Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2018年11月30日

マッドマックス:自動運転に近づいたテスラ

Vol. 219



車がないと、生きていけないアメリカ。今月は、ドライバーをアシストする電気自動車の新機能と、近頃シリコンバレーで見かける自動運転技術のテスト車両のお話をいたしましょう。



<マッドマックスで車を追い越せ!>

10月最終週、電気自動車で有名なテスラ(Tesla, Inc.,本社:シリコンバレー パロアルト)は、アメリカ国内で新機能をリリースしました。名付けて、「ナビゲート・オン・オートパイロット(Navigate on Autopilot)」。

2016年2月にリリースされた走行補助機能「オートパイロット」をさらにパワーアップしたものです。

従来のオートパイロット機能は、自動的に速度調整をしたり、ドライバーが方向指示器を動かすと車線変更してくれたりというアシスト機能でした。今回の「ナビゲート・オン・オートパイロット」は、フリーウェイに入ってから出る時点まで、ほぼすべてを車が自ら判断して運転するという画期的なものです。



まず、一般道からフリーウェイに入ると「オートパイロット」をオンにして、ナビゲーションで行き先を設定します。すると、画面に「ナビゲート・オン・オートパイロット」のボタン(画面左のブルーの表示枠)が出てくるので、これをオン。それだけで、フリーウェイの入り口から出口まで、周りの道路の混み具合や向かう先の混雑状況を考えて、車が自動的に走行経路や走行車線を選んでくれるのです。(オートパイロット拡張機能(自動運転用のカメラなど)を搭載したモデルで、事前にソフトウェアアップグレード後に表示される「ナビゲート・オン・オートパイロット」機能を有効にしておきます。)



従来の「オートパイロット」では、ひとつのフリーウェイから別のフリーウェイへの乗り換えや、フリーウェイの出口から出て行くことなどはできませんでした。そういったシチュエーションでは、ドライバーの運転に切り替える必要がありましたが、新機能を使うと、そんな芸当もすんなりとやってくれるのです。(写真は、国道101号線から州間280号線に自動的に向かって行く様子)



ただし、フリーウェイ走行中に車線変更をする際、画面に出て来た「やってもいいですか?(Confirm lane change to follow route)」というお伺いに対して、いちいち許可を与えなければならないのが面倒くさいのですが、これは、技術的な未熟さではなく、ドライバーがちゃんと注意を払っているかを試しているそうです。(まだベータ版なので、今はドライバーの行動分析を行なう段階にあり、そのうちにお伺いを立てることなく、自動的にスイスイと車線変更するようになるとか。)



それで、今月号の題名にもなっている「マッドマックス(Mad Max)」というテスラのネーミングですが、なにやら、メル・ギブソン主演の映画『マッドマックス』(1979年リリース)を思い浮かべます。オーストラリアの荒野を警官マックスと暴徒化した暴走族グループがブンブンと走り回るアクション映画ですね。

実は、その連想は正しいようで、今年の夏、テスラCEOイーロン・マスク氏が「もうすぐマッドマックスが出るよ」と発言して、最初は誰もが冗談だろうと思っていたところ、どうやら本気で映画の中の近未来を思い描いて吐いたお言葉だったそう。

つまり、映画の世界は、すぐそこに! というわけですが、「マッドマックス」とは、周りの遅い車をどれくらいアグレッシブ(積極的)に追い抜くか? という選択肢のことです。選択肢には「無効(Disabled)、穏やか(Mild)、平均(Average)、マッドマックス(Mad Max)」と4つあって、マッドマックス・モードでは、設定された速度を遵守しようと、機会が訪れれば、車が積極的に車線変更を試みます。

そのために、人間のドライバーはフリーウェイ出口近くの車線ではスローダウンするところを、車は「よし、車線が空いたぜ!」と、グングン加速してしまうので、乗っている側としてはちょっと怖いです。



けれども、それでも人間よりは安全だろうと思うのですが、その根拠は、新しいソフトウェアアップグレード。10月初頭にリリースされたバージョン9.0では、車に装備する8個のカメラすべてが使えるようになりました。これに従来のカメラやレーダー、超音波センサーからの情報を加えることで、周囲360度がグルリと見渡せるようになったのです。ですから、理論的には死角(blind spot)がなくなったということで、確実に人間よりはよく見えているはずなのです。



まあ、ひとたびフリーウェイから下りると、ドライバーが自ら運転することに変わりはありませんが、それでも、刻一刻と変化する渋滞状況を考えながら適切にナビゲートしてくれるので、そういった観点からも、パワーアップしたオートパイロット機能は画期的なものだと思うのです。



そんなわけで、何かと注目の集まるテスラですが、最新の「モデル3」は、アメリカ国内では第3四半期に一番の売上高を誇る車種となったとか(電気自動車、ガソリン車を含めて売上額で一位、台数では5位)。



新しい「ナビゲート・オン・オートパイロット」は、新規売り上げ増加に貢献するだろう、と感じているのです。



<近所で見かける自動運転のテスト車両>

テスラの車がどんどん自動運転に近づいている中で、最初から自立型の車(autonomous car)に取り組む企業のお話をいたしましょう。

そう、近頃はそういったプロジェクトも佳境を迎えているようで、シリコンバレーやサンフランシスコの街中では、自動運転技術のテスト走行車を頻繁に見かけるようになりました。



