Essay エッセイ
2016年05月04日

ミルクティーってミルクが先?

 前回のエッセイに引き続き、4月に訪れたイギリスのお話をいたしましょう。

 

イギリスと聞くと、まず思い浮かべることがありますが、紅茶(black tea)もそのひとつでしょうか。

 

 「紅茶 = イギリス」と連想するくらい、「イギリス人は紅茶を飲む」イメージがありますよね。

 

 アフタヌーンティー(afternoon tea)は、今や世界じゅうに知られていますが、こちらは、貴族の方々の遅い夕食の習慣から、午後3時を過ぎて「小腹を満たす」ものとして生まれたそうです。

 

 産業革命をきっかけに、工場で働く方々が増えると、ここでもお砂糖を入れた紅茶や、スコーンやサンドイッチを「午後のエネルギー源」として活用されていたとか。

 

たしかに、甘いものをいただくと、元気が出るような気がします。

 

 でも、もしかすると「甘いものを楽しむために紅茶を飲んでいるのかな?」と、お菓子のショーウィンドウを覗きながら思ってしまうのです。

 

 まあ、近年は、イギリス人も好んでコーヒーを飲むようになって、街じゅうにカフェが出現していますが、まだまだ紅茶だって健在。

 

 有名デパートのハロッズ(Harrods)に行くと、ひと部屋が丸ごと紅茶にあてられていて、たくさんの商品棚や壁面には、紅茶葉の缶やティーバッグの箱がずらりと陳列されています。

 

 紅茶好きの方にとっては、まさに「壮観」な眺めでしょうか。

 


 それで、紅茶に関しては、ちょっと戸惑うこともあるのです。

 

 一般的に「イギリスでは、紅茶にはミルクを入れるもので、日本のようにレモンを入れるのは邪道」と言われるでしょう?

 

でも、ホテルのティールームでは、「紅茶にはミルクかスライスレモンを入れますか?」と聞かれましたし、ルームサービスの朝の紅茶には、スライスレモンが添えてありました・・・

 

 が、それは、外国人宿泊客の多い、こちらの習慣といたしましょうか。

 

 それで、紅茶にはミルクを入れるものと仮定すると、お次は、カップに注ぐのは「ミルクが先か、紅茶が先か?」という問題が出てきます。

 

 一般的に広まっている説に、「カップに茶渋が付かないように、ミルクを先に入れるのが正しい」というのがあります。

 

 けれども、その一方で、「紅茶を先に入れて、それから好きなだけミルクを注ぐのがよろしい」という説もあります。

 

こちらの説の背景には、「もともとアフタヌーンティーで午後の紅茶を楽しんでいた貴族の方々は、カップの茶渋なんて気にしなくてもよかったので、紅茶を先に入れて、ミルクを入れていた」という、もっともらしい理由づけもあります。

 

 でも、実際にイギリスには「ミルクを先に」入れる習慣もあったようですので、ますます謎は深まるのです。

 

 まあ、わたしとしましては、熱い紅茶をカップに注いだあとミルクを入れた方が、紅茶が冷めないでいいんじゃないかな? とは思っているのですが・・・。

 

 でも、こんな体験もありました。

 

アメリカに戻ってくる直前に泊まっていたホテルでは、紅茶にミルクをお願いしたら、「熱い(hot)のがいいですか、冷たいまま(cold)でいいですか?」と聞かれました。

 

 ビュッフェ形式の食べ物を取ってくると、テーブルには熱いティーポットが置かれていて、席につくと、間髪入れずに温めたミルクが運ばれてきました。

 

 まあ、そのタイミングが(まるでドア越しに見張っていたように)絶妙だったこと!

 

 そこで思ったのですが、温めたミルクだと、どっちを先に入れても OKかなぁ、と。

 


 というわけで、ロンドンでは紅茶ばかり飲んでいたので、紅茶の「お作法」が気になったのですが、

 

 ほかに気になった中には、イギリス英語がありました。

 

 いえ、近頃は、アメリカでもイギリスのドラマばかり観ているおかげで、ブリティッシュ・イングリッシュだって、かなりわかるようになりました。

 

 けれども、ロンドンで「ネイティブ」の方々の言葉を聞いていると、いろんな発音の仕方があるように感じるのです。そう、テレビに出てくる話し方ばかりではなく、かなり「わかりにくい発音」もある、と。

