てもドアを開けられないので、悪いと思いながらも電気を消して居留守を使う羽目になるし、結局、余ったお菓子は仕事場に持っていくという方針で、多めに用意するのがいいようです。オフィスに置いておくと、一時間もしないうちにエンジニア達がきれいにかたづけてくれます。

また、最近は健康にうるさい人が多いので、チョコレートやキャラメル類の糖分が多いものは嫌われるかな、と選ぶものにも気を使います。チョコレート会社も糖分や脂肪摂取量を配慮して、一口サイズの Fun Size(ファンサイズ)と銘打って、小型のチョコレートバーをハロウィーン用の袋詰めにして販売するようになりました。ひとつずつの大きさはごく小さいので、これだと肥満が気になっている子供にも大丈夫かなという大義名分が立ちます。
ちなみに、20個ほどのミニチョコレートバーが入って、スーパーではひと袋2ドル(約220円)という安さで売られていました。

また、お菓子は個別包装しているものでないと安全衛生上受け入れられないので、そういう点でチョコレートバーは便利で安心な商品です。親切心で健康的な手作りクッキーなどを用意しても、自家製のものには何が入っているかわからないとして、親達が捨ててしまいます。
毎年ハロウィーンにはいろんな事故が起きているようで、今年のニュースでは、電化製品などの箱に入っている乾燥用シリカゲルだとか、個別包装された顆粒便秘薬などが子供達のお菓子の入れ物に入っていたということでした。便秘薬を間違って食べた子供は病院に行くはめになったとか。
その他、チョコレートバーを開けてみたら、包みの中にマリファナが入っていたなど、信じられないことが起きるので、親達も子供が何をどれだけ食べて良いか、チェックを怠ってはいけないようです。
ハロウィーンの晩だけひとつ、ふたつ食べさせて、後のお菓子は捨ててしまう親も少なくないようです。日本では食べ物を粗末にしてはいけないと、捨てることに抵抗を感じますが、ハロウィーンのお菓子には、ゲームの戦利品的な感覚があるようです。

実は、Trick or Treatは子供達だけではなく、親達にとっても楽しみなことがあります。子供がまだ小さいと、グループで行動していても必ず親が後ろについて廻るのですが、お陰で自分の近所にどんな人達が住んでいるのか、またどんな暮らし振りをしているのか、垣間見ることができます。

今年のハロウィーンでそんな親達に人気があったのは、シリコンバレー発祥の地、パロアルト(Palo Alto)にある、スティーブ・ジョブス(アップル・コンピューターの最高経営責任者)の家と、スティーブ・ヤング(アメリカンフットボールチーム、サンフランシスコ49ersの前クウォーターバック)の新婚家庭だったそうです。
彼らの家の前に長い列が出来上がっているのを見て、子供達は効率を求めて他に行こうとしているのに、親達が子供の袖を引っ張って、順番待ちをさせていたとか。

スティーブ・ジョブスの家では彼の奥さんが、またスティーブ・ヤングの家では彼自身が子供や大人達の相手を嫌がりもせずしていたそうですが、さぞかし疲れたことだろうと他人事ながら、同情してしまいます。
サービス精神旺盛なアメリカ人は、単にお菓子を配るだけではなく、ひとりひとりのコスチュームをめでたり、ご近所さんと一言二言交わしたりと、にこやかに応対しなければいけないからです。それが一晩中続いたら、顔の筋肉が硬直しそうです。
ちなみに、この二軒とも対面を気にしてか、配ったお菓子は健康的なカロリーバーの類だったそうです。

こういう有名な方々にとっては、来年あたりはシリコンバレーを離れて他でハロウィーンを過ごす、というのも妙案だと思います。

夏来 潤(なつき じゅん)

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