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2018年01月31日

カリフォルニアの新しい法律: マリファナの合法化

Vol. 211



新しい年を迎え、カリフォルニア州では新たな法律がたくさん施行されています。というわけで、今月は、中でも注目を集めるマリファナの合法化のお話をいたしましょう。



<新しい法律の中身>

カリフォルニアは全米の中でも「風変わりな州」ですので、なかなか独創的な法律が州知事によって署名され、施行を待つばかりになっています。

たとえば、昨年10月に州上院で可決され、州知事が署名した「ジェンダー認識法(Gender Recognition Act)」。こちらは、「第三の性別」とも呼べる「non-binary」を法的に認めるものです。

Non-binary(ノンバイナリージェンダー)というのは、自分は男でも女でもない、という性別認識のことですが、カリフォルニアで認められるのは、州が発行する運転免許証や出生証明書などに記入する「Male(男性)」「Female(女性)」の性別に加えて、第三の選択肢として「Non-binary(ノンバイナリー)」を設けること。

さらには、裁判所に出生証明の性別変更を願い出るときに、これまで必須だった性転換手術を証明する医師の診断書が必要なくなるそうです。これによって、身体的に性別を転換していなくても、心の中で抱いているジェンダーを法的な性別とできるようになります。

この法律は、来年(2019年)の元日に施行されますが、施行を心待ちにしている方もたくさんいらっしゃることでしょう。



800px-cannabis_plantそして、この新年に施行された法律の代表格は、こちら。俗に「マリファナの合法化」と呼ばれるもので、正式名称は、「成人のマリファナ使用を統制、課税する法(Control, Regulate, Tax Adult Use of Marijuana Act)」。



一般的に「合法化(Legalization)」と呼ばれているものの、実際は、全面解禁となったわけではなく、21歳以上の成人に対してごく少量の娯楽的な使用と栽培を認めたもの。乾燥大麻の所持は28グラムまで、大麻の自家栽培は6本まで認められます。(写真は花をつけたマリファナ(Cannabis sativa)ですが、葉だけではなく花も乾燥して利用されます:Photo by Cannabis Training University)

medical-cannabis全面解禁とはいかないものの、これまで州内では「医療用(medical cannabis)」のみに限定されていたマリファナ使用が「娯楽目的」にも認められたものですから、施行前から世の中の関心度も高まります。



マリファナという麻薬は、国から見ると「違法劇薬」。けれども、一部の州では、薬ではおさまらない痙攣や痛みを抑えたり、化学療法による吐き気や食欲減退を改善したりと、さまざまな効用が認められ、医師によって医療用として処方されています。カリフォルニアは、全米で最初に医療用マリファナを認めた州でした(1996年の住民投票で可決)。

marijuana-legalization-status-2018一方、娯楽使用では、コロラド、アラスカ、ワシントン、オレゴン各州に先を越されたので、カリフォルニアで法律ができるのも、時間の問題とされていました。カリフォルニアと同時期には、メイン、マサチューセッツ、ネヴァダ各州と首都ワシントンD.C.でも同様の法律が施行されています。(地図の黄緑色が「娯楽用」を認める8州。ウグイス色が「医療用」を認める29州(娯楽使用を認める8州を含む):Map of State Marijuana Laws in 2018 from Governing.com)



<賛成派の主張>

以前もご紹介していますが、この娯楽使用の合法化法案は、一昨年11月の総選挙で、住民発案による「提案64(Proposition 64)」として州民に問われたものです。投票前から賛成派が多いだろうと見込まれていましたが、結果は賛成が57%、反対が43%で可決されています。



政治家の多くも賛成派にまわりましたが、ひとつに、合法化によって、今までブラックマーケットで流通されていたマリファナが商取引の対象となり、州や地方自治体にきちんと税金を支払ってもらえることがあります。



また、合法化することで、マリファナの娯楽使用を「犯罪」として立件するケースもぐんと減ります。これまでは、マリファナをはじめとする麻薬の使用者が刑務所に入る件数も多く、裁判所が「服役者の人権を守れていない」と判断するほど慢性的な刑務所の過密状態の要因ともなっていました。少なくともマリファナを非合法の枠から外すことで、取り締まる側も他の凶悪犯罪の摘発に注力できます。



品質に関しても、「ハイになる」成分であるTHC(tetrahydrocannabinol)と医療用マリファナに有効な成分CBD(cannabidiol)の含有量、生産地や生産日、栽培時の殺虫剤使用の有無などを明記することが義務付けられ、品質の向上が期待されます。カリフォルニア州医師協会も「提案64」の支持を表明していましたが、それは、品質や流通経路を白日のもとにさらすことがかえって利用者に有利に働き、公衆衛生につながるのではないかという判断に基づいています。

もともと、マリファナの娯楽使用は、ほとんどの州で違法ではあったものの、全米では5割の高校生が、カリフォルニアでは8割近くの高校生が「使用したことがある」と認めるほど、巷に広まる麻薬でした。もちろん、新しい法律でも、高校生の娯楽使用は認められていませんが、少なくとも、全般的に品質が向上することで、これまでブラックマーケットのディーラーから盲目的に購入していた危険性が低くなると考えられます。



そんなさまざまな期待感から、新法が施行された今年の元日(サンフランシスコ市では1月6日)には、州から営業を認められたショップの前には、長蛇の列ができました。以前試したことのある人も、初めてトライする人も、警察の目を気にしないでマリファナを吸えるのは、新鮮な気分だったことでしょう。