まずは、グーグルの親会社アルファベット傘下にある、ウェイモ(Waymo)。グーグルの一部門が子会社化したもので、本拠地はグーグルと同じく、シリコンバレーのマウンテンヴュー。いち早く自動運転技術に取り組み始めた企業です。



今年3月号でもご紹介しましたが、ウェイモは、昨年からアリゾナ州フェニックス郊外で一般市民の希望者(およそ400家族)を募って、学校や職場の送り迎えなどの乗車体験プロジェクトを展開してきました。

ウェイモが繰り広げるのは、人気のクライスラー「パシフィカ」というハイブリッドミニバンに自動運転機能を搭載した走行実験で、運転席にはドライバーは乗らず、希望者はタクシーに乗車するように後部座席でゆったりと過ごします。



そのウェイモは、年内にもフェニックス市近郊で配車サービス(ride-hailing service)を開始するとされています。そう、アメリカの都市部では不可欠になってきたウーバー(Uber)や リフト(Lyft)などの配車サービスのように、スマートフォンアプリで好きなときに、好きな場所に車を呼ぶサービスです。

当初は、体験プロジェクトの中から対象者を選び、運転席にはドライバーが乗って、万が一の際に備えます。走行区画も限られるようですが、そのうちに対象者もサービス範囲も拡大し、ドライバーなしの完全な自動運転に切り替えていくプランのようです。



先日は、地元マウンテンヴューでテスト車両2台を続けざまに見かけましたが、アリゾナ州の配車サービスを成功させようと、実地テストにも拍車がかかっているのでしょう。



さすがに、ウェイモは自動運転の老舗だけあって「Waymo印」の車はあちこちで見かけますが、先日初めて見かけたのが、アップルの自動運転車。

噂の通り、白いレクサスのハイブリッドSUV(RX 450h)で、信号を隔てて逆車線に停止していたものの、車体の上にでっかい装置がついているので、一目瞭然。ウェイモと比べると、レーダーやライダー(光レーダー)、ビジョンカメラと、ひどく大掛かりな印象もありました。(Photo from iDownloadBlog.com)



見かけたのは、9月に目の手術を受けた病院の前。病院は、巨大宇宙船みたいなアップルの新本社キャンパスの隣にあって、手術の翌日で片目が覆われていたものの、あんなにでっかい仕掛けを見逃すことはありません。なんでもアップルの実験車両は、走行データ収集を頭上の仕掛けでやっているので、あんなに大掛かりに見えるとか。



その日の帰り道、今度は、へんてこりんな名前の自動運転車を見かけました。なにやら中国語のようですが、こちらは、中国のジンチー(JingChi:景馳科技)という自動運転分野のスタートアップ。

昨年4月に設立されたばかりの会社ですが、シリコンバレーに開発拠点を構え、昨年6月からは、地元サニーヴェイル市を中心に公道走行テストを開始しています。「頭脳」の部分には、NVIDIAのAI(人工知能)プラットフォームを採用し、経験学習と推論を駆使してスムーズな運転を目指しているとのこと。

本国の中国では、自動運転車の配車サービス「ロボタクシー」を展開しようと目論んでいるそうで、上海から内陸部に向かった安慶市と契約を結び、年内にもロボタクシーの実験走行を始めるそうです。



ジンチーは、カリフォルニア州陸運局に公道テストを申し出た34番目の企業だそうで、今では、50社ほどがシリコンバレー周辺で自動運転車の開発に携わると言われます。



そして、こちらは、サンフランシスコの海際で見かけたジェネラルモーターズ(GM)傘下のクルーズ(Cruise)。

クルーズは、2013年にサンフランシスコで起業された自動運転分野のスタートアップですが、2016年に大御所GMに買収されたことで、開発にも拍車がかかっています。



「ボルト(Bolt)」という人気の電気自動車がベースになっていて、実験走行の際は、運転席と助手席に担当者が乗り込みます。次世代(第4世代)モデルは、「ハンドルなし、ペダルなし」になると表明され、来年には米市場で販売予定ということです。(ただし、個人的には、来年中に「ハンドルなし、ペダルなし」の車をカリフォルニアで販売することは法的に難しい、と踏んでいます。)



来年一月からは、GM本体のプレジデント、ダン・アマン氏がクルーズのトップに就任することとなり、来年開始予定の「ロボタクシー」への取り組みもグンと加速するようです。



というわけで、アメリカ国内では、電気自動車のテスラ、自動運転技術の先駆者ウェイモ、大御所GM率いるクルーズ、中国から参戦するスタートアップ企業と、自立型の車の実現に向けて、開発競争が白熱しているところです。



自立型と聞くと、ハンドルがないとか、流線形をしているとか、何かしら未来的な車を想像しがちですが、広くドライバーの行動パターンを蓄積し、実地データ分析に優れるテスラだって、意外と近いポジションにいるのでは? と感じているのです。



なぜなら、テスラは日常的に使う乗用車を販売していて、それに少しずつ機能を追加することで、いつの間にか車が自立していって、消費者が「自動運転」という大きな抵抗を感じないまま、知らないうちに自動運転機能を利用しているから。



何事においても、そういう自然な流れというのは、大事だと思うのです。



夏来 潤(なつき じゅん)



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