Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2020年06月09日

プロテストとプロポーズ

<ライフ in カリフォルニア その162>



今日のお話は、プロテストとプロポーズ。「プロテスト」と言っても、ゴルファーや野球選手がプロになるためのプロテストではありません。



英語で protest と書く、街なかのデモンストレーション、つまり抗議行動のことです。



ご存じのように、今アメリカでは、「Black Lives Matter(黒人の命だって大切なんだ)」という人権運動が各地に広がっていて、連日路上や公園でデモンストレーションが行われています。



サンフランシスコやサンノゼのベイエリア各都市でも、5月末から毎日どこかで「警察組織を改善しろ!」「平等な社会を実現しよう!」とシュプレヒコールをあげながら、抗議の集会や行進が行われています。当初の大騒ぎや破壊行動はおさまってきたものの、道路閉鎖や警官の出動は日常の風景となっています。



新型コロナウイルスのせいで、路上のオフィスやお店は閉まったままのところがほとんどですが、デモ隊の行動を恐れて、「このお店に入ったって価値あるものは何もありませんよ(Everything of value has been removed from this store)」という張り紙も見かけます。



一時の破壊や窃盗はおさまったけれど、まだまだ抗議行動は怖い。銀行やオフィスをはじめとして、店舗の閉鎖中はガラス戸や窓を板で覆って(boarded up)、誰も入れないように保護してあるところも多いです。



こういった板を貼り付ける業者さんは、いつもの何倍もの仕事が入って連日大忙しのようです。そして、急に需要が高まった合板(plywood)も、価格高騰を記録しているとか。




そんな騒ぎが続く、6月最初の土曜日。サンフランシスコの観光名所ゴールデンゲート・ブリッジ(the Golden Gate Bridge、金門橋)でも抗議行進が行われ、いつもは車でいっぱいの橋は、人で埋め尽くされました。



土曜の午後2時ごろ、家でのんびりとしていたわたしは、「ゴールデンゲート・ブリッジと付近の19番街(19th Avenue)でデモンストレーションが。周辺には深刻な交通渋滞が起きているので気をつけて」と、スマートフォンに警告を受け取りました。



それに続いて、ダウンタウンに近いヴァンネス街(Van Ness Avenue)でもデモンストレーションが行われているとの警告が流れ、街じゅうで抗議行動が起きていることを知りました。



けれども、今となっては抗議集会や行進はごく平和的なもの。自分たちの主張を世に伝えたいという人々が集まっていて、道路の閉鎖や交通渋滞といった影響はあるものの、当初に起きたような抗議に便乗する暴動(riot)はすっかり影を潜めています。




そんな中、このゴールデンゲート・ブリッジの抗議行進で、珍しいことが起きました。



プロテスト(抗議)の最中に、プロポーズをした方がいらっしゃったのです!



そう、結婚を申し込む、プロポーズ。



クインさんとキャリーさんのカップルは、仲間たちと一緒にシュプレヒコールをあげながらゴールデンゲート・ブリッジを渡っていました。



一行が橋の真ん中に来たところで、クインさんは片ひざを地面につけて、キャリーさんに指輪を差し出します。



まったく予想もしていなかったキャリーさんは、びっくり仰天! え〜っと叫びながらも、満面の笑みで指輪を受け取り、クインさんに抱きつきます。



これを見守っていた周りの方々も、ウォ〜と歓声をあげて二人を祝福。一連のハプニングをスマホで撮っていた仲間がソーシャルメディアにアップして、広く世に知られることになりました。




翌日のローカル番組にビデオでリモート出演した二人は、こんなことをおっしゃっていました。



実は、この抗議行進に出る前に、二人でじっくりと討論して、仲間とも議論したんだ、と。なぜなら、クインさんは南部の州の出身で、いつもお父さんから「自分たちが目立った行動に出ると、格好のターゲットとなる。だから、絶対に目立ったことをするんじゃない」と言い含められてきたから。



いかに正当な主張であっても、自ら進んで抗議行動に出たくはない、というのが正直な気持ちでした。



これに対して、キャリーさんはアラバマ州バーミングハムの出身。1950年代・60年代は公民権運動(the Civil Rights Movement)の中心地とも目された南部の都市。その頃は白人至上主義者による爆破事件も相次ぎ、爆弾(bomb)をもじって「ボミングハム」とも呼ばれたところ(写真は、1963年四人の黒人の女の子が犠牲となった16番通りバプテスト教会(16th Street Baptist Church); Photo by John Morse, from Wikimedia Commons)



この土地柄で育った彼女は、「自分が信ずるところはきちんと主張して、人々に伝えていかないといけない」という主義のお方。



No Justice No Peace(正義のない社会には平和はない)」というのも、彼女たちが伝えたい大事なメッセージなのです。



そんな二人ですから、抗議行動をめぐっては意見が対立したのも当然の流れ。けれども、最後にはクインさんが説得されて、思い切ってデモに参加し、自分の声をあげたのです。そして、彼女にも指輪を差し出すことができた。



めでたく婚約した二人に向かって、テレビキャスターは尋ねます。「どうしてまた、あんな騒ぎの中でプロポーズなんかしたの?」と。



すると、クインさんは答えます。「実は、2ヶ月前に日本に旅行することになっていて、その時にプロポーズをしようと考えていたんだ。でも、新型コロナウイルスのせいで旅行できなくなって、そろそろプロポーズしなきゃと思っていたところ、ちょっとした勢いで行進の最中になっちゃったよ」と。



いつも穏やかなクインさんと、かわいい笑顔ではっきりと主張するキャリーさん。とってもお似合いの二人は、時には議論を交わしながらも、ずっと仲良く過ごされることでしょう。




周りの皆さんに「さわやかな風」を吹き込んだお二人。彼らが参加した人権運動が、世の中の仕組みや力関係、そして人々が抱く偏見や固定概念をも払拭してくれれば良いと願うのです。



だって、公民権運動から半世紀たった今でも、「people of color(有色人種)」という言葉が日常的に使われるアメリカ社会です。



わたしはこの言葉を聞くとゾッとするのですが、「白人とそれ以外の人種」という対比は社会の隅々まで行き渡っていて、それが不思議なことだと思っていない人が多いのも現実です。



百数十年前には、奴隷制をめぐって、アメリカが南北に分かれて戦う南北戦争(the American Civil War)がありました。その際に使われた南部諸州の旗印(Confederate flag)が、いまだに誇らしげに議事堂ではためいている街だってあるのです。



もうそろそろ、「Black Lives Matter」なんてシュプレヒコールをあげないでいい社会になっても良いのに・・・。



そう願いながら、今日も声をあげる人たちがたくさんいるのも事実です。




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