<弊害は?>

その一方で、問題も起きているようです。わたし自身は、1月初頭から日本に一時帰国しているので、カリフォルニアでの反応を肌で感じたわけではありませんが、ご近所さんの噂によると、好奇心から試してみたサンノゼ市のレディーが、ハイになった状態で車を運転して、他の車にぶつかる事故が起きたそうです。

おそらく、今後そういった事故は増え続けることでしょうが、昔の「経験者」であっても、安全性は保証されていません。なぜなら、今のマリファナは、昔と比べて格段に効能が強いから。



たとえば、1960年代から80年代までは、ハイになる(幻覚症状を起こす)成分であるTHCの含有量は1%ほどでしたが、90年代には5%ほど、2000年代には10%ほどと増加し、現在は15〜20%まで上がっている、と言われます。それどころか、今は、30%を超える強力な品種も栽培されているとか。(参考資料:How Marijuana Has Changed Over Time, from Drugfreeworld.com)

そうなってくると、いかに昔マリファナに慣れていたとはいえ、もはや体(と脳)が対処できるレベルではありません。効用が強ければ強いほど、幻覚症状も強くなり、パニック状態におちいることもあります。



cimg4835_freeway-280マリファナの娯楽使用は自宅でしか認められていないので、ハイになって危険な運転をすれば、すぐに警察に捕まります。が、血中アルコール濃度の数値で規制できる酒気帯び運転と違って、マリファナの場合は、人によって使用したTHC含有量(強さ)が違うし、体への影響の度合いも違います。一般的に、長く使用する人は耐性ができているようですし、女性よりも男性の方が影響を受けにくいとも言われます。ですから、アルコールのように「血中濃度0.08%以上は即逮捕」というような基準が設定できないので、取り締まる側にとっても曖昧な状況です。

カリフォルニアは年々道路渋滞が深刻化していますが、そんな社会的な側面から、警察関係者の中には、「提案64」に反対する人も多かったようです。



vta_striatumそして、マリファナが健康に及ぼす影響も配慮すべきでしょう。マリファナは、医療用にも使われるので、麻薬の中でも「無害」であるかのように誤解されやすいです。が、実際は、脳内にドーパミンが大量に放出され、それが論理思考を支える前頭葉などに影響を与えて「ハイな気分」になり、代わりに判断力が鈍って論理思考がおろそかになります。長期間そんな状態を経験すると、「あのハイな幸福感!」を求めて習慣性もできてきます(イラストの真ん中にあるVTA(腹側被蓋野:ふくそくひがいや)が「いい気分」を覚えていて、「またやってみたい!」という神経経路ができあがるんだとか)。

さらに最近の研究では、長期使用者の脳を検査してみると、脳の中心にある線条体(striatum)周辺でドーパミンの生成が減っていることが確認され、学習テストをさせてみると、未経験者に比べて集中力が欠けていた、という結果も見られます。(参考資料:Heavy Cannabis Use Associated with Reduced Dopamine Release, Neuroscience News, April 14, 2016)



上述のように、今となっては、高校生だって簡単にマリファナを手に入れられる世の中となっています。けれども、まだまだ成長過程にあるティーンエージャーの脳が、マリファナをはじめとする麻薬にさらされたら、集中力や学習能力、感情の自己制御など、まっとうな発育が妨げられると考える方が自然ではないでしょうか。もともと体内の神経細胞では、マリファナに似た成分(endocannabinoids)が生成され、成長期の脳の発達を促進していますが、マリファナを使用することで、このバランスが崩れてしまうのではないか、という研究もあるようです。(参考資料:Marijuana and the Teen Brain, by Claudia Wallis, Scientific American, December 2017)

マリファナを合法化することは、ティーンエージャーに「世間が認めた麻薬」という間違った認識を広めるのではないか、と個人的には危惧するのです。



ご近所さんのソーシャルネットワークでは、合法化に賛成が大多数でしたが、その中に「オピオイド(ヘロインやモルヒネ、オキシコドンなどの薬物の総称)の依存症から立ち直る際に、マリファナは利用されているの。だから、人を助けるものなのよ」というような発言がありました。

heroin-users-and-overdose-deaths_1999-to-2012現在、アメリカでは、オピオイド依存症が大変な社会問題となっていて、中西部を中心として、年齢、性別を問わず蔓延しています。オキシコドンなどの処方鎮痛薬に依存するケースが多いのですが、ひとたび依存症になると命を落とすことも多々あります。(こちらは、オピオイド系の麻薬ヘロインの常用者数と過剰摂取による死亡数を示すグラフですが、近年、右肩上がりなのが明白です:America’s Addiction to Opioids: Heroin and Prescription Drug Abuse, by Nora D. Volkow, M.D., Senate Caucus on International Narcotics Control, May 14, 2014)

それに比べると、マリファナは「害が低い」ので、まずはマリファナを利用して依存症を治療しよう、というわけです。が、ひとつの薬物依存症から、マリファナをはじめとする別の依存症のルートに乗り換えているような印象も受けるのです。



カリフォルニアの法律の施行にともない、マリファナの30分以内の宅配サービスだの、(アルコール成分を抜いた)マリファナ入りのワイン(!)などが世に登場するのを見ていると、ふと「アヘン戦争」という言葉が頭をよぎるのです。

麻薬のアヘン(上記「オピオイド」の名を生み出した、ケシから生成される麻薬)をめぐって、植民地インドを経由して輸出していたイギリスと、多くのアヘン依存症の国民を抱える中国(当時は清)が戦争となった史実ですが、なんとなく今のアメリカは、当時の清みたいなものかもしれない、と連想してしまうのでした。

それが、まったくの杞憂に終わればいいんですけれど・・・。



夏来 潤(なつき じゅん)



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