Uncharted territory(地図にもない領域)
 先日、「ライフinカリフォルニア」のセクションでは、「オクトマム」のお話をいたしました。
先日、「ライフinカリフォルニア」のセクションでは、「オクトマム」のお話をいたしました。
 1月に生まれた8つ子ちゃんたちのお母さんのことですが、今、オクトマム(Octomom)という言葉は、アメリカ中の話題をさらっている流行語ともいえるかもしれませんね。
そして、今、同じくらい有名なのは、「ジェイソン」「メリッサ」「モリー」の3人でしょうか。オクトマムと同様、タレントや映画俳優なんかではなく、一般の方々です。
まあ、「一般の方々」というのはちょっと語弊があるかもしれませんが、ABCテレビの『The Bachelor(ザ・バチャラー)』という番組に毎週登場していた方々です。バチャラーというのは、ずばり「独身男性」のことですね。
以前、「A piece of me(わたしの一部)」という英語のお話でもご紹介したことがあるのですが、この『バチャラー』という番組は、収入も安定していて、背が高くてハンサムな、まさに「絵に描いたような」一般の独身男性を中心に展開するのです。
全米から選ばれた25人の女性たちが、一つ屋根の下で共同生活をしながら、彼のフィアンセとなることを夢見る。でも、悲しい事に、毎週誰かが彼に「さよなら」を告げられる。そんな風な、なんともロマンティックで、かつ熾烈(しれつ)な番組なのですね。
その「選別」のプロセスの中では、彼と楽しく遊んだり、バンジージャンプなんかの冒険をしたり、キャンドルライトのディナーを満喫したりと、それなりに面白い趣向がこらされているのです。が、わたしは、第一回目だけ観て、あとは観ないことが多いのです。
ま、どんなステキな男性が出ていて、どんな魅力的な女性が25人に選ばれたのかという興味はあるので、最初の一回だけは観てみるのですが、あとは「熾烈な」部分が好きじゃないので、あまり観る気がしないのです。
ところが、先週の月曜日、「あ~、テレビがつまらない」とチャンネルをころがしていると、第一回目を観た『バチャラー』が最終回となっているではありませんか!
 いったい誰が選ばれるのか、ちゃんと見届けるしかないと、つい画面に釘付けになってしまいました。
なんと言っても、あまりの番組の人気に、今回は13人目のバチャラーなのです。これを逃すと、世の中の話題にも付いていけなくなるのです!
 今回のバチャラーは、ジェイソン・メズニックさん。3歳の男の子を持つシングルダディーです。
今回のバチャラーは、ジェイソン・メズニックさん。3歳の男の子を持つシングルダディーです。
 黒っぽい髪と瞳が魅力の30ちょっと過ぎの男性なのですが、一度結婚に失敗しているので、どうしてもいい奥さんを見つけたいと、以前のバチャラーたちよりも真剣です。
最後に残ったふたりの女性は、メリッサさんとモリーさん。メリッサは、いかにも「アメリカ娘」といった感じの、キャピキャピとした、活発でかわいい女性です。一方のモリーは、ちょっとおとなしめの、しっとりとした感じがありながら、なかなか芯の強そうな女性。
最終回では、ジェイソンは、活発なメリッサを選ぶのです。
そして、「愛してるよ。結婚してほしい(I love you. Will you marry me?)」とひざまずき、彼女に大きなダイヤモンドの指輪を差し出すのです。
もちろん、メリッサの返事は、「はい(Yes, I will marry you)」に決まってますよね。
そんなメリッサに、ジェイソンはこう誓うのです。「僕は一生きみと一緒に過ごしていくよ(I will spend rest of my life with you)」と。
一方、「今はもう、ただただジェイソンのことを愛しているわ(I’m so in love with Jason right now. So in love)」と語っていたモリーは、唐突にジェイソンに別れを告げられ、ショックを隠しきれません。
「まったく理解できないわ。だってほんとにあなたのことを想っているのに(I just don’t get it. I truly care about you. I really do)」と、ジェイソンに不満をぶちまけながらも、しかたなく涙でお別れとなってしまうのです。
それからモリーは、失意のうちに、ニュージーランドのロケ地からアメリカへと戻って行くのでした・・・
ところが、騒ぎはこのあとに起きるのです。この最終回の収録が終わったあと、数週間のうちにジェイソンが心変わりをして、こともあろうに、最終回のおまけとして収録された番組の中で、メリッサをふってしまったのです!
彼の言い分はこうなのです。「僕たちは互いにとってベストじゃない(We’re not right for each other)」そして「僕はモリーの方が好きなんだ(I just have feelings for Molly)」。
 もちろん、メリッサは、「もうあなたには怒りだわ。電話もしないで。ひとりにしてちょうだい!(I’m so mad at you. Don’t call me. Leave me alone, please!)」と、怒ってスタジオを出て行ってしまいました。
もちろん、メリッサは、「もうあなたには怒りだわ。電話もしないで。ひとりにしてちょうだい!(I’m so mad at you. Don’t call me. Leave me alone, please!)」と、怒ってスタジオを出て行ってしまいました。
それは、誰だって怒るでしょう。「心から愛しているよ(I love you with all my heart)」と自分にプロポーズした相手が、てのひらを返すように、しかも全米の視聴者の前で自分をふったのですから。
一方、ジェイソンといえば、このおまけの番組の後半に登場したモリーに、「友達から始めましょう」と求愛するのです!