 

典型的なブリティッシュ・イングリッシュを体験できるドラマに、日本でも放映されている『Downton Abbey(ダウントン・アビー)』がありますね。

 

 以前、ファーストレディーのミシェル・オバマさんが「はまっている」ドラマとしてご紹介したことがありますが、こちらは、20世紀初頭のお屋敷の「上階(upstairs)」に住む貴族の一家と、彼らを支えて「下の階(downstairs)」で働く方々と、両方でお話が発展するところが魅力となっています。

 

 そこで感じるのですが、「上階」の方々の発音は聞き取りやすいけれど、「下の階」で働く方々の中には、早すぎたり、不鮮明だったり、イントネーションが違ったりと、聞き取りにくいところも多々あります。

 

 もちろん、これはドラマのお話であって、今となっては、この頃のような明らかな「違い」はないと、現地の方からも伺いましたが、それでも、ホテルやタクシーでは、なんとなく聞き取りにくいこともありました。

 

 それで、現地の方がおっしゃるに、ロンドンの中にも「方言(dialects)」があることが、わかりにくい理由のひとつじゃないか、と。

 

 有名な「方言」には、コックニー(cockney)と呼ばれる、ロンドンの東側のアクセントがありますが、そのほかにも、ロンドンの中だけで4つか5つ違った「方言」があるんだとか。

 

たしかに、ロンドンから南へ、海沿いのブライトン(Brighton)という街に行ったときに「浜っこ」の言葉を感じたことがありますが、ブリティッシュ・イングリッシュにも、「江戸っこ」とか「浜っこ」とか「京のお公家さん」みたいな方言があるんでしょう。

 

 それから、言葉が違って聞こえるのは、個人の「表現の仕方」もあるんじゃないかと、現地の方は指摘されていました。

 

まあ、いろいろと本を読んだり、違った国から来た人と接した経験があったりすると、それだけ表現が豊かになってきて、相手がわかりにくそうにしていたら、言葉を言い換えるでしょう、と。

 

 昔の例では、いわゆる「上階」の方々は、カラフルな言葉をつなげて表現することを楽しみ、忙しくて時間のない「下の階」の方々は、ダイレクトに相手に伝わるようにと、短く、ワンショットで表現されていた。

 

 ですから、今だって、ポポンとワンショットで済ませる方もいらっしゃれば、どうしても伝えたいことがあると、いろいろと言い換える努力を怠らない方もいらっしゃるのでしょう。

 

 ま、言葉は「いきもの」みたいなものですから、個人の好みで違って聞こえることだってあるんでしょうね。

 


 一年前からロンドンに住む友人は、近頃は法律事務所に通うようになったそうですが、ここには、こんな方がいらっしゃると教えてくれました。

 

 なんでも、この方のおばあちゃんは、出かけるときはいつも帽子と手袋を身につけ、午後は「アフタヌーンティー」を楽しむのを日課としていた、とか。

 

まるでロイヤルファミリーか、ドラマの主人公みたいですが、そういった習慣だって、世代交代やグローバル化によって、だんだんと風化するものなんでしょう。

 

 だって、ロンドンの街角には、ひとブロックごとにカフェが建ち並び、エスプレッソやカプチーノが幅を利かせているくらいですから・・・。

 

 

蛇足ではありますが:

 題名には「ミルクティー」という言葉を使いましたが、現地では一般的に、「ミルクを入れた紅茶(tea with milk)」という言い方をしませんか?

 

 わたし自身は、だんだんと慣れてくると、「イングリッシュ・ブレックファーストと温めたミルクを(English Breakfast with hot milk)」と、銘柄や牛乳の温度も指定するようになりました。

 そうそう、「ミルク」というと日本では違った製品になるようですが、欧米では、いわゆる「牛乳」ですよね。

 

それから、普段は「おみやげ」を買わない我が家ですが、ハロッズではティーバッグを2箱買ってきて、2種類を半分っこにして、近くに住む親友に差し上げました。

 彼女は、イギリス連邦のカナダを訪れて以来「アフタヌーンティー」の大ファンになったので、イギリスの紅茶なら喜んでくれるかなと思ったのでした。

 

 「アッサム(Assam)」は、すっきりとした上品な味わいで、「ブレンド49」は、パンチの効いた渋みが前面に出る、コクのあるお味となっています。

 


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