Essay エッセイ
2014年02月28日

心のお手入れ

一年ほど前でしょうか。

母と一緒に外で晩ご飯を食べることになりました。

母は、週に一回書道教室で教えていて、教室が終わる夜の8時に待ち合わせをしました。

時間に遅れるのがイヤなので、早めに行ったのはいいものの、寒空の下どこかで時間をつぶさなければなりません。

そこで、暖かそうな本屋さんに入り、一冊の文庫本を手に取ってみました。

有名な海外の童話に材を取った、道徳の本でした。が、ちょっとびっくりしたことがあったのです。

「鏡」を題材にした章だったと思いますが、とくに女性は鏡を覗き込んで、自分の顔ばかり観察するけれど、鏡に映る自分の心の中をじっと見つめるべきだと、そんなことが書かれてあったのです。

端的に言うと、女性は自分の容姿ばかり気にする傾向にあるけれど、大事なのは心の中身であって、そちらの方にも気を配るべきだと、そんな作者の主張でした。

で、わたしがびっくりしたのは、あからさまに女性をターゲットに批評していること。

作者は、お寺の生まれですが、「家業」は継がずに英文学を教えている方とのこと。英文学を教えるということは、少しは欧米文化圏の習慣にも通じていると思うのですが、ですから、余計にびっくりしたのでした。

なぜなら、もしも欧米で「女性のこういう部分はおかしい」という内容を書いたら、それは女性みんなを「女性とはこんなもの」という型にはめて、偏見の目で見ていると理解され、一瞬のうちに読者の非難の的になるだろうから。

ですから、何かしら批判めいたことを書くときには、かなり神経をつかってモノを書くんですよね。とくに、男女間とか、人種間の比較をする上では。

だって、もしも自分が書いたことで不用意に誰かを傷つけてしまったとしたら、それは、作者としても人間としても褒められたことではないですから。


というわけで、立ち読みしていた本を置き、まったく別の本を買って本屋さんを出るときには、少々気分を害していたのでした。「どうして今どき、こんな偉そうなおじさんがいるのかなぁ?」と。

けれども、冷静になって考えてみると、この方の選んだ言葉には配慮が足りない部分もあるようですが、主張している内容には、誤りはないんじゃないかとも思ったのでした。

ま、「心」とか「中身」についてはよくわかりませんが、ときに「残念だなぁ」と思うことがあるんですよ。

それは、若い女性がべったりとお化粧をしているとき。もちろん、ご本人は「これがいいのよ!」と思ってやっていらっしゃるわけですが、わたしからすると「もったいないなぁ」と残念に思うんです。

なぜなら、せっかくの「若さ」を、お化粧で塗りつぶしていることになるから。

それは、わたしにとって、「美しさ」を封じ込めているようにも見えるのです。

まあ、お肌のツヤが気になる年頃にならないと、なかなか理解してもらえないとは思いますが、若い方には、内側からみなぎる若さのエネルギーがあって、それをお化粧で隠してしまうなんてもったいないと、人ごとながら残念に思ってしまうのです。

それで、突き詰めて考えてみると、「やっぱり何かしら内側にあるものが、ご本人には見えていない」と、上でご紹介した作者の主張と同じであることに気が付くのです。

たぶん、「美」という言葉が、表面的なことしか指してしないんだろうなぁと。

残念ながら、内側からみなぎる若さだとか、そこはかとなくにじみ出る優しさとか、賢さとか、そんなものが自分には見えていないんだろうなぁと、そんな風に感じるのです。

ほんとの美しさって、顔のパーツの良し悪しではないと思うんです。

たとえ鼻が少々低かったり、目が小さかったりしても、他人はその人を総合的に捉えて、「なんだか生き生きしてて、いいなぁ」とか「なんか優しそうでホッとするなぁ」と、内側と外側をひっくるめて判断するんじゃないでしょうか。


先日、テレビを観ていて、「あのコきれいね!」とハッとしたことがありました。

タンクトップにジーンズ姿。こんがりと日焼けした顔はノーメイク。とくに「美人」というわけではありませんが、そんなカジュアルな雰囲気の彼女を「きれい!」と思ったのです。

それは、たぶん、自分の信じるところを懸命に貫いていらっしゃったからでしょう。韓国系アメリカ人の方でしたが、「アフリカの掘っ建て小屋の小学校で英語を教える」ボランティアに専念すること。

もちろん、人によって「信じるところ」は違いますが、懸命に何かをやることで、外側ににじみ出てくる「きれい」があるのかもしれません。

だとすると、「鏡を覗き込んで、自分の内面を見つめてみる」というおじさんの助言は、そんなに悪くはないのかも・・・。

そう、鏡を見つめて、お肌のお手入れをするだけではなくて、心のお手入れができれば、もっといいのかも・・・。

付記: 先日、日本で新聞を読んでいたら、「女性は40歳から一番きれいになる」という美容家のお言葉がありました。
 なんでも、「内面が充実するお年頃はきれいになる」そうですが、それが、お肌のツヤがちょっと気になる年代の「言い訳」じゃないことを願っているところです。


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