 最初は困惑の色を隠しきれないモリーですが、そのうちに、「これからどうなるのか、ちょっと様子をみてみましょうか(I think we can see where things go)」と、彼の求愛を受け入れるのです。
最初は困惑の色を隠しきれないモリーですが、そのうちに、「これからどうなるのか、ちょっと様子をみてみましょうか(I think we can see where things go)」と、彼の求愛を受け入れるのです。
ニュージーランドで別れを告げられたあと、「僕が間違っていたよ」とジェイソンがドアの前に現れてくれないかしらと、彼女は繰り返し繰り返し願っていたとか。
「どんどん深くきみを愛していってるよ(I am falling in love with you still. It will never stop)」というジェイソンに対し、「その言葉をずっと待っていたわ(I’ve been waiting to hear that)」とこたえるモリー。
 そんなモリーの手は、自然とジェイソンのひざに延びているのでした。
そんなモリーの手は、自然とジェイソンのひざに延びているのでした。
まあ、これで、ジェイソンとモリーのふたりはめでたし、めでたしとなったわけですが、このおまけの番組の放映以来、「ジェイソン」という名は、「優柔不断な嫌なヤツ」の代名詞となってしまったのですね。
 そして、そのジェイソンを受け入れたモリーも、「メリッサの心を踏みにじる嫌な女性」と、非難の対象となってしまうのです・・・
(ちなみに、愛の表現についてですが、単に I love you というだけではなく、モリーが使っていたみたいに、I’m in love with you や、それを強調して I’m so (much) in love with you という使い方もありますね。なんでも、love というと、家族や人類に対する愛や、新車や好きな食べ物に対する愛着も含まれるので、恋愛感情となると、be in love with ~ の方が強く受け取られるのだそうです。ただし、この論法には、男女間に温度差があって、男性は、ただ I love you でいいじゃないかと思っている節もあります。)
ところで、表題となっている uncharted territory。
日本語では、「地図にも載っていないような、未知の領域」といった感じでしょうか。誰にも進むべき道はわからないので、まるで荒海に漕ぎ出したようなものだ、という意味合いがあります。
お仕事の場面でも、政治の場面でも、いろんな状況で使われる便利な言葉なのです。
どうして『バチャラー』の番組に関係あるのかって、ジェイソンがメリッサをふって、モリーを選ぶという意外な展開に一番動揺したのが司会者だったのですが、その司会者が発した言葉がこうだったのです。
So where do we go from here? (それで、これからどうなってしまうのかな?)
 I don’t have a map for this. (僕自身は、こんな展開に地図なんか持ってないよ)
 This is an uncharted territory. (これは、まったく未知の領域だよ)
やはり、脚本(script)も何もない番組では、司会者としては、展開が読めないのが辛いですよね。
彼自身も言っていましたが、まさに「口があんぐりとあくような(jaw-dropping)」ショッキングな展開ではありました。
 それにしても、どんなに世間の不評を買ったにしても、自分に嘘はつけないと、心変わりを公にしたジェイソンさん。わたしは、なんとなくわかるような気もするのです。
それにしても、どんなに世間の不評を買ったにしても、自分に嘘はつけないと、心変わりを公にしたジェイソンさん。わたしは、なんとなくわかるような気もするのです。
 きっと、彼は、どちらの女性が3歳の息子のいいお母さんになれるだろう? といった観点からメリッサを選んだのでしょう。メリッサは、まるで保育士のように子供に慣れているし、息子もすぐに彼女になついたのでした。
 けれども、メリッサにプロポーズしてから時が経てば経つほど、もうひとりのモリーの存在が自分の中で大きくなってきて、どうしても消すことができなかった。きっと、もともとモリーの方にひかれていたのでしょうから、最終的には彼女を選ぶ結果になった。
そんなジェイソンを世間は「負け犬だ(He’s a loser)」などと酷評していますが、そのうち、みなさんも彼の事をすっかりと忘れ去ってしまうのでしょうね。
当のメリッサさんでさえ、名前が売れたところで、さっさと別の番組に登場しているくらいですから。そう、こちらは、同じくABCの『Dancing With the Stars(スターと一緒に踊る)』という、勝ち抜き戦の社交ダンスの人気番組です。「スター」として番組に出演しているのですから、結果的には悪くないですよね!
ちなみに、ジェイソン以前に登場した12人のバチャラーたちですが、結婚までたどり着いた人はひとりもいません。今までに、ひとりだけ結婚したバチャラーはいますが、彼はお仕事で知り合った昼メロの女優さんと結ばれたそうです。
そうそう、特例として、『バチャラー』の姉妹番組となる『バチャロレット(Bachelorette、独身女性)』でゴールインしたカップルがいました。
こちらは、以前バチャラーにふられた女性が主人公となって、25人の男性の中から、優しそうな、ステキな消防士のダンナさんを見つけたのでした。
 ABCにお金を出してもらって、何億円もする盛大な結婚式を挙げたのですが、その後はちゃんと続いていて(!)、かわいい男の子も生まれています。
おめでとうございました!
追記: 蛇足となりますが、「A piece of me(わたしの一部)」のお話に登場していたお医者さんとサーラは、とっくの昔に別れたみたいですね。あのふたりは「絶対に続かないよ!」といったわたしの予言は、見事に的中したのでした。
 お医者さんの方は、病院勤務を辞めてしまったのか、今は医療相談のテレビ番組でホスト役を務めているみたいです。やっぱり、一度テレビに出ると、その味が忘れられなくなるのでしょうか?
後日談: そして、われらがジェイソンさんとモリーさんは、めでたく一年後にロスアンジェルスで結婚式を挙げたのでした! それまでは、世の中の人たちから冷たい目で見られ、必死に支え合ってきたようですが、そんなふたりも晴れて夫婦。ABCで放映された結婚式の2時間番組では、ふたりはずっと満面の笑み。おめでとうございました!